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開発&コンサルティング

第4章 価値のないムダな業務の廃止・削減

4-1 業務の価値分析による無価値業務の廃止・削減

1.ムダな業務とは何か

まず、ムダな業務とは何かを理解する必要があります。ムダな業務とは付加価値を生まない業務、又は付加価値が非常に低い業務です。分かりやすく言えば、売上や利益を全く増やしていない業務、又はほとんど増やしていない業務です。よって、通常、次の5種類が考えられます。

  1. 売上や利益を全く増やさず、時間(コスト)ばかりかかっている無価値業務(無用業務)
  2. 売上や利益を増やしてはいるが、時間(コスト)をかけすぎているため、かえって損失になっている過剰業務
  3. 売上や利益をほとんど増やしていない低価値業務
  4. 数人で同じことを行っている重複業務
  5. 業務プロセス全体の価値を低くしているネック業務

などです。

2.ムダな業務を発見するには意識(考え方や価値観)を変える必要がある

業務に対する人の意識(考え方や価値観)を変えなければ、ムダな業務を発見することはできません。なぜなら、業務は人の考え方や価値観に基づいて行われるからです。逆に、人の考え方や価値観が変われば、ムダな業務を発見することは容易にできるのです。

目の前にムダな業務があっても分からないのは、そもそも、ムダな業務を発見しようとしていないからであり、業務を改善・効率化しようとしていないからです。

人の考え方や価値観を変えなければ改善・効率化ができないのは、工場現場の作業の改善・効率化でも同じです。つまり、現場作業の改善(KAIZEN)を行うには、まず、人の考え方や価値観を変える必要があるのです。 このために、工場現場ではいろいろな考え方や技術が活用されているのです。

よって、これから解説する考え方と読者(あなた)の考え方を比較してみてください。それはおかしいとか、そんな馬鹿なと思ったとき、あなたの考え方の方がむしろおかしいのであり、そのような人が多い会社はムダな業務が多いのです。

なぜなら、これから解説する考え方は、世界中の多くの工場で100年以上用いられているIE(管理工学)の考え方や50年以上用いられているVE(価値工学)の考え方だからです。

今回は、IEの考え方を説明し、次回、VEの考え方を説明いたします。IEは世界中の工場現場の改善に用いられているので、工場管理者にとっては常識です。しかし、IEを業務(デスクワーク)に適用している企業はあまりないと思いますので、多くのホワイトカラーにとっては初めて出会う考え方だと思います。

3.IEによる価値分析をデスクワーク(業務)に適用するには

価値のないムダな業務を廃止・削減するには、ムダな業務を浮き彫りにしなければなりません。そのための1つの方法は、工場の作業改善に用いるIE(管理工学)の考え方と技術を業務に適用することです。なぜなら、IEの目的は付加価値を高めることであり、IEは付加価値のないムダな作業を廃止・削減したり、付加価値の低い作業を高い作業に変えたりする技術だからです。

工場現場の作業にIEを適用するときには、何はともあれ、最初に工程分析を行います。工程分析にはいろいろな分析がありますが、その中で最も重要な分析は、各工程(作業)が価値を生んでいるかいないかを明確にする分析です。これを価値分析と言います。なお、工程分析はJIS規格になっていますので、興味のある人はJIS規格を調べてください。

価値分析について説明する前に、IEの長所と短所を簡単に説明しておきます。IEの長所は、材料や部品などの物の動きや手足の動きなど、目に見える物や手足の動きをいろいろな方法で分析することができるので、目に見える作業の改善に適していることです。一方、IEの短所は、人の考え方や価値観など、人の頭の中は分析できないので、業務(デスクワーク)の改善・効率化にはあまり適していないことです。

ただし、価値分析だけは例外なのです。価値分析の方法を業務に適した方法に変えることによって、価値を生んでいる業務と生んでいない業務を明確に区別することが出来るのです。よって、業務の改善・効率化ができるのです。

ちなみに、VE(価値工学)の長所と短所はIEとは逆です。つまり、VEの長所は人の考え方や価値観など、人の頭の中を分析することができるので、業務の改善・効率化に適していることです。一方、VEの短所は目に見える物や手足の動きなどの分析ができないので、作業の改善にはあまり適していないことです。

なお、IE、及びVEについて詳しく知りたい方は、コスト削減・原価低減の考え方と技術をご覧ください。あるいは、『文科系のためのコスト削減・原価低減の考え方と技術』(守屋孝敏著 電子書籍 アマゾン及び楽天で販売)をご覧ください。文科系のために分かりやすく解説してあります。

さて、工場では工程分析(価値分析)を行うために、まず、各工程を、加工・組立、運搬、検査、停滞(在庫)の大きく4つに分類します。そして、実際の工程(作業)を調査分析してどの分類に属するかを明確にするのです。これが価値分析です。

なぜなら、加工・組立の工程は価値を生んでいるが、運搬、検査、停滞(在庫)の各工程は価値を生んでいないからです。よって、工場では運搬、検査、停滞(在庫)の各工程をできるだけ廃止・削減するのです。

当然でしょう。いくら運搬しても、検査しても、あるいは在庫しても売上や利益は増えません。いずれも時間(コスト)がかかるので、利益が減ってしまい、付加価値が減ってしまうのです。つまり、これらの工程(作業)は無価値なのです。

ところで、この考え方を始めて知った読者の皆さんは、それはおかしいとか、そんな馬鹿な、などと言っていませんか。工場なら運搬も検査も在庫も必要だろうなどと言っていませんか。

例えば、トヨタ生産方式(ジャスト・イン・タイム)は在庫(停滞)をできるだけゼロにするために考え出された生産方式なのです。工場現場では在庫だけでなく、運搬や検査の廃止・削減を行って、これらにかかる時間(コスト)をできるだけ廃止・削減して、付加価値が少しでも減るのを防いでいるのです。

さて、この価値分析の考え方と技術を業務(デスクワーク)に適用すれば、業務の価値分析を行うことができます。ただし、そのためには、業務の特徴を踏まえて、業務に適した方法に変える必要があります。すなわち、

  1. 工場では物(材料・部品・製品)を対象に、主に手足を使って作業を行いますので、物や手足の動きが目に見えます。よって、物や手足の動きを見ながら価値分析を行うことができます。
  2. 一方、デスクワークでは書類や業務ファイル(電子ファイル)を対象に、主に頭を使って業務を行います。その際に、パソコンなどの情報機器を使って行う場合には、何をしているかは他の人がパソコン画面を見ても良く分かりません。デスクワークは主に頭を使って行う思考・判断業務だからです。

    そこで、何をしているのかを明確にしてから価値分析を行う必要があります。つまり、予め、業務を明確に分類してから価値分析を行えば良いのです。この点は、工場現場の作業(工程)の価値分析でも同じです。工場現場では、予め、各作業(工程)を、加工・組立、運搬、検査、停滞(在庫)の4つに分類しているのです。

  3. 工場の作業における価値分析は、既に計画・立案・設計された工程(作業)を対象に行います。しかし、工程(作業)を計画・立案・設計すること自体が業務であり、その業務に価値があるか否か、つまりムダか、ムダでないかを分析する必要があります。よって、計画・立案・設計のすべての業務を価値分析の対象にします。
  4. 工場の作業現場における会議・打ち合わせ・相談などは職場余裕とされ、正味の作業とは異なるので価値分析の対象にはしません。しかし、デスクワークにおいては、会議・打ち合わせ・相談などは業務であり、しかも、多くの企業ではムダな業務の温床となっているため、価値分析の対象とします。

以上の考え方の基で、価値分析の対象とする業務を工場現場における作業と対比して次のように分類します。

  1. 工場現場において計画・立案・設計する作業は価値分析の対象にはなりませんが、デスクワークでは計画・立案・設計する業務を価値分析の対象にします。
  2. 工場現場において材料や部品などを加工・組立する作業は、デスクワークでは書類や業務ファイルなどを加工・編集・処理する業務に相当します。
  3. 工場現場において材料や部品などを検査する作業は、デスクワークでは書類や業務ファイルなどをチェック・照合・確認する業務に相当します。
  4. 工場現場において材料や部品などを運搬する作業は、デスクワークでは書類や業務ファイルなどの内容を報告・連絡・通知する業務に相当します。
  5. 工場現場において材料や部品などを在庫する作業は、デスクワークでは書類や業務ファイルなどを保存・保管・在庫する業務に相当します。

よって、すべての業務(デスクワーク)を、(1)計画・立案・設計、(2)加工・編集・処理、(3)チェック・照合・確認、(4)報告・連絡・通知、(5)保存・保管・在庫の5つに分類できます。また、会議・打ち合わせ・相談については、その目的が意思決定(計画・立案・設計)であれば(1)に、情報収集・伝達(報告・連絡・通知)であれば(4)に分類します。

さて、上記(1)及び(2)の業務については、価値を生んでいるかいないかは詳細に分析してみないと分かりませんので、次回以降、VEを用いて分析します。しかし、上記(3)(4)(5)の業務は明らかに価値を生んでいないムダな業務ですので、できるだけ廃止・削減します。

と書くと、多くのホワイトカラーは、「何をバカなことを言っているのか、部下の仕事をチェックするのは上司の重要な仕事だ、部下を教育することが上司の役割だ」とか、「関係者に報告・連絡しなければ仕事が回らないではないか」とか、「ファイルを保存しておくのがなぜムダとなるのか」などと言います。

実は、このような意識(考え方・価値観)こそが間違っており、ムダを生み出しているのです。よって、「ホワイトカラーの意識を変えなければ業務の改善・効率化ができない」ことがよく分かると思います。

ここで、読者の皆さんの意識を変えるために、再度、確認します。どんなに時間(コスト)をかけてチェック・照合・確認を行っても、報告・連絡・通知を行っても、保存・保管・在庫を行っても売上や利益は増えません。増えるのはコストだけです。ですから、これらの業務は無価値であり、できるだけ廃止・削減する必要があるのです。

ちなみに、大分類業務、中分類業務、小分類業務などの名称が「◯◯のチェック・照合・確認」「◯◯の報告・連絡・通知」「◯◯の保存・保管・在庫」などとなっていれば、その業務分類に属する業務すべてがムダな業務ということになります。

4.業務の価値分析の方法

業務の価値分析を行うには、分類した5つの業務を色分けするか、工程記号(JIS記号)を用いて、業務の流れ(業務フロー、ワークフロー)に沿って記号を書いて行きます。ちなみに、記号は自由に作成してもかまいませんが、JIS記号を用いれば、分かりやすいので誰にでも分かります。

ちなみに、筆者が使っている業務の工程記号は、JIS記号を基に作成したもので、計画・立案・設計(◎)、加工・編集・処理(◯)、報告・連絡・通知(⇒)、チェック・照合・確認(◇)、保存・保管・在庫(▽)です。

「3-5 職務内容の明確化」で既に職務の見える化(職務記述書の作成)を行っておりますので、職務の流れに沿って工程記号を書いて行きます。職務記述書の工程記号記入欄に記入するだけです。

多くのホワイトカラーは工程(価値)分析を行ったことがないでしょうが、以上のように、工程(価値)分析は分かりやすく、しかも簡単にできるのです。

次に、各職務の時間を計画設定します。設定方法は、「3-4 業務分類ごとの業務時間の計画設定と測定記録」で既に説明いたしました。この時には業務分類ごとの時間しか計画設定しなかったので、ここで各職務の時間を計画設定します。

各職務の時間を計画設定すると言うことは、個々の職務時間(コスト)を明確にすることですから、重要です。なぜなら、価値を生んでいる職務のコストと価値を生んでいないムダな職務のコストが明確になるからです。

ここで、さらに重要なことを書きます。各職務の時間を計画設定する際に、計画・立案・設計(◎)、加工・編集・処理(◯)、チェック・照合・確認(◇)などの時間は容易に計画設定できますが、報告・連絡・通知(⇒)、保存・保管・在庫(▽)などの時間を計画設定するには注意が必要です。

なぜなら、これらの時間は、パソコンを用いて行う場合はクリックする瞬間の時間に過ぎないとホワイトカラーは考えるからです。このため、これらのムダな時間を明確にできません。そこで、報告・連絡・通知をする場合は何人に対して、あるいは何か所に対して報告・連絡・通知をするのかを、保存・保管・在庫をする場合は、何時間、あるいは何日間、保存・保管・在庫しておく予定(計画)なのかを職務記述書に記入しておきます。

実は、工場における工程(価値)分析は対象が材料や部品などの物であるため、物の動きを追っかけて分析を行います。したがって、物が運搬されればその運搬時間を、物が停滞(在庫)していれば、その停滞(在庫)している時間を測定したり、作業者に聞いて概略設定したりします。例えば、2時間とか、3日間とか、1週間とかです。

しかし、多くの企業では、書類や業務ファイルが停滞(保存・保管・在庫)していても、その時間を測定したり概略設定したりしません。なぜなら、多くの企業では業務(職務)の納期(スケジュール)管理を行っていないため、業務(職務)の停滞(保存・保管・在庫)を問題だと捉えていないからです。さらに言えば、業務(職務)の停滞時間は業務時間には含まれないと考えているからです。

5.業務(職務)の停滞(保存・保管・在庫)の廃止・削減について

各自で職務記述書の各職務に工程記号を記入し、各職務の時間を計画設定しましたら、少なくても1ヵ月間について、工程記号ごとに業務(職務)時間を集計し、円グラフを作成します。すると、通常は、全業務(職務)時間のうち、停滞(保存・保管・在庫)時間が最も多いので、職務の停滞から廃止・削減の検討を行います。ちなみに、停滞時間はもちろん、業務時間に含まれます。

職務の停滞(保存・保管・在庫)は価値を全く生まない職務であり、しかも、通常、最も時間が長く、ムダなコストが多くかかっているわけですから、最初に廃止・削減の検討を行うのです。

実際、筆者が数十社のクライアント企業で調査したところ、全ての業務時間の60%~80%の時間が停滞(保存・保管・在庫)となっていました。つまり、多くの書類やファイルが保存・保管・在庫されたまま、何日間も何週間も利用されずに放置されているのです。御社でも調査してみて下さい。ただし、法令で保管が義務付けられている書類やファイル、及び必要な都度、何度も利用するマスターファイルなどは除きます。

時間(コスト)をかけて加工・編集・処理した書類やファイルを保存・保管・在庫しておけば、それだけでコストがかかるので、損失を生みます。つまり、付加価値が減るのです。まして、何日間も利用せずに放置していれば大きな損失となります。

また、職務が停滞していれば意思決定と実行がそれだけ遅れるわけですから、他社に遅れをとることにもなります。よって、その原因を追求して停滞時間をできるだけ削減しなければなりません。要するに職務の納期短縮を図らなければならないのです。

時間(コスト)をかけて情報収集し、そして加工・編集・処理した書類やファイルを1日(8時間)保存しておくと、どのくらいコストがかかるか計算したことがありますか。おそらくないと思います。そのため、その損失金額が分からないのです。大量の書類やファイルを何日間も保存・保管・在庫しておけば、非常に大きな損失となります。書類やファイルの保存・保管・在庫は会社の財産を利用しないで放置しておくことになるからです。

工場では、「在庫は諸悪の根源である」という言葉があります。工場管理者ならば誰もが知っている言葉です。しかし、実は、未だにそうは考えない中小メーカーもあります。むしろ、材料や部品の在庫が十分にあった方が、在庫切れがなく、手待ちもなくなるので都合が良い、と考えるのです。

しかし、ご存知のように、トヨタ自動車では在庫を少しでも削減するために、トヨタ生産方式を生み出したのです。在庫をゼロに近づけるために、必要なものを、必要な時に、必要なだけ作るのがジャスト・イン・タイム方式です。この考え方は業務においても全く同じです。

トヨタでは、在庫がいかに悪いかを説明するために、「日本人は農耕民族だからいけないのだ、狩猟民族にならなくてはいけない」と言っています。つまり、生きるために必要な分だけ保存しておけば良いということです。農耕民族である日本人は何でも貯め込む癖があります。特に財産は貯め込むのです。しかし、トヨタでは財産は貯め込むものではなく、利用するもの、活用するものだと考えます。

ところで、材料や部品の在庫は問題だが、書類やファイルの在庫は問題ではないと考える企業が多いです。それは、書類やファイルの在庫金額(コスト)を計算したことがないからです。金額(コスト)に換算すれば、いかに書類やファイルの在庫がムダであるかが分かります。

ちなみに、筆者が業務の改善・効率化のコンサルティングを行った企業では、書類やファイルの在庫金額を計算する際に、最初、業務時間を基に計算します。つまり、業務の在庫金額を1日8時間として計算します。しかし、実際の在庫金額は業務時間(コスト)だけではありません。

なぜなら、業務を行っていない夜中でも在庫しており、夜中でもハードディスクや倉庫(ストレージ)費用、保管管理費用などがかかっているからです。よって、本来、実際の在庫金額(コスト)は1日を24時間として計算しなければ正確な在庫金額(コスト)は算出できません。

材料や部品と同様に、書類やファイルは企業にとっては財産です。なぜなら、時間(コスト)をかけて必要な情報を収集し、それを時間(コスト)をかけて加工・編集・処理したものだからです。この財産を保存・保管・在庫しておくと言うことは、

  1. 財産(資金)を利用しないで寝かせて(放置して)おくことになり、それだけで損失になる。
  2. 書類やファイルを保存・保管・在庫しておくために、ロッカーや棚、ハードディスクやストレージが必要となり、また、在庫管理コストもかかる。
  3. 保存・保管・在庫していた書類やファイルが、紛失したり、盗まれたり、ハッキングされたり、誤って消去したりする恐れがある。そのために、コストをかけて対策をしなければならない。
  4. 書類やファイルは時間が経てば陳腐化し、役に立たなくなることもある。
  5. 保存・保管・在庫時間が長くなれば、それだけ意思決定や実行が遅くなり、ユーザー及び顧客を待たせることになる。また、他社に後れを取ることにもなり、顧客にブランド・スイッチ(他の企業に変更)される恐れもある。

よって、書類やファイルを保存・保管・在庫しておくことは、大きなコストがかかり、損失となりますから、できるだけ保存・保管・在庫しないようにします。

なお、業務要件として、一定期間、保存・保管・在庫しておかなければならない、契約書、決算書、取引先情報、顧客情報などは除きますが、それ以外は、できるだけ停滞(在庫)時間を削減します。

書類やファイルの保存・保管・在庫をできるだけ廃止・削減するためには、納期(スケジュール)管理をしっかりと行うことです。業務(職務)のジャスト・イン・タイムを実施できれば理想的ですが、少なくとも納期管理を行い、そのうえで少しでも管理レベルを上げる必要があります。

工場の現場作業の納期(工程)管理を行っている工場管理部門の人たちが、自分が行っている業務の納期管理を行わないのは、「医者の不養生」「紺屋の白袴」ということです。

なお、書類・ファイルの保存・保管・在庫の廃止・削減だけでなく、ムダな書類・ファイルそのものの削減については、「4-9 ムダな書類・ファイルとムダな会議の廃止・削減」に、具体的な方法が書いてあります。また、トヨタの書類削減事例も書いてありますので、参考にしてください。

6.業務(職務)内容の報告・連絡・通知の廃止・削減について

次に廃止・削減の検討をするのは、業務(職務)内容の報告・連絡・通知の業務(職務)です。これも価値を全く生まない業務(職務)ですので、ムダですから、できるだけ廃止・削減をします。

ところが、多くの企業ではコミュニケーションが重要とされていることから、いわゆる、報・連・相(報告・連絡・相談)は重要であると考えており、これらの業務(職務)は価値を生んでいると勘違いしているのです。

いろいろな情報を、多くの人に報告・連絡・通知をするのは、実は集団主義の現れです。みんなで決めて、みんなで実行するために報告・連絡・通知をするのです。仮に、1人で決めて、1人で実行するのであれば、報告・連絡・通知は全く必要ありません。また、そのための会議・打ち合わせ・相談も必要ありません。

日本では、いわゆる報・連・相(報告・連絡・相談)が重要だと考えられていますが、外国人から見ればおかしなことなのです。なぜなら、仕事を指示された人だけが仕事を行い、その結果を指示した人に報告すれば良いからです。そして、その内容を関係者だけに報告・連絡・通知すれば良いからです。

日本ではその業務(職務)に関係のない人にまで報告・連絡・通知をするのです。この必要があるのでしょうか。しかも、その業務(職務)に関係のない人までが、「俺は聞いてない」などと言うのです。自分には関係のない業務(職務)であるにもかかわらず、何でも知っておきたい、何でも見ておきたい、とみんなが思うのが集団主義なのです。

集団主義がなぜいけないのかは、本稿の最初に書きました。もう1度よく読んで下さい。報告・連絡・通知は、「みんなで決めて、みんなで実行する」ために必要な業務(職務)であり、集団主義の最も典型的な業務(職務)なのです。したがって、できるだけ権限を委譲し、1人で決めて、1人で実行するようにすれば、報告・連絡・通知はほとんど必要ないのです。

そもそも、多くの企業では、意思決定と実行に必要のない情報まで報告・連絡・通知させる場合が多いです。つまり、単に、「知っておきたい」「見ておきたい」だけの情報まで報告・連絡・通知させているのです。このために、コストがいくらかかっているか調べたことがありますか。どの企業でも報・連・相を重視しているので、膨大なコスト(損失)になっているのです。御社でもコストを計算してみて下さい。

意思決定をする人やそれを実行する人だけに、必要な情報を伝達(報告・連絡・通知)すれば良いのです。当たりでしょう。ところが、集団主義に基づく日本の企業では、コミュニケーション(報・連・相)を重視しているために、大きなムダ(損失)になっているのです。個人主義に基づく欧米の企業から見ると、日本の企業の報・連・相はおかしな風習に見えるのです。

7.業務(職務)内容のチェック・照合・確認の廃止・削減について

業務(職務)内容のチェック・照合・確認がムダであることを説明する前に、工場の検査の実態はどうなのかを説明しておきます。実は、多くの工場でも未だに検査は絶対に必要だ、ムダではないと考える人が大勢いるからです。

特に中小メーカーでは、「もし、加工途中で不良品が作られてしまったら、不良品がそのまま最終工程まで加工・組立されることになるので、大きな損失になってしまう」と考えます。そのため、加工途中で何度も中間検査を行うのです。

確かに、その通りですが、例えば、トヨタ自動車の工場内に中間検査工程はありません。トヨタでは、「次工程はお客様」と言って、次工程には絶対に不良品を渡してはならないとしています。つまり、各工程で絶対に不良品を作らないようにしているのです。

また、トヨタでは協力工場から搬入される材料や部品の受入検査も行っていません。協力工場に対して、不良品を絶対にトヨタの工場に入れてはならないことを約束(契約)しているからです。これを品質保証契約と言います。

ただし、トヨタでは製品の出荷検査だけは行っています。万一、不良品を出荷し、販売してしまったらお客様に大変な迷惑をかけることになるからです。もし、リコール(呼び戻し)となれば、販売した製品や部品を回収し、交換し、また損害賠償をしなければならないからです。したがって、協力工場でも同様に、材料や部品の出荷検査だけは行っているのです。

よって、業務においても、トヨタでは部下の仕事を途中でチェックしていません。よって、御社でも部下の仕事を途中でいちいちチェックするのは止めて、部下の仕事は部下に任せてください。そのためには、業務ミスを絶対にしないように、責任を持って業務を行うように、部下をしっかりと教育しなければいけません。ただし、顧客や取引先に提出する書類やファイルの最終チェック(出荷検査と同じ)だけは行って下さい。

実は、上司が部下の仕事を途中でいちいちチェックしている企業では、頻繁に業務ミスが発生しているのです。なぜなら、「どうせ上司がチェックするのだから、多少いいかげんでも構わない」「上司が喜んでチェックしているのだからチェックさせてあげれば良いではないか」と部下が考えているからです。これはアンケートを取ってみれば分かります。

多くの担当者が、「業務は80%完成すれば良い」と考えている企業では、管理者が100%完成させているのです。そのような企業で、従業員の性格を調べてみると、管理者は完全主義・完璧主義の人が多く、担当者は80%主義とも言える、いいかげん(大雑把)な性格の人が多いです。

また、上司が部下の仕事をチェックするのは、これまでに培った知識・経験でできるので、上司にとっては楽にできる仕事です。しかも、上司は部下に対して優越感を味わうことができる嬉しい仕事なのです。

よって、多くの管理者は、このように楽にできる後ろ向きの業務を優先して行います。そして、売上や利益を増やすための難しい前向きの業務は後回しにします。つまり、後ろ向き(守り)の業務を優先して行い、前向き(攻め)の業務は後回しにするのです。

多くの企業で実際に調べてみると、後ろ向き(守り)の業務の割合が前向き(攻め)の業務の割合よりもはるかに多くなっています。通常、守りの業務が業務量全体の80%以上となっています。96%になっていた一部上場企業もありました。これがいわゆる大企業病の正体なのですが、実は中小企業でも同じ傾向でした。これでは、企業は成長・発展しません。

「部下の仕事をチェックするのは管理者の重要な仕事だ、部下を育てることが管理者の役割だ」などと言っている管理者は反省してください。部下と一緒に、売上や利益を増やすのが本来の仕事です。

部下の仕事をチェックするなどの内部管理業務はできるだけ廃止・削減して、管理者の業務ベクトル(方向)を内部から外部(市場)に向けるようにしなければなりません。これについては、「4-7 市場(顧客)志向による内部管理業務の廃止・削減」で詳しく説明いたします。

以上、書類やファイルの保存・保管・在庫、報告・連絡・通知、チェック・照合・確認など、明らにムダな業務の廃止・削減について説明いたしました。

一見、価値があると思われる、計画・立案・設計、及び加工・編集・処理の業務について、価値があるか無いかを調査分析するには、VEの考え方を適用するのが有効です。そこで、次回以降、順次、これらの業務についていろいろな視点で詳細に調査分析して価値があるか無いかの確認を行い、価値がない業務については廃止・削減の検討を行います。

Ⓒ 開発コンサルティング

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