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開発&コンサルティング

第3章 ムダな業務の見える化

3-1 ムダな業務を見える化する技術

1.ワークフロー、DFDやER図、UMLなどを用いてもムダな業務を見える化できない

業務をIT化する際に、一般的に使われている業務フロー(ワークフロー)を用いたり、DFDやER図、あるいはUMLなどを用いたりしてもムダな業務を見える化することはできません。その理由をそれぞれ簡単に説明します。

業務フロー(ワークフロー)は、現状業務がどのようなフロー(プロセス)で行われているかを明確にするものです。しかし、既に説明しましたように、業務フロー(ワークフロー)は業務の価値分析を行いませんし、業務時間も測定しません。

よって、価値のないムダな業務を発見することもできなければ、業務時間を明確にすることもできないのです。したがって、このままでIT化を行えば、当然、価値のないムダな業務まで金と時間をかけてIT化することになるのです。よって、二重のムダです。

そのうえ、多くの企業では業務時間をきちんと管理していないために、IT化しても業務時間が変わらないのです。なぜなら、IT化して短時間でできるようになった業務でも、だらだらと長時間かけて行うことができるからです。よって、業務をIT化しても生産性は向上しないのです。

労働生産性=付加価値/従業員数

または、

労働生産性=付加価値/総労働時間

ですから、生産性を向上させるためには、まず、価値のないムダな業務を廃止・削減して、ムダな業務にかけている時間を削減しなければなりません。そのうえで、価値のある業務を短時間で行うようにしなければならないのです。

次に、DFD(データ・フロー・ダイヤグラム)とER(エンティティ・リレイション)図についてですが、これらは共に、業務をIT化するための手法で、データ主導のモデル化手法です。

DFDは文字通り、データの流れを見える化(図式化)するものであり、ER図は業務をデータベース化する際に、モデル化の対象となる実体(エンティティ)相互の関係を基に、データの構造を見える化(図式化)するものです。したがって、共に、データそのものがムダかムダでないかは分かりません。

また、UML(ユニファイド・モデリング・ランゲージ)は、ソフトウエア開発に用いるオブジェクト指向に基づく標準モデリング言語のことです。オフジェクトとは「対象」の意味ですが、具体的にはいろいろな物、作業、業務などを指します。

オブジェクトの属性(内容)に対して操作方法を決めながら開発を行うのですが、オブジェクトの内容ごとに操作方法を決められるので、自由に開発ができるのです。また、業務内容や処理方法が変ってもその部分だけ簡単に変更することができるので便利なのです。

さらに、UMLにはいろいろな表記方法があって、しかも、どれもがビジュアルな表記で分かりやすいのです。したがって、ソフトウエア開発の図面と言ってもいいわけで、表記方法を理解している人がその図面を見ればその内容が分かるようになっているのです。

しかしながら、UMLもオブジェクトそのものに価値があるかないかは分かりません。あくまで、オブジェクトの内容ごとの操作方法やそれぞれの関係などを表すものです。したがって、業務をIT化するための手法であって、ムダな業務を見える化するための手法ではありません。

業務をIT化してもムダな業務を見える化できない理由は、そもそも、ITにはあるべき姿の考え方がないからです。業務をIT化するに際して、「業務は本来どうあるべきか」の考え方がないのです。このため、ムダな業務が見える化できないのです。ITは道具にすぎないからです。

2.活動基準原価計算(ABC)を用いてもムダな業務を見える化できない

既に説明しましたように、ホワイトカラーの業務別コストを計算する方法として活動基準原価計算(ABC)が知られています。ホワイトカラーの業務別コストを基に原価管理を行うことによって、ホワイトカラーの生産性を向上させるのです。この方法はアメリカで使われるようになりました。

しかし、ABCの専門書には、ホワイトカラーが1年間に行うルーティンワークの業務別コストを計算する方法は書かれていません。せいぜい、業務日誌に実施した業務の内容と時間を記入しておき、その時間に賃率を掛けて業務コストを算出するという方法が書かれているだけです。

よって、このような方法では1年間の業務別の時間に重複や漏れが生じてしまいますので、正確な業務別コストを計算することはできません。なぜなら、ABCには業務の分類基準が定められていないからです。

実は、専門書によっては業務の分類基準が書かれている本もあります。しかも、専門書によって分類基準が異なります。そのうえ、どの専門書に書かれている分類基準も、残念ながら正確な業務時間(コスト)が測定できるような基準にはなっていません。要するに、漏れや重複が生じてしまうのです。また、このように、専門書によって分類基準が異なり、ABCとしての分類基準がないのです。

ちなみに、工場における作業では、IEによって作業の分類基準が定められています。よって、これに基づいて作業を分類し、作業分類ごとに作業時間を測定します。よって、重複も漏れもない作業時間が測定できるので、作業別コストも正しく算定できるのです。このために、個別原価計算、総合原価計算、標準原価計算などができるのです。また、このために、世界中の工場でIEが使われているのです。

ABCの最も重大な問題は、ITと同様に、あるべき業務の考え方がないことです。「業務とは本来どうあるべきか」の考え方がないということは、何がムダで何がムダでないかが分からないということです。このため、ABCを用いてもムダな業務を見える化することはできないのです。

ABCについて詳しくは、『文科系のためのコスト削減・原価計算の考え方と技術』をご覧ください。また、コスト削減・原価低減のコーナーをご覧ください。

3.IE(管理工学)とVE(価値工学)を用いればムダな業務を見える化できる

主に工場現場の改善に用いるIE(インダストリアル・エンジニアリング:管理工学)と、主に製品のコスト削減や新製品開発に用いるVE(バリュー・エンジニアリング:価値工学)とをホワイトカラーの業務(デスクワーク)に適用することにより、ムダな業務を見える化することができます。

なぜなら、IEもVEもあるべき姿に対する考え方があり、あるべき姿と現状実態とを比較して問題点(ムダ)を発見し改善・開発・改革を行う技術だからです。

その際に、これらの技術を業務(デスクワーク)にそのまま適用するのではなく、デスクワークに適した方法に変更する必要があります。また、誰にでも簡単に、これらの技術を活用できるようにしなければなりません。

なぜなら、デスクワークを改善・効率化するのはIEやVEの専門家ではなく、ホワイトカラー自身であり、自分が行う業務を自分で改善・効率化できなければならないからです。

さて、IEの目的は付加価値の向上です。よって、IEを用いて工場現場の作業の改善を行う時には、何はさておき、作業の価値分析を行います。IEは、工程⇒単位作業⇒要素作業⇒動作と、広い作業範囲から狭い作業範囲へと順に調査分析を行って、価値のないムダな作業や動作を発見して廃止・削減する技術です。

また、価値のある作業や動作については、創意工夫によって、世界で最も良い方法(One best way)に改善する技術です。

したがって、IEにおける作業のあるべき姿とは、全くムダがないと考えられる作業方法で行った時の作業を言います。このあるべき作業方法を標準作業方法とし、標準作業方法を基に標準作業時間を設定し、この標準作業時間に賃率を掛けて標準労務費を設定します。

そして、標準労務費に標準材料費と標準経費を加えて標準原価を設定します。つまり、標準原価とは、あるべき作業方法、あるべき材料、あるべき経費で作業を行った時の原価を表しています。そして、この標準原価を目標として実際原価と比較して問題(ムダ)を発見してコスト削減(原価統制)を行うのです。

一方、VEの目的は製品の価値向上です。この価値は、企業が追及する付加価値ではなく、顧客が求める製品の価値です。この点がIEとは異なります。

したがって、VEでは製品の価値を高めるために、常にユーザー(製品の使用者)と顧客(製品の購入者)の立場で考えます。製品の使用目的を果たすために、ユーザーが求める機能を過不足なく備えるようにします。それと同時に、顧客が求める価格で提供できるようにコスト削減を図ります。

このために、製品や各部品の目的と機能を追求します。そして、既存製品の中に無用機能、過剰機能、重複機能などを発見すれば廃止・削減してコスト削減を行い、不足機能を発見すれば追加して改良を行います。また、顧客ニーズを基に、製品の使用目的を果たす新たな機能を設計して製品開発を行います。これらによって、製品の価値向上を図ります。

よって、VEにおける製品のあるべき姿とは、製品に無用機能、過剰機能、重複機能、不足機能などがないことです。つまり、顧客が求める機能を過不足なく備えている製品をあるべき姿と考えます。

また、必要機能を果たすために最も安く、また、最も適した構造や仕組み、材料や加工方法を世界中で探索したり、創意工夫したりして製品のコスト削減や開発・設計を行います。これがVE技術です。

さて、IEもVEも専門的な工学技術であり、習得するには多くの知識・経験が必要です。よって、それぞれに専門家がいます。IEの専門家は主に工場現場の改善に従事し、VEの専門家は主に製品のコスト削減や新製品開発に従事しています。

したがって、これらの技術をホワイトカラーの業務に適用するためには、IEとVEの両方の技術を習得しているだけでなく、ホワイトカラーの業務(デスクワーク)にも精通していなければなりません。

そのうえ、文科系の人でも、IEやVEの技術を理解して業務に適用できるようにしなければなりません。なぜなら、ホワイトカラーの業務を効率化するのは、IEやVEの専門家ではなく、ホワイトカラー自身だからです。

筆者はこれまで、IE、VE、業務(デスクワーク)などについて知識と経験を積んできました。そこで、これらの知識と経験を基に、IEとVEの長所と短所を踏まえて、業務(デスクワーク)の改善・効率化が誰にでもできるようにしました。

そして、これまで多くの企業でコンサルティングを行ってきました。それを本稿に詳しく分かりやすく書きました。よって、誰でも本稿を見ながら業務の改善・効率化ができると思います。

ちなみに、IEとVEについて、より詳しくは、『文科系のためのコスト削減・原価低減の考え方と技術』に、また、コスト削減・原価低減のコーナーに書きましたので参考にして下さい。文科系の人のために分かりやすく書きましたので誰にでも分かると思います。

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