最近は、メーカーでも製品開発と言うよりも、商品開発と言う場合が多くなってきました。顧客志向(マーケティング志向)の現れだと思います。常に、顧客の立場で考えるようになっているのです。そこで、本書においても、できるだけ商品開発という言葉を使うようにします。
さて、マーケティングの大御所、フィリップ・コトラーとゲイリー・アームストロングの著書、『マーケティング原理』には商品開発のステップが次のように書かれています。
アイデアの創出⇒アイデア・スクリーニング⇒製品コンセプト開発とテスト⇒マーケティング戦略の開発⇒経済性分析⇒製品化⇒テスト・マーケティング⇒市場導入
現在のところ、このステップが世界中で最もよく知られている商品開発のステップだと思われます。なぜなら、この本はマーケティングに関して、世界で最も多く読まれている本の1つだからです。
しかし、実際にこの通りに商品開発を行っている企業はないと思います。なぜなら、まず、最初のステップのアイデアの創出ですが、新商品アイデアが容易に出せるわけがないからです。
こんな商品を開発したらどうか、といったような、具体的な新商品のアイデアを出すことは難しいのです。最初にいきなり、「この世の中にない、誰も見たことがないような新商品のアイデアを出せ」と言われても出せるわけがないのです。
そこで、通常は、開発テーマ(開発課題)の創出を行います。なぜなら、それは開発とは言っても実際には既存商品の改良だからです。本来の新商品の開発ではありません。既存商品の改良であれば、開発テーマが出れば、その後は、その課題を解決するためのステップを踏んでいけば良いわけです。
本来、新商品アイデアを出すためには、標的市場を設定したり、標的市場における顧客ニーズを探索したりと、いろいろなステップが必要です。しかも、これらのステップが最も重要なのです。なぜなら、標的市場を設定するのは、企業の経営戦略や事業戦略にかかわることですし、顧客ニーズを探索するのは、顧客ニーズに応えるための独自技術にかかわることだからです。
つまり、新商品アイデアとは、「どの市場(顧客)のどのようなニーズに応えるために、どのような独自技術を活用して、どのような商品を開発するか」ですから、企業にとって最も重要なことなのです。
しかも、商品開発のための市場探索は非常に難しいとされています。なぜなら、マーケティングの本に書かれている市場分析や市場調査の方法などは既存商品に関するものであって、商品開発のためのものではないからです。商品開発のためには既存商品が存在しない市場を探索する必要があるのです。
つまり、そもそも商品が存在しない市場ですから、需要もなければ供給もないのです。よって、市場自体が存在しないのですから、市場調査や市場分析ができるわけがないのです。言ってみれば、空白市場の探索になるわけですから難しいのは当然なのです。
それともう1つ重要なのが、顧客ニーズに応えるための独自技術です。新商品アイデアが決まっても、あるいは、商品コンセプト(概要)が決まっても、肝心の顧客ニーズに応えられる独自技術がなければ商品化はできません。マーケティングの専門家は技術に関しては全く言及していないのです。技術屋ではないのですから当然でしょう。
顧客ニーズに応えるための独自技術がない場合には、技術開発が必要になります。よって、本稿では技術開発を含めた商品化技術について解説いたします。
したがって本稿では、この最も重要なこれら2つの部分、すなわち、「商品開発のための空白市場の探索」と「顧客ニーズに応えるための技術開発を含めた商品化技術」を中心に、多くの企業のコンサルティング経験を基に解説してあります。これらについて、考え方・進め方を分かりやすく解説してありますので参考にしてください。
実際の開発業務は、上記のステップ通り順番に進めるわけではありません。並行的に進めます。これをコンカレント・エンジニアリングと言います。
ところで、各ステップで用いる技術は、VVE技術に基づくものです。企業における、いろいろな課題解決のための改善・改革・開発技術(コンサルティング技術)について、弊社では基本的な考え方をまとめており、この技術をVVE(Valid Value Engineering)と名づけております。
このVVE技術は、商品の価値向上技術VE(Value Engineering:価値工学)を基に、いろいろな企業で30年以上コンサルティングを行いながら改良し、また開発したものです。そして、このVVE技術を用いながら、すでに20年以上コンサルティングを行っています。
本書では、改善・改革・開発技術VVEに基づく商品開発技術について、分かりやすく解説してあります。また、商品開発だけでなく、発明や特許取得の方法についても書いてありますので、個人や企業が特許を取得する方法を習得することもできます。
ちなみに、このVVE技術(コンサルティング技術)について詳しく知りたい方は、『文科系のためのコスト削減・原価低減の考え方と技術』(守屋孝敏著 楽天、およびアマゾンで販売)をご覧ください。又は、コンサルティング方針・技術のページをご覧ください。
さて、商品開発を行うためには前提条件があります。既存商品の改善・改良ができていない企業は、改善・改良を行ってから商品開発に取り組んでください。なぜなら、既存商品の改善・改良ができていないということは、現在、製造販売している商品について、顧客の要求を満たしていないということですので、新商品を開発するより既存商品を改善・改良する方が先決事項だからです。
既存商品に関しては顧客の要求は明確です。安くて品質のよい商品を早く欲しいというものです。つまり、C(コスト削減)、Q(品質向上)、D(納期短縮)です。これらの要求に応えるのが先決であり、応えられない会社は商品開発に取り組むべきではありません。
と言いますのは、多くの企業のコンサルティング経験から、改善・改良ができない会社は開発ができないことがわかっているからです。なぜなら、改善・改良より開発の方が難しいからです。改善・改良は企業努力だけでできますが、開発は企業努力だけではできないのです。競合他社の技術動向や開発動向、顧客ニーズの変化など、外部環境の変化に大きく影響を受けるからです。また、実際に開発しても、売れるかどうかはわからないからです。つまり、リスクがあるからです。
改善・改良にはリスクがほとんどありませんが開発にはリスクがあるのです。したがって、既存商品のコスト削減・品質向上・納期短縮などの改善・改良を行った後で開発に取り組むべきだと思います。また、開発に取り組むにも投資対効果が大きく、リスクが比較的少ない社内の生産設備(工具、治具、生産機械など)の開発にまず取り組み、その後に市場に向けた商品開発を行うべきなのです。
なお、小売業や卸売業、あるいはサービス業についても考え方は同じです。現在取り扱っている商品やサービスの改善・改良や店舗の改善・改良などを行ってから商品開発を行ってください。
要するに、現在取り扱っている商品や社内設備の改善・改良の延長として、市場に向けた商品開発に取組めば、失敗(リスク)が少なくて済むのです。特に商品開発をあまり行ったことのない企業では、このようにすれば失敗が少なく、しかも投資対効果が大きい商品開発ができるのです。例えば、まず、コスト削減に取り組み、その削減した費用を使って商品開発に取り組めば良いのです。
なお、既存商品のコスト削減・原価低減に関しては、『文科系のためのコスト削減・原価低減の考え方と技術』(守屋孝敏著 楽天、およびアマゾンで販売)をご覧ください。又は、コスト削減・原価低減のページを参照ください。
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