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開発&コンサルティング

4-3 目的思考による無用業務の廃止

1.目的思考とは業務目的を経営目的に一致させること

目的思考とは業務目的を経営目的に一致させることであり、すべての業務の目的は経営目的に結びついていなければならないということです。なぜなら、すべての業務は経営目的を果たすために計画・立案・設計され、実施されるはずだからです。

経営目的とは会社経営の目的です。では、会社経営の目的とは何でしょうか。ちなみに、定款に書かれている「目的」は会社経営の目的ではありません。定款には事業内容が書かれている場合が多いです。

会社経営の目的は会社設立の趣旨とか経営理念などに表示されている場合が多いです。しかし、多くの企業では明確になっていない場合が多く、改めて、我が社の経営目的は、「〇〇を〇〇することである」と端的に表現しておく必要があります。

なぜなら、利害関係者に理解してもらい、経営目的を果たすために協力してもらう必要があるからです。なお、経営理念の見直しについては、「5-3 経営理念の見直し」で詳しく説明いたします。

ここで、参考になると思うので、本来、会社経営の目的は何かを説明します。経済学、及び経営学においては、会社経営の目的は「利潤の追求」あるいは「利潤の最大化」であり、経済学者や経営学者が書いた会社経営に関するすべての本や論文はこの目的のために書かれています。

しかし、その一方で、ピーター・ドラッカーだけは会社経営の目的は、利潤の追求ではなく、「顧客の創造」であると論文に書きました。著書である『現代の経営』にも同じことを書いています。このため、ドラッカーは世界中の学者や研究者、あるいは企業経営者から注目され、急速に名が売れて、次の論文の発表を期待されました。

しかし、ドラッカーはその後、これと言った論文を書いていません。良い論文をたくさん書くのが経営学者の仕事ですから、ドラッカーは自分を宣伝するために論文を書いたのだと言われています。このため、経営学者としては認められておらず、大学の経営学部でドラッカーが授業で取り上げられることはほとんどありません。

ドラッカーは元GM社専属の新聞記者であったため、その経験を活かして経営学者になったのですが残念です。しかし、企業経営に関する良い本をたくさん書いています。しかも、新聞記者であったために分かりやすい文章で本を書くので多くの人に読まれています。これができたのは、アルフレッド・スローン・ジュニアの経営手腕の基で、GM社が世界一になる過程を、ドラッカーはGM社専属の記者としてつぶさに見ていたからです。

さて、会社経営の目的が「利潤の追求」か「顧客の創造」かの議論は、鶏が先か卵が先かの議論と同じだと思います。あるいは、本音か建前かの議論です。つまり、あまり意味のない議論です。ところで、本音を言う欧米人はドラッカーが好きではないですが、本音を言わない日本人はドラッカーが大好きです。つまり、ドラッカーの信条が日本人の信条に合っているのです。

例えば、日本の経営者がいつも言うことは、「お客様に喜んでもらうために会社を経営している」です。つまり「顧客の創造」です。しかし、これは建前であって、本音は、「儲けるため」、つまり「利潤の追求」です。なぜなら、儲けなくては会社は倒産してしまい、お客様に継続して喜んでもらうことが出来なくなるからです。

さて、ここでは、我が社の経営目的は何かを明確にすることです。各社で改めて良く考えてください。我が社の経営目的が明確になりましたら、次に、その目的を果たすための基本的な機能(役割)は何かを考えてください。それは通常、事業コンセプト(概要)に相当します。つまり、経営目的を果たすためにどのような事業を行うのかです。

事業コンセプトとは戦略ドメイン(事業領域)や事業のビジネスモデル(儲ける仕組み)を表したものです。しかし、これも多くの企業では明確になっていない場合が多いです。そこで、改めて、「◯◯市場をターゲットにし、◯◯という顧客ニーズに応えるために、独自技術◯◯を活用して、◯◯する」などと端的に表現すると分かりやすくなります。

以上のように、会社経営の目的と基本機能は、多くの企業では、通常、経営理念、事業領域、あるいはビジネスモデルなどに具体化されています。経営理念は会社の大黒柱とも言うべきものなので、経営環境が変化しても、通常、変更しませんが、事業領域やビジネスモデルは経営環境が変化すれば変更します。なぜなら、経営戦略を変えるからです

例えば、経営環境が変われば既存事業から撤退したり、事業の選択と集中を行ったり、新規事業開発を行ったりします。つまり、事業の再構築(事業の立て直し、いわゆるリストラ)を行って事業領域を変更します。つまり、経営環境が変わると、経営戦略によって事業領域を変更します。

経営環境は常に変化しているので、変化の状況に応じて経営戦略を策定します。そして、経営戦略を実施するために、中期経営計画(2~3年の計画)を立案します。また、中期経営計画を基に、毎年、経営計画を立案します。

したがって、すべての業務は中期経営計画、及び経営計画を達成するために実施するのですから、各業務は、これらと結びついていなければなりません。

つまり、各業務は、中期経営計画、及び経営計画と整合していなければならないということです。よって、各業務の目的が中期経営計画、及び経営計画と結びついているかどうかをチェックする必要があります。

各業務の目的が、順次、上位の機能になっていれば、業務の目的を果たしていることになり、経営計画を果たすことになります。その結果、経営計画が達成でき、売上や利益が増えることになります。逆に、各業務の目的が、経営計画の各機能に結びついていなければ、その業務は無用業務ということになります。

実際には、多くの企業では、各業務の目的が経営計画の各機能に結びついていないだけでなく、そもそも業務の目的がなかったり、目的が不明確であったりします。つまり、何のために仕事をしているのか分からないという場合が多いのです。

その主な原因は、目的を考えないで場当たり的に業務を指示したり、また、目的を確認しないで業務を実施したりするからです。

本来は、経営戦略を変更すれば、中期経営計画、及び経営計画を変更し、それに伴って各業務を変更して経営資源の効率的運用を図ります。つまり、現状業務を見直して、経営計画の達成に必要な新規業務を計画・立案して取り組みます。同時に、経営計画の達成に必要のない業務を廃止します。要するに、中期経営計画、及び経営計画の変更に伴い、業務の入れ替えを行うのです。

さて、企業は経営環境の変化に適応し、リスクを冒して戦わなければ生き残ることはできません。このことは従業員にとっても同じです。これまで行ったことがない新規業務や新規事業に取り組まなければならないのです。よって、意識(考え方や価値観)を変える必要があるのです。

しかし、人は誰でもこれまでに培われた考え方や価値観を持っており、そこからなかなか抜け出せない思考の壁があるのです。そこで、これを自ら打ち破らなければなりません。そうしなければ人も企業も生き延びることができないのです。

2.無用業務を発見する方法

無用業務を発見するためには、前回説明しましたように、まず、経営計画と大分類業務、中分類業務、小分類業務などの目的と機能がそれぞれ整合しているかどうかを確認します。もし、整合していなければ、その大分類業務、中分類業務、小分類業務などは不要となります。

本来は、経営計画の機能が大分類業務の目的となり、大分類業務の機能が中分類業務の目的となり、中分類業務の機能が小分類業務の目的となり、小分類業務の機能が各自の職務の目的となっているはずです。そして、各自の職務の機能を果たすために各自の職務内容(方法)があるのです。

つまり、経営計画の機能を果たすために、大分類業務、中分類業務、小分類業務、及び各自の個別業務(職務)があるのです。そして、各自が行っている個別業務(職務)の機能を果たすために具体的な方法があるのです。これらの、「目的ー機能(役割)ー方法」の関係を確認することにより、「業務のあるべき姿と現状業務の実態とのギャップ」を明確にすることができます。

よって、必要業務が確認できるだけでなく、無用業務、過剰業務、重複業務などのムダな業務と不足業務が明確になるのです。つまり、ムダな業務や不足業務が発見できるのです。

また、前回説明しましたように、本来は業務を上位から下位に向かって順にブレイクダウンしていくと、その機能(役割)は何か、さらにその下位の機能(役割)は何かという具合につながっています。そして、逆に下位から上位に向かってその目的は何か、さらにその目的は何かという具合につながっているはずです。

これらがうまくつながっていれば、問題ないのですが、通常、つながっていないためにムダな業務や不足業務が発見できるのです。つまり、目的のない業務や機能(役割)を果たしていない業務などが発見できるわけです。

なぜなら、本来は経営計画を達成するために業務を立案・設計するのですが、実際にはそうしていないのです。各社の業務分掌規程を見ると、経営計画とは関係なく、各部門の都合で業務を立案・設計し、実施している企業が多いのです。

実際に、クライアント企業の各部門の部長クラスの人たちに聞くと、「経営計画は一応確認するが、数日で忘れる」と言っていました。

本来、経営環境の変化に対応するために経営戦略を策定し、経営戦略を実行するために事業領域を設定し、そして中期と短期の経営計画を立案し、経営計画を実行するために各部門の業務を計画して実施するわけです。つまり、

経営環境の変化⇒経営戦略の策定⇒事業領域の設定⇒中期経営計画の立案⇒短期経営計画の立案⇒各部門の業務計画の立案及び実施、となるわけです。

ところが、実際には、大分類業務、あるいは中分類業務が不要と分かり、それに伴い、部が不要になったり、課が不要になったりした例が多くあります。

例えば、法務部、教育部、市場調査部などが廃止されることは多くの企業で見られます。これらの部門は、かつて必要があって設立した部門ですが、必要がなくなってもそのまま継続している場合が多いからです。また、廃止しても、必要になった時には外部の専門会社に委託した方がメリットが大きいからです。

また、前回説明しましたように、業務の目的と機能とは1対1ではありません。1つの目的を果たすためにいくつかの機能があり、逆に、いくつかの機能で1つの目的を果たしています。よって、目的と機能の関係を調べればムダな機能(業務)や不足する機能(業務)が発見できるのです。

また、1つの機能を果たすためにいくつかの方法があります。現在の方法はそのうちの1つに過ぎません。したがって、もっと良い方法を探して改善できる可能性があるのです。IT化もそのうちの1つの方法です。

3.目的のない無用業務を実施し続けると人は気が狂う

そもそも、すべての業務は何らかの目的を果たしていなければなりません。そうでなければ、時間(コスト)をかけて業務を行う意味がありません。それどころか、「目的のない業務を指示命令する」ということは、人間性を否定することになるのです。

別の言い方をすれば、目的のない業務を部下にやらせるのは、殺人罪に値します。「そんな大げさな」と思った人は、実際に目的のない仕事を自分でやってみれば良く分かります。

例えば、江戸時代に、犯罪者に対する刑罰に、「目的のない仕事をやらせる」ことが最も重い刑罰としてあったそうです。

その刑罰は、地面に穴を掘って掘を作らせるのです。水が漏れないようにしっかりと作らせるのです。罪人は最初は打ち首と覚悟していたので、この刑罰を喜んで受けます。つまり、堀を作ります。しかし、堀が出来上がったら、次にその堀を埋めさせるのです。以前そこに堀があったことが分からないようにきちんと堀を埋めさせるのです。

堀がきちんと埋まったら、また、同じ場所に穴を掘って堀を作らせるのです。水一滴漏らさないような堀を作らせるのです。出来上がったら、又その堀を埋めさせるのです。これを何度も永遠に繰り返すのです。

すると、ほとんどの罪人は数日で発狂するか自殺するそうです。しかし、その前に、ほとんどの罪人が、打ち首にして欲しいと懇願するそうです。しかし、それは絶対に許されません。打ち首の方が刑が軽いからです。どうですか、これでもあなたは目的のない仕事を部下にやらせますか。

目的のない仕事や何の役割も果たさない仕事に時間をかけて一生懸命に行うのはムダなだけではありません。ムダだと分かった時のことを考えて下さい。「俺はいったい今まで何をしていたんだ」「こんなムダな仕事をするために何か月も努力をしてきたのか」と気が狂いそうになります。

実際に気が狂って自殺した人もいます。実は、いわゆる過労死の原因を調べてみると、単に、長時間労働で肉体的な疲労が頂点に達していたからというよりも、精神的な苦痛に耐えられなくなったからです。当然でしょう。肉体的な疲労がどんなにたまっても、それだけで自殺する人なんていません。精神的におかしくなったからです。ムダな仕事を長時間やらせれば誰でも気が狂います。

しかし、実際には、多くの企業ではムダな仕事を平気で部下にやらせています。それは、その仕事がムダだということを知らないからできるのです。そこで、業務を指示・命令した人に、その業務の目的を明確にしてもらいます。そして、目的のない業務や目的が不明確な業務は直ちに廃止します。

4.なぜ目的のない無用業務が発生するのか

(1)経営計画を立案する人と、業務を立案する人とが異なるからです。

経営計画は経営者(社長や役員)が立案し、各業務は各部門で立案して実行するからです。つまり、経営者から末端の従業員まで業務がつながっていないからです。また、逆に、末端の従業員から経営者まで業務がつながっていないからです。つまり、意思決定と実行がトップダウンでもなければボトムアップでもないからです。途中で途切れているのです。

(2)経営計画を実行することよりも人を活用することを優先するからです。

経営計画を実行するために必要な業務を立案・設計するのではなく、最初に人を決めて、後からその人に合った業務を立案・設計するからです。また、その人が好きな業務ややりやすい業務を優先し、嫌いな業務や難しい業務を後回しにするからです。このため、ムダな業務や不足する業務が発生するのです。

(3)必要の都度、場当たり的に業務(職務)を指示・命令するからです。

たとえ経営計画に基づき大分類業務や中分類業務を立案していても、各人が行う個別業務(職務)は上司が必要に応じてその都度指示命令するからです。つまり、個別業務(職務)はほとんどが経営計画とは関係なく、場当たり的に指示され実行されるからです。

(4)いったん始めた業務は止めようとしないからです。

工場では生産計画に基づき作業を実施し、生産が終了すれば作業も終了します。しかし、業務(デスクワーク)は違います。ほとんどの企業では業務計画をきちんと立案していません。また、業務のスケジュール管理も行っていません。

よって、上司も部下もどの業務をいつまでにやらなければならないかを良く知りません。また、上司は、自分が指示した業務を、「もう必要なくなったからやらなくてもいい」とは言わないのです。やれとは言っても、やらなくてもいいとは言いません。

なぜ、上司は必要なくなった業務をやらなくてもいいと言わないのかと言いますと、もともと場当たり的に指示しているので、どのような業務を指示したか上司が忘れているからです。したがって、部下はその業務をいつまでも止めないのです。このため無用業務がいつまでも継続して行われてしまうのです。

(5)経営目的ではなく、自己目的のために業務を指示するからです。

例えば、役員会の準備資料というのを役員がよく部下に作らせます。部下は役員会に提出する重要な資料だと思って一生懸命に作るのですが、実際には必要ない場合が多いです。役員が個人的に必要だと思って作らせているのです。

その理由は、役員会で突然、社長が、「あれはどうなっている?」と役員に尋ねるからです。そこで役員は、その場で資料を見て「それはこのようになっています」と答えます。すると社長はその役員を褒めるのです。役員会の場で直ちに答えたので、有能だと思うのでしょう。そこで、各役員は社長から何を尋ねられてもすぐに答えられるように、何でもかんでも常に部下に準備させておくわけです。

筆者はこういう役員はむしろ無能だと言いたいのです。なぜなら、何が重要で何が重要でないかが分かっていないからです。突然、社長に重要でないことを聞かれても、後から調べて答えれば良いはずです。ムダな時間(コスト)をかけて部下に準備させている役員は無能なのです。

役員会の準備資料について説明しましたが、多くの企業ではその他の会議でも同じようなことが行われています。個人的に必要な◯◯会議の準備資料を部下に作らせ、しかも何の役にも立てていないわけです。

この業務の目的は、「上司に気に入られたいため」です。この目的のために膨大な時間(コスト)をかけて部下に作らせているのです。しかも、作らせた本人はその膨大な量の資料を会議の前に、つまり事前に目を通すことはありません。会議に持って行って、もし上司から聞かれたらその場で資料を探して答えるのです。よって、もし上司から聞かれなかったらその準備資料はムダになります。

また、会議が終わったら、そのまま机の引き出しにしまっておくだけです。そして、次の会議が近づくと、以前作らせた資料を捨てて、次の会議の準備のために、また新しく作らせるのです。

会議の準備資料についての事例を紹介しましたが、このように、「自己目的のために業務を指示する」ことは実はどの企業でも行われており非常に多いです。

(6)本当の目的を明確にしないからです。

本当の目的を明確にしない業務はどの企業にもあります。「自己目的のために業務を指示する」ことも本当の目的を明確にしない業務ですが、どの企業にもあるその他の事例を1つ紹介すると、修正予算編成という業務があります。本来、予算編成の目的は経営計画を実施できるようにするためです。したがって、経営計画に基づき予算編成を行います。

よって、本来は経営計画の立案が年に1回であれば予算編成も年に1回ですし、経営計画の立案が年に2回であれば予算編成も年に2回となります。しかし、多くの企業では経営計画の立案とは関係なく予算編成を行っているのです。

その典型的な例が修正予算編成です。また、経営計画が年に2回なのに、年に4回、つまり四半期別予算編成を行っている企業もあるのです。これらの業務の目的は、建前は、「経営計画を実施できるようにするため」ですが、本当の目的は、「予算どおりに実施できましたと言うため」です。

予算というのは経営計画を実施するために必要な金額を表したものですが、予算が足りずに実施できないことは良くあることです。しかし、だからと言って予算を修正するのは本末転倒です。このために、通常は予備費を設けておきます。編成した予算は途中で修正しないで、最後まで当初の予算どおり達成努力をすべきなのです。

ところが、予算を修正して実績に合わせてしまい、「予算どおりうまく行きました」なんて言っているのです。これでは成り行き任せと同じで、予算を編成すること自体がムダになってしまいます。よって、少なくとも修正予算編成という業務はムダな業務なのです。

なお、予算の修正と実績の修正とはもちろん異なります。実績を修正しても問題ありませんが、予算を修正するのは問題なのです。また、補正予算は当初の計画になかったことを実施するために編成するものですので、修正予算とも異なります。

5.多くの企業にある無用業務の廃止事例

目的がなかったり、目的が不明確だったりする業務はどの企業にもたくさんあります。これまでコンサルティングを行った数十社の企業では、全業務量の20%ぐらいがこのような無用業務です。したがって、多くの企業ではこのような無用業務を廃止したり、業務の目的を改めて明確にしたり、業務機能を変更したり、業務方法を変更したりします。

企業秘密に関することなので、それらをすべてここで紹介することはできませんが、実際に、多くの企業に良くある無用業務の廃止事例を少し紹介しておきます。

なお、無用業務だと分かっても、これまでの慣習ですぐに廃止できない場合もあります。その場合は、次回以降でさらに検討します。よって、無用業務の廃止による業務効率化の成果は実際には全業務量の10%ぐらいです。これが「目的思考による無用業務の廃止」の平均的な成果になります。以下の事例は、企業秘密ではないので公開できる事例で、しかも多くの企業に共通して存在する無業業務の廃止事例です。よって、これら以外にも各社にいろいろあります。

(1)各種会議の準備資料作成

既に説明しましたので説明は省略します。

(2)修正予算編成

これも同じく説明は省略します。

(3)受信簿・発信簿の作成記入

どの企業へ行っても書類の受信簿・発信簿があります。何のためにあるのでしょうか。書類の紛失を防止するため?ですか。書類が紛失する原因は書類をどこに置いたか、どこにしまったかを忘れてしまうからです。よって、受信簿・発信簿を作成しても、あるいは受信の都度、また、発信の都度、記録していても書類は紛失します。紛失するのは書類を扱った人の記憶の問題だからです。よって、受信簿・発信簿を作成するのはムダな業務なのです。

書類の受信簿・発信簿の作成記入は郵便物だけでなく、宅配便を利用した書類や小包などでも同じです。また、社外郵便だけでなく社内郵便でも同じです。この業務は建前上は紛失防止を目的としています。なぜ、建前上かと言いますと、受信簿・発信簿を作成記入していても紛失するからです。

では、何のために受信簿・発信簿を作成記入するのでしょうか。紛失した場合に、誰が発送したのかあるいは誰が受け取ったかの確認をするためですか?確認をするのは目的ではありません。

目的を果たしていないにもかかわらず、受信簿・発信簿を作成する目的を、「紛失を防止するため」にしたり、「誰が発送したか誰が受け取ったかを確認するため」のように機能を目的にしてしまうのは、本当の目的を明確にしないからです。

本当の目的は、「紛失した場合に謝罪し損害賠償をするため」です。ちなみに、郵便局ではすべての郵便物の受信簿・発信簿を作成してはいません。受信簿・発信簿を作成するのは書留郵便だけです。それはまさに紛失した場合に謝罪し、責任を取って損害賠償金を支払うためです。通常の郵便物を紛失しても、郵便局は損害賠償をしません。謝罪するだけです。

よって、企業も郵便局を見習って、書留郵便に限って受信簿・発信簿を作成するようにしましょう。書留郵便はまさに、書き留めておく郵便です。なお、企業で通常の郵便物を紛失した場合は、謝罪し、再発送します。また、謝罪し再発送してもらいます。

このように、本当の目的を明確にしない業務はたくさんあります。したがって、業務の目的を良く考えて明確にしてください。本当にその目的なのか、また、本当にその目的を果たしているかを確認してください。

基本的に、記録したりメモしたりするのは、忘れないようにするためですが、実施する時に忘れてしまえば意味ないのです。例えば、受信簿や発信簿に記録していても、書類や小包を取り扱う時に紛失してしまえば、記録する意味がないのです。また、記録する人と取り扱う人とが異なれば、当然、記録する意味がないのです。

また、記録した人が取り扱っても、忘れる場合があります。このようなことは日常でも良くあります。例えば、買い物に行くときに、買う物をメモしていても、そのメモを持って行くのを忘れたり、持って行っても買い物をする時にメモを見るのを忘れてしまえば、メモしなかったのと同じです。

よって、受信簿・発信簿作成記入の事例は一例にすぎません。忘れないように記録したり、メモしたりする業務は他にたくさんあります。要するに、備忘録です。探してみて下さい。また、本当の目的は何かを良く考えて下さい。

(4)印紙・切手の受払い台帳の作成記入

印紙や切手は現金と同じですので、受け払い台帳を作成記入し管理している会社は多いです。この業務の目的は建前上は従業員の不正防止ですが、台帳を作成記入したからといって不正が防止できるわけではありません。枚数や金額を台帳に正しく記入しても不正が行われてしまうからです。

実際に、切手を私用に使ったり、印紙を転売したりするのです。つまり、業務の目的を果たしていないのです。よって、この業務を廃止し、不正が行われないような工夫をすべきです。

例えば、管理者の目の前で切手や印紙を貼ってもらうようにしている会社があります。切手や印紙を貼る書類を見ればそれが私物であるか、否かが分かるからです。また、普段はチェックしないで、月に1回トータルチェックし、金額がいつもの月より多い場合には、不正が行われたと判断し、細かくチェックするという会社もあります。つまり、異常があった場合に細かくチェックする異常管理を行っているのです。

(5)文房具の払い出し台帳の作成記入

誰がどの文房具をいくつ持って行ったかを記入する台帳です。この業務も建前では従業員の不正防止が目的です。文房具というのは私物なのか否かが良く分からないので、会社の文房具を自宅に持ち帰って自宅で使用していても分からないのです。無意識にポケットやカバンの中に入れて持ち帰る人もいるのです。

そのため、払い出し台帳に記入するわけですが、これも記入したからといって、不正が防止できるわけではありません。

そこで、不正防止と経費削減のために、月別の使用量だけを管理するのです。つまり、払い出しの都度いちいち台帳に記入しないで、仕入と在庫を月に1度だけチェックするわけです。そして、使用量が多くなった場合に注意喚起するわけです。

また、会社の文房具は個人の机の引き出しの中に入れないで、係やチーム共通の場所に整理整頓して置くようにします。新しい文房具を倉庫から出してこの場所に置いておけば誰でも種類と数量がすぐに分かるからです。そして、共有にして使うようにします。自分専用で使いたいのなら私物を使ってもらいます。

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