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開発&コンサルティング

2-8 他社事例は参考にはなるがマネはできない

1.人のマネをするのは日本人の特徴

人のマネをするのは日本人の特徴で、バブル経済の頃は、「隣がピアノを買ったからうちでも買おう」とか、「隣が百科事典を買ったからうちでも買おう」とマネした人が非常に多かったのです。別の言い方をすると、日本人は流行に乗りやすいのです。

例えば、数十年前から、多くの人が髪の毛を茶色に染めています。なぜでしょうか。その理由を聞いてみると、ほとんどの人はファッションだと言いますが、おそらく、欧米人のマネでしょう。多くの欧米人の髪の毛は茶色だからです。しかし、欧米人の髪の毛は細く、抜けやすいのです。そのため、欧米人にはハゲが多いのです。それなのに、欧米人の髪の方が優れていると思っているのでしょうか。

おそらく、多くの日本人は、日本人の髪の毛が世界一優れていることを知らないのです。わざわざ、劣っている髪の毛をマネしているのですから。日本人の髪の毛は、真っ黒で、昔は「カラスの濡れ羽色」と言われ、美しいため尊重されました。

それだけではありません。黒は紫外線をシャットアウトするので、大事な頭を紫外線の害から守ってくれるのです。そのうえ、日本人の髪の毛は太くて直毛なのです。要するに、非常に丈夫なのです。このため、頭の外傷を防ぐこともできるのです。

このような髪の毛を持った人種は他にあまりおりません。日本人の他にはタイや中国の高地にすむ民族だけらしいです。このため、昔は日本人の髪の毛はかつらの材料として高く売れたのです。腰のあたりまで長く伸ばした髪の毛を売ると3ヶ月ぐらいは楽に暮らせたそうです。要するに、髪は財産だったのです。

それなのに、現在は多くの人が美しい黒髪を茶髪に染めてしまいました。わざわざ劣った欧米人の髪をマネしているのです。また、このために、髪が痛んでしまい、現在ではかつらの材料としては使えなくなったそうです。以上の話はかつらメーカーのアデランスから聞きました。実に嘆かわしいことです。

また、新しいダイエット法や健康法などがテレビで紹介されると、すぐに多くの人がマネをします。これまでに何十ものダイエット法や健康法がテレビで紹介されましたが、どれも定着していません。

少し前には、サバ缶が体にいいと紹介され、みんながサバ缶を買ったのです。別に、サバ缶だけが良いわけではなく、青魚であれば体に良いのですが、サバ缶だけが売れるのです。

日本人はテレビで放映されるとすぐにマネをします。有名人がテレビで商品の良さを話すと多くの人がマネしてその商品を買うのです。

「個人の感想です」「効果・効能を表したものではありません」などと書かれていても買うのです。要するに、効果・効能があるかどうか分からないにもかかわらず買うのです。

日本人は何でもすぐに人のマネをします。特に、有名人のマネをします。このため、有名人がテレビで商品を宣伝するのです。すると売れるのです。

要するに、日本人は人と同じ行動を取ろうとするのです。これは日本人に深く根づいている集団主義の現れです。よって、多くの日本人は自分の考えや意志を持たないと言っても過言ではありません。

このことは、いみじくも東日本大震災の時に証明されました。多くの人が人のマネをしたのです。誰かがもっと高いところに逃げようと言えば、周りの人たちもマネして逃げたのです。ところが、誰かがここにいても大丈夫だと言って逃げなければ、周りの人たちもマネして逃げなかったのです。

2.マネできそうでマネできない改善事例

ビジネスでも同じです。多くの企業が他社の優れた改善事例をマネをしようとします。他社の優れた改善事例をマネするのがベンチマーキングだと勘違いしています。しかし、他社の改善事例をマネすることはできません。その理由は、他社と問題点が同じだとしても、原因まで同じということは通常はあり得ないからです。

原因が異なれば解決の方法も異なるのです。したがって、他社事例をマネしたくてもできません。問題を解決できた会社は、原因を追究してその会社でできる解決方法を考えて実施したからです。つまり、創意工夫したからです。創意工夫する以外に、問題を解決する方法はないのです。

ところが、ITベンダーは自社開発した業務アプリやITシステムを使って、多くの企業が問題を解決できたことを宣伝します。すると、その業務アプリやITシステムを導入すれば、自社でも同じように問題が解決できると思います。

そこで、実際に導入してみると、期待に反して問題が解決できず、結局、ムダな投資をしてしまうのです。こういう企業が未だに後を絶ちません。この原因は、その業務アプリやITシステムが自社の問題点の解決に役に立つかどうかを十分に吟味せず、安易に他社のマネをしたからです。

そんなことはないはずだと思っている人に、一見、どの会社でもできそうで、できない事例を1つ紹介しましょう。かつて、自動車メーカーのホンダが、「社内文書はすべてA4サイズ1枚に統一する」と決めて実行したことがあります。社内文書ですから、この改善によって何か問題が発生したとしても、お客様や取引先に迷惑をかけることはありません。

そこで、この改善を多くの企業がマネしようとしましたが、ほとんどの企業はマネできませんでした。この改善は簡単なようで実は非常に難しいのです。単なる業務の簡素化、あるいは書類の削減ではないのです。この改善をマネするためには、社員1人ひとりがどのような努力をしなければならないかを考えてみてください。

まず、文書の作成について考えてみますと、A4サイズ1枚で書かなければならないので、要点を整理して書かなければなりません。つまり、文書作成の技術が必要です。この技術を社員全員が習得しなければなりません。多くの人にとって作文は苦手なのです。よって、習得するまで時間がかかります。

次に、文書を読むことを考えてみますと、例えば、A4サイズ1枚に書かれた営業報告書を見ても、営業内容を詳しく知ることはできません。また、会議議事録を見ても、会議内容を詳しく知ることはできません。要点だけしか分かりません。

よって、この報告書や議事録から得られる限られた情報で自分なりの決定をし、また、行動せざるを得ないのです。しかも、間違った決定や行動をするわけにはいきません。

では、どうするかと言いますと、日ごろから常にアンテナを立てておき、必要な情報を自ら収集しておかなければならないのです。そして、それらの情報に加えて新たな情報が得られるわけです。したがって、要点だけでも状況が分かるのです。

ホンダの狙いは、もちろん、単に、業務(書類作成)の簡素化によるコスト削減ではないのです。社員1人ひとりの文章作成能力、情報の収集能力、情報の取捨選択能力などを高めることにより、間違った決定や実行をしないようにすることにあります。社員全員がそういう会社の狙いを理解して、そのような努力をしなければマネはできません。

また、社内文書をすべてA4サイズ1枚にするには、従業員全員が、「後ろ向きの業務より、前向きの業務を優先する」という組織風土(企業慣習)になっていなければならないのです。

つまり、「社内文書の作成に時間をかけている暇があったら、売上や利益を増やすための戦略、戦術を考えろ」ということです。社内文書の作成のような後ろ向きの業務は、これまでに培った知識・経験でできるので、容易にできるのですが、前向きの業務は経営管理技術やアイデア(知恵)が必要なので難しいのです。よって、前向きの業務ができるようになるには努力が必要なのです。

3.他社事例を参考にする意義

他社事例はマネできないので、あくまで参考にすると決めている企業があります。こういう企業は改善・改革・開発の結果や経緯ではなく、考え方や方法を知りたいと思っているのです。

つまり、結果や経緯をマネすることはできないが、考え方や方法はマネできることを知っているのです。そして、考え方や方法を自社に取り入れようとしているのです。こういう企業はかなり改善・改革・開発を行っている企業です。

このように、他社事例を知りたいという企業の中には、改善・改革・開発の結果や経緯を知ってそれをマネしようとする企業と、改善・改革・開発の考え方や方法を知ってそれを自社に取り入れようとする企業とがあるのです。

他社が行った改善・改革・開発の考え方、進め方、方法などを参考に、創意工夫によって自社に合った方法を考えて、自社の課題を解決するのです。

しかし、実はこれが難しいのです。なぜなら、通常、多くの他社事例は、問題点と経緯、それに結果だけしか公開しないからです。改善・改革・開発の考え方や進め方、方法までは通常、公開しません。なぜなら、それは企業秘密だからです。

改善・改革・開発などを常に行っている企業では、結果や経緯よりも、どういう考え方や進め方、方法でそうした結果を導き出すことができたのかを知りたいのです。なぜなら、考え方や進め方はマネできるし、方法は参考になるからです。

ところで、筆者がコンサルティングを行う際に、顧客企業から必ずと言っていいほど頼まれるのが、他社事例を教えて欲しいということです。しかも、一般に知られていない事例を知りたがるのです。つまり、公開されていない事例を知りたがるです。

しかし、それは絶対にできません。コンサルタントには守秘義務があるからです。よって、他社事例を話すことはありません。コンサルタントが話す他社事例は公開されたもの、あるいは顧客企業の許可を得た事例に限ります。

「そこを何とか」と言われる企業もありますが、そういう企業には、「では御社の事例を他社で紹介してもいいのですね」と言いますと、それは絶対にダメだと言います。

コンサルタントが関与した企業の事例は企業にとっては秘密事項です。なぜなら、どのような問題であっても、問題は企業にとっては恥部であって、たとえ、その問題を解決できたとしても、恥部を他社に知られたくはないからです。

このことは、医者が患者の病気を人に言わないのと同じです。コンサルタントは欧米ではビジネスドクターとも呼ばれています。ビジネスコーチと呼ばれることもありますが、弱点を指摘して強化する手助けをするのがコンサルタントだからです。

公開された事例でも参考になる事例はたくさんあります。ところが、参考になると思われる事例を話しても、参考にならないと言う企業があります。そこで、なぜ参考にならないのかと聞きますと、同業他社の事例ではないからと言うのです。つまり、多くの企業は同業他社のマネをしようとしているのです。しかし、既に説明しましたように、マネすることはできません。

その一方で、あえて異業種の事例が知りたいという企業もあります。こういう企業では、同業他社の事例は比較的容易に知ることができるが、異業種の事例はあまり知る機会がないからと言うのです。異業種の事例は改善・改革・開発の考え方や進め方、方法などが全く異なる場合が多いので参考になるのです。

一例を紹介しましょう。ある金融会社で商品開発のコンサルティングを行ったことがあります。それまで、金融商品の開発のコンサルティングは行ったことがなかったので、最初はコンサルティングをお断りしました。ところが、試しにメーカーの製品開発プログラムを少し紹介したところ、その金融会社では是非参考にしたいと言われ、コンサルティングを実施することになりました。

メーカーの製品開発のプログラムを紹介しながら、金融商品との違いを確認しつつ、コンサルティングを実施しました。すると、その金融会社では、メーカーの製品開発の考え方、進め方、方法などを参考にして、自社に合った金融商品の開発プログラムを作ってしまったのです。そして、同時に金融商品の開発をしてしまいました。

メーカーの改善・改革・開発の技術は進んでいるので、その考え方や進め方、方法などは金融業でも参考にできるのです。もちろん、金融業だけでなく、多くの流通業やサービス業でも参考にすることができます。

そこで、本書では、メーカー、建設業、金融業、流通業、サービス業などの業務効率化や業務改革のコンサルティングの経験を基に、その考え方、進め方、方法などを公開することにいたします。第3章以降に詳しく書きましたので、参考にしていただき、御社の業務効率化、及び業務改革を実施してください。

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