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開発&コンサルティング

2-3 業務をIT化しても効果が分からないのは経営者の意識に問題がある

既に書きましたように、業務効率化の目的はムダな業務の廃止・削減であり、人件費の削減でありコスト削減です。したがって、人件費(人員)が削減できなければ、効果はなかったと言うことになります。

その原因は、業務効率化の方法が間違っていたからです。つまり、ムダな業務を廃止・削減しないで、業務をIT化して、業務処理時間を速くしただけだからです。

そもそも、デスクワーク(業務)というものは伸縮自在なのです。3分でできる仕事を30分かけて行うこともできますし、3時間でできる仕事を3日かけて行うこともできるのです。なぜなら、担当者が自由に業務時間を調節できるからです。

つまり、業務をIT化して時間短縮しても、業務時間を引き伸ばしてだらだらと仕事をすることができますし、新たにムダな業務を作り出すこともできるのです。このため、残業代を稼ごうと思っている人が必要のない残業を行っているのです。

これは、子供の頃の勉強を思い出せばどなたでも理解できるでしょう。3分でできる宿題を30分かけて行うことができるし、3時間でできる宿題を3日かけて行うこともできるのです。

生産や販売のように、1日の生産計画や販売計画がきちんと決められている場合とは異なり、デスクワークの場合にはどの業務を何時までに終わらせるかは、通常、担当者の自由裁量に任されているのです。

ちなみに、「仕事が増えないのに人は増える。なぜなら、人は部下を欲しがるから(第1法則)」「人が増えると仕事も増える。なぜなら、人はムダな仕事を作りだすから(第2法則)」というパーキンソンの法則があります。

別の言い方をすると、「業務をIT化して時間短縮しても、業務時間を引き延ばすことができる。なぜなら、業務時間は伸縮自在だから」ということが言えます。

従業員の中には、仕事をテキパキと短時間でこなす人もいれば、だらだらと長時間かけて行う人もいます。いろいろな企業を見ていると、従業員全員が仕事を短時間で行うように努力している企業もあれば、従業員全員がだらだらと長時間かけて行っている企業もあります。この違いは経営者の意識(考え方・価値観)が違うからです。

一例を挙げましょう。毎日遅くまで残業をしている会社があります。この会社の経営者は、「我が社は残業をしないと競争に勝てない」と言います。一方、全く残業をしていない会社があります。この会社の経営者は、「残業をするのは社員の能力が不足しているからだ、短時間で質の高い仕事をするのが有能な社員だから、むやみに残業するような無能な社員はいらない」と言います。

通常、残業が多い会社の業績は悪く、残業が少ない会社の業績は良いのです。業績が悪いから残業をするのではなく、残業をしているから業績が悪いのです。なぜなら、だらだらと長時間労働をすれば、疲れて仕事の質が落ちるし、ムダな経費を使うからです。

長時間労働では良いアイデアも出ず、したがって良い仕事もできないのです。それなのに、残業をしているのは社員ががんばって仕事をしている証拠だ、と経営者が思い込んでいるのです。

つまり、デスクワークを、手足を使う肉体労働と同じだと経営者が考えているのです。デスクワークは軽作業なので、長時間働いてもあまり疲れないだろうと考えているのです。

本来、デスクワークは主に頭を使う思考・判断業務であり、経営管理技術とアイデア(知恵)が必要であることを理解していないのです。このことが理解できないのは、おそらく経営者自身が頭を使って仕事をしていないからでしょう。

既に書いたように、デスクワークを行う経営管理部門(ホワイトカラー)は、直接部門に対するサービス(支援)部門であり、直接部門がより多くの付加価値を生み出せるように支援する部門です。

また、経営管理部門は顧客満足の向上を図って売上と利益を増やすために、また競合他社との競争に勝つために、経営戦略や経営計画、商品開発や市場開拓などを立案して実施する部門です。

本来、経営管理部門は直接部門の作業管理や改善・効率化だけでなく、自分たちが行う業務を改善・効率化して、短時間で、より質の高い業務を行うようにする部門でもあるのです。

なぜなら、経営管理技術とアイデアで他社と競争しているわけですから、簡単に言えば、経営管理部門は量より質が問われるのです。要するに、業務の品質(価値)向上、業務コスト削減、業務スケジュール短縮などを行う部門なのです。

人は頭がすっきりしている時や、やる気のある時には良いアイデアが出て、良い仕事ができるのです。ですから、頭を休めるために、休憩・休息やレクリエーション(再生)が必要なのです。

ちなみに、労働基準法では従業員が残業をすれば会社は残業代を払わなければなりませんが、逆に、残業をすると罰金を取るという会社もあります。会社が禁止している残業をだらだらと行って、質の悪い仕事をしたり、ムダな経費を使うからだそうです。このため、この会社では実際に残業する人はいないので罰金を払った人はいないそうです。

この会社の取引先も、この会社では残業をすると罰金を取られることを知っていて、ムリな仕事を依頼することはないそうです。なお、罰金はプールしておき、溜まったらチーム(係)で飲み代にする予定だそうです。

ところで、多くの企業が水曜日を「ノー残業デイ」と決めています。「ノー残業デイ」は直接部門には必要な日ですが、経営管理部門には必要のないものです。毎日をノー残業デイとすれば良いのですから。定時になったら全ての電気を消すという会社もあります。このような会社では、業務量が増えれば従業員が自ら効率化(時間削減)しようと努力します。

残業せざるを得ないと言う企業の中には、取引先から急な仕事を頼まれるからとか、顧客から明日までにどうしてもやって欲しいと頼まれるから、と言い訳をする企業もあります。しかし、それらは経営者の考え方次第であって、ムリな依頼は断れば良いのです。普段から短時間で良い仕事をしようと努力している企業では、取引先や顧客からのムリな仕事の依頼はありません。

逆に、普段から、だらだらと長時間労働を行っている企業では、取引先や顧客からのムリな依頼を、むしろ喜ぶ従業員もいます。堂々と残業ができるからです。従業員にしてみれば残業代を稼ぎたいですし、早く家に帰って家族に邪魔者扱いされるよりも、会社にいた方が良いと考える人もいるからです。

いずれにしても、このような従業員の考え方や行動は、経営者の考え方次第です。したがって、IT化を進めたけれど、毎日の業務時間はほとんど変わらないとか、その効果が分からないという企業は、経営者の意識(考え方・価値観)に問題があります。

ところで、最近は、業務効率化のため、と称して安易にITを活用することが流行しています。ムダな業務の廃止・削減を行わないで、○○アプリや〇〇システムを導入して業務時間を短縮しようという方法です。つまり、単に、業務処理スピードを速くする方法です。

これは非常に安易な考えであることが以上の説明でお分かりかと思います。価値を生まないムダな業務を廃止・削減しないままで、IT化を進めても、それこそムダな投資やムダな活動になってしまいます。

ちなみに、仕事(業務)ができない人が、〇〇システムを使えば仕事(業務)ができるようになると考える人さえいます。例えば、原価管理ができない人が原価管理システムを使えば原価管理ができると考える人です。あるいは、設計ができない人がCADシステムを使えば設計ができるようになるとか、簿記ができない人が会計ソフトを使えば決算書が作れるようになるとかです。

このように、「○○システムを使えば、○○ができるようになる」と考える人が多いのです。この原因は、ITベンダーが「〇〇システムを使えば○○ができる」かのように宣伝しているためです。宣伝に惑わされないようにして下さい。ITはあくまで業務を支援する道具に過ぎないのです。ITは業務処理スピードを速くしたり、業務情報を速く伝達したり、膨大な業務情報を蓄積・保存したりするのに役立つのです。

ITを活用するのは必要なことですが、ITは単に情報の処理と伝達と蓄積の道具に過ぎず、業務時間の短縮はできますが、ムダな業務の廃止・削減はできません。業務効率化を行うにはムダな業務を指示している人やムダな業務を作り出している人の意識(考え方・価値観)を変える必要があるのです。

それにもかかわらず、多くの企業はムダな業務にわざわざ金をかけてIT化するという愚を犯しているのです。価値を生まないムダな業務を廃止・削減した後に、価値を生む業務をIT化して時間短縮する必要があるのです。

まして、中期経営計画の達成を目的に行う業務改革は、ムダな業務を廃止・削減するだけでなく、既存業務の強化や新規業務の設計、あるいは新規事業を立案して推進するものです。このため、〇〇システムやERPパッケージなどを導入しても業務改革はできないのです。

IT投資は売上や利益の増大につながらなければムダになります。IT投資による効果を確認し、IT投資がムダにならないようにしていただきたいと思います。

また、IT化によって業務時間が短縮できたとしても、すぐに元に戻ってしまいます。なぜなら、何度も言いますが、デスクワークというのは伸縮自在であり、いくらでも業務時間を引き延ばすことができるし、また、ムダな業務を作り出すこともできるからです。

人の意識(考え方・価値観)を変えてムダな業務を廃止・削減し、今後二度とムダな業務を作り出さないように歯止めをかけてから、IT化を進めなければならないのです。

Ⓒ 開発コンサルティング





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