本書では、ホワイトカラーとは、経営者、及び管理間接部門の人、言い換えれば経営管理者を呼びます。一方、製造や販売を直接行う人をブルーカラーと呼びます。
つまり、本書では、アメリカの一般的な定義である、「ワイシャツを着て仕事をする人をホワイトカラーと呼び、作業着を着て仕事をする人をブルーカラーと呼び」とは異なります。例えば、ワイシャツを着て販売を行う人はホワイトカラーではありません。なお、日本のメーカーでは経営者も管理者も作業着を着ています。
また、本書では部門についてもホワイトカラー、及びブルーカラーと呼ぶこともあります。つまり、経営管理部門、又は管理間接部門をホワイトカラー、直接部門をブルーカラーと呼びます。
また、ホワイトカラーが行う仕事を業務、あるいはデスクワークと呼び、ブルーカラーが行う仕事を作業と呼びます。したがって、ホワイトカラーをデスクワーカーと呼ぶこともあります。
経営管理部門(ホワイトカラー)の生産性が直接部門(ブルーカラー)の生産性より低いということは、昔から言われています。しかし、その根拠はあいまいです。なぜなら、昔から、多くの学者や研究者が、ホワイトカラーの生産性を測定する方法を研究していますが、未だに誰もが納得できる方法はないからです。
そこで、ホワイトカラー(経営管理部門)の生産性を測定する筆者の方法を紹介します。
まず、ホワイトカラー(経営管理部門)はどのような仕事をしているのかを理解する必要があります。下記の図をご覧ください。ホワイトカラーは直接部門のために働いているのです。つまり、直接部門が多くの付加価値(稼ぎ)を生み出せるように支援するのがホワイトカラーの仕事です。よって、ホワイトカラーのユーザーは直接部門(ブルーカラー)です。
直接部門(ブルーカラー)では顧客に対して商品を製造・販売したり、サービスを提供したりして付加価値(稼ぎ)を生み出します。直接部門では付加価値(稼ぎ)をできるだけ多くするために、売上や利益を増やそうと努力します。この支援をするのがホワイトカラーです。
よって、この支援によって、どの程度、付加価値が増加し、生産性が高くなったのかを測定すれば、ホワイトカラーの生産性が分かるはずです。
しかし、ホワイトカラーが生み出した付加価値とブルーカラーが生み出した付加価値とに分けることはできません。付加価値はホワイトカラーとブルーカラーとが協力して生み出した会社全体の価値だからです。
労働生産性=付加価値/従業員数(ホワイトカラー+ブルーカラー)
そこで、ホワイトカラーとブルーカラーの生産性を比較するために、ホワイトカラーの人数を増減した場合の付加価値の増減額とブルーカラーの人数を増減した場合の付加価値の増減額をそれぞれ計算して比較します。
ホワイトカラーの労働生産性=付加価値/ホワイトカラー
ブルーカラーの労働生産性=付加価値/ブルーカラー
つまり、ホワイトカラーを〇人増やしたら付加価値が〇円増えた、又は〇人減らしたら〇円減った。ブルーカラーを〇人増やしたら付加価値が〇円増えた、又は〇人減らしたら〇円減った、というようにして計算すれば、それぞれの生産性の増減率が分かります。
この計算は、人員を増やしたり減らしたりしなければできないのですが、あえてそうする必要はありません。従業員数は常に変動するので、前回測定した時より何人増えたか、あるいは何人減ったかが分かります。よって、定期的に付加価値を測定していれば、ホワイトカラーとブルーカラーの生産性の比較をすることができます。
この計算によって、どちらが生産性が高いのかが分かるのです。すると、多くの企業では、ブルーカラーの生産性の方がホワイトカラーの生産性よりはるかに高いのです。つまり、実際に企業の付加価値(稼ぎ)を生み出しているのはブルーカラー(直接部門)なのです。
ちなみに、ホワイトカラーとブルーカラーのそれぞれの総労働時間を測定記録している場合には、時間当たりの付加価値の違いがわかりますから、より明確に生産性の違いがわかります。
では、ホワイトカラーの生産性がブルーカラーの生産性より低いのはなぜでしょうか。ホワイトカラーの主な業務の1つは、直接部門(ブルーカラー)が行う作業の管理です。
生産性が高い工場現場では、顧客が求める品質の良い製品を安く速く生産し、顧客に届けるために、品質管理、原価管理、納期(工程)管理などを行っています。しかも、品質管理部門、原価管理部門、納期(工程)管理部門など部門を設けて専門的に管理をきちんと行っています。これらの管理はホワイトカラー(工場管理部門)の業務です。
ところが、ホワイトカラー(工場管理部門)は、自分たちが行う業務の管理はきちんと行っていないのです。せいぜい自己管理、あるいは上司による管理です。これについては、販売管理部門でも同じですし、人事管理部門でも財務管理部門でも同じなのです。
つまり、ホワイトカラーは業務管理をほとんど行っていないのです。よく言えば自己管理、あるいは上司による管理であり、悪く言えば会社として放任しているのです。このため、ホワイトカラーの生産性が高くならないのです。
ではなぜ、ホワイトカラーは自分たちが行う業務の管理をきちんと行わないのでしょうか。その理由は、きちんと管理しなくても問題にされないからです。なぜなら、ホワイトカラーのユーザーは顧客ではなく、社内の直接部門だからです。
仮に、直接部門が行う作業に問題があれば、製品品質が悪くなったり、製品のコストが高くなったり、製品を速く顧客に届けることが出来なくなったりして、売上や利益が減ってしまいます。また、顧客から直接クレームが来ることもあります。
しかし、経営管理部門(ホワイトカラー)が行う業務に問題があっても、売上や利益が減るとは限らないのです。また、直接部門(ユーザー)からクレームが来ることはないのです。
しかも、ホワイトカラーは自分たちが行う業務は管理しなくても良いとさえ思っています。その原因はホワイトカラーにはおごりと甘えがあるからです。自分は経営管理者であり、作業者ではないというおごりです。自分は頭脳労働者であり肉体労働者ではないというおごりです。
そのうえ、そもそも経営管理者(ホワイトカラー)というのは人から管理されたくないと思っている人たちなのです。経営管理者は他の人を管理するのが仕事なので、他の人から管理されたくないのです。
また、管理が悪くても、あるいは実際に業務ミスがあっても、直接部門の作業者は黙認してくれる、あるいは許してくれる、という甘えがあります。実際に、直接部門の作業者から文句を言われることはないからです。作業者から見れば相手が経営管理者なので文句を言えないのです。
一方、直接部門の作業者には、おごりや甘えはありません。常に管理者の指示に従い作業をしています。そのうえ、日々、創意工夫によって改善を行っています。さらに、自分が保有する製造技術や販売技術に誇りを持っています。実際に、製造技術がなければ生産できませんし、販売技術がなければ販売できないからです。
本来は、経営管理者が保有する経営管理技術と、作業者が保有する製造・販売技術とは企業にとっては車の両輪であって、どちらも重要です。つまり、経営管理者(ホワイトカラー)と作業者(ブルーカラー)とは対等なのです。むしろ、企業にとってはブルーカラーの方が重要です。なぜなら、主にブルーカラーが稼いでいるからです。つまり、付加価値を高くしているからです。
言ってみれば、ホワイトカラーの給料はブルーカラーが稼いでいるのです。ところが、ホワイトカラーはブルーカラーを尊敬していません。また、ブルーカラーに感謝していません。
以上のように、ホワイトカラーが行う業務については、品質(価値)管理、原価(業務コスト)管理、工程(スケジュール)管理をほとんど行っていないのです。すべての業務が、せいぜい自己管理、又は上司による管理であり、悪く言えば成行き任せなのです。
きちんと管理を行っているブルーカラーの作業と、ほとんど管理を行っていないホワイトカラーの業務とは、どちらが生産性が高くなるかは誰が考えても分かると思います。また、工場現場の生産性が高くなる理由も分かったと思います。
なお、業務管理について、より詳しくは「3-6 業務管理について」に書きましたのでご覧ください。
もう1つ、工場現場の生産性に比較してホワイトカラーの生産性が低い原因があります。それは、ホワイトカラーの業務は価値分析を行っていないからです。
ホワイトカラーが行う業務は、製造や販売などの直接部門の作業管理だけではありません。顧客管理、市場開拓、商品開発、新事業開発、経営戦略の策定、各部門の戦略・戦術の立案、中期経営計画や経営計画の立案、各部門の業務計画の立案、予算編成、組織の再編成、人事制度の再構築、などいろいろあります。これらの業務はもちろん、売上や利益を増やすために行っているのです。要するに、付加価値を高くするために行っているのです。
ところが、これらの業務によって、どの程度、付加価値が高くなったのかは分かりません。つまり、どの程度、生産性を高くすることができたのかは分からないのです。その理由は、これらの業務の生産性を測定することができないからです。
業務の生産性=付加価値/業務時間
で計算すれば、業務別の生産性が分かるはずですが、付加価値は会社全体の数値なので、この計算は意味がないのです。
しかし、その業務を行ったことによる効果はある程度分かります。つまり、その業務を行った場合と行わなかった場合とで、売上や利益がどの程度変化したかを比較することはできます。
しかも、その業務が付加価値を高くしているか否かは明確に分かります。つまり、売上や利益を増やす業務なのか、そうではない業務なのかは分かります。また、売上や利益が減るのを防ぐ業務なのか、そうではない業務なのかは分かります。要するに、ムダな業務なのかムダではない業務なのかは分かるのです。
ちなみに、直接部門の作業についても同じです。個々の作業の付加価値は分かりませんが、個々の作業が付加価値を生んでいるか否かは分かるのです。つまり、個々の作業が売上や利益を増やしている作業なのか、そうではない作業なのか、つまり、ムダな作業かムダではない作業かは分かるのです。
これはIE(管理工学)の考え方です。IEの目的は付加価値を高くすることですが、付加価値は会社全体の価値なので、作業別に付加価値を高くしているか否かを分析するのです。
そのため、工場現場では、作業改善を行う時には、何はさておき、各作業(工程)の価値分析から始めます。各作業(工程)が価値を生んでいるか否か、つまり、各作業(工程)に価値があるか無いかの分析を行います。そのうえで、価値のないムダな作業(工程)については、できるだけ廃止・削減します。
ところが、ホワイトカラーの業務についてはどうでしょうか。各業務について価値分析を行っているでしょうか。35年以上の経営コンサルタントとしての経験でも、ホワイトカラーの業務の価値分析を行っている企業は1社もありませんでした。
つまり、多くの企業はホワイトカラーの生産性を高くする努力を全く行っていないのです。単に、業務をIT化したり、情報機器を活用したりして業務処理スピードを速くしているだけです。
しかも、IT化によって業務処理スピードを速くしても、業務管理を行っていないため、だらだらと長時間かけて業務を行っているのです。そのうえ、ムダな業務にまで金をかけてIT化し、二重のムダを行っているのです。ホワイトカラーの生産性がブルーカラーの生産性に比較して低いのは当然です。
では、ホワイトカラーの生産性を高くするには、どうすれば良いでしょうか。3つの方法が考えられます。
メーカーではこの方法を工場現場の作業、及び製品に適用していますが、ホワイトカラーの業務には適用していません。この方法は日本のメーカーが最も得意とする方法です。したがって、この方法をホワイトカラーの業務に適用すれば大きな効果が得られます。
そこで、筆者はこの方法をホワイトカラーの業務に適用できるようにして、これまで多くの企業でコンサルティングを行ってきました。本稿で説明している方法もこの方法です。
その方法は、まず、業務の価値分析を行い、誰が考えても価値のないムダな業務を廃止・削減します。このために有効な技術はIE(インダストリアル・エンジニアリング:管理工学)です。IEの目的は付加価値の向上です。工場現場で用いられているIE(管理工学)を業務に適用すれば良いのです。ただし、IE(管理工学)を業務に適用するには工夫が必要です。
次に、会社としてだけでなく、ユーザー(直接部門)及び顧客の視点でも各業務に価値があるか無いかを徹底的に調査・分析し、価値のないムダな業務を発見して廃止・削減します。このために有効な技術がVE(バリュー・エンジニアリング:価値工学)です。
本来、VE(価値工学)の目的は製品の価値向上です。つまり、顧客が求める製品の価値向上です。よって、ユーザー(製品使用者)、及び顧客(製品購入者)の立場で製品の使用目的と機能を追求し、コスト削減や新製品開発を行う技術です。よって、この技術を業務に適用すれば業務価値を高くすることができるのです。
業務の目的と機能を追求することによって、業務のあるべき姿を描きます。そのうえで、業務のあるべき姿と現状業務を比較して、価値のないムダな業務を発見して、廃止・削減するのです。これがVE(価値工学)です。
既に説明しましたように、ホワイトカラーが、自分が行っている業務の管理をきちんと行わないのは、おごりと甘えが原因です。したがって、おごりと甘えを無くせば良いのです。
このための手っ取り早い方法は、経営管理部門を独立採算部門にするか、実際に会社から切り離して独立させることです。そして、経営管理部門を他社と競争させるのです。
そもそも、ホワイトカラーの給料は主にブルーカラーが稼いでいるのですから、それを止めて、ホワイトカラーも自分の給料は自分で稼ぐようにするのです。下記の図をご覧ください。
実際に、ホワイトカラーの業務の一部を自社で行わずに、他社に委託している企業はたくさんあります。経理や人事の業務委託は昔から行われています。
例えば、中小企業では決算書の作成を税理士に委託しています。また、多くの企業では従業員の採用や管理を人材派遣会社に委託しています。
逆に、経営管理部門のない直接部門だけの会社も昔からあります。製造だけを行う会社や販売だけを行う会社です。下請け会社のほとんどがそうではないでしょうか。親会社に経営管理してもらっているのです。
よって、ホワイトカラーのすべての業務を外部委託(アウトソーシング)すれば、自社ではホワイトカラーはいらないわけです。
もちろん、そのためには委託する経営管理会社の能力や技術をチェックできなければなりません。
なお、経営管理部門を独立採算部門にする具体的な方法は、「4-6 ユーザー志向による無価値・低価値業務の廃止・削減」に書きましたのでご覧ください。
既に説明しましたように、日本の企業の生産性が欧米の企業に比べて低いのは集団主義が主な原因ですから、集団主義を廃止して欧米と同じように個人主義に転換すれば良いのです。しかし、これは非常に難しいと言わざるを得ません。なにしろ、弥生時代から始まった稲作によって培われた日本の文化だからです。
集団主義と個人主義とが培われた背景と違いを一言で言えば、日本人は農耕民族なので協同し、共存共栄を図ろうとするのです。一方、欧米人は狩猟民族なので獲物を多く獲った人を高く評価するのです。
ちなみに、トヨタ自動車では、農耕民族ではいけない、狩猟民族にならなくてはいけないと言っています。なぜなら、農耕民族は食料や財産を蓄える癖があるからです。ご存じのように、トヨタ生産方式は在庫(棚卸資産)をできるだけゼロにする生産方式なのです。つまり、トヨタ生産方式を一言で言えば、資産をできるだけゼロにして売上や利益を増やす方式なのです。
さて、日本の多くの大企業は、集団主義にどっぷりと浸かっていて、個人主義に転換するのは不可能だと思われます。しかし、オーナー経営者によって経営されている中堅・中小企業であれば、個人主義に転換することができると思います。
幸か不幸か、最近は少子高齢化によって労働人口が減っているために、企業が労働者を大事にする傾向があります。それに対応してか、労働者も会社の決定より自分の都合を優先するようになっています。したがって、今が個人主義に転換するチャンスです。
今後、企業はイノベーションに取り組まないと生き残ることができません。イノベーションに取り組むためには個人主義に転換しなければいけません。なぜなら、既に説明しましたように、イノベーションを実施するのは会社(集団)ではなく、社員(個人)だからです。
また、このためには、追随者(フォロアー)の戦略から挑戦者(チャレンジャー)の戦略に転換することが必要です。なぜなら、リスクを冒してイノベーションにチャレンジする必要があるからです。また、意思決定と実行のプロセスをボトムアップあるいはミドルアップからトップダウン方式に転換しなければいけません。なぜなら、多数決による決定ではリスクを冒してイノベーションを実施する決定はできないからです。これらについては、第5章で詳しく説明いたします。
Ⓒ 開発&コンサルティング