次ページ  目次

開発&コンサルティング

1-6 50年前から現在までの、ホワイトカラーの生産性を高くする試み

1.いろいろな試みを行っても効果がなかった原因

筆者が学生だった50年ほど前から現在まで、多くの企業で行った業務効率化、あるいは業務改革の試み、すなわちホワイトカラー(経営管理部門)の生産性を高くする試みをリストアップしてみると、次のようになります。

  1. 事務分析(管理工学IEの工程分析を事務作業に適用したもの)
  2. MIC計画(IEの考え方を業務に適用したもの)
  3. DIPS(IEの考え方を業務に適用したもの)
  4. ソフトVA(価値分析VAの考え方を業務に適用したもの)
  5. VEアプローチ(価値工学VEの考え方を業務に適用したもの)
  6. VIP(IEとVEの考え方を基に意識改革を行うもの)
  7. ABC(業務別コストを計算して業務の原価管理を行うもの)
  8. BPR(ITを活用して業務革新を目指したもの)

これらに関する本は、巻末に「参考文献」として掲載してあります。これらの本は業務の改善・効率化、あるいは業務改革について書かれているものです。なお、VIPについては、かつて筆者が勤務していたコンサルティング会社で行っていたものですが、文献はありません。

これら以外にも、ホワイトカラーの生産性を向上させるために書かれた本はいろいろあり、参考になると思われる本を「参考文献」に掲載いたしました。しかし、これらは啓蒙的な本ではありますが、内容があまり科学的でなかったり、具体的な方法や手順が書かれていなかったりするものです。

さて、上記の1から6までの試みは、いずれも的を射たものではなかったのです。それを一言で言えば、IE、VA、VEなどの考え方や技術を理解しないで、また、業務(デスクワーク)の特徴を考慮しないで業務に適用してしまったのです。このため、効果が一時的、あるいは部分的であり、結局、ホワイトカラーの生産性を高くすることができなかったのです。

例えば、最初の試みである事務分析は工場現場で用いるIE(管理工学)の技術である工程分析を事務に適用したもので、当時は、事務工程分析とも呼ばれていました。しかし、事務分析は手作業で行う事務作業の分析であって、頭を使って思考・判断を行う業務に適用することはできなかったのです。

なお、事務分析を改良し、業務にも適用できるようにしたものが現在ではワークフロー(業務フロー)と呼ばれております。しかし、現在のワークフローも、本来行うべき業務の価値分析や業務の時間測定を行なうようにはなっていません。

よって、業務をIT化する際にワークフローを活用しても、価値分析を行わないので、価値のないムダな業務までIT化することになってしまいます。また、時間測定を行わないので、業務時間も業務コストも明確にはなりません。

ちなみに、工場現場で用いる工程分析は各工程(作業)に価値があるかないかを分析する価値分析や各工程(作業)の時間測定を行うもので、JIS規格になっています。

その他の試みも同様で、IE(管理工学)やVA(価値分析)、あるいはVE(価値工学)などの改善・開発・改革技術を活用していても、形だけ真似したもので、これらの本来の考え方や技術を理解しないまま業務に適用してしまったのです。すなわち、

  1. IEやVA/VEの目的、考え方、進め方(方法と手順)、特徴(長所、短所)などを理解しないまま、業務に適用してしまったのです。
  2. 手足を動かして行う工場現場の作業と思考・判断を要する業務(デスクワーク)の違いを理解しないまま、工場現場で用いる作業改善の技術(IE)を業務に適用してしまったのです。
  3. 目に見える製品の改善・開発技術(VA/VE)をそのまま目に見えない業務に適用してしまったのです。製品の改善・開発は思考・判断を要しますが、目に見える製品が対象です。しかし、業務は目に見えないので、思考・判断を行う頭の中(考え方や価値観)を分析しなければ、業務効率化や業務改革はできないのです。
  4. 本来、業務(デスクワーク)とはどうあるべきかについての考察が全くなされていないのです。業務のあるべき姿を追求したうえで、業務の特徴を踏まえてIEやVEを適用しなければならなかったのです。

次に、これまでに行った、いろいろな試みの中で、7番目のABC(活動基準原価計算)について説明します。元来、ABCが考えられるようになったのは、顧客ニーズの多様化・高度化により、メーカーでは多品種少量生産、及び製品の高付加価値化が進展したために、工場管理部門のコスト(製造間接費)が増大したからです。

このために、製造間接費を工場の操業度を基準に配賦するという従来の原価計算の方法では製品原価が正しく計算できなくなったのです。なぜなら、そもそも製造間接費は工場の操業度には比例しないからです。そこで、各製品にかかわった工場管理部門の活動(業務)別の時間を基準に、業務コストを各製品に配賦すれば、正しい製品原価が計算できると考えられたのです。

さらに、この考え方・方法が工場管理部門の活動(業務)だけでなく、ホワイトカラーすべての活動(業務)にも適用できることから、活動(業務)別の原価計算を基に原価管理を行うことによって、ホワイトカラーの生産性を高くすることができると考えられ、欧米で使われるようになったのです。

しかし、ABCにはそもそも業務の分類基準がないため正確な業務別時間が測定できないのです。また、日本の企業では業務別時間を測定していないため、業務別原価が計算できないのでABCが適用できないのです。さらに、ABCには業務のあるべき姿に対する考え方がないため、ムダな業務が発見できず、業務効率化もできないのです。

以上について詳しくは、コスト削減・原価低減のコーナーに、あるいは、『文科系のためのコスト削減・原価低減の考え方と技術』に書きましたので、参考にしてください。

2.最も効果がなかったのはBPR

これまで多くの企業が行ったいろいろな試みの中で、最も効果がなかったのは、BPRです。日本においてだけでなく、アメリカにおいても全く効果がなかったそうです。

BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)はM・ハマー(経営コンサルタント)とJ・チャンピー(ITベンダー会長)が日本の各社の業務効率化活動、及び業務改革活動を調査し、これを参考にして、アメリカに適したITシステムを開発したものです。そして、BPRと名付けて販売したのです。(『リエンジニアリング革命』 M・ハマー&J・チャンピ―共著 野中郁次郎監訳)

このため、BPRは日本の企業における業務(デスクワーク)のいろいろな問題点を具体的にどう解決するかといった考察が全くなされておりません。なぜなら、日本とアメリカでは業務に対する考え方や進め方が全く異なるからです。

また、BPRはITを活用した業務革新を目指したものであり、日本のお家芸である改善(KAIZEN)、すなわち創意工夫による生産性向上を無視したものです。

と言うのも、創意工夫による改善・効率化を行わないで、IT化を進めたり、コンピューターを活用したりしても、それは砂上の楼閣に過ぎないからです。なぜなら、業務は人が行うものであり、ITやコンピューターが行うわけではないからです。

ITやコンピューターは道具に過ぎないと数十年前から言われ続けているにもかかわらず、BPRに多くの企業が飛びついたのは、ITやコンピューターを活用すれば、ホワイトカラーの生産性が労せずして向上すると勘違いしたからではないでしょうか。

その背景には、日本人のいわゆる島国根性があるのかも知れません。つまり、日本人は井の中の蛙であり、常に、欧米の方が優れていると考えるのです。高度経済成長時代に欧米に追い付け、追い越せと頑張ったころの気持ちが残っているのです。

そして、現在でも、欧米に追い付け、追い越せを継続して行っているのです。このため、欧米のマネをして多くの企業が未だにITを活用した業務効率化や業務改革を推進しているのです。

また、未だに欧米に追随する追随者(フォロアー)の戦略、すなわち負け犬の戦略を採っているのです。つまり、欧米のマネばかりしているのです。このため、負け続けているのです。要するに、マネ乞食なのです。これでは、いつまでたっても欧米には勝てません。また、このため中国にも負けてしまったのです。近いうちにインドにも負けることでしょう。

ところで、2013年のベスト経営書を受賞した三谷宏治氏が書いた『経営戦略全史』には、BPRについて、「ハマーの破壊的リエンジニアリングは自分自身も壊してしまった」というタイトルで、次のようなことが書かれています。

「リエンジニアリングの提唱者のひとりだったトーマス・ダベンポートは1995年の論文で冷静に振り返ります。リエンジニアリングは抜本的な改革ではなく、事業スリム化・縮小(雇用削減)の道具にされた。完了したリエンジニアリングプログラムのうち、67%は平凡もしくは最低限の結果しか生んでないか、失敗した」「さらに彼はリエンジニアリング革命で成功例とされた3社のことも調べ、その失墜を報告しています」と。

次のようにも書かれています。「ハマーたちのリエンジニアリング革命は、劇的にその勢力を拡げた後に、・・・破壊し、・・・墜落していきました」「1999年、リエンジニアリング革命の象徴だったCSCインデックスは、ついに抜本的な改革(つまり清算)をされました」と。つまり、リエンジニアリング革命の象徴だったCSCインデックス社は倒産したのです。

CSCインデックス社というのは、『リエンジニアリング革命』の共著者であるJ・チャンピ―氏が会長となっているBPRの開発・販売会社です。この本が出版された後に、この会社の年商は10年で20倍になったそうです。そして、他のIT系コンサルティング会社もそれに続いて、BPRを主力商品にしました。しかし、結局、いずれも失墜したそうです。

ところで、BPRに目をつけ、盛んに営業攻勢をかけたのが欧米のIT系コンサルティング会社だけでなく、日本のIT系コンサルティング会社も同じでした。このため、ムダなIT投資を行う企業が後を絶たなかったのです。

なお、最近では、日本のITベンダーは、「働き方改革」に目をつけ、いろいろな業務アプリや〇〇システムの宣伝を盛んに行っています。ITベンダーの誘いに乗って、これ以上ムダなIT投資を行わないようにして下さい。ムダなIT投資を行っていれば、いつまで経ってもホワイトカラーの生産性は向上しないのです。

今こそ、まず、頭を使って創意工夫によって業務効率化、及び業務改革を行って下さい。その後、必要なIT投資を行って下さい。また、IT投資を行う場合には、必ず、目的を明確にし、自社にとって本当に必要なIT投資なのかをよく吟味して、ムダなIT投資を行わないようにして下さい。

3.今こそ本気になってホワイトカラーの生産性を高くしなければいけない

既に説明しましたように、数十年前から、顧客ニーズの多様化・高度化に伴い、メーカーでは多品種少量生産が増加し、また、製品の高付加価値化が進展しています。 このために、工場管理部門(ホワイトカラー)の業務量が増大しています。

また、販売管理部門(ホワイトカラー)においても、商品の品揃えが豊富になり、顧客1人ひとりの要求に応えるマン・ツー・マン・マーケティングが重要になったために、業務量が増大しているのです。

さらに、サービス経済化の進展により、日本の産業に占めるサービス業(第3次産業)の割合が2015年で71%となり非常に高くなっています。これに伴って、ホワイトカラーの業務量が増大しているのです。

このように、ホワイトカラーの業務量が増大し、またホワイトカラーの人数も増大しているのです。つまり、人件費が非常に高くなっているのです。

それにもかかわらず、ホワイトカラーの業務の改善・効率化が進まないのは、単に、本気になって改善・効率化しようとしていないからです。つまり、IT任せで、創意工夫によって改善・効率化を行っていないのです。

筆者はこれまで35年以上の間、経営コンサルタントとして、一部上場企業を始め、大企業、中堅企業、中小企業など多くの企業で、ITを使わないで、頭を使って創意工夫によって業務効率化、及び業務改革のコンサルティングを行ってきました。

本書を書くきっかけは、筆者が学生時代から50年も経っているのに、未だに欧米に比べて、あるいは直接部門(ブルーカラー)に比べてホワイトカラーの生産性が非常に低いことです。そこで、これまで行ってきたコンサルティングの考え方と進め方を整理してみました。そして、企業が自ら実施できるように分かりやすく書いてみました。

この考え方と進め方を多くの企業で活用し、ホワイトカラーの生産性を確実に向上させていただきたいのです。ただし、実施しなければ意味ありません。理解しただけではダメです。

ところで、現在においても政府は、生産性向上のためにはITの活用が不可欠だと考えており、IT人材の育成に力を入れています。確かに、IT人材は不足しています。ITを活用した技術開発や商品開発、あるいは新事業開発ができる人材が不足しています。ITはいろいろな課題解決に必要な技術ですからIT人材の育成は必要です。

しかし、既に日本ではITの利用はかなり進んでいるのです。企業におけるパソコンやタブレット、あるいはスマートフォンなどの情報機器の利用は、企業のほぼ100%に達しています。そのうえ、業務アプリや〇〇システムなどのソフトウエアの開発もかなり行われています。その結果、むしろ、これらによる弊害さえ生じているのです。

その弊害が、未だにホワイトカラーの生産性が欧米に比べて非常に低いことです。日本政府だけでなく、多くの日本の企業がITを活用しさえすれば生産性が向上すると勘違いしているために、創意工夫によって生産性を向上させる努力を全く行っていないからです。

最近はITのおかげで便利にはなりましたが、生活が豊かになったわけではありません。給料は20年前とほとんど変わっていませんし、余暇時間が増えたわけでもありません。この原因は、生産性が全く向上していないからです。

大企業においては、ここ数年、業績が多少良くなっていますが、それは大企業が頑張っているからではありません。世界の景気が良くなっているためです。したがって、世界の景気が悪くなれば大企業の業績も悪くなるのです。現在でも日本の企業の99%以上を占める中小企業においては業績が良くなっていないのです。

今こそ、すべての企業は頭を使って、創意工夫によって業務効率化、及び業務改革を行い、ホワイトカラーの生産性を向上させなければいけません。このままでは、いつまで経っても日本の企業は生産性を向上させることができず、日本の将来はありません。また、このままでは、欧米や中国に勝つことはできず、近い将来、インドにも負けることでしょう。

Ⓒ 開発コンサルティング

次ページ  目次