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開発&コンサルティング

1-4 日本の企業と欧米の企業の働き方の比較

1.個人主義の欧米と集団主義の日本の働き方の比較

欧米では個人主義ですから、欧米の企業には入社式も、社歌も、社員旅行も、ノー残業デイもありません。また、全社一丸となって取り組んだりしません。会社と個人とは労働契約によって結ばれていますので、各自がきちんと労働契約に基づく仕事をすれば良いのです。仕事の内容も、労働時間も、給料も、会社と個人との契約によって決められます。

実際には、上司との契約だと言っても良いでしょう。よって、従業員は上司の考えだけで昇進・昇給したり、あるいは逆に、減給、降格、あるいは解雇されたりします。日本ではよほどのことがなければ、減給、降格、解雇されたりしませんが、欧米では上司の考えだけで簡単に減給、降格、解雇されます。

日本では就職ではなく、就社ですので、どんな仕事をするかは入社したときには分かりません。また、会社や上司の都合で部署が変ったり、仕事の内容が変わったりします。気が進まない仕事でも、命令されれば行わなければなりません。また、会社の都合で転勤を命じられます。転勤が嫌でも、「業務命令」には従わなければならないのです。

日本の企業の業務分掌規程には、「その他の業務」とか「命じられた業務」などという業務名称が書かれています。つまり、どのような業務を命じられるか分からないのです。欧米では部署が変ったり仕事の内容が変わったりすれば、改めて労働契約をします。よって、仕事の内容、労働時間、給料などは変更の都度、再契約をします。

欧米では成果報酬が一般的ですが、日本の企業では時間給や月給が一般的です。そして、残業をすれば残業代が払われます。そこで、従業員の中には、短時間でできる仕事でも、だらだらと長時間行って残業代を稼ごうとする人もいます。また、仕事をしているふりをしたり、やらなくても良いムダな仕事をしたりして残業代を稼ぐ人もいます。

そこで、残業をしても残業代を払わない、いわゆる「サービス残業」をさせる企業も多いのです。そのうえ、過労死に至るまで、長時間働かせるのです。そもそも、日本の多くの企業は、従業員をできるだけ安い給料で長時間働かせようとします。

しかも、従業員にとって悪いことに、多くの企業は労働基準法を守ろうとはしません。なぜなら、労働基準監督署は職員の数があまりにも少ないため、多くの企業の監督ができないからです。よって、法律があっても取り締まれないのです。それをいいことに、多くの企業は従業員にサービス残業をさせるのです。

ちなみに、筆者は顧客企業の従業員のふりをして、顧客企業で行っているサービス残業について各地の労働基準監督署に相談に行ったことが何度もあります。顧客企業を管轄する各地の労働基準監督署に相談に行きました。しかし、どこの労働基準監督署もサービス残業の実態を調査しようとはしませんでした。

そして、労働基準監督署から言われたことは、「会社を辞めるのなら、辞める1か月前に会社に言ってください。そうすれば、円満に退職できます」でした。どこの労働基準監督署でも同じことを言われました。つまり、どこの労働基準監督署でも企業の違法行為を取り締まらずに、相談に来る従業員を円満退職させようとしたのです。しかし、これでは解決にはなりません。

従業員にしてみれば、労働基準監督署のアドバイス通り退職しても、希望する他の会社に就職できるとは限らないのです。また、就職できたとしても給料は減ってしまうだろうし、サービス残業の実態はどの企業も同じだろう、と考えます。そこで、結局、退職しないで我慢するしかないのです。

要するに、労働基準監督署は労働者の味方ではないのです。むしろ、違法行為を行っている企業の味方であり、労働基準監督署がサービス残業を助長していると言っても過言ではありません。このため、いつまで経ってもサービス残業はなくならないのです。

ところが、数年前から、サービス残業や過労死の問題が、ようやく政府で取り上げられるようになりました。少子高齢化により年々労働人口が減少しているため、「日本の将来の経済が危い」と、「働き方改革」が議論されるようになったのです。つまり、働き方改革は労働者のためではなく、労働者を必要としている企業のためであり、日本の将来のためなのです。

働き方改革関連法案が成立し、施行されましたが、サービス残業の実態は変わらないと思います。政府は、「働き方改革」として残業の上限規制を始め、労働者を増やすために、女性、定年退職者、外国人労働者などが働きやすい法律を作りました。しかし、サービス残業がなくならない限り労働者は増えないだろうし、生産性も向上しないと思います。要するに、法律を作っても法律を守らせなければ何もならないのです。

なぜなら、女性、定年退職者、外国人労働者たちは、サービス残業を特に嫌うからです。よって、労働者を増やすためには、すべての企業に労働基準法をきちんと守らせ、残業代をきちんと払わせ、サービス残業を無くすことが先決です。そうすれば、女性、定年退職者、外国人労働者などが増えると思います。また、過労死もなくなると思います。

なぜなら、企業にしてみれば、多くの残業代を払ってまで疲れている人を働かせるより、新たに人を雇って元気に働いてもらった方が生産性が高くなるからです。また、給料の高い人に多くの残業代を払うより、新たに人を雇った方が人件費が安くなるからです。

ちなみに、労働基準法によれば、残業代は給料の1.25倍、休日出勤や深夜勤務の場合は給料の1.5倍払わなければならないのです。また、休日に残業をすると、1.5×1.25で、給料の1.875倍払わなければならないのです。

さて、従業員にも問題があります。日本の企業ではその日の予定の仕事が終わっても帰ることができません。上司が帰らないから帰れないのです。同僚が帰らないから自分だけ帰るわけにはいかないのです。上司もまた、部下が帰らないから帰るわけにはいかないのです。これを「思いやり残業」と言うそうです。

腹がすいて、疲れが溜まって、我慢できなくなり、ようやく誰かが帰り支度を始めると、それをきっかけにみんなが次々と帰るのです。つまり、みんなで一緒にサービス残業をし、帰るのもみんなで一緒に仲良く帰るのです。そして、早く家に帰ると家族に嫌がられる人たちが、飲み会を行うのです。

このように、多くの企業では仕事をだらだらと長時間行って、しかも必要のないムダな仕事まで行ってサービス残業を毎日行っています。こうした様子を見て、筆者は、「バカじゃないの」と思います。どの企業でもこうなるのは、経営者も管理者も、「遅くまで働いている人の方が企業に貢献している」と考えるからです。これは、個人の都合より企業を優先する集団主義の現れです。

欧米の企業には「サービス残業」などというものはありません。「サービス残業」と言うのは、タダ働きのことです。欧米ではタダ働きをする人なんて1人もいません。企業で働くのはボランティア活動ではないのです。契約に基づく労働です。よって、従業員はその日の予定の仕事が終われば、さっさと帰ります。

欧米では契約に基づく仕事をすれば良いのです。ですから、欧米の企業の従業員は、できるだけ短時間で、価値の高い仕事をしようと常に努力します。そうすれば、昇進・昇給のチャンスがあるからです。

欧米人が、一生懸命に働いて多くの給料を得ようとするのは、プロテスタントの信条に基づくものだそうです。マックス・ウエーバーの論文、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」にも書かれているように、プロテスタントの信条と資本主義の精神とは一致するのです。実際に、フォーチュン誌の調査によると、欧米の経営者の80%以上がプロテスタントだそうです。

プロテスタントは多くの収入を得るために、禁欲してまで一生懸命に働きます。もちろん、会社のためではなく自分のためです。よって、欧米の経営者の給料は、日本の経営者の給料とは比較にならないほど高いのです。また、従業員も給料の高い人ほど尊敬されるのです。

よって、従業員は、多くの給料を得るために、常に自分の能力を高めようと努力します。また、より多くの給料がもらえる企業に次々と転職します。よって、多くの企業に転職した経験のある人ほど尊敬されるようです。

一方、カトリック教徒は自分のためではなく、社会のため、みんなのために働くのです。よって、カトリック教徒の職業は、医者、弁護士、教師、政治家、牧師などが多いそうです。

ところで、最近では、日本の集団主義も崩れてきています。最近の若い人たちは会社のためには働きません。自分のために働き、常に自分を優先します。上司の指示命令には従わず、自分の都合で行動します。

例えば、残業よりデートを優先します。上司が出席する飲み会には参加しません。転勤を命じられても従いません。そして、自分にとって都合の悪い企業はさっさと辞めます。よって、企業は根本から集団主義を見直す必要があります。

2.集団主義がなぜいけないのか

では、なぜ集団主義がいけなのかと言いますと、

  1. 集団による決定は、みんなで話し合った後に、多数決によって決めるからです。

    多数決は通常、リスクを避けて、無難な案に決まるのです。なぜなら、たとえ、一部の人がリスクを冒してでも実施すべきだという意見を持っていたとしても、結局は、多くの人の意見に従うのが多数決だからです。

    よって、リスクを冒してまで画期的な新製品を開発することはありませんし、画期的な新事業を行うこともありません。まして、イノベーションを実施することなどはあり得ないのです。日本の企業が得意とするのは、リスクが全くない、既にある製品の、品質向上、コスト削減、新機能追加などの改善(KAIZEN)や改良であって、画期的な新製品や新事業の開発ではないのです。

  2. 集団による実行は、個人より集団を優先するため、個人の能力がつぶされてしまうからです。

    みんなで実行するので、みんなに合わせて仕事をするようになります。自分だけ人より速く仕事をしたり、自分だけ人より良い仕事をしたりすることはありません。なぜなら、「出る杭は打たれる」からです。

  3. 集団による決定、及び実行は、時間がかかるため、欧米の企業に後れをとるからです。

    みんなで話し合って決めたり、また、みんなの都合を考慮してスケジュールを決めてみんなで実行したりするのです。だから時間がかかるのです。世界的な競争の中で、スピードが要求される時代に、そんな悠長なことをしている暇はないはずです。

3.個人主義に転換しなければイノベーションはできない

高度経済成長時代は、欧米に追いつけ、追い越せで、やるべきことが基本的には決まっていたので、多数決による決定、及びみんなで一致団結して実行すれば良かったのです。

しかし、現在はグローバル化の進展により、世界と競争しなければならない時代なので、多数決ではダメなのです。リスクを冒して、これまで誰も考え付かなかった新製品や新サービスを開発したり、これまで誰も実施したことのない新事業を行ったりする必要があるのです。

ちなみに、欧米の経営戦略論では、「今後、企業が生き残るためにはイノベーションしかない」と結論付けています。(『経営戦略全史』三谷宏治著 ディスカヴァー・トゥエンティワン社 参照)

バブル崩壊後10年間は景気が悪く、「失われた10年」と言われました。20年後にも、「失われた20年」と言われました。いつまで失われ続けるのでしょうか。この原因は、高度経済成長時代の、「欧米に追い付け、追い越せ」を未だに継続して行っているからです。これは追随者(フォロアー)の戦略と言い、負け犬の戦略なのです。

筆者が学生だった高度経済成長時代は、大学の経営学部でも、企業でも、中期経営計画や長期経営計画が重視されていました。なぜなら、実際に、多くの企業では中期経営計画が計画通りにできたからです。と言うのも、欧米のマネをしていれば良かったからです。つまり、戦略が必要なかったからです。そのころ欧米では、経営戦略が重視されていました。

当時、日本では、「企業は戦争をしているわけではないので戦略は必要ない」などと言う経営者や経営学者が大勢いました。しかし、現在では、世界と競争しなければならない時代になったために、日本でも経営戦略が必要になり、またイノベーションが必要とされています。

しかし、言葉だけが流行しており、多くの企業では経営戦略の策定方法やイノベーションの方法が分からないまま右往左往している状況です。このため、現在に至っても失われ続けているのです。

経営戦略とは、簡単に言えば、企業が勝つためにいくつかの案を作り、そのうちどれにするかを決めることです。アメリカの戦略家、マイケル・E・ポーターは、日本企業はオペレーション効率を追求しているだけであり、「戦略を持っている日本企業は稀である」と『日本の競争戦略』ダイヤモンド社、に書いています。

日本の企業は、未だに、欧米が開発した自動車、家電、ITなどについて、リスクが全くない改善(KAIZEN)や改良を進めており、欧米に追い付け、追い越せ、を推進しているのです。これでは、日本の企業は戦略がないと言われても仕方ありません。

イノベーションはリスクを冒さなければ実施できないのです。なぜなら、簡単に言えば、イノベーションとは革新であり、これまで誰も実行しなかったことを実行することだからです。

経済史学者シュンペーターが新結合(イノベーション)の担い手としてアントレプレヌール(Entrepreneur)、すなわち企業家と呼んだのは、個人です。企業(集団)ではありません。

よって、個人の考え方や価値観を尊重し、個人の能力を引き出せない企業は、いつまで経ってもイノベーションを実施することはできず、欧米の企業には太刀打ちできません。なぜなら、企業の収益力を生み出すのは、最初は企業(集団)の力ではなく、個人の力(能力)だからです。

このことは現在の欧米の成長企業を見れば分かるはずです。アップル、アマゾン、マイクロソフト・・・。日本の企業でも、現在、世界を席巻している企業は、かつて個人の能力によって成長した企業であることを忘れてはいけません。

トヨタ、ホンダ、松下電器(パナソニック)・・・。これらの企業は個人の名前が会社名になっていることからも分かると思います。

また、かつての日本の画期的な製品や事業は、役員全員の反対を押し切って、社長がリスクを冒して断行したものばかりであることを忘れてはいけません。

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