今回はVVEによる既存製品の企画・開発・設計段階の見直しによるコスト削減について、その活動ステップの決め方を説明いたします。 VVEでは必ず改善・開発などの活動の都度、取り組む課題に対して、その目的と機能(役割、働き)を検討してから活動ステップを設定します。
なぜなら、活動の目的と機能が異なれば、当然、活動ステップが異なるからです。また、活動を成功に導き、大きな成果を出すためでもあります。ちなみに、出来上がった活動ステップがプログラム概要となります。プログラムの詳細ステップは各課題の状況、あるいは各企業の状況に合わせて決めます。
さて、本来であれば、新製品の企画・開発・設計の活動ステップに沿って原価企画を実施するわけですが、本書は新製品の企画・開発・設計について書いた本ではなく、既存製品のコスト削減・原価低減について書いた本ですので、「既存製品の企画・開発・設計段階の見直しによるコスト削減」について説明することにいたします。
なお、新商品・新製品の企画・開発・設計については、『誰でもできる商品開発・製品開発』(弊社出版電子書籍 守屋孝敏著 アマゾン、及び楽天で販売)、または、商品開発・製品開発をご覧ください。改めて活動の目的を、「既存製品の企画・開発・設計段階の見直しによるコスト削減」とします。まず、この目的のためにはどのような機能(役割、働き)が必要かを検討します。必要な機能を明確にするには、コスト削減の基本的な考え方と、コスト削減の進め方とを検討する必要があります。
コスト削減の基本的な考え方として、
などです。ちなみに、文章の機能と目的とをかっこ付きで示しておりますが、文章の中で用いている機能、目的などの用語と文章の機能、目的とを混同しないように気をつけてください。
次に、コスト削減の進め方ですが、一般に、課題を解決するという目的に対して、必要な機能は、(1)問題を発見する、(2)原因を追究・分析する、(3)改善案を作成する、(4)改善案を評価する、(5)改善案を実行する、です。さらに、(1)の問題を発見するため(目的)には、あるべき姿や目標を明確にする(機能)と共に、現状を明確にする(機能)ことが必要です。なぜなら、現状とあるべき姿との差を問題と捕えるからです。
VVEではこのきわめてオーソドックスな進め方を用います。 したがって、VVEにおけるコスト削減の進め方は、まず、準備段階として前提条件の確認・設定を行い、次に、現状コストを把握します。そして、あるべきコストとしての目標コストを設定し、現状コストと目標コストとの差を分析します。そして、その差の大きいものからコスト削減案を作成し、評価して実行する、という順序になります。これらの各ステップが基本ステップになります。
これらの基本ステップが目的達成のための機能になりますので、これらの機能に対して下位機能を設定します。それぞれの機能を果たすためには何が必要かを考えながら下位機能を設定します。この時にコスト削減の基本的考え方を下位機能に適用して(織り込んで)いくのです。こうして出来上がった活動ステップの一例が以下に示す通りです。
1)対象製品の選定 2)対象製品に関する情報収集 3)制約条件、機能条件、使用条件の確認・設定
1)部品別コストの確認 2)機能分析と機能体系図の作成 3)機能別コスト分析
1)機能別方法の調査 2)機能別目標コストの設定 3)削減対象機能の選定
1)機会損失項目の抽出 2)機会損失金額の見積り 3)コスト削減順位の決定
1)アイデア発想 2)アイデアの評価 3)コスト削減案の作成
1)実現可能性の評価 2)図面及び試作品の作成 3)機能達成度の測定
1)生産計画の立案 2)販売計画の立案 3)計画の提示と承認
以上はあくまで一般論で、しかも概略であって、実際には課題の状況や企業の状況に合わせて活動ステップを設定し、さらにブレイクダウンして詳細な作業ステップを設定いたします。この作業ステップが実際の活動プログラムとなります。
今回は「既存製品の企画・開発・設計段階の見直しによるコスト削減」という目的を果たすための機能として、概略の活動ステップ(プログラム概要)の決め方を説明いたしましたが、プログラム概要は実際の活動では、活動の企画の一部となります。
実際の活動の企画は活動の目的、目標、推進体制、活動の考え方と進め方、プログラム概要、スケジュールなどを決めることになります。つまり、これらが目的を果たすための機能になるわけです。なお、今回説明した活動ステップの中で、特に重要な部分を次回より詳細に説明いたします。
VEではどのような課題を解決する場合でも基本的には同じ活動ステップで進めます。よって、どの企業においても、また、どのような課題を解決する場合でも、基本的には同じ活動ステップで進めます。
このため活動内容が課題に合わず、充分な成果に結びつかないことが多いのです。これがVEの欠点の1つです。では、なぜVEではどのような課題を解決する場合でも、同じ活動ステップを用いるのでしょうか。
VEでは活動ステップをジョブプランと呼んでおりますが、日本バリュー・エンジニアリング協会発行の『VE基本テキスト』に書かれているジョブプラン(基本ステップ)は、1.対象選定、2.機能定義、3.機能評価、4.アイデアの発想、5.アイデアの具体化、6.提案、7.実施(フォローアップ)となっています。
また、次のようにも書かれています。「常に、このジョブプランの7つのステップを基本としなければならない。これを省略することは、真の価値改善・向上とはならず、誤った結論や不充分な結果を招くことになりかねない。ジョブプランの確実な実施は、VE活動をすすめる上で、不可欠なことと認識すべきである」と。
このためか、日本バリュー・エンジニアリング協会発行の『VEジョブプランの研究』には、次のように書かれています。「調査したところ、多くの会社で、『VE基本テキスト』に記載されている7つのステップを採用していた」と。
このように、多くの会社ではこの7つのステップを基に活動を行っているのです。そして、課題に応じて細部ステップを設けているのですが、『VEジョブプランの研究』には各社で使われている細部ステップの問題点や特徴についても書かれています。そのうえで、協会としての細部ステップを設定し、「VEジョブプラン・モデル集」というものを掲載して、これらのモデルを活用するように提案しています。
しかし、筆者は活用しておりません。なぜなら、細部ステップはそれぞれのモデルによって異なるものの、7つのジョブプランはどのモデルにも共通に使われており、しかも、どのような考え方でそのジョブプランを設定したのかが書かれていないからです。ちなみに、各モデルの課題は、製品コスト削減、製品開発、業務効率化などだけでなく、コンピュータソフトの開発、商品コンセプト構築、営業受注効率アップ、物流費削減など多岐にわたっています。
そもそも、異なる課題の解決のために、同じジョブプランを用いる必要があるのでしょうか。筆者はそうは思いません。課題が異なれば解決のための考え方や進め方も異なるはずです。異なる課題の解決のために、同じ考え方や進め方で活動を行っても良い結果が得られるとは思えません。
では、VEではなぜ同じジョブプランを用いるのでしょうか。その理由は、単に、VEの創始者である、L・D・マイルズ氏が設定した、1.機能定義、2.機能評価、3.代替案作成、の3つの基本ステップを基にジョブプランを設定しているからです。
ちなみに、日本バリュー・エンジニアリング協会発行の『VE用語の手引き』に書かれているVEジョブプランには、3つの基本ステップを基に10のステップが書かれています。
なお、アメリカ国防総省発行の『新版・価値分析ハンドブック』には、次のように書かれています。
「現行のVEの文献の中には、VEのジョブプランについて各種のプランが述べてある。ジョブプランを5段階に分けているテキストもあれば、6段階あるいはそれ以上に分けているテキストもある。しかし、その段階の数は大して重要ではない。重要なのはその内容であるシステマティックなアプローチである」と。そして、「情報段階、思索段階、分析段階、開発段階、発表とフォローアップ段階」の5つの段階に分けて説明しています。
筆者はその通りだと思います。各課題の状況によって、また、各企業の状況によってジョブプランを作成して実施すれば良いと思います。つまり、日本バリュー・エンジニアリング協会発行の『基本テキスト』に書かれている7つのステップに従う必要はないのです。