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開発&コンサルティング

1-3 人件費が安い海外で生産しても、ITを活用してもダメ

労務費や人件費が安い、あるいは土地が安い、地方や海外で生産することにより、コスト削減を図るのは昔から行われています。約50年前、筆者が学生だったころには、多くのメーカーが東北地方で生産を行っていました。

例えば、当時、世界を席巻していた日本の半導体メーカーは東北地方の土地の安い山の上に工場を建設し、工場の横に社員寮を建てて生産を行い、製品はヘリで運んでいました。これは製品が小さくて軽いというメリットを生かした生産方法です。

しかし、半導体メーカーだけでなく、多くのメーカーが同じように東北地方で生産を行っていたわけですから、結局、価格競争に陥ってしまったのです。そこで、国内の多くの大手メーカーは東北地方から海外に生産拠点を移したのです。このため、大手メーカーに材料や部品を供給していた国内の多くの中小メーカーが倒産してしまいました。そして、国内にメーカーがいないくなってしまう、いわゆる空洞化が生じました。また、中国に多くのメーカーが生産拠点を移したために、中国は世界の工場と呼ばれるようになりました。ところが、中国や韓国に生産拠点を移しても、どの企業でもコストが安いですですから、中国や韓国でも価格競争に陥ってしまうのです。

このため、当初は中国や韓国に生産拠点を移した企業が、しだいに中国や韓国の人件費が高くなったために、現在ではタイやベトナムで生産するようになっています。しかし、多くの企業がタイやベトナムで生産するようになれば、同じように、また、価格競争に陥ってしまうのです。

価格競争に陥った場合、勝つのは規模の大きな企業と決まっています。なぜなら、「規模の経済」が働くからです。つまり、生産規模、すなわち生産量が多くなればなるほど、製品1個当たりの生産コストが下がるのです。卸・小売業でも同様で、販売規模、すなわち仕入量や販売量が多い企業ほど、商品1個当たりの仕入コストや販売コストが下がります。

では、価格競争に陥らないようにするためには、どうすれば良いかというと、コスト競争力を高くすることです。つまり、コスト削減技術を他社よりも高くすることなのです。

これを行っている典型的な企業がトヨタです。トヨタは現在、世界で最もコスト競争力が高い企業でしょう。そのうえ、製品開発力も高いのです。なぜなら、コスト削減と製品開発とは紙一重のため、コスト競争力が高くなると製品開発力も高くなるからです。

また、最近ではIT(情報技術)を活用すれば、企業の課題はなんでも解決できるかのような風潮があります。原価管理や仕入管理でも、販売管理でも、あるいは業務効率化や業務改革でも、◯◯システムや△△パッケージを導入すれば解決可能であるかのような広告がよく見られます。しかし、コスト削減技術を習得しない限りコスト削減はできません。

IT(情報技術)は情報の処理と伝達と記録の道具であり、情報を迅速に処理したり、情報を確実に伝達したり、膨大な情報を記録したりするのに役立つのです。どのような情報を収集し、どのように処理するのか、どの情報を誰に伝達するのか、記録しておくべき情報は何かなど、情報をどのように活用するのかは人が決めるのです。コンピュータが決めるわけではありません。

最近では、単純な繰り返し作業は機械化・IT化し、また、多少、思考・判断を要する仕事でも、AI(人工知能)を活用して機械化・IT化ができるようになりました。しかし、現在のところ、思考・判断を要するすべての仕事をコンピューターができるわけではありません。なぜなら、ITは仕事を支援する道具にすぎないからです。仕事そのものが出来ないのに、仕事を支援する道具を使えば仕事ができるようになるのでしょうか。そんなことはありません。

例えば、文章が書けない人がワープロソフトを使っても文章が書けるようにはなりません。簿記ができない人が会計ソフトを使っても決算書が作れるようにはなりません。設計ができない人がCADソフトを使っても設計ができるようにはなりません。

原価管理ができない企業が、原価管理システムを導入しても原価管理ができるようにはならないのです。企業における課題の解決にはいろいろな考え方と技術を要するため、情報システムを活用しても解決できるわけではありません。課題解決に適した考え方と技術がなければ、課題解決はできないのです。

また、○○システムを導入したために仕事が混乱し、かえって業績が悪化する場合もあります。また、ITを活用しても、ムダな情報を迅速に処理したり、ムダな情報を確実に伝達したり、ムダな情報を大量に記録したりしても何もなりません。これらのことは多くの企業が承知しているはずですが、どういうわけか、情報システムさえあれば何でもできるかのような風潮は年々ひどくなるばかりです。このため、時代に後れてはならないと、むやみに◯◯システムや△△パッケージなどを導入し、ムダな投資やムダな努力をしてしまう企業が後を絶ちません。

さらに、いつの時代でもそうですが、新しい技術や手法が流行すると、自社にとって有効かどうかも吟味せず、我先にと導入し、ムダな投資やムダな努力をする企業があります。これは基礎的な技術を習得していないために、とってしまう行動ではないかと思われます。なぜなら、仕事でも、勉強でも、スポーツでも、趣味でも、何でもそうですが、基礎が習得できていないのに、新しい技術や方法を試してみたいと思うのは人の常だからです。

何ごとも基礎的な技術を習得し、確実に一歩、一歩、実行していくことこそが勝ち残る秘訣なのです。ちなみに、プロスポーツ選手は常に基礎練習を欠かしませんが、仕事でも同じなのです。しつこいようですが、コスト削減技術は、企業にとっては絶対に必要な技術なのです。なぜなら、利益=売上-費用(コスト)ですから、企業経営に必要なあらゆる技術の中で、売上増大のための技術とコスト削減のための技術が最も必要な技術であり、儲かる技術だからです。

しかも、コスト削減技術が習得できれば、売上増大のための新商品・新製品の開発を始め、市場開拓や販売促進など他のいろいろな技術が理解でき、しかもIT(情報技術)の活用方法もわかるようになるのです。なぜなら、コスト削減技術を習得すれば商売のタネである商品・製品に関することがより深く理解できるからです。よって、ムダな投資をしなくなります。

また、コスト削減技術は商品・製品の開発にも必要なのです。なぜなら、コスト削減技術と商品・製品開発技術とは紙一重であり、同じ「ものづくり技術」だからです。商品・製品のコスト削減ができれば、商品・製品の開発もできるようになるのです。逆に、コスト削減ができなければ開発もできません。また、たとえ顧客が求める商品や製品を開発できたとしても価格が高くは売れませんし、コストが高くては儲かりません。いつまでたっても下請けから抜け出せない中小企業はこのことを知らないのです。

したがって、製造業だけでなく卸・小売業でも、企業が勝ち残るためには、どうしてもコスト削減技術や商品開発技術などの「ものづくり技術」が必要なのです。これらの技術を活用して、コスト削減や独自商品の開発を行うのです。

そうすれば、他社との価格競争に勝つだけでなく、付加価値が高くしかもコストが安い、要するに利益率の高い独自商品を開発することが出来るのです。標準品や汎用品ばかりを扱っていては、いつまでたっても儲からず、他社との競争に勝てず、また、他社の下請けから脱出することはできません。

なお、本書は既存製品・商品のコスト削減について書いた本ですので、製品・商品の開発については『誰でもできる商品開発・背品開発』(守屋孝敏著 電子書籍 アマゾン、及び楽天で販売)をご覧ください。又は、商品開発・製品開発は誰でもできるでも一部を見ることができます。

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