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開発&コンサルティング

1-3 人件費が安い海外で生産しても、ITを活用してもダメ

労務費や人件費が安い、あるいは土地代が安い、地方や海外で生産することにより、コスト削減を行うのは昔から行われています。筆者が学生のころには、多くの日本のメーカーは、労務費や人件費が安く、しかも土地代が安い東北地方で生産を行っていました。よって、東北地方に多くの工場がありました。

例えば、当時、需要が拡大していた半導体のメーカーでは、東北地方の山の上に工場を建設し、工場の横に社員寮を建てて生産を行っていました。そして、製品はヘリコプターで運んでいました。なぜなら、半導体は製品が小さくて軽く、しかも付加価値が高いために、ヘリコプターで運んでも採算がとれたからです。

しかし、競合他社も同じことを行っていたわけですから、結局、価格競争に陥ってしまったのです。そこで、多くの工場が東北地方から、よりコストが安い海外に生産拠点を移したのです。ところが、やはり価格競争に陥ってしまうのです。価格競争に陥った場合、勝つのは規模の大きな企業と決まっています。

なぜなら、「規模の経済」が働くからです。つまり、生産規模、すなわち生産量が多くなればなるほど、製品1個当たりの生産コストが下がるのです。卸・小売業でも同様で、販売規模、すなわち仕入量や販売量が多い企業ほど、商品1個当たりの仕入コストや販売コストが下がります。

そこで、中国や台湾では、半導体や電気部品の生産を専門に行うメーカー(EMS)が台頭し、世界中から受注し、大規模に生産を行うようになったのです。そして、中国は世界の工場などと呼ばれるようになりました。このため、日本の半導体メーカーや電気部品メーカーでは撤退せざるを得なくなったのです。

ところが、最近では中国や台湾の労務費や人件費が高くなったために、より安いベトナムやタイで生産するようになっています。ベトナムやタイでは大勢の若年労働者がいるうえ、経済成長率が非常に高いからです。しかし、いずれまた、価格競争に陥るものと思われます。

また、最近ではIT(情報技術)を活用すれば、企業の課題はなんでも解決できるかのような風潮があります。原価管理や仕入管理でも、販売管理でも、あるいは業務効率化や業務改革でも、◯◯システムや△△パッケージを導入すれば解決可能であるかのような広告や宣伝がよく見られます。

しかし、IT(情報技術)は情報の処理と伝達と記録の道具であり、情報を迅速に処理したり、情報を確実に伝達したり、膨大な情報を記録したりするのに役立つのです。どのような情報をどのように処理するのか、どの情報をどこに伝達するのか、記録しておくべき情報は何かなど、ITをどのように活用するのかは人が決めるのです。コンピュータが決めるわけではありません。

最近では、単純な繰り返し作業は機械化・IT化し、また、多少、思考・判断を要する仕事でも、AI(人工知能)を活用して機械化・IT化ができるようになりました。しかし、現在のところ、思考・判断を要するすべての仕事がITでできるわけではありません。ITは仕事を支援する道具にすぎないからです。仕事そのものが出来ないのに、仕事を支援する道具を使えば仕事ができるようになるのでしょうか。そんなことはありません。

例えば、文章が書けない人がワープロソフトを使っても文章が書けるようにはなりません。簿記ができない人が会計ソフトを使っても決算書が作れるようにはなりません。設計ができない人がCADソフトを使っても設計ができるようにはなりません。

まして、原価管理を行ったことがない企業が、原価管理システムを導入しても原価管理ができるようにはならないのです。企業における課題の解決にはいろいろな考え方と技術を要するため、ITを活用しても解決できるわけではありません。課題解決に適した考え方と技術がなければ、課題解決はできないのです。

また、○○システムを導入したために仕事が混乱し、かえって業績が悪化する場合もあります。また、ITを活用しても、ムダな情報を迅速に処理したり、ムダな情報を確実に伝達したり、ムダな情報を大量に記録したりしても何もなりません。これらのことは多くの人が承知しているはずですが、どういうわけか、ITを活用すれば何でもできるかのような風潮は年々ひどくなるばかりです。このため、時代に後れてはならないと、むやみに◯◯システムや△△パッケージなどを導入し、ムダな投資やムダな努力をしてしまう企業が後を絶ちません。

最近では、生成AI(人工知能)を利用していろいろなことに役立てようする企業が後を絶ちません。ところが、いつの時代でもそうですが、新しい技術や手法が流行すると、自社にとって有効かどうかも吟味せず、我先にと導入し、ムダな投資やムダな努力をする企業があります。これは基礎的な技術を習得していないために、とってしまう行動ではないかと思われます。なぜなら、仕事でも、勉強でも、スポーツでも、趣味でも、何でもそうですが、基礎が習得できていないのに、新しい技術や方法を試してみたいと思うのは人の常だからです。

何ごとも基礎的な技術を習得し、確実に一歩、一歩、実行していくことこそが勝ち残る秘訣なのです。ちなみに、プロスポーツ選手は常に基礎練習を欠かしません。仕事でも同じなのです。コスト削減技術は、企業にとっては絶対に必要な基礎技術なのです。なぜなら、利益=売上-費用(コスト)ですから、企業経営に必要なあらゆる技術の中で、売上を増やす技術とコストを削減する技術が最も基礎となる技術であり、儲かる技術だからです。

しかも、コスト削減技術が習得できれば、売上を増やすための新商品・新製品の開発技術を始め、市場開拓や販売促進など他のいろいろな技術が理解でき、しかもIT(情報技術)の活用方法もわかるようになるのです。なぜなら、コスト削減技術を習得すれば商売のタネである商品・製品に関することがより深く理解できるからです。よって、ムダな投資やムダな努力をしなくなります。

また、コスト削減技術は商品・製品の開発にも必要なのです。なぜなら、コスト削減技術と商品・製品開発技術とは紙一重であり、同じ「ものづくり技術」だからです。つまり、商品・製品のコスト削減ができれば、商品・製品の開発もできるようになるのです。逆に、コスト削減ができなければ開発もできません。

なぜなら、たとえ顧客が求める商品や製品を開発できたとしても価格が高くては売れませんし、コストが高くては儲からないからです。いつまでたっても下請けから抜け出せない中小企業はこのことを知らないのです。コスト削減を行わないで、早く下請けから脱出しようと商品や製品の開発ばかり行って、失敗ばかりしているのです。

したがって、製造業だけでなく卸・小売業でも、企業が勝ち残るためには、どうしてもコスト削減技術が必要なのです。そのうえで、商品開発技術などの「ものづくり技術」が必要なのです。これらの技術を活用して、コスト削減や独自商品の開発を行うのです。

そうすれば、他社との価格競争に勝つだけでなく、付加価値が高くしかもコストが安い、要するに利益率の高い独自商品を開発することが出来るのです。標準品や汎用品ばかりを扱っていては、いつまでたっても儲からず、他社との競争に勝てず、また、他社の下請けから脱出することはできません。

Ⓒ 開発コンサルティング





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