次ページ  目次

開発&コンサルティング

第5章 商品開発・製品開発業務の企画・管理

5-1 開発体制(組織)

マーケティングの本には、商品開発を行う開発部門や技術部門は、マーケティング部門の傘下に置かれ、商品化(設計・試作)を行うのはマーケティング戦略を立案した後、と書かれているのが一般的のようです。しかし、実際には違います。筆者が知る限り、多くの企業では開発部門や技術部門はマーケティング部門から独立していますし、商品化(設計・試作・製造)はマーケティング戦略を立案する前に行っています。

高度経済成長時代のように、作れば売れた時代は生産者志向であったため、技術や生産がマーケティングや営業より重視されていたのです。しかし、現在は作っても売れない時代であるため、顧客志向(マーケティング志向)になり、技術や生産よりマーケティングや営業が重視されているのです。これに伴って、開発部門や技術部門がマーケティング部門の傘下に入ってしまったわけです。また、商品化(設計・試作・製造)のステップがマーケティング戦略立案の後になってしまったという訳です。

しかし、こういうことはマーケティング学者が考えることです。マーケティングを専門とする学者が自己主張のためにこのように本に書いているのです。

例えば、マーケティングの大御所、フィリップ・コトラーとゲイリー・アームストロングの著書、『マーケティング原理』には商品(製品)開発のステップが次のように書かれています。

アイデアの創出⇒アイデア・スクリーニング⇒製品コンセプト開発とテスト⇒マーケティング戦略の開発⇒経済性分析⇒製品化⇒テスト・マーケティング⇒市場導入

これを見ると、製品化のステップの前に、マーケティング戦略の開発や経済性分析がありますが、製品がまだできていないのに、マーケティング戦略の開発や経済性分析を行っても意味がないと思います。

と言うのも、製品化のために1年以上経過してしまえば経営環境が変わるので、マーケティング戦略は陳腐化してしまうし、経済性分析はいくら儲かるかの分析ですから製品ができてからでないと分析できません。実際に、コトラー自身も、「製品化はときに数年を要する」などと書いています。

どんなに顧客志向(マーケティング志向)になろうとも、製品化は技術者でなくてはできませんし、技術は重要な経営資源ですから、開発部門や技術部門がマーケティング部門や営業部門より軽視されるという、マーケティング学者の考え方はおかしいのです。技術とマーケティング、あるいは生産と営業とは対等であって、企業にとっては車の両輪であり、互いに協力すべき関係なのです。

ひところ、マーケティング部門を設ける企業が増加しましたが、最近ではむしろ減少しているように思います。その理由は、マーケティング部門を設置する必要がなくなったためです。それは情報技術が発達したおかげで、ワンツーワン・マーケティングが進展し、消費者と開発技術者とが直接情報交換できるようになり、開発技術者が顧客ニーズを直接把握できるようになっているためです。

また、小売業者が大規模化して購買力(バイイングパワー)が強くなったために、メーカーの開発部門や技術部門と小売業者とが直接情報交換したり、小売業者や消費者と共同開発したりするようになっているためです。

また、すでに書きましたが、日本マーケティング協会によるマーケティングの定義を要約すると、「マーケティングとは市場創造のための総合的活動」です。したがって、市場創造を商品開発によって行えば、商品開発部門がマーケティング部門の役割を担うことになるのです。

さて、マーケティング学者の考えとは異なり、多くの企業では開発部門や技術部門はマーケティング部門や営業部門から独立していますし、製品化(商品化)はマーケティング戦略を立案する前に行っています。商品開発というのは、この世に存在しない、全く新しい商品を創造することですから、通常、技術開発を伴いますし、容易にできることではないのです。また、時間がかかるのです。既存商品の改良やデザインの変更程度なら、数日でできる場合もありますが、商品開発は最低でも半年は必要なのです。

では、商品開発のための体制(組織)はどのようにすれば良いでしょうか?これは重要な問題です。商品開発が成功するかしないかは組織しだいである、と言っても過言ではありません。なぜなら、商品開発を行うには、多くの人が係るので、多くの人が協力して働く仕組み(協働体系)、すなわち組織が必要だからです。

一般に、商品開発の組織には、静態的組織と動態的組織とがあります。静態的組織というのは組織が固定化されているもので、〇〇開発室とか〇〇開発部とかの形で組織図に描かれる組織です。一方、動態的組織というのは〇〇開発プロジェクトに代表されるように、臨時的に作られる組織で、任務が完了すれば解散する組織です。それぞれに長所と短所があります。

静態的組織の長所は、職務上の上下関係が明確であり、公私が完全に分離しており、専門的知識・能力によって人を選別し、文書主義に基づき仕事を行うことによって、仕事の権限・責任、役割・手続きなどが明確で組織全体としてムダのない運営ができることです。つまり、最初に決めた計画通りに効率的にものごとを実行できることです。長期的課題に取り組む研究部門や技術開発部門の組織としては適していると言えます。

一方、短所は、自部門ファースト、つまり、部門のセクショナリズム、秘密主義などにより、他部門とのコミュニケーションを阻害し、人事交流が停滞し、仕事の非人間化(長時間労働など)によりモチベーションの低下を招くことなどです。また、企業を取り巻く環境の変化により、突発的に発生する課題は既成のルールでは解決できず、迅速な処理ができなくなることです。

これらの静態的組織の短所を補う組織として、動態的組織があります。環境の変化に迅速に対応するための組織です。例えば、プロジェクト組織は突発的に起きる課題を解決するため、各部門から専門家を集めて臨時的に組織され、既存組織とともに縦横のコミュニケーションを図って課題解決に当たり、課題が解決されれば解散する、という組織です。これによって、企業は環境変化に機動的かつ柔軟に対応できるわけです。

しかし、プロジェクト組織にも欠点があります。それは、プロジェクト組織に人材を供した部門にとっては、人材を失うことになり、業務能力の低下を招くことです。また、任務が完了し、プロジェクトが解散した時には、プロジェクトメンバーを元の職場に復帰させるのが困難になる、という問題が生じます。しかし、この問題は解決可能です。例えば、プロジェクトメンバーがそのまま、開発した商品の製造・販売の管理に携わることが良くあります。

本来このような問題が生じること自体、組織が硬直化しているためです。静態的組織においても、常に流動的に人事交流(異動)が行なわれていれば、このような問題は生じません。本来、商品開発部門の人事は環境の変化に対応するために流動的でなければならないはずです。なぜなら、環境の変化によって開発する商品が異なるからです。

さて、静態的組織と動態的組織の両方の長所を生かそうとする組織がマトリックス組織です。例えば、長期的な開発課題については研究開発部門で取り扱い、短期的な開発課題についてはプロジェクト組織を編成して解決に当たるというわけです。

しかし、このマトリックス組織にも欠点があります。商品開発は不確実性が高く、計画的にできるとは限らないので、長期的な課題と短期的な課題とに明確に区分けできない場合もあり、また、長期的な課題をいくつかの短期的(部分的)な課題に分けて取り扱う場合もあるからです。

このような場合には、開発担当者(プロジェクトメンバー)は、研究開発部門の部門長とプロジェクト組織のリーダーとの2人の上司から指示・命令を受けることになり、もし、同じ案件に対して、2人の上司から異なる指示・命令を受けた場合に混乱してしまいます。しかし、この欠点も、

  1. 管理者の権限を明確にして役割分担を決めておく。
  2. 管理者同士が事前に協議する。
  3. メンバーから協議要求できるようにする。

など調整機能を設けることにより解決可能です。

実際に、長期間の開発を行なう場合には、短期的な課題解決のためのプロジェクト組織も必要となるのでマトリックス組織が最も適しているのです。しかし、短期間の商品開発を行う場合でも研究開発部門、あるいは商品開発部門があった方が良いと思います。この場合には、研究開発部門、あるいは商品開発部門の役割は、

  1. 戦略ドメインを基に開発方針を設定する。
  2. 営業部門、またはマーケティング部門と連携して、消費者ニーズの探索や競合他社の商品研究、新商品アイデアの評価・選定及び商品コンセプトの設定などを行う。
  3. 技術部門と連携して、開発テーマの設定や商品化スケジュールの管理を行う。
  4. 財務部門と連携して、開発予算の立案と予算統制を行う。

など、開発全体に関わる業務を担当します。商品開発部門は他部門との連携が非常に重要ですし、他部門にとっても新商品アイデアや開発テーマの提案、構想案の試作・テストやテストマーケティングの実施など、商品開発の一端を担う必要があるので、人事異動も頻繁に行なうようになります。

例えば、新商品アイデアを提案したマーケティング部門の人を商品開発部門に異動させて、あるいはプロジェクトメンバーとして、開発業務を担当してもらうのです。あるいは、プロジェクトメンバーだった人を技術部門に異動させて、設計、試作・テストを担当してもらうのです。

一方、プロジェクトチームは実際の商品開発に当たります。主に、アイデア発想や構想案の作成など創造的な仕事を行います。新商品アイデアが複数あればプロジェクトチームも複数設置され、同時並行して開発を実施することになるわけです。このような場合には、開発全体の管理業務は研究開発部門、あるいは商品開発部門が行うわけです。

実は、商品開発を行なうには、商品開発部門(開発管理部門)とプロジェクトチーム(開発実行チーム)だけではダメなのです。商品開発という業務は会社全体、あるいは事業全体の戦略にも関わるので、商品開発戦略を策定する組織が必要です。それは、取締役会(役員会)とか各事業部の戦略会議などです。ここでは開発担当役員を中心に商品開発戦略の策定を行ないます。

商品開発戦略というのは、環境変化に対応して企業のドメイン(事業領域)を見直し、市場における商品の位置づけ(ポジショニング)を確認し、今後の商品開発の方向を決定することです。具体的には、ターゲット市場の見直し、商品ラインや商品カテゴリーの見直し、商品分野の方向付けを行うことと、開発予算の編成、開発組織の編成などがトップアイテムとなります。

なお、開発方針(開発する商品分野、売上・利益目標、投資目標など)は、商品開発部門で設定するのですが、会社全体あるいは事業全体に係る商品分野の見直し、開発予算の編成などは開発戦略として策定します。

以上のように商品開発は、通常、開発戦略決定組織(役員会、又は開発担当役員)と開発業務管理部門(商品開発部門)と開発実行プロジェクトチームという3段階の組織によって推進されることになります。このような組織ができていない場合には、すべて臨時の組織を作って実施していきます。中小企業で商品開発のコンサルティングを行なう場合などにそのようにします。

例えば、開発戦略決定組織の代わりに開発推進委員会(役員会)を、商品開発部門の代わりに開発実行委員会(部門長会)を、そして開発プロジェクトチームを編成し、事務局を設けて推進して行きます。なお、必ずしも3段階の組織が必要なわけではありません。役割として必要なのであって、兼務すれば良いのです。例えば、開発担当役員が商品開発部門の部門長を兼務するとかです。

商品開発組織

Ⓒ 開発コンサルティング





次ページ  目次