今回は発明の方法について説明いたします。TRIZと筆者の発明の方法(機能別方法調査)の違いを中心に説明いたします。
発明の方法で以前から注目されている方法に、TRIZがあります。これは簡単に言えば、数百万件の過去の特許を調べてみたら、発明原理とも呼ぶべき一定の原理原則が発見され、この原理原則を利用すれば発明が容易にできるというものです。このTRIZは、旧ソ連で発見されたものですが、世界中で注目され利用されているということです。しかし、その効果がどの程度かは確認されておりません。
特許を取得した発明から導き出した原理原則なのだから、逆に、この原理原則を利用すれば発明が容易にでき、特許を取得できると考えるのは自然です。しかし、本当にそうでしょうか。逆も真なりでしょうか。筆者はそうは思いません。
なぜなら、筆者が疑問に思うのは、まず、この原理原則なるものの正体です。(1)分割・細分化、(2)分離・抽出、(3)局部的性質、(4)非対称性、(5)組み合わせ(結合)、(6)汎用性・・・などの原理原則なるものが40あるのです。
これらは、「細分化してみたら」「分離してみたら」「小さくしてみたら」「反対にしてみたら」「組み合わせてみたら」といった、昔から良く知られているアレックス・オズボーンの発想法(チェックリスト法)に非常に良く似ています。ちなみに、アレックス・オズボーンはブレーンストーミング法を開発した人として知られています。
次に疑問に思うのは、これらの発明の原理原則なるものは、あくまで過去の特許から導き出したものであるということです。過去の特許から導き出した原理原則が、これから発明する原理原則として有効であるかが疑問なのです。つまり、過去の発明に利用した原理原則が、これから行う発明に利用できるかどうかです。筆者はできないと思います。
その理由は、発明に利用できる原理原則や法則は、数えられないほどたくさんあるからです。40どころではありません。何百、何千とあるのです。なぜなら、そもそも発明とは、自然法則を利用したものだからです。
ちなみに、特許法における特許の定義は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」です。したがって、仮に、現在存在する自然法則をすべてリストアップすれば、それらすべてが発明の法則になるのです。
その証拠に、動植物は多くの自然法則を利用しているため、動植物の生態がきっかけとなった発明がたくさんあります。
例えば、東北新幹線の先頭部の細長い形は、カモノハシのくちばしの形を真似たものですし、パンタグラフはフクロウの羽を真似たものです。カモノハシは水中で非常に早く泳げる動物であり、フクロウは音もなく獲物に近づくことができる羽を持っているのです。いずれも、新幹線を設計する際に、空気抵抗を極力減らす方法を調査して発見したのです。
また、航空機の翼の断面はハニカム構造になっています。ハニカムは文字通りハチの巣の意味です。つまり、ハチの巣を真似たものです。ハチの巣は6角形の断面構造になっており、少ない材料で強い構造になっているのです。つまり、断面をハニカム構造にすることで、材料費が安く、軽く、しかも強い構造物を作ることが出来るのです。
これらの例の場合は、TRIZをどのように利用するのでしょうか。TRIZの原理原則をどのように利用すれば、これらの発明ができるのでしょうか。
TRIZにおける発明の定義は、「矛盾問題を解決すること」だそうです。よって、まず、何が矛盾なのかを明確にしなければなりません。そのうえで、矛盾マトリックスなるものに当てはめるそうです。この矛盾マトリックスなるものは過去の発明から作成したものだそうです。そして、この矛盾マトリックスから、どのような原理原則を利用すればよいかを探すそうです。
そうすれば、その課題を解決するために必要な原理原則がわかるというのです。しかし、その後、どうすれば発明ができるのか、その方法が書かれていないのです。つまり、不明なのです。要するに、発明の方法がないのです。たとえ、その課題解決のために必要な原理原則がわかったとしても、原理原則をどのように利用すれば課題解決ができるのか、すなわち発明ができるのかその方法がないのです。
以上の説明でおわかりのように、TRIZの決定的な欠点は、「発明(アイデア発想)の方法がない」ことです。つまり、過去の発明から導き出した原理原則なるものを、どのように利用すれば発明ができるのか、その方法がないのです。単に、原理原則なるものに当てはめてみるだけなのです。そして、当てはめてみても、発明の方法がないために発明ができるとは限らないのです。さらに、たった40の原理原則しかないために、これから発明(課題解決)する際にうまく当てはまるかどうかもわからないのです。
実は、オズボーンのチェックリスト法の欠点もここにあります。チェックリスト1つひとつに当てはめてみても、その後どうすればアイデア発想ができるかはわからないのです。また、チェックリストは数が限られているため、やはりうまく当てはまるかどうかはわからないのです。
本来、発明(アイデア発想)は課題を解決するために行うのですから、課題を解決しようとしてアイデア発想(発明)した結果、なんらかの自然法則を利用していたことになるのです。つまり、結果としてそうなるのです。発明した結果、なんらかの自然法則を利用したのであって、何らかの自然法則を利用すれば発明が出来るわけではないのです。
本来、発明に利用できる自然法則は何百、何千とたくさんあるために、1つひとつ当てはめても時間ばかりかかってしまいます。しかも、どの自然法則を利用すれば課題解決(発明)ができるのかはわからないのです。よって、TRIZを活用しても発明はできないと思います。
さて、筆者のアイデア発想(発明)の方法ですが、筆者が提案している「機能別方法調査」については、すでに「4-4 機能別方法調査」で説明しました。
その方法は、課題を解決するために、まず、課題を機能に置き換え、機能を達成する方法を調査するわけです。そして、現在世の中に存在するいろいろな機能達成方法(過去のアイデア)を探すのです。そして、その機能達成方法(過去のアイデア)をヒントにしてアイデア発想するのです。また、過去のアイデアの自然法則にまで遡って、それを参考にしてアイデア発想を行うのです。つまり、
これらの作業を行うことによって、その課題の解決方法に関しては世界で第一人者になれるのです。なぜなら、あらゆる専門分野で探索したからです。したがって、その課題の新しい解決方法(アイデア)を容易に発想できるのです。
したがって、TRIZと機能別方法調査との違いは、TRIZは過去の多くの発明について調査し、導き出した原理原則なるものを基に発明(アイデア発想)を行うのですが、機能別方法調査はこれから解決しようとする課題の解決方法について過去のアイデアを調査し、それを基に発明(アイデア発想)を行うのです。
過去の発明を調査して得た原理原理を利用するよりも、これから解決しようとする課題の解決方法について過去のアイデアを調査し、それらの方法をヒントにアイデア発想をする方が課題が解決できると思います。
要するに、機能別方法調査はこれから解決しようとする課題について、現在世の中に存在するあらゆる専門分野における課題解決方法を調査するのです。ですから、課題解決のヒントがたくさん得られるのです。
課題解決のヒントを多く得るためには、いかに多くの専門分野を調査するかによります。よって、時間を掛けて調査すれば、あるいは手分けして調査すれば、何百、何千、何万とヒントが得られるのです。また、調査した課題の過去の解決方法について、その自然法則にまで遡ることができればその応用ができます。したがって、それらを参考にすればアイデア発想(発明)が容易にできるのです。
例えば、時速500キロで走る新幹線の設計において、「いかに風の抵抗を少なくするか」という課題に対して、「流体(空気や水)の抵抗を極力少なくする」という機能に置き換え、その機能を達成する方法をあらゆる専門分野で調査したのです。その結果、生物学の分野で、カモノハシのくちばしの形状やフクロウの羽の構造を発見したのです。そこで、これらの形状や構造をヒントにして、と言うよりも真似して、時速500キロで走る新幹線の設計ができたのです。
つまり、「機能別方法調査」は発明(アイデア発想)の有力なヒントをたくさん得ることができるのです。なぜなら、これから解決しようとする課題の解決方法(機能達成方法)をあらゆる専門分野で調査するからです。そして、発見した解決方法(過去のアイデア)を真似したり、ちょっと変えたり、他のアイデアと組み合わせたりしてアイデア発想するのです。あるいはそれらの解決方法(過去のアイデア)を生み出した自然法則を参考にして、アイデア発想するのです。
そうすれば、発明(アイデア発想)が容易にできるというわけです。なぜなら、アイデアというものは過去のアイデアの積み重ねや組み合わせに過ぎないからです。過去のアイデアをちょっと変えてみるとか、過去のアイデアに自分のアイデアを加えてみるとか、過去のアイデアと過去のアイデアを組み合わせてみるとかです。
実際にこれまでの多くの発明を調べてみると、このようにして発明が行われ、技術や文明が発達したことが分かります。発明というものは、何もないところから突然、天才のひらめきによって生まれたものではないのです。自然現象を真似したり、動植物や先人のアイデアを真似したり、それをちょっと変えたり、組み合わせたりして生まれたのです。イギリスの産業革命の歴史やアメリカの工業化の歴史を調べてみればこのことが良く分かります。
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