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開発&コンサルティング

第6章 発明・特許取得

6-1 発明の方法「TRIZ」は役に立つのか

今回は発明の方法について説明いたします。TRIZと筆者の発明の方法(機能別方法調査)の違いを中心に説明いたします。

発明の方法で以前から注目されている方法に、TRIZがあります。これは簡単に言えば、世界の特許250万件を調べてみたら、発明原理とも呼ぶべき原理原則が発見され、この原理原則を利用すれば発明が容易にできるというものです。このTRIZは、旧ソ連で発見されたものですが、世界中で注目され利用されているということです。しかし、その効果がどの程度かは確認されておりません。(参照:『図解TRIZ』三菱総研知識創造研究部編著 山田郁夫監修 日本実業出版)(参照:『VEとTRIZ』澤口学著 同友館) 

特許を取得した多くの発明から導き出した原理原則なのだから、この原理原則を利用すれば発明が容易にでき、特許を取得できるだろうと考えるのは自然です。しかし、本当にそうでしょうか。逆も真なりでしょうか。筆者はそうは思いません。

なぜなら、筆者が疑問に思うのは、まず、この原理原則なるものの正体です。(1)分割・細分化、(2)分離・抽出、(3)局部的性質、(4)非対称性、(5)組み合わせ(結合)、(6)汎用性・・・などの原理原則なるものが40あるのです。

これらは、昔から良く知られているアレックス・オズボーンの発想法(チェックリスト法)に非常によく似ているのです。チェックリスト法と言うのは、「細分化してみたら」「分離してみたら」「小さくしてみたら」「反対にしてみたら」「組み合わせてみたら」・・・というものです。原理原則によく似ているでしょう。ちなみに、アレックス・オズボーンはブレーンストーミング法を開発した人として知られています。

次に疑問に思うのは、過去の特許から導き出した原理原則が、これから発明する原理原則として有効であるかが疑問なのです。これらの発明の原理原則なるものは、あくまで過去の特許から導き出した原理原則です。つまり、過去の発明に利用した原理原則が、これから行う発明に利用できるかどうかです。筆者はできないと思います。

なぜなら、発明に利用できる原理原則や法則は、数えられないほどたくさんあるからです。40どころではありません。何百、何千とあるのです。と言うのも、そもそも発明とは、自然法則を利用したものだからです。

特許法における発明の定義は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」です。したがって、仮に、現在存在する自然法則をすべてリストアップすれば、それらすべてが発明の法則になるのです。

その証拠に、動植物は人間とは比較にならないほど多くの自然法則を利用しているため、動植物の生態がきっかけとなった発明がたくさんあるからです。

例えば、東北新幹線の先頭部の細長い形は、カモノハシのくちばしの形を真似たものですし、パンタグラフはフクロウの羽を真似たものです。カモノハシは水中ではマグロよりも早く泳げる動物であり、フクロウは音もなく獲物に近づくことができる羽を持っているのです。いずれも、時速500キロで走行する東北新幹線を設計する際に、空気抵抗を極力減らす方法を調査して発見したのです。

また、昔から航空機の翼の断面はハニカム構造になっています。ハニカムは文字通りハチの巣の意味です。つまり、ハチの巣を真似たものです。ハチの巣は6角形の断面構造になっており、少ない材料で強い構造になっているのです。つまり、断面をハニカム構造にすることで、材料費が安く、軽く、しかも強い構造物を作ることが出来るのです。

これらの例の場合は、TRIZをどのように利用するのでしょうか。TRIZの原理原則をどのように利用すれば、これらの発明ができるのでしょうか。本来、発明(アイデア発想)は課題を解決するために行うのですから、課題を解決しようとしていろいろと考えてアイデア発想(発明)した結果、何かの原理原則や法則を利用したのです。つまり、結果論に過ぎないのです。

TRIZにおける発明の定義は、「矛盾問題を解決すること」だそうです。よって、まず、何が矛盾なのかを明確にします。そのうえで、矛盾マトリックスなるものに当てはめるそうです。この矛盾マトリックスなるものは過去の発明から作成したものだそうです。そして、この矛盾マトリックスから、どのような原理原則を利用すればよいかを探すそうです。

そうすれば、その課題を解決するために必要な原理原則がわかるというのです。しかし、その後、どうすれば発明(アイデア発想)ができるのか、その方法が実はないのです。本に書いてある方法や事例を見ると、無理やり原理原則に当てはめ、無理やり解決方法に導いているように思えます。

要するに、既に解決している問題を事例に取り上げ、無理やり原理原則に当てはめ、解決方法を説明しているのです。これによって、発明の方法がTRIZにはないことが分かります。たとえ、その課題解決のために必要な原理原則がわかったとしても、原理原則をどのように利用すれば課題解決ができるのか、すなわち発明ができるのかその具体的方法がないのです。

以上の説明でおわかりのように、TRIZの決定的な欠点は、そもそも「発明(アイデア発想)の方法がない」ことです。つまり、過去の発明から導き出した原理原則なるものを、どのように利用すれば発明(アイデア発想)ができるのか、その方法がないのです。そのため、結局、単に、原理原則なるものに当てはめてみるだけになってしまうのです。そして、当てはめてみても、発明の方法がないために発明ができるとは限らないのです。しかも、たった40の原理原則しかないために、これから発明(課題解決)する際に当てはまるかどうかもわからないのです。

実は、オズボーンのチェックリスト法の欠点もここにあります。チェックリスト1つひとつに当てはめてみても、その後どうすればアイデア発想ができるかはわからないのです。また、チェックリストは数が限られているため、やはり当てはまるかどうかはわからないのです。

本来、発明(アイデア発想)は課題を解決するために行うのですから、課題を解決しようとして一生懸命にいろいろ調査したり考えたりしてアイデア発想(発明)するのです。その結果、何らかの自然法則を利用したことになるのです。つまり、結果としてそうなるのです。発明した結果、何らかの自然法則を利用したのであって、何らかの自然法則を利用すれば発明が出来るわけではないのです。

本来、発明に利用できる自然法則は何百、何千とたくさんあるために、1つひとつ当てはめても時間ばかりかかってしまいます。しかも、どの自然法則を利用すれば課題解決(発明)ができるのかはわからないのです。よって、原理原則が40しかないTRIZを活用しても発明はできないと思います。

さて、筆者のアイデア発想(発明)の方法ですが、筆者が提案している「機能別方法調査」については、すでに「4-12 機能別方法調査」で説明いたしました。

その方法を改めて要約すると、課題を解決するために、まず、課題を機能に置き換え、機能を達成する方法を調査するわけです。つまり、現在世の中に存在するあらゆる機能達成方法(過去のアイデア)を探すのです。そして、その機能達成方法(過去のアイデア)をヒントにしてアイデア発想するのです。つまり、

  1. 課題解決方法=機能達成方法ですから、まず、課題を機能に置き換える。
  2. 置き換えた機能について、現在世の中にある機能達成方法をあらゆる専門分野で探索する。
  3. 探索した機能達成方法をヒントにしてアイデア発想を行う。場合によっては探索した機能達成方法(過去のアイデア)がそのまま利用できることもあります。つまり、真似できることもあります。

これらの作業を行うことによって、その課題の解決方法に関しては世界で第一人者になれるのです。なぜなら、あらゆる専門分野で探索したからです。したがって、その課題の新しい解決方法(アイデア)を容易に発想できるのです。

したがって、TRIZと機能別方法調査との違いは、TRIZは過去の多くの発明を調査して得た原理原則を基に発明(アイデア発想)を行うのですが、機能別方法調査はこれから解決しようとする課題の解決方法について過去のアイデアを調査し、それを基に発明(アイデア発想)を行うのです。

過去の発明を調査して得た原理原理を利用するよりも、これから解決しようとする課題の解決方法について過去のアイデアを調査し、それらの方法をヒントにアイデア発想する方が課題が解決できると思います。

機能別方法調査の目的は課題解決のヒントをたくさん探すためです。課題解決のヒントを多く得るためには、いかに多くの専門分野を調査するかによります。よって、時間を掛けて調査したり、手分けして調査したりすれば、何百、何千、何万とヒントが得られるのです。また、調査した過去の課題解決方法が分かればその応用ができます。したがって、それらを参考にすればアイデア発想(発明)が容易にできるのです。

例えば、時速500キロで走る新幹線の設計において、「いかに風の抵抗を少なくするか」という課題を「流体(空気や水)の抵抗を少なくする」という機能に置き換え、その機能を達成する方法をあらゆる専門分野で調査したのです。その結果、生物学の分野で、カモノハシのくちばしの形状やフクロウの羽の構造を発見したのです。そこで、これらの形状や構造をヒントにして、と言うよりも真似して、時速500キロで走る新幹線の設計ができたのです。

つまり、「機能別方法調査」は発明(アイデア発想)の有力なヒントをたくさん得るために行うのです。このために、これから解決しようとする課題の解決方法(機能達成方法)をあらゆる専門分野で調査するのです。そして、発見した解決方法(過去のアイデア)を真似したり、ちょっと変えたり、他のアイデアと組み合わせたりしてアイデア発想するのです。

そうすれば、発明(アイデア発想)が容易にできるというわけです。なぜなら、アイデアというものは過去のアイデアの積み重ねや組み合わせに過ぎないからです。過去のアイデアをちょっと変えてみるとか、過去のアイデアに自分のアイデアを加えてみるとか、過去のアイデアと過去のアイデアを組み合わせてみるとかです。そもそも、アイデアと言うのは過去のアイデアをヒントにして生まれるものなのです。

実際にこれまで行われた多くの発明を調べてみると、このようにして発明が行われ、技術や文明が発達したことが分かります。発明というものは、何もないところから突然、天才のひらめきによって生まれたものではないのです。自然現象を真似したり、動植物や先人のアイデアを真似したり、それをちょっと変えたり、組み合わせたりして生まれたのです。要するに、過去のアイデアをヒントにして生まれたのです。イギリスの産業革命の歴史やアメリカの工業化の歴史を調べてみればこのことが良く分かります。例えば、

やかんの水が沸騰するとやかんの蓋が持ち上がる⇒蒸気の力が強いことを発見する⇒蒸気機関を発明する⇒蒸気機関車を発明する。

また、エジソンの伝記を調べてみても良く分かります。エジソンは天才ではありません。凡人です。エジソンは発明が何より好きなだけです。発明は天才が行うのではなく、凡人が行うのです。

例えば、有名な電灯の発明でも、実はエジソン以外に数人の人が電灯を発明していたのです。しかし、点灯時間が非常に短かったために実用には至らなかったのです。そこで、エジソンはフィラメントに適した材料を探し、実に6,000点以上の材料を試しています。材料を1つ試すたびに、電球を真空にしなければならないので、非常に根気のいる作業です。それで、あきらめかけていたところ、たまたまエジソンの自宅にあった京都の扇子の竹を試してみたところ長い時間点灯したのです。

エジソンが行った発明について後の人は「1%のひらめき(inspiration)と99%の努力(perspiration:発汗)である」と言いました。ですから誰でも根気よく努力すれば発明ができるのです。しかし、根気よく努力しなくても、誰でも簡単に発明ができる方法を開発しました。それが機能別方法調査なのです。

「4-12 機能別方法調査」でも書きましたが、機能別方法調査は企業のいろいろな課題を解決するため弊社が開発したVVE(改善・開発・改革技術=コンサルティング技術)の1つです。顧客の立場で製品や業務の価値を高めるVE(価値工学)を基にVVEを開発したので、VEを理解していないと機能別方法調査はよく理解できないと思います。

例えば、なぜ課題解決方法=機能達成方法なのかはVEを知らないと分かりません。VEは目的ー機能ー方法の関係を基にして課題を解決する工学技術です。VE及びVVEについて詳しく知りたい方はコスト削減・原価低減、又は『文科系のためのコスト削減・原価低減の考え方と技術』(守屋孝敏著 楽天、及びアマゾンで販売)をご覧ください。

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