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開発&コンサルティング

第4章 商品化・製品化(設計・試作)

4-1 前提条件の確認・設定

商品化を行うための前提条件の確認・設定については、すでに「3-4 新商品アイデアと開発テーマの評価・選定」で概要を説明してありますが、ここでは事例を基に分かりやすく説明いたします。

前提条件には制約条件、機能条件、使用条件の3つがあります。制約条件は、顧客要求事項、法律、会社方針、開発方針、業界規定、経営資源などに関する条件で、主に新商品アイデアや開発テーマの評価・選定の際に必要な条件です。機能条件は、設計・製造上の材料、加工方法、加工技術などに関する条件で、主に商品化・製品化の際に必要な条件です。使用条件は、顧客が商品を使用する際の条件で、主に使用環境、使用方法、安全性、耐久性などに関する条件です。

制約条件、機能条件、使用条件の3つの条件は新商品アイデアや開発テーマを選定するための評価基準となるだけでなく、商品化・製品化を行う際にもアイデアを評価する基準となります。つまり、守らなければならない事項や規制される事項です。また、使用条件は顧客が商品を安全に使用し、且つ長持ちさせるようにするための条件です。したがって、これらの前提条件の基で商品化・製品化を行わなければならないわけです。

しかし、考えようによっては、これらは克服事項でもあり、また促進事項でもあります。つまり、前提条件というのは絶対的なものではなく、克服することにより技術開発の促進要因になったり、画期的な新商品が開発できたりするものです。

たとえ顧客要求事項であっても、顧客要求事項は状況が変われば変わるのです。例えば、いわゆる壁掛けテレビが欲しい、つまり壁に掛ける超薄型で軽い大型テレビが欲しい、という要求は、テレビという商品があるからそういう要求があるのです。テレビに代わる商品が開発されれば当然要求は変わります。

例えば、ホームシアターが普及して、壁にスクリーンを設置し、家庭の居間が小さな映画館に切り替わるようになれば、超薄型で軽い大型テレビは必要なくなります。このように、近い将来のことを踏まえて、商品開発をする必要があるのです。顧客要求事項はあくまで現在の欲求やニーズに基づくものなのです

その他の制約条件についても、特許法や製造物責任(PL)法などの法律、会社方針、開発方針などですが、これらも変わる可能性があります。これら自体が変わる場合もありますが、制約条件が制約条件でなくなる場合もあるのです。

例えば、他社の特許権は、自社がより優れた技術を開発して特許を取得すれば、制約条件とはならず、逆に自社が優位に立つことになります。製造物責任法についても、考えてみれば本来は必要のない法律であって、出荷前に入念な検査を行い、常に、顧客に安心して使ってもらえる、良い商品を製造・販売していれば必要ないのです。

機能条件についても、材料や加工方法の変更や技術開発により克服することが可能です。いずれにしても、前提条件と言っても絶対的に守らなければならない条件ではありません。商品化の前に確認し、設定しておく必要があるのですが、むしろ商品化を進めながら克服することを前提に設定を行います。このような考え方で、前提条件の基で商品化を進めていきます。

一例を挙げましょう。以前、ハイキングシューズの靴底が歩行中に突然はがれる、という事故が多発しました。登山用品店やスポーツ用品店に行くと、注意書きのポスターが貼ってありました。実は筆者のハイキングシューズも丹沢山を歩いていて、突然、見事にはがれてしまいました。

これは、「足の衝撃を吸収する」という機能に対して、「靴底内部にスポンジを入れる」という方法(アイデア)を採用したために、スポンジが経年劣化してボロボロになり、その結果、靴底がはがれてしまったわけです。

つまり、靴底材料の機能条件として、「耐用年数○○年」などと決めて、アイデアの評価を行なわなかったために発生した事故です。通常、スポンジの経年劣化は5年ほどで起きるそうです。このように、機能条件は商品化の際に機能を果たす方法(アイデア)を評価する際の評価基準となるわけです。

また、使用条件は顧客が商品を使用する際のTPOを検討することにより、使いやすい商品の開発ができるので、条件と言うよりも開発のヒントとなるものです。なお、使用条件は商品を使用する際の条件ですから、商品の取扱説明書に書いておかなければならない内容となります。

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