次ページ  目次

開発&コンサルティング

第3章 商品・製品コンセプトの設定

3-1 開発方針の設定

開発方針がすでに設定されていれば、商品開発を行う最初の段階で確認いたします。しかし、実際には、多くの企業では開発方針が設定されておりません。例えば、既に書きましたように、筆者がコンサルティングを行ったある一部上場企業では、「売れるものを開発しろ」が開発方針?でした。

なぜ開発方針が設定できないのか、と言いますと、現在の市場がわからないからです。現在の市場がわからなければ、新市場(空白市場)の探索ができないので、標的市場(ターゲット)も戦略ドメインも開発方針も設定できないのです。

既に説明しましたように、アンゾフやコトラーのように、商品対市場という関係で市場を捉えていたのでは、現在の市場がわからないだけでなく、新市場(空白市場)の探し方もわからないのです。よって、どの市場をターゲットとすべきかも決められないし、戦略ドメインも設定できないのです。したがって、開発方針も設定できないのです。

既に、現在の市場分析についても、新市場(空白市場)の探し方についても説明いたしましたので、標的市場(ターゲット)の候補を設定し、戦略ドメインを設定し、ターゲットを設定しました。よって次に、これらに基づき開発方針を設定します。すなわち、

現在の市場分析⇒新市場(空白市場)の探索⇒ターゲット候補の設定⇒戦略ドメインの設定⇒ターゲットの設定⇒開発方針の設定、の順に実施します。

なお、既に説明しましたが、ターゲットを設定しても、あくまで仮の設定です。ターゲットを確定するには、商品コンセプトを設定し、コンセプトテストを行って市場の反応を見てから確定します。

さて、戦略ドメインは経営戦略や事業戦略に係ることですが、開発方針は開発部門などの部門方針です。したがって、開発方針は戦略ドメインに従って決めれば良いのです。戦略ドメインの設定は事業の戦略的生存領域、すなわち事業領域を決めることですが、開発方針の設定は、開発する商品分野、売上・利益目標、投資目標などを決めることです。

したがって、戦略ドメインが決められていれば、開発方針を設定することは、それほど難しいことではありません。多くの企業で開発方針が決められないのは、市場がわからないからであると同時に、本来トップ(社長または事業部長)が決めるべき戦略ドメインが決められないからです。このために、開発担当役員や開発部長が悩むことになるのです。また、開発に失敗して責任を取らされるのがいやだから開発方針を決めたくないのです。

以上の点に関して、マーケティングの大御所、フィリップ・コトラーは次のように書いています。「トップ・マネジメントは新製品開発の成功について、最終的には責任をとる形になっていなくてはならない。単に新製品マネジャーに何かよい新製品アイデアを出すようにと任せてすむというものではない。新製品開発事業に関してトップマネジメントがなすべきことは、企業が強調すべき事業領域と製品分野を明確にすることである」と。(『マーケティング・マネジメント』フィリップ・コトラー著 プレジデント社)

以上のように、コトラーは、戦略ドメイン(事業領域)も開発方針(製品分野など)もトップ(社長または事業部長)が明確にすべきだと書いているのです。しかし、開発担当役員がいたり開発部門があったりする場合には、開発方針を決めるのは開発担当役員や開発部長です。なぜなら、開発方針は開発部門の方針だからです。開発担当役員がいなかったり、開発部門がなかったりする場合には、トップが開発方針を決めることになるわけです。

では、開発方針はどのような内容になるかを説明します。開発方針は戦略ドメインを基に設定します。なお、戦略ドメインの設定方法はすでに説明してありますので省略します。

1.商品分野を決める

決められた事業領域の中で、まず、現在の商品ライン、商品カテゴリーを見なおして、(1)撤退すべきライン、およびカテゴリー、(2)今後も継続するライン、およびカテゴリー、(3)新たに取り組むライン、およびカテゴリーなどを決めます。そのうえで、開発する商品分野を決めるのです。

ちなみに、すでに説明しましたように、商品ラインとは企業の立場で分類した商品分類であり、商品カテゴリーとは顧客の立場で分類した商品分類です。3次元市場マトリックスにおける商品分類は企業の立場で分類した商品ラインであり、商品の用途分類は顧客の立場で分類した商品カテゴリーとなります。

なお、事業領域の見直しに係る商品ライン、商品カテゴリーの見直しは、経営戦略、あるいは事業戦略として決めます。例えば、事業の撤退戦略、事業の選択と集中戦略、新事業開発戦略など、事業の再構築(リストラ)は経営戦略、あるいは事業戦略として決めます。

ここで老婆心ながら、リストラとは人員削減のことではないことを確認しておきます。NHKを始めとするマスメディアがリストラ=人員削減として放送しているために、多くの人に間違って伝わっているのです。このために、リストラを計画していた企業の中にはリストラ反対運動が起こって、リストラができずに倒産してしまった企業もあるのです。倒産してしまった企業にしてみれば、マスメディアの罪は大きいと思います。

本来、リストラとは事業の再構築、すなわち事業の立て直しのことです。したがって、人員を減らす場合もあれば、人員を増やす場合もあるのです。なぜなら、事業の再構築、すなわちリストラ(Restructure of Business)とは、事業の撤退、事業の選択と集中、新事業開発などを行って事業を建て直すことだからです。経営環境は常に変化しているので、規模の大小はありますがリストラは頻繁に行わなければなりません。経営環境の変化に伴って事業の転換を図るのは経営の常識です。経営環境の変化は企業にとってはピンチではなくチャンスなのです。

ちなみに、筆者が事業の再構築(リストラ)を目的にコンサルティングを行った企業では、まず、業績が悪化している事業から撤退しました。次に、今後も継続する事業の中で、業績向上が見込まれる事業を強化するために、撤退した事業から人員を異動させました。つまり、事業の撤退、及び事業の選択と集中を行いました。この時点で、退職希望者を除き、人員削減は1人も行っておりません。さらに、新商品開発、新事業開発を行って、人員を新たに採用し新事業を推進しました。これらを短期間に行ったので、いわゆるⅤ字回復が出来ました。つまり、リストラによって人員を増やしたのです。

2.売上・利益目標を決める

1年、あるいは2、3年など一定期間の売上、利益の達成目標を決めるわけです。これはターゲット市場に対する目標です。通常、経営計画に基づく短期目標として決める場合は1年とし、中期経営計画に基づく中期目標として決める場合は2年、あるいは3年となります。

3.投資目標を決める

人、設備、技術開発などに対する投資目標です。これは経営資源に対する目標です。ターゲット市場に対する売上・利益目標に見合った(費用対効果)投資目標になります。

基本的には以上の3つを決めれば良いわけです。この開発方針に添って商品開発を行うわけですから、この開発方針は新商品アイデアや開発テーマの選定基準となります。

開発方針を決めるためには、現在の市場だけでなく将来の市場も考慮しなくてはなりません。そのためには、たとえ現在弱い商品分野であっても、成長する可能性のある分野であれば対象とすべきですし、逆に現在強い商品分野であっても将来衰退する恐れがある分野であれば、徐々に撤退することを考えなくてはなりません。

既に説明しましたが、戦略ドメインを設定する際にも、当然、将来の市場を考慮しなければなりません。最初は、現在の市場分析を基に新市場(空白市場)の探索を行いますが、次には将来の成長市場を考慮して、市場の見直しを行い、戦略ドメインの設定と開発方針を決めるのです。

つまり、市場の見直しは常にいろいろな見方で継続的に行っていくわけです。これに伴って、戦略ドメインや開発方針も変更することになります。なぜなら、顧客ニーズの変化、技術革新、法律改正、規制緩和など経営環境が常に変化しているからです。

Ⓒ 開発コンサルティング





次ページ  目次