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開発&コンサルティング

序文ー空白市場(ブルーオーシャン)の探索について

ブルーオーシャンとは、分かりやすく言えば、きれいな海のように、どの企業も参入していない、競争のない市場を意味しています。

2005年に『ブルーオーシャン戦略』(W・チャン・キム、レネ・モボルニュ共著、有賀裕子訳)という本がランダムハウス講談社から翻訳出版されました。

この本には、次のように書かれています。「ブルーオーシャン戦略は、血みどろの戦いが繰り広げられるレッド・オーシャンから抜け出すよう、競争のない市場空間を生み出して競争を無意味にするというものである」と。また、「ブルーオーシャンの創造こそが何よりも重要な戦略的行動である」と。

しかし、肝心の「ブルーオーシャン」をどのように創造するのかについては、具体的には書かれていないのです。書かれているのは、

  1. 代替産業に学ぶ
  2. 業界内のほかの戦略に学ぶ
  3. 買い手グループに目を向ける
  4. 補完財や補完サービスを見渡す
  5. 機能志向と感性志向を切り替える
  6. 将来を見通す

などの、一般的な内容で、しかも概要しか書かれていません。つまり、具体的な方法が何も書かれていないのです。よって、実際に、『ブルーオーシャン戦略』を読んで、ブルーオーシャンを創造した企業は無いと思います。

ところが、筆者は1983年から、空白市場の探索という表現を用いて、新市場や空白市場の探し方について、一部上場企業などいくつかの大企業でコンサルティングを行っています。また、1996年から、本稿の第2章に具体的な方法を分かりやすく書いて、弊社会員に公開しております。

ちなみに、『ブルーオーシャン戦略』には、マイケル・ポーターの『競争の戦略』に書かれている「低コストか差別化か」という二者択一の戦略は間違っている、ブルーオーシャン戦略こそ採用すべき戦略である、ということも書かれています。(参照:マイケル・ポーター著『競争の戦略』ダイヤモンド社)

しかし、日本の企業では、「低コストか差別化か」という二者択一の戦略が間違っていることは昔から知っていました。なぜなら、日本のメーカーは昔から、「低コストで高付加価値(高品質)」の製品を目指して改善・開発を行っていたからです。このため、日本の技術は世界一であると高く評価されるようになったのです。(参照:『ジャパンアズナンバーワン』エズラ・ボーゲル著 TBSブリタニカ)

この点に関してマイケル・ポーターは、「オペレーション効率がはるかに優れていたため、日本企業は欧米企業に対してコストと差別化の両方において勝利を収めた」と書いています。ところが、「戦略を持っている日本企業はまれである」とも書いているのです。なぜなら、「低コストと差別化の両方を追求するのは戦略ではない、戦略とはトレードオフ(どちらかを捨てること)である」と書いているからです。(参照:『日本の競争戦略』マイケル・ポーター著 ダイヤモンド社)

このように書いているのは、マイケル・ポーターの負け惜しみでしょう。しかし、かつて日本の技術は世界一と言われ、世界を席巻した日本の多くの企業は、現在では残念ながら見る影もありません。欧米だけでなく、かつて日本が技術支援を行っていた中国にも負けてしまったのです。よって、もう1度原点に戻って、「低コストで高付加価値(高品質)」の製品を開発する必要があります。

ただし、かつてと同じように、欧米が開発した既存製品(自動車、家電など)を低コストで高付加価値(高品質)の製品に作り替えてもダメです。なぜなら、それは欧米に追随する、追随者(フォロアー)にすぎないからです。たとえ欧米や中国を追い越して、既存製品について再び世界一になったとしても、その間に欧米や中国では画期的な新技術や新製品を開発しているからです。つまり、再び同じ間違いを犯すことになるからです。

リーダーに追随する戦略は、経営学では負け犬の戦略と呼ばれています。高度経済成長期の「欧米に追い付け、追い越せ」というスローガンは、まさに負け犬の戦略だったのです。現在、日本の企業が欧米や中国の企業に負けているのは、いまだに、負け犬の戦略を継続して実施しているからです。

その典型例が、IT(情報技術、デジタル技術)です。日本の多くの企業はアメリカが開発したITを活用すれば、何でもできると思っているのです。ITを活用すれば、画期的な新技術や新製品が開発できるのでしょうか。あるいは画期的な新ビジネスや新事業が開発できるのでしょうか。そんなことはありません。なぜなら、ITは既存のビジネスや事業を支援したり、既存のビジネスや事業を改善・効率化したりする道具にすぎないからです。

例えば、以前から話題になっているDXですが、DXは一般的には、デジタル技術を活用して、ビジネスや社会、生活などを変えることだと言われています。しかし、経済産業省の「DX推進ガイドライン」におけるDXの目的は、「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。

つまり、DXを推進するには、製品やサービスの変革、ビジネスモデルの変革、業務や組織の変革、企業文化・風土の変革などが必要なのです。よって、DXはIT(デジタル技術)を活用するだけではできないのです。

なお、最近流行している生成AI(人工知能)についても、全く同じことが言えます。なぜなら、利用するデータが過去のものだからです。過去のデータを利用して新しいものを生み出しているのです。よって、例え、生み出したものが新しい文章や絵であっても、創造と呼べるかどうかは疑問です。このため、実際に、著作権上、問題になっているのです。

さて、現在、日本がアメリカや中国に負けている原因のもう1つは、ひとたび、世界一の技術国になったことによる、おごりと甘えです。国が滅びる原因はおごりと甘えですが、企業も同じなのです。これは歴史が証明しています。(参照:『図説歴史の研究』アーノルド・ジョーセフ・トインビー著 桑原武夫訳 学研)

実際に、倒産した多くの企業を調べてみると、経営環境が変化しているにもかかわらず、「わが社は技術でも人材でも他社より優れている。だから競争に負けることはない」と言っていたのです。これが企業のおごりです。また、「今まで問題なくやって来れたのだから大丈夫だ」と言うのが甘えです。

企業にとって最も重要な課題は、「いかにして生き残るか」です。企業が生き残るために重要なのは競争に勝つことではありません。負けないようにすることです。勝とうとすると負けてしまうのです。このことはあらゆる競争や勝負に共通の原理です。つまり、企業が生き残るためには自社の弱いところを見極めて負けないようにすることです。このためには、勝てる領域では戦うが負ける領域では戦わないことなのです。

具体的には、自社の弱いところを強化するために、他社と連携・合併したり、他社を買収したりする場合もありますが、通常は、事業の再構築(リストラ)を行います。つまり、事業の撤退、事業の選択と集中、新事業開発など、事業の戦略的生存領域(戦略ドメイン)を変更します。

よって、当然、事業内容も、必要な技術も、必要な人材も変更します。事業の再構築(リストラ)は経営環境が変化した時に取るべき常識的な戦略です。事業の再構築(リストラ)を行わないと企業は倒産してしまうのです。

現在は、これまで経験したことがないほど経営環境が大きく変化していますので、世界中の企業はイノベーションに取り組んでいます。つまり、世界のどこにもない、誰も見たことがない新技術や新製品、新事業などの開発競争を行っているのです。現在はイノベーションの時代なのです。欧米の経営戦略論の結論は、「イノベーションができなければ、今後は生き残ることができない」です。(参照:『経営戦略全史』三谷宏冶著 ディスカヴァー・トゥエンティワン出版)

例えば、皆さんご存じの様に、既に開発が進み、もうすぐ実用化できるであろう製品を1つ紹介すると「空飛ぶ車」です。「空飛ぶ車」が実用化されれば、通常の車と同様に道路を走ることはもちろん、川の上も海の上も自由に飛ぶことができるのです。よって、「空飛ぶ車」が普及すれば、道路しか走れない現在の車はあまり必要なくなります。

ちなみに、「空飛ぶ車」と称する製品の中には、道路を走れないものもありますが、これは当然、「空飛ぶ車」ではありません。車ではなく航空機です。大型のドローンにすぎません。

実は、筆者は本当の「空飛ぶ車」を見ました。しかも、60年以上前にです。「エアーモービル」と呼ばれていました。遠くの方から大きな音を立ててスポーツカーが走ってきて、目の前で止まりました。そして、一段と大きな音を立てたかと思うと、なんとその車が浮いたのです。そして見上げる高さまで上がって行って、空を一周回ってから下りて来ました。そして、走り去ったのです。

昭和34年に東京晴海で開催された第1回東京モーターショウでの事です。この時の「エアーモービル」はアメリカが開発したものでジェット・エンジンを搭載しているものです。ものすごく大きな音で、思わず耳をふさいだのです。

この時に中学生だった私は、いよいよ手塚治虫が描いた時代がやってくると思いました。手塚治虫は当時、既に「空飛ぶ車」を漫画に描いていました。しかし、その後いつまで経っても「空飛ぶ車」の時代が来ませんでした。60年以上経ってようやく実用化を目指して開発が進んでいるのです。本当の「空飛ぶ車」は車に飛行機のような羽が取り付けてあって折りたたみできるようになっています。

さて、現在、世界中で自動運転車の開発を行っており、既にアメリカや中国では実用化されています。しかし、「空飛ぶ車」が普及すれば道路しか走れない自動運転車はあまり必要なくなります。近所のスーパーへの買い物や園児の送り迎えなど、自宅近くに行く時だけしか使われないと思います。ただし、自動運転ですから免許は必要ありません。それと、無人のバスやタクシーなど、公共交通として使われるでしょう。

自動運転と言えば、自動運転トラックは今後も必要です。トラックは物流に必要ですが、運転手のなり手がいないのです。重労働で低賃金だからです。日本で自動運転の技術が完成したら、真っ先にトラックに装備すべきだと思います。

ところで、水陸両用車は既に実用化されています。ご存じのように、水陸両用バスが一部の観光に利用されています。また、水陸両用の乗用車も既に製造・販売されていますが、あまり普及していません。水陸両用車は釣りを始めとするレジャーに便利なだけでなく、水害や津波に強い車ですので、命を守るために少なくとも救急車はすべて水陸両用車にすべきだと思います。よって、普及させる必要があります。

水陸両用のトラックはまだありません。もし、トラックが水陸両用になれば、陸上輸送と水上輸送ができるので、道路の混雑が解消すると思います。また、漁船が水陸両用になれば、獲った魚をそのまま市場まで陸上輸送できます。

さて、日本が得意とするのは、改善(KAIZEN)であって、開発ではありません。既にある製品を低コストで高付加価値(高品質)の製品に作り替えることです。よって、失敗しても大きな損失がありません。つまり、リスクがほとんどないのです。日本は開発が苦手ですが、かつては良い製品を開発していたのです。

ところで、イノベーションは単なる開発ではありません。イノベーションは革新であり、世界のどこにもない、誰も見たことがない画期的な新技術や新製品、新事業などを創造することです。よって、失敗する可能性が非常に高いのです。つまり、リスクが高いのです。

しかし、今後はイノベーションができなければ生き残ることが出来ません。よって、負け犬の戦略ではなく、イノベーションに挑戦する、挑戦者(チャレンジャー)の戦略に変える必要があります。経営学の教科書には、「チャレンジャーは、リーダーとは異なる独自の戦略を用いてリーダーになろうとする」と書いてあります。したがって、どうしても空白市場(ブルーオーシャン)の探索と技術開発が必要になるのです。

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