東日本大震災後に書かれた昨年の白書は保存版にすべきほど良いものであった。その反動かどうかはわからないが、今年の2012版白書は常識的な内容で注目すべきことは何も書かれておらず役に立たない。
第1部 2011年度の中小企業の動向、第2部 潜在力の発揮と中小企業の役割、第3部中小企業の技術・経営を支える取組、となっている。
第1部では、昨年の震災後の動向として、「震災の影響による落ち込みから回復しつつあるものの、円高や世界経済の減速等の影響により、次第に回復の動きが緩やかになってきている。円高、原燃料の価格高騰、電気料金の引き上げ、電力需要の逼迫等の影響が懸念され、2012年に入って横ばいの動きとなっている」と書かれている。また、ここ数年の倒産件数は毎月1000件以上になっているが、そのうち震災関連の倒産は毎月数十件で、昨年3月から今年2月までの1年間で627件であることが書かれている。震災関連の倒産が意外に少ないことがわかった。
雇用について、中小企業の大卒求人数に対する大卒就職希望者数(求人倍率)の推移を見ると、2010年3月卒が8.43、2011年3月卒が4.41、2012年3月卒が3.35と徐々に低下しているが、相変わらずミスマッチが生じている、と書かかれている。そして、ミスマッチの原因や対策などについては何も書かれていない。
そこで、筆者の意見を書いておきたい。最近では、多くの学生が大企業に就職したがり、また、公務員になりたがる。倒産しないから、安定しているから、というのが理由だという。なんとも情けない。筆者が学生のころは高度経済成長時代で、私にも数十社の大企業から我が社に来て欲しいというオファーがあった。
しかし、私は大企業には就職したくなかった。組織の歯車になるのはごめんだと思っていた。まして、公務員など絶対になりたくないと思っていた。そして、筆者は希望通り中小企業に就職した。その理由は、中小企業なら自分がやりたい仕事ができる、と思ったからだ。そして、そのとおりにできた。
ちなみに、アメリカでは優秀な人は中小企業に就職し、優秀でない人は大企業に就職する。その理由は、中小企業に就職した方が、いろいろな仕事が経験できるので自分が独立しやすいからである。
最近の学生は、仕事をすることよりも生活の安定を望んでいる。しかし、このような学生は大企業にも中小企業にも就職できない。なぜなら、企業は日々戦っているのだから戦う意思のない学生は絶対に採用しない。仕事とは戦いなのである。
この意味で根本的にミスマッチなのである。希望する仕事ができるかできないかの問題ではない。仕事をする気があるのかないのかの問題だ。大学は学生に何を教えているのだ。最近の学生は仕事に関しても草食動物らしい。自分がやりたい仕事(獲物)を追いかけて戦って自分のものにするのではなく、そこらへんに生えている草を食べて生きていくつもりらしい。
さて、第2部は、「潜在力の発揮と中小企業の役割」と題して、第1章が大震災からの復興と中小企業の役割となっている。まず、「東北地方の産業構造と復興の牽引を期待される産業について見ると、全国と比べて農林水産業、鉱業、製造業のGDPにしめる割合が高い」とある。さらに、「東北3県を個別に見ると、岩手県では農林水産業、宮城県では運輸・通信業、福島県では鉱業及び製造業のGDPにしめる割合が、全国に比べて高くなっている」と書かれている。
そこで、東北地方の復興を牽引する産業として重視される産業について、「大震災後の東北地方の産業集積の取組」と題して、「次世代自動車、医療機器、環境エネルギー産業等の成長分野を中心に、将来の地域経済を牽引する次世代ものづくり産業の集積を目指す取組を進めている。」とある。しかし、農林水産業や運輸・通信業については何も書かれていない。地元の商工会議所の支援を受けながら企業の自助努力で復旧している状況を紹介しているに過ぎない。
第2部第1章のタイトルはあくまで「大震災からの復興」である。復旧ではない。復旧についてはどの産業も自助努力により行っている。例えば、水産業については大半が2012年の上半期までには再開する予定だとしている。
筆者は農林水産業や運輸・通信業についても復興は重要だと思う。また、ものづくり産業や農林水産業が復興しないと運輸・通信業が復興するのは難しいと思うので、まずは、ものづくり産業と農林水産業の復興を目指すべきであると思う。ものづくり産業については企業の自助努力により復興が可能であると筆者は思っている。
よって、国としてやらなければならないのは、農林水産業の復興である。というのも、第1にわが国の食料自給率が低いという問題をこの期に解決すべきであること、第2に東北地方の農林水産業を輸出産業に育て、世界の農林水産業の模範となるようにすることによって、雇用増大を図り景気低迷から脱出することである。農林水産業は人間が生きるために必要なものだから。そうすれば運輸・通信業も復興することができる。
このために、筆者の私見であるが、農業については津波の被害に遭った地域を県や国が借り上げて塩分を取り除きアメリカ並みの大規模農業を目指し大幅なコストダウンを図ること、林業については津波で流された家屋を建て直すために森林の伐採から家屋の完成までの加工組立工程を流れ作業化し、大幅なコストダウンと納期短縮を図ることである。
ちなみに、今から約50年前、自動車会社のフォードは鉄鉱石の採掘から自動車の完成までをたった1日(24時間)で行っていた。これと同じことを林業でも目指す。水産業についてはマグロの養殖を東北3県で強力に推進するとともに、復興の目玉として鯨の養殖を行うのである。
鯨の養殖はできる。いや、すでに行っている。なぜなら、鯨の一種であるイルカはすでに全国の水族館で飼育しているから。飼育と養殖とは目的が異なるだけである。また、鯨とイルカの違いは大きさだけである。鯨の中で小さいものをイルカと呼んでいるが、例外としてイルカより小さい鯨もいる。それに、鯨の養殖に反対することは世界の誰もできないはずである。問題はコストである。少なくとも調査捕鯨による肉の価格より養殖による肉の価格の方が安くできなければならない。
第2部第2章は、需要の創出・獲得に挑む事業活動となっている。そして、第1節では、国内事業を活かし、海外需要を取り込む中小企業となっている。まず、世界の名目GDPの推移を見ると、アジア等新興国のGDPが拡大している一方で日本のGDPシェアは2000年の14.5%から2011年の8.5%へと大幅に減少していることが書かれている。
また、人口減少について2010年がピークでその後徐々に減少し、30年にはピーク時の91%、50年には76%に減少することが予想されている。よって、国内需要の長期的な停滞が予想されている。さらに、大企業の海外移転が進んでいる。こうした背景により、中小企業も海外需要を積極的に取り込んでいく必要があると書かれている。
中小企業の中で輸出企業の割合は3%に満たないが、従業員数201~300人規模の中小製造業においては22%となっている。また、中小企業で直接投資を行っている企業の割合は1%以下であるが、従業員数201~300人規模の中小製造業においては19.3%であることが書かれている。
次に、海外展開の際の障壁として、輸出を開始する条件としては、販売先を確保していることや信頼できるパートナーがいることなどが挙げられている。また、直接投資を開始する条件としては資金的な余裕があることが挙げられている。
海外販路開拓の取組としては、現地向けの商品開発、研究開発を通じた自社製品の差別化、低価格品の充実などが重要であることが書かれている。また、輸出企業の課題・リスクとしては、商取引面では現地ニーズの把握・情報収集、現地におけるマーケティングとなっている。事業環境面では為替の変動が最も高い。
直接投資企業の現地法人が直面している課題・りスクとしては、商取引面では現地におけるマーケティング、現地における品質の管理を挙げている。資金面では現地における資金重要が増加、現地金融機関からの借り入れが難しいことが挙げられている。事業環境面では人件費の上昇、法制度や規制の複雑さ、不明瞭さが挙げられている。以上の多様な課題・リスクに直面し、現地から撤退する企業も増加していることが書かれている。
そして、第2部第2章第1節の結論として、グローバル化の著しい進展にもかかわらず、大半の中小企業が、輸出及び直接投資を行っていないことが分かった、と書いてある。
さて、だからどうしろと言いたいのであろうか。対策については何も書かれていないのである。こういった調査はこれまでも何度か行われており、調査結果はほとんど同じなのである。中小企業で海外展開する企業の割合もほとんど変わっていない。つまり、増加していないのである。
実際には、国内で売上が伸びない企業が海外に活路を見出そうとして失敗するのである。原因は、商品開発力やマーケティング力がないからである。よって、対策としては、まず、国内で売上を増やす努力をし、力をつけてから海外で売れる商品を開発し、輸出する。次に、輸出で成功したら直接投資してみるというように、地道に進めていくべきなのである。
次回に続きます。
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