第2部第2章第2節では、社会環境の変化に対応する女性の事業活動、として個人向けサービス分野 で需要を掘り起こしている女性の起業に着目し、女性の起業の現状及び課題について分析している。まず、内需が低迷している中、個人向けサービス分野への支出が増加しているとともに、女性起業家の個人向けサービス分野での起業の割合が高くなっていることが書かれている。ここでは、個人向けサービス分野を「飲食店、宿泊業」「医療、福祉」「教育、学習支援業」「洗濯・理容・美容・浴場業」及び「生活関連サービス業」としている。
「男女別に給与所得者数及び給与総額の推移を見ると、男性ではいずれも減少傾向にあるのに対し、女性は、いずれも増加傾向にある。女性の所得拡大に伴い、女性顧客を対象とした新たな商品やサービスに対する需要が増加し、今後、女性の社会進出が更に進めば、女性の視点による商品やサービスの企画力や開発力がより重視されるようになると推察される。女性の起業は、これらの分野のニーズに対応することで、新たな需要を掘り起こす可能性があると考えられる。」と書かれている。
また、女性起業家の7割の所得が100万円未満であり、9割が従業員を雇用しておらず、規模が小さい。女性起業の課題としては、「経営に関する知識・ノウハウ不足」、「事業に必要な専門知識・ノウハウ不足」と回答する割合が高い。女性が起業時に欲しかった支援は、「同じような立場の人(経営者等)との交流の場」、「経営に関するセミナーや講演会」と回答する割合が男性と比べて高い。
また、「2002 年から2010 年までの間の男女雇用者数の増減を見ると、男性雇用者が約41 万人減少している一方、女性雇用者は約87 万人増加しており、産業別に見ると医療・福祉、教育・学習支援業、宿泊業・飲食サービス業の分野で女性の雇用が大きく増加している。女性の雇用増が大きいこれらの分野は、家事・育児・介護等のニーズに対応した、今後も成長が期待される分野であることから、女性の就業が果たす役割は更に高まるであろう。」と書かれている。
しかし、女性が就業を阻む要因として、家庭生活において家事・育児の負担が女性に偏っており、女性の就業の大きな課題となっている、とも書かれている。
「女性起業家は、自身が抱えていた課題から、新たな需要を掘り起こし、これらの課題を解決するためのサービスを提供する分野で起業することがあると推察される。女性の起業が活発になり、これらの分野に新たな企業が生まれれば、これらの企業が提供するサービスにより、家事・育児を負担する女性が就業する際の課題が解決され、女性の社会進出の促進につながるであろう。」と書かれている。
「一方、女性の起業により、女性の就業が促進されれば、家事・育児等の課題解決サービス分野における需要の高まりや世帯所得の増加により、女性の起業が多い個人向けサービス分野の市場拡大が予想される。同時に、女性が就業しやすい環境が整備されることにより、女性が男性と同等の就業経験を積むようになれば、就業経験の短さに起因する経営や事業に関する知識・ノウハウ不足等の、これまで女性の起業を阻んでいた課題が解決され、就業経験を有した女性起業家の増加へとつながるであろう。」と書かれている。
「女性起業家は、柔軟な対応力で新たな需要を掘り起こし、女性の負担となっている家事・育児等の課題を取り除くことで、女性の就業を促進する。そして、女性の社会進出が進み、これらのサービスに対する需要が増加すれば、新たな女性起業家が呼び込まれる。また、女性特有の課題を乗り越えて起業した女性起業家は、女性従業員が直面する特有の課題に対しても柔軟に対応し得る。女性の起業によって女性が就業しやすい環境が提供されれば、就業経験を活かした起業も更に増加するであろう。さらに、これらのサイクルが機能することによって女性の就業促進が進み、世帯所得の増加が進めば、女性起業家の事業展開が多い個人向けサービスの分野の市場拡大につながる可能性がある。長期にわたって低成長が続いている我が国においては、かかる好循環を発生させることが、女性の能力を発揮させることにより、新たな需要を掘り起こし、元気な日本を取り戻すための重要な鍵となるであろう。」とも書かれている。
さて、以上のように書かれていることが本当に実現できるであろうか。筆者はそうは思わない。なぜなら、以上のように書かれていることについては、十数年前から言われてきたからである。しかし、具体的な対策がなされないままになっているのである。
確かに、徐々にではあるが女性の就業や起業が増加してきている。しかし、それはむしろ、長引く景気低迷により男性の就業ができなくなったり男性(夫)の収入が減ったりしために仕方なく女性の就業や起業が増加しているとも考えられる。また、女性の就業や起業が増えたために、いっそう少子化が進み、ますます人口が減少し、内需が低迷することになる可能性もある。
分析するのであれば、まず、なぜ女性の就業や起業が増えてきたのかを明らかにしなければならない。そして、さらに増加させるためにはどのような課題があるのかを分析しなければならない。家事・育児のために女性が就業や起業することが難しく、これがボトルネックになっているのであれば、それをさらに掘り下げて分析しなければならない。そして、この課題を解決しなければ根本的な解決にはならない。
そこで、筆者の意見であるが、例えば、子供が大きくなって育児が不要になり、また、家事も子供に一部を任せられるようになった女性が家事・育児をサービス業として起業したり、そのような事業を行っている企業に就職するのであれば、1つの解決にはなる。子供が自炊をしたり、嫁入り修行として家事を行うのは必要なことでもある。
ちなみに、最近の若い女性も男性も料理がろくにできない。また、共働きであれば男性が家事・育児を分担する必要がある。日本の男性は外国の男性に比較して家事・育児をほとんどしない。外国の男性ができることを日本の男性ができないのは、教育としつけの問題である。
また、自宅では家事・育児を男性が分担したとしても、会社で社員が育児休業を取ったり、仕事しながら育児することはむずかしいので、これを解決する必要がある。例えば、会社が託児所を設けて、社員の子供の育児ができるようにしている会社もある。社員の母親(おばあちゃん)が自分の孫を含め社員の子供を育児している。会社の休憩時間には社員が育児をすることもできる。また、若い社員がお年寄りから育児について学ぶこともできるし、また、お年寄りにとっても生きがいになる。
会社の託児所といっても会社は部屋を貸しているだけの場合もある。保育士を会社が雇用しなくても市町村が派遣することも考えられる。アメリカでは男性社員が子供を背負って出勤する風景に違和感はない。会社に託児所があれば社員は安心して仕事ができる。このようなことを国が仕組みとして整備するとともに、奨励すればよいのではなかろうか。
次回に続く。
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