人が死ぬ3大原因は、ガン、脳卒中、心疾患であるという。しかも、これらで死ぬ人は年々増加しているという。年々、医学が発達し、病気の原因やその治療法に対する知識も広く一般に知られるようになっている。それにもかかわらず、死ぬ人が年々増加しているのには根本的な原因があると思う。
まず、ガンであるが、ガンは現代では早期発見、早期治療により完治することが出来るという。つまり、定期的に検診を受けていればガンで死ぬことはないのである。それにもかかわらず、年々ガンで死ぬ人が大勢いるのは、多くの人が定期検診を受けていないからである。そして、あるとき変だと気づいて病院に行くと、余命半年だと告げられる。後の祭りである。
脳卒中や心疾患は動脈硬化が主な原因であるという。そして、動脈硬化の原因はメタボリックシンドロームと呼ばれる生活習慣であるという。昔は成人病と呼ばれていたが、最近では若い人でもかかる病気なので、生活習慣病と呼ばれるようになった。また、ごく最近ではメタボと略して呼ばれている。
そして、この生活習慣というのが、飲酒、喫煙、脂肪分の過剰摂取、運動不足、ストレスなどであって、これらから、肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病などを生み、その結果、動脈硬化を進行させるという。こういったことは医者でなくても、現在では大勢の人が知っている。
医療に関する番組を頻繁に放映しているテレビのおかげである。また、肥満や運動不足を解消するための方法やストレスをためない方法などについてもテレビで放映している。したがって、多くの人はこれらを解消する方法も良く知っている。
会社員や公務員などの勤め人は、半強制的に健康診断を受けさせられている。家庭の主婦や自営業者なども、市町村で安価に健康診断を受けられるようになっている。しかし、それでもなお、健康診断を受けようとしない人たちがいる。また、たとえ健康診断を受けて、自分の病気がわかっていても、その病気を治そうとしない人たちが大勢いる。
その理由は、痛みを全く感じないからである。毎日元気に働いているのに何が問題なのかと言う。病気が進行しているにもかかわらず、全く気にしていない。そして、あるとき、突然、死がやってくる。激痛に耐えかねて、七転八倒する。そして、死を覚悟する。自分の人生もこれで終わりだと悟る。すると、自然に涙が出る。救急車で病院に運ばれても既に手遅れである。
なぜこうなってしまうのか。その真の原因は何か。それは、おごりと甘えである。誰もが自分だけは病気で死ぬことはないと思っている。自分だけはガンや脳卒中や心臓病で死ぬとは思っていないからである。
そして、医者でもないのに、ど素人であるにもかかわらず、自分の体は自分が1番よく知っているなどと言う。これをおごりと言わずして何と言えばよいのか。そしてまた、健康診断を受けて、自分が病気であることをよく知っているにもかかわらず、治そうとしない。
治さなくても自分だけは大丈夫だと思っている。治さなくても死ぬなんてことは絶対にないと思っている。たばこを止めろ、脂肪は控えろ、運動をしろ、野菜をたくさん食べろ、などと言われても、実行しようとしない。これを甘えと言わずして何と言えばよいのか。
実際にガンや脳卒中や心臓病にかかった人たちは異口同音に言う。まさか、自分がガンにかかるとは、と。まさか、自分がこんな病気にかかるとは夢にも思わなかった、と。幸いにも、生き残った人たちが言う。まさか、自分が脳梗塞にかかるとは、と。まさか、自分が心筋梗塞にかかるとは、と。かかった人たちは例外なくそう言う。
そして、もう1つ、彼らが異口同音に言う言葉がある。それは、死ななくて良かった、という言葉である。たとえ、車椅子の生活になっても、たとえ、ベットの上だけの生活になっても、死ななくて良かった、と。
実は企業が倒産するのも同じである。大企業の経営者は、資本家である株主から、経営を委託された専門経営者である。したがって、経営のプロである。しかも、常にその経営能力を問われている。業績が悪化すれば退陣を要求される。よって、大企業の経営者は、常に危機意識を持ち、経営に関する勉強を怠らない。他の経営者の意見を聞き、あるいは経営者が書いた本をよく読んでいる。
ところが、中小企業の経営者は違う。中小企業の経営者のほとんどはオーナー経営者である。自分の財産を自分で管理している資本家である。つまり、専門経営者ではない。よって、経営のプロではない。それにもかかわらず、経営の勉強をしようとしない。自分の財産は自分で管理すればよい、自分の会社は自分で経営するのだ、他人の意見など聞くものか、と思っている。他の会社の経営者や取引先の意見を聞くなんてことはしない。
まして、経営コンサルタントの意見などまかり間違っても聞かない。経営コンサルタントなど、どこの馬の骨かわからない奴に、俺の会社が判るわけがないと思っている。また、経営に関する本も読まない。本など読んで何がわかるかと思っている。そして、独りよがりの経営をしている。それでも業績がよければ、それは自分に経営能力があるからだと思っている。そして、業績が悪ければ、それは環境が悪いからだと思っている。決して、自分が悪いからだとは思わない。
プロの経営者ではないにもかかわず、経営についてはど素人であるにもかかわらず、自分の会社は自分が1番よく知っていると言う。これをおごりと言わずして何と言えばよいのか。そして、危機意識を全く持っていない。業績が悪くなっても、何も手を打とうとしない。景気が悪いから仕方ないと言う。原料高だから仕方ないと言う。良い人材がいないからだとも言う。技術がないからだとも言う。このように言い訳ばかり並べ立てている。これを甘えと言わずして何と言えばよいのか。
そのうえ、オーナーであるがゆえにいつまで経っても首にはならない。大企業であれば、そんな経営者はとっくの昔に首になっている。会社はオーナーだけのものではない。従業員や取引先、そして顧客のものでもある。甘えるんじゃない。会社が倒産すれば経営者だけが路頭に迷うわけではない。従業員を始め、取引先などが路頭に迷うのだ。みんなが迷惑するのだ。
ところで、各都道府県や主要都市には中小企業支援センターがある。また、全国に商工会議所、商工会がある。これらはどこも無料で経営相談を受け付けている。そして、経営の専門家が対応している。しかし、その相談内容のほとんどが資金繰りであるという。つまり、金がない、どうすればよいかという相談である。
人材育成をしたいがどうすれば良いかとか、技術開発をしたいがどうすれば良いかとか、どのような経営戦略を立案すべきかなどと言った前向きの相談はないのである。金に困ってから相談しても、手遅れである。自分の経営能力がないにもかかわらず、誰にも相談せず、独りよがりの経営を続け、そしてついに、手遅れの状態に陥らせてしまったのである。
かくして、人が死ぬのも、企業が倒産するのも、その真の原因はおごりと甘えである。実はこれ、有名な歴史学者トインビーの言葉である。トインビーは国が滅びる原因はおごりと甘えであると言った。そして、それは独裁政権において顕著であると言った。このことは、国だけでなく、人も企業も同じだということを筆者は確認している。
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