2008年版中小企業白書は、~生産性の向上と地域活性化への挑戦~ という副題がついているとおり、第1部 2007年度における中小企業の動向、第2部 中小企業の生産性の向上に向けて、第3部 地域経済と中小企業の活性化 となっている。したがって、重要な部分は第2部と第3部であるが、第3部は地域の問題であるので、第2部を中心に要約することにする。
2007年度においては、サブプライム住宅ローン問題、原油価格高騰、改正建築基準法の施工後の建築着工件数の減少という3つの外生的ショックが発生した。これらにより我が国経済の先行き不透明感を増大させている。さらに、穀物、素材等の原材料価格も顕著に上昇する一方で、売上単価・客単価は伸び悩んでおり、価格転嫁が進まず、利幅が悪化している状況がうかがえる。このように、原油・原材料価格の上昇は中小企業の業況を悪化させることとなった。
小規模企業を含めた中小企業全体では景況感はより厳しく、業況判断DIは2006年4月より2008年3月まで8四半期連続して穏やかに低下を続けている。倒産件数も2006年ごろから増加している。
中小企業の利益率の低迷の背景には、外生的ショックに加えて中小企業が大きく依存する民間消費需要の伸び悩みがあると考えられる。消費に力強さがない背景には、雇用者所得が伸び悩んでいることがある。今回の景気回復局面が始まった2002年以降、賃金はほとんど伸びていない。また、製造業では、グローバル化に伴う海外製品との競合で、中小企業が製造している製品は輸入が大きく増加している。建設業では、公共事業の減少を背景に活動は停滞している。1990年までは自営業者が高い収入を得ていたが、現在では会社員の収入の方が高い。開業率は会社法の施行などの影響で一時的に上昇しているが、なお廃業率を下回っている状況が続いている。
我が国社会の少子高齢化がいっそう進展し、労働者人口が減少していく中で、中小企業が利益を確保し、持続的な発展を遂げていくためには、労働生産性の向上を図ることが重要である。
我が国経済は、グローバル化、IT化、少子高齢化等の大きな構造変化に直面している。グローバル化、IT化に対するビジネス環境の変化を「チャンス」であると歓迎する企業の割合は高い一方で、少子高齢化・人口減少の影響については「脅威である」とする企業が約半数に上っており危機感が強い。
人口減少に対する方策として、1つは就業している者の割合を増加させることであり、もう1つは労働者1人当たりの付加価値額を伸ばすことである。つまり、高齢者や出産・育児を終えた女性を活用するとともに、労働生産性を高めることである。前者については既に対策を取りつつあるので本書では後者について分析を行う。
経済成長率=労働生産性上昇率+就業者数増加率
労働生産性=付加価値額/労働投入量
労働生産性における分子の付加価値額を増加させるには、製品やサービスの開発等を行うことであり、分母の労働投入量を減少させるためには、業務の合理化や生産効率の高い設備への切り替え等を行うことである。これら2つの間には相互作用があるため、整合性を確保しながら実施する必要がある。つまり、労働生産性を高めるため多くの企業が従業員の削減を行った場合、雇用者所得の減少を通じて消費需要が減少し、かえって付加価値額を減少させてしまう恐れがあるからである。
我が国の労働生産性の水準は、米国の7割程度であり、G7やOECDの平均(先進各国)と比べても低い水準にある。また、その伸び率も低下している。少子高齢化・人口減少が進行する中で労働生産性の向上が焦眉の課題である。
とりわけ、第3次産業の割合は我が国GDPの7割弱に達し、経済のサービス化は今後ともいっそう進展すると見込まれているため、サービス産業の生産性向上が必要との認識が高まっている。中小企業は我が国の企業数の99.7%、労働者数の69.4%を占めているため、我が国全体の労働生産性の向上を図るには中小企業の生産性の向上が不可欠である。
労働生産性の伸び率を要因分析すると、製造業と情報通信業に属する大企業及び中小企業の伸び率のほとんどが付加価値額の増加によるものであり、小売業、飲食業、宿泊業、その他サービス業に属する中小企業の伸び率は相対的に労働投入量の減少によるものである。
また、労働装備率(1人当たり有形固定資産)の増加による効果よりも、技術革新、業務プロセスの改善、労働や資本の質の向上等の効果の方が大きい。なお、労働生産性を意識している企業では、意識していない企業に比べて、経常利益率が顕著に高い。さらに、労働生産性の高い企業では売上高が増加傾向にあり、付加価値額の増大により労働生産性を向上させていることを示唆している。
労働生産性の高い企業の特徴:(1)電子商取引を実施しており、コンピュータ・ネットワークをより広範囲で利用している。(2)販売地域が広く直接輸出の割合が高い。(3)製品・サービスの差別化を競争優位としており、研究開発に積極的である。(4)従業員こそが最も重要な経営資源であると考えており、終身雇用を前提とし、年功序列型の賃金体系を重視している。また、このため従業員の定着率が高い。
これらを踏まえ、労働生産性を高めるには人材の意欲や能力を高める仕組みを工夫するとともに、教育訓練を通じた人材の育成が重要である。(5)また、労働生産性が高い企業では業務委託や外注を活用している割合が高い。自社の強みを踏まえて業務の見直しを行い、業務委託を有効に活用することが労働生産性の向上のために重要である。
第3次産業が国内総生産の7割弱を占めるがこのウエイトは年々増大しており、我が国経済のサービス化はいっそう進展している。また、中小企業の占める割合も年々増大しているため、中小サービス産業の重要性は年々増大している。したがって、中小サービス産業の生産性の向上が我が国経済の発展の鍵と言えよう。サービスに特有の基本特性として「無形性」と「同時性」などがある。「無形性」とは目に見えない行為、機能、情報などであり、「同時性」とは生産と消費が同時に発生し、提供と同時に消滅することである。
情報通信業、卸売業、対事業所向けサービス業が労働生産性が高い。一方、小売業、飲食業、宿泊業、対消費者向けサービス業が労働生産性が低い。経営指標のうち、利益率や売上高、顧客満足度を重視している企業の割合は高いが、労働生産性を重視する企業の割合は低い。
経営戦略として規模拡大を重視してきた企業の割合が高かったが、今後は付加価値向上を重視する企業の割合が増えている。事業展開において力を入れている取組は、人材の育成・モチベーションの向上とする企業の割合が最も高い。しかし、最も重視する取組としては商品・サービスの付加価値の向上を挙げる企業の割合が最も高い。
他方で、企業が今後の経営戦略として特に重視している取組の具体的な内容を見てみると、コスト構造の把握とコスト削減や業界の分析・把握といった取組を重視する割合が高く、顧客ニーズの分析・把握やターゲットの明確化と言った顧客に視点を置いた取組を重視する割合は低くなっている。
しかし、サービスの評価は顧客の主観によらざるを得ず、顧客のニーズやサービスに対する評価を分析することは付加価値の向上には重要と考えられる。サービスに対する消費者の不満は品質のばらつきや期待した水準に達していないことである。このことを踏まえれば、消費者が求める品質の安定したサービスを提供することや消費者が期待する水準のサービスを提供する技術や組織体制を構築することが求められる。
サービスの付加価値向上のためには、こうした取組により消費者の評価を上げ、他社との差別化を図り、顧客を継続的に獲得していくことが重要であると考えられる。対事業所サービスにおいても同様である。
サービスに対する顧客の期待としては、対消費者向けサービスにおける生活関連サービスと余暇関連サービスのいずれも価格や内容を重視しているが、生活関連サービスでは立地等の利便性を重視し、余暇関連サービスではメニューを重視する割合が高い。
一方、対事業所サービスにおける業務委託の目的はコストの削減や高度な専門性の活用を重視している。コストの削減はライン業務や付加・補助的業務において割合が高く、高度な専門性の活用は高度専門的業務で割合が高く、経営・マネジメント業務でやや高くなっている。
重視する情報提供内容としては、情報提供を受ける顧客側は商品サービスの具体的な価格・内容・サービス水準を重視するのに対し、サービスを提供する事業者側はサービスを間接的に伝える顧客の声・体制・スタッフを重視している。
対消費者向けサービスの価格はおおむね横ばいであり、企業向けサービスの価格もあまり上昇していない。対消費者向けサービスの価格の決定方法は「市場価格を参考に決定する」とする企業の割合が高い。サービスの品質や価値が価格へ反映されない原因として、「価格競争の激化」「景気の低迷」など市場環境を挙げる企業の割合が高い。また、商品・サービスの品質や価値を価格へ反映させる取組を見てみると、顧客への説明強化を挙げる企業の割合が最も高い。
一方で、対事業所向けサービスの価格の決定方法は取引先で価格が決定されるとしている割合が1/3を超える。また、品質や価値の価格への反映状況は、情報通信業では反映されているという割合が高いが運輸業では低くなっている。反映されていない原因は価格競争の激化を挙げる企業の割合が最も高いが、取引先の一方的な価格要求や、業界の慣行や慣例を挙げる企業の割合も低くない。また、価格へ反映させる取組としては、全業種において、販売先への説明強化を挙げる企業の割合が最も高く、次に契約内容の明確化・詳細化を挙げる割合が高くなっている。
企業間取引の取組を見ると、取引内容を明確に記載した書面化が進んでいる企業ほどサービスの品質や価値を価格へ反映できているとする企業の割合が高い。また、書面の交付を受けている企業ほど労働生産性が高い。契約内容の書面化を通じて公正な取引環境を整備し、サービスの品質が価格に反映される環境の実現を図ることは、サービスを提供する中小企業の意欲と能力を引き出し、生産性の向上を図る上で非常に重要である。
業務の標準化について見てみる。業務の標準化の度合いの指標の1つとして、マニュアルの導入状況について見ると、21人以上の従業員規模の企業では半数以上の企業がマニュアルを導入しており、従業員規模が大きい企業ほどマニュアルを導入している企業の割合が高い。マニュアルを導入しない理由として、規模が小さい企業ではマニュアルは必要がないとし、51人以上の規模の企業では「作成する労力・時間がない」ことを理由に挙げている。マニュアルの導入と労働生産性との強い相関関係は見られない。また、必ずしもマニュアル化がなじむとは限らない業務も多い。むしろ、個々の顧客のニーズの相違に柔軟に対応したサービスを提供できる能力が高い付加価値を生み出す源泉となりうる。
業務プロセスの見直しの実施状況について見ると、「ある程度実施している」とする企業の割合は半数を超えるが、「実施している」とする企業は11.8%に過ぎない。業務プロセスの見直しを積極的に実施している企業ほど業況感が良いとする企業の割合が高い。実施内容は業務の手順や工程を具体的に明らかにする取組や各工程における適切な人員配置を行っているとする企業の割合が高い。
しかし、ITの導入による業務プロセスの見直しや共通業務の集約化、アウトソーシングの活用といった業務プロセスの変更を伴う内容を実施している企業の割合は高くなく。ITの活用状況についてみると60.7%の企業では事業用のホームページはないとしている。また、あるとした企業でも電子商取引機能を付加している企業の割合は3.1%と低い。顧客の所在地との関係で見ると、電子商取引を実施した企業の方が顧客の所在地が広範囲にわたっている。サービス産業においても市場が広範囲に渡るほど、労働生産性が高い。よって、電子商取引を実施することでニッチな分野を扱う規模の小さい企業でも広範囲な地域の顧客と取引できる可能性がある。
サービス産業では経営資源として人材を特に重視する企業の割合が高い。また、従業員を重視している企業ほど業況を良いとする割合が高い。離職率を見ると、対消費者向けサービスよりも対事業所向けサービスの方が正規雇用者の離職率は低い。対消費者向けサービスの中では余暇に関連したサービスよりも、生活に関連したサービスの方が正規雇用者の離職率は低い。
退職理由としては対消費者向けサービスでは納得できる給与が支払われないことを理由とするキーパーソンの割合が低い一方、キャリアアップを目的に退職を希望するほか、労働環境、自己成長や自己の能力発揮ができないことなどを理由に挙げる割合が高い。
これらに対して企業の取組は、人材の育成や従業員のモチベーションを向上させるなど個々の人に関する取り組みを実施している企業は少ない。一方、人材育成を実施している企業ほど業況感を良いとする企業の割合が高くなっている。サービスの品質や付加価値を高め、生産性を向上させていくためには、人材を育成していくことが喫緊の課題であるといえよう。
近年、パソコンの価格の低下や通信環境の整備等に伴い、ITが日常生活や企業活動でいっそう浸透してきている。インターネットは9割近くの世帯に普及しており、消費者による電子商取引の利用状況を見ると、インターネットでショッピングするようになったとする割合が5割に達している。
さらに、情報処理サービスの提供手法も多様化している。利用者がコンピュータやパッケージソフトを購入するのではなく、サービスそのものの提供を受ける手法(SaaS・ASP)が広がっている。提供されるサービスとしては、顧客管理や営業支援、会計等がある。
ITの普及に伴って企業がどのような経営環境の変化を感じているかを見ると、「販売機会・市場拡大」といった前向きな回答よりも、「業務スピードの要求増大」や「同業他社との競争激化」といった回答が多く挙げられている。また、中小企業では「特段の変化はない」との回答が多くなっている。取引関係については、ITの普及に伴い、既存販売先との関係が強化されているうえ、販売先も国内全域を中心に広がっている傾向にある。
大企業と比較して中小企業では、総資産に占める割合からソフトウエアの蓄積が進んでおらず、また、年間事業収入に占める割合からソフトウエアへの支出も少ない。さらに、情報システムの導入割合も低い。中小企業が導入している情報システムは「財務・会計」の導入割合が最も高く、そのほとんどがパーケージソフトである。一方で、「在庫管理」や「生産」、「物流」といった領域では、自社開発やオーダーメイドによる導入が多くなっている。
IT投資の経営上の位置づけを見ると、規模の大きな企業ほど、ITの活用やITへの投資は重要課題として位置づけられている。また、ITの活用を重要課題と位置づけている企業ほどその効果が得られており、売上高が増加傾向にあり、経常利益率が上昇傾向にある。このことを踏まえ、より多くの中小企業がITの活用を重視していくことが望まれる。
IT活用により得られている効果としては、業務プロセスの合理化やコストの削減に比べると、高付加価値化、売上の拡大、新規顧客の獲得などは比較的得られていない。また、IT活用による効果が得られている企業では、企業業績が良好となっている。このことを踏まえれば小規模企業においてもITの有効活用に向けてIT資本を蓄積することが重要である。ITの効果を得られた理由として、「経営層がIT化に積極的で、陣頭指揮をとった」ことや、「システムを段階的に導入した」ことが挙げられている。
その一方で、システムを導入したにもかかわらず、期待した効果が得られなかった理由として、「業務がわかるIT人材が不足していた」ことや、「社員のIT活用能力、ITリテラシーが低く、システムを使いこなせなかった」といった人材の問題に加えて、「業務プロセスをそのままにして、システム化だけを行った」ことが挙げられている。
情報システムの導入に際しては、IT人材の確保とあらかじめ自社の業務プロセスを見直すことが大切である。また、情報共有や業務改革といったことを受け入れられる企業風土を確立していることが、ITの効果を十分に得るための前提となろう。
情報システムの導入に当たり実施した取組としては、「業務の整理・見直し」や「業務プロセスの見直し」、「業務のマニュアル化」等が挙げられているが、効果を見ると、「業務プロセスの見直し」の実施に大きな差が確認される。
また、IT投資の際には、その効果を事前に測定し、投資後も効果を継続的に評価することが望ましいが、事前の検討を行っている企業に比べて事後の評価を行っている企業は非常に少ない。継続的な事後評価を行っている企業では、効果を得られやすい傾向があり、特に、顧客満足の向上や製品・サービスの品質向上の面で、効果が得られている。したがって、事前の検討のみならず事後の評価を継続的に実施することが望まれる。
大企業・中小企業が課題として考えていることは、「自社に適したIT人材が不足している」ことや、「IT関係の設備投資にあてる投資コストの負担」がある。こうした状況を踏まえると、第1節で見たSaaS・ASPは、情報処理サービスを専用線やインターネットを通じて提供するものであるため、情報システム構築の初期コストが小さく、IT活用のコスト面での課題軽減に資する可能性がある。
実際、利用メリットして、「費用負担が少ない」ことや、「社内に人材・ノウハウがなくても利用できる」ことが多くの中小企業において挙げられている。また、IT人材が確保されている企業の方が、IT活用の効果が得られていることから、IT人材の確保が必要であると言えよう。ところが、中小企業ではIT人材確保の取組はあまり行われておらず、IT人材を外部から確保するほか、自社の従業員のITの活用能力を向上させることが必要である。
一般的には、意思決定に関与する人数を削減したり、組織階層をフラット化することが企業の意思決定を迅速化させると思われるが、人数を増やしたり組織を多層化した場合でも、特に組織を変更しなかった場合と比べて意思決定の迅速化に係る効果が得られている。つまり、意思決定権限の集中化、分散化では、IT活用の効果に大きな相違はない。
IT導入に伴って組織体制を多層化するにせよ、フラット化するにせよ、IT活用の効果を高めるためには組織体制やそれに連動する業務プロセスの見直しを検討することが重要である。IT活用は目的ではなく、手段である。中小企業は自らの経営目標を明確に定め、その目標を達成するために情報の収集・蓄積・分析・発信等を行うツールとしてのITを戦略的に活用していくことが期待される。
サブプライム住宅ローン問題は世界的な金融市場の動揺を引き起こし、世界経済は先行き不透明感を増大させているものの、過去10年間、世界経済は着実な成長を遂げ、堅調に推移してきた。世界経済が安定的な成長を維持するなか、我が国経済のグローバル化も急速に進行している。2002年以降、日本の輸出入額が大きく伸びており、アジアとの貿易量の拡大が日本の輸出入額を牽引している。海外直接投資の増大に伴い、海外生産比率も上昇している。
中小企業の売上高に占める輸出額の割合が上昇しており、輸出を行っている中小企業の方が輸出を行っていない企業よりも業況が良い。また、輸出を行っている中小企業は行っていない企業に比べて労働生産性が高い。汎用品に比して特注品を輸出する企業では、付加価値を高めている企業の割合が高い。また、特注品を輸出する企業は相対的に海外製品との差別化を図れている。
中小企業が輸出業務を行う上で直面している課題については、輸出業務を行っている企業が、「海外製品との競争激化」や「為替変動への対応」等の課題を挙げているのに対して、輸出を行いたいとする企業「優秀なパートナー企業の確保」や「海外現地企業・居住者のニーズの把握」等の課題を抱えている企業が多い。また、製造業と同様に非製造業でも輸出金額が増大しており、輸出によって付加価値も増大している。輸出業務を行う非製造業は、ブランド力や高い営業力・販売力・企画提案力を自社の優位性の源泉としている。
中小企業の海外展開企業数は増加基調にあり、直近5年間の動向を見ると、非製造業の伸び率が製造業の伸び率よりも高くなっている。業種ごとに見ると、一般機械、金属製品、電子製品・デバイス製造業等の機械関連産業を中心として製造業が、海外展開している中小企業数の46%を占めるのに対し、卸売業、サービス業、情報通信業、運輸業等を中心とした非製造業が54%となっており、海外展開している中小企業は非製造業の方が多い。また、従業員規模が大きい企業ほど、海外展開している割合が高い。
海外進出の目的は、多岐にわたるものも、大企業では販路拡大を目的としている割合が高いのに対し、中小企業では人件費のコスト削減を目的としている企業が多い。また、海外展開している企業は労働生産性が高い。中小企業の海外展開は国内の雇用を維持しながら、付加価値額の増大により労働生産性の向上を実現している場合が多い。海外展開の課題としては大企業は販路拡大に対し、中小企業は品質管理を課題と捉えている企業が多い。
中国への非製造業の海外進出が特に増大している。近年、サービス産業に対する政府の規制緩和が進んだことに加え、我が国製造業の海外展開が急速に進展し、現地の日系企業に対する事業所サービスの需要が拡大するとともに、現地に派遣された日本人従業員に対するサービスの需要も増大した。さらに、急速な経済成長に伴って東アジア諸国の所得水準が上昇し、巨大なマーケットとして成長を続けていることから、我が国の非製造業を営む中小企業にとっても、新たなビジネスチャンスとなり、海外進出が急増したと考えられる。
また、中国へ海外展開する中小企業は現地販売比率を高めていると同時に、現地調達比率を高めている。これにより、コスト削減と販路拡大を志向し生産性を向上させようとしている。こうした中、中国展開における経営リスクとして労働者の賃金の上昇が挙げられている。また、現地企業との競争激化による販売単価の下落、売上数量の減少が挙げられる。さらに、リスク要因の3つ目として、現地政府による外資政策の変更がある。本年1月より、現地企業と同等な扱いとなる税法が施行され、外資企業としてのメリットが小さくなった。こうした中で、近年、インドとベトナムが注目されるようになった。
中国に次いで、インド・ベトナムはASEAN4より経済成長率が高い。インドについては、中間所得層の人口が絶対的に多く、中小企業にとって市場としての位置づけが大きなウエイトを占めていることが特徴として挙げられる。実際、インドにおいて自動車及び二輪車の販売台数の増加や携帯電話の加入者が拡大していること、耐久消費財の保有比率が順調に上昇していることから消費市場が拡大していることが裏付けられる。
また、近年ベトナムへの対外直接投資が盛んにおおなわれている。ベトナムへの進出に対して感じるメリットについては、7割以上が低廉な労働力を挙げている一方で、インドのように市場規模をあげる企業は少なく、生産拠点としての位置づけが相対的に高いと考えられる。賃金の低さに加えて、近年、ベトナムの投資環境が急速に改善されていることも投資が加速している要因として挙げられる。つまり、WTOへの加盟に伴う輸出環境の整備、流通や通信分野における外資への開放、国内企業と同じ法律の下での事業展開、手続の簡素化、投資の自由化などである。
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