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開発&コンサルティング

第81回 コンサルタントは技術士の資格が取れない

技術士とは、「技術士法第32条第1項の登録を受け、技術士の名称を用いて、科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務を行う者」(技術士法第2条第1項)である。簡単に言うと、技術士とは、豊富な実務経験を有し、技術的専門知識及び高度の応用能力ありと国家認定を受けた高級技術者である。(日本技術士会)

技術士試験に合格するには、まず、受験資格として技術士にふさわしい業務経験が7年以上必要であり、第1次、第2次の筆記試験に合格するとともに、技術的体験論文を提出し、論文に関する口答試験に合格しなければならない。1年目に1次試験に合格し、2年目に2次の筆記試験に合格した者だけが技術的体験論文の提出を求められ、口答試験に臨むという最低でも2年間にわたる試験である。

私は学生時代に技術士という資格があることを知って、技術者の1人としていつかこの資格を取りたいと願っていた。35歳のときにコンサルタント会社に就職し、コンサルタントとして仕事をするようになった。このときに初めて知ったのだが、コンサルタントは技術士の資格が取れないことがわかった。

なぜなら、このコンサルタント会社では内規としてコンサルタント規定というものがあって、「コンサルタントは技術士受験を禁止する」となっていたからである。その理由としては、技術士試験では技術的体験論文を書かなければならないが、コンサルタントが技術的体験論文を書くということは顧客企業の課題あるいは問題点をどのように解決したかを書くことになり、それは顧客企業との秘密保持義務(守秘義務)違反となるから、ということであった。

顧客企業にとって課題として、例えば、技術開発や商品開発などは経営戦略上の秘密事項であり、その具体的な内容を開示することは絶対にできないことである。また、顧客企業にとってのいろいろな問題点は企業の恥でもあり、最も開示したくない事項である。コンサルタントが顧客企業の問題点を第3者に開示することは、医者が患者のカルテを開示するようなものであり、絶対に許されることではない。

入社して13年後に、私はこのコンサルタント会社を退職し独立開業したが、その後も、技術士の資格を取りたいと思いつつも顧客企業に対する守秘義務を果たすためづっと受験しなかった。ところが、ついに受験のチャンスが来たのである。

それは、今年度より受験制度が変更になり、従来は技術的体験論文を試験会場で書かなければならなかったのを、自宅で書いて提出できるようになったためである。論文を自宅で書けるということは書いた論文の原稿を顧客企業にチェックしてもらい、必要なら修正のうえ提出することができるからである。

このことを1昨年に知った私は、早速、1昨年第1次試験を受験し幸いにも合格した。そして、昨年、第2次の筆記試験を受験しこれまた幸いにも合格した。そして、技術的体験論文を提出することになった。論文の内容として、次のような課題が与えられた。

あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について実際に行った業務のうち、受験した技術部門の技術士にふさわしいと思われるものを2例挙げ、それぞれについてその概要を記述せよ。さらに、そのうちから1例を選び、以下の事項について記述せよ。

  1. あなたの立場と役割
  2. 業務を進める上での課題及び問題点
  3. あなたが行った技術的提案
  4. 技術的成果
  5. 現時点での技術的評価及び今後の展望

そこで、これらの内容について論文の原稿を書き、顧客企業にチェックしてもらったのだが、肝心の「業務を進める上での課題及び問題点」のほとんどの部分を削除されてしまったのである。当然であろう。しかたないので、削除されたままの状態で論文を提出した。

そして、今年1月12日に行われた口答試験の際にも、当然のことであるが、「課題及び問題点」について話すことはしなかった。また、話せば守秘義務違反となるので国家試験であっても試験委員に顧客企業の秘密事項を開示することはできないことを主張した。

そして、今月7日、第2次試験口答試験成績通知書が届いた。その成績を見ると、(1)経歴及び応用能力 X、(2)体系的専門知識 〇、(3)技術に対する見識 〇、(4)技術者倫理 〇、(5)技術士制度の認識その他 〇 となっており、結果として不合格となっていた。

つまり、経歴及び応用能力に欠けているという判定である。経歴に関しては、私が20年以上コンサルタントとして指導的役割を果たしてきたと、試験委員からも発言があったので問題がない。よって、応用能力に欠けるというのが私が不合格となった理由である。

つまり、論文においても口答試験においても、課題及び問題点が不明なのであるから、これらをどのように解決したのかも不明なのである。たとえ、私が行った技術的提案が優れていたとしても課題及び問題点とどうかかわるのかが不明なのである。よって、試験委員としても不合格とせざると得ないであろうと思われる。

技術士の義務としても、秘密保持義務は課されており、技術士のいろいろな義務の中でも秘密保持義務は義務の中核をなし、この違反に対しては1年以上の懲役又は50万円以下の罰金とされている(技術士法第59条)。しかし、これは、コンサルタントにとっては矛盾していることになる。なぜなら、コンサルタントが技術士試験に合格するためには顧客企業に対する秘密保持義務に違反しなければならないからである。

したがって、仮に、試験委員がコンサルタントを合格させ技術士にしたとしたら、技術士の秘密保持義務は有名無実となってしまう。よって、現在、コンサルタントで技術士の資格を持っている人はコンサルタントになる前に資格を取ったか、それとも、企業秘密を開示しても良いとする顧客企業がいるコンサルタントであろう。しかし、そのような企業は存在しないはずであるから、コンサルタントが技術士の資格をとることはできない。それにもかかわらず、技術士のことを「技術コンサルタント」と呼ぶのは矛盾している。

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