次ページ  目次

開発&コンサルティング

第77回 2007年版中小企業白書要約

2007版中小企業白書は、その副題に「地域の強みを活かし変化に挑戦する中小企業」とあります。「地域の強みを活かし」の部分を第2部で「地域とともに成長する中小企業」として紹介し、「変化に挑戦する」の部分を第3部で「経済構造の変化にチャレンジする中小企業」として紹介しております。

第1部 2006年度における中小企業の動向

<第1章 中小企業の景気動向>

我が国経済は2002年第4半期を谷とする景気回復局面にあり、2006年についても景気は穏やかながら回復が続いた。2006年11月には戦後最長となるいざなぎ景気を超えることとなった。

特徴としては以前の景気回復局面と比較して名目経済成長率が低いこと、実質経済成長率としても穏やかなものとなっていること、景気回復を支えているのは輸出と民間設備投資であり、公共事業は減少し消費は伸び悩んでいること、などである。輸出によって増益した企業が景気回復を牽引しており、給与の伸び悩みで消費は鈍化している。

景気回復の中で地域間と業種間でバラツキが見られる。有効求人倍率及び業況判断DIでみると、関東や中部、近畿、中国は上昇、北海道や東北、四国では低下している。また、業種との関連では、建設業は北海道や東北、四国、九州で高い一方、関東や中部、近畿、中国は低い。また、製造業は関東や中部、中国で高く、北海道や東北、四国、九州で低い。

さらに、地域ごとの産業構造の差異を見ると、繊維、食料品・たばこ産業などの生活関連業種は北海道や東北、四国で高く、一般機械や輸送機械、電気機械などの機械関連業種は中部で突出して高く北海道や四国では低い。こうしたことが地域間における雇用や景況感のばらつきに影響している。

企業規模の違いによる景況感にもばらつきが見られる。大企業と中小企業では業況判断DIの差は広がる傾向にある。中小企業はより明確に回復感に遅れが見られる。また、規模のより小さい企業の景況感はより厳しい状況にある。利益率の差で見ると、特に資本金1千万未満の中小企業は大企業との差が大きく、中小企業の中でも規模の違いによる利益率のばらつきが拡大している。

この原因の1つは、今回の景気回復の牽引役となっている輸出や設備投資向けの財・サービスを生産する中小企業が少ないことである。もう1つの原因は、中小企業においては原油価格の高騰などの費用増大に即応して価格転嫁を行い売り上げを増やすことが難しいことである。

<第2章 開業・廃業と小規模企業を取り巻く環境>

ー省略ー

第2部 地域とともに成長する中小企業

<第1章 地域資源の有効活用に向けた取組

現在、地域経済は厳しい競争環境に置かれている。中小企業は自らを活性化する必要がある。海外製品の品質が向上する中で差別化された商品・サービスにより多様化する消費者ニーズを捉えることが求められる。

一方、ITの活用により様々な物理的な制約が軽減しており、中小企業にとって差別化された商品・サービスによるビジネスチャンスは拡大している。こうした状況下で、地域特有の経営資源を活用し、商品・サービスの差別化を図ることが存続・成長の一助となる。

地域特有の経営資源として、特産品、伝統的に継承された製法、地場産業の集積による技術の蓄積、自然や歴史遺産といった文化財などが挙げられる。これらを、①地域の農林水産品を蓄積された技術・技法で加工(農林水産型)、②鉱工業品関連企業の集積により蓄積された技術・技法(産地技術型)、③自然や文化財等(観光型)の3種類に分類し分析する。

農林水産型の差別化のポイントは、地元の農林水産品と地域の知名度を活用していることである。産業技術型の差別化のポイントは、販売先との強固な信頼関係や商品デザイン・イメージである。観光型の差別化のポイントは、地元の農林水産品を使用する、温泉の泉質、サービス・提供プログラムの質などである。刻々と変化する消費者ニーズに対して、こうした地域資源を活用して新商品・新サービスを創出し、差別化を果たした企業の業績が良くなっている。

<第2章 地域を支える中小小売業等、コミュニティビジネスの役割>

ー省略ー

<第3章 地域金融が中小企業の発展に果たす役割>

ー省略ー

第3部 経済構造の変化にチャレンジする中小企業

第1章 変容する企業間の取引構造

かつて我が国製造業の企業間取引は、「系列取引」と言われる長期安定的な関係が特徴であった。しかし1990年代以降、グローバル化やIT化などを背景とした経済構造の変化に伴い、このような企業間取引構造は変容しつつある。

系列外の企業との取引が増加する一方で、ほぼ国内で完結していた部品・材料調達が、海外調達によっても行われるようになるなど、取引関係が複雑化し、これまでの長期的取引関係が徐々に崩壊していったと指摘される。

こうした指摘が事実であれば、近年においては企業間の取引関係は、従来の少数の取引先に密接に依存したものから、多数の取引先との多面的な取引関係へと変化(いわゆる取引関係のメッシュ化)していることとなる。

我が国製造業の競争力の源泉は、最終製品の加工・組立てと販売を行う大企業と、部品や素材の製造に当たる中小企業との効率的な分業体制にある。我が国製造業における中小企業は、加工・組立型業種大企業の川下に位置して素材・部品を供給するとともに、消費者に身近な生活関連業種で重要な役割を果たしている。

製造業14万社の取引構造を調査したところ、上場企業773社に対し、一次取引企業約4万社、2次取引企業約3万社、3~6次取引企業約1万2千社であった。また、独立型企業約6万社であった。

また、それぞれの層ごとの従業員数、売上高など企業属性を比較すると、上場企業は他よりはるかに大きく、1次取引企業は2次に比較して2倍程度の規模を有する。2次は3次以下よりもやや規模が大きく、3次以下は互いに大きな差異は見られない。独立型企業は3次~6次よりもさらに規模が小さい。

業種によって、上場企業に連なる企業と、独立型企業の比率は明確な差異がある。素材・部品型もしくは加工・組立型業種では、上場企業に連なる企業が多い。一方、食料品、飲料・たばこ・飼料、衣服などの業種では独立型の比率が7割に上る。

また、上場企業773社の1社あたりの仕入先は49社であり、その他の企業と比較して多い。また、製造業14万社は約36万社の取引先(仕入れ・販売関係)が存在するが、上場企業を起点とした垂直取引は15万社にすぎない。約6割が垂直取引以外の取引である。このことから、多数の取引先との多面的な取引があり、取引関係が複雑化している、いわゆるメッシュ化していることがわかる。

取引先数の増加、大口取引先への依存度低下という意味でメッシュ化が進んでいる企業割合が高いが、そのため多数の取引先とのコミュニケーションが必要となり、需要情報、技術情報の流れが滞る可能性がある。ところが、メッシュ化が進展しているにもかかわらず、むしろ取引先との情報交流の量は増加している。

販売先の増加と情報の密接なやり取りを両立させている企業は、売上が堅調に推移している。その特徴として、1つには自社製品の安定した品質が販売先に重視されており、もう1つは技術交流に積極的に取り組んでいることである。我が国の取引構造においては、「メッシュ化」と「緊密化」、一見矛盾するその双方の動きが両立して見られると言える。単に取引先を増やすだけでは売上の増加には結びつかない。製品の差別化や技術交流をに努めていくことが今後の中小企業にとって重要である。

<第2章 企業間の取引条件が中小企業に及ぼす影響

販売価格の決定に関しては、価格競争が激化している中で、発注先企業による一方的な価格設定の取引慣行があり、受注企業における技術力の適正な評価を妨げている。では、中小企業が価格交渉力、価格決定権を持つための条件は何か。それは製品の差別化度合いと販売先の多様化度合いである。

つまり、品質の独創性(製品の差別化)とブランド力(製品イメージの差別化)の高い中小企業、および主要販売先への依存度が低く販売先の数が多い中小企業の方が価格交渉力が強い。このためには、汎用性の高い技術及び自社製品を開発することである。

ちなみに、従業員規模や取引年数は価格決定には関係しない。また、発注側の企業は受注側の企業より優位な立場にあり、発注側の一方的な都合で受注企業が不利益をこうむることがある。そこで、受注単価、受注数量などの取引条件を明確化し、書面化することで不利な取引条件を強いられるリスクを回避できる。

共同研究開発については、日ごろから付き合いのない企業や大学と連携した方が特許を取得しやすい。その一方で、取引関係のない企業と連携した場合や連携先が多い場合の方が、共同研究の成果を無断で特許申請されることが多い。

このことは、取引構造の「メッシュ化」が進展し、販売先が多様化することで、技術流出のリスクが高くなることを示唆している。つまり、「メッシュ化」が進むことのデメリットとして、知的財産や企業独自のノウハウが守りにくくなることが考えられる。

取引条件の改善のためには、受注側においては、自社製品の原価計算を正確に行うことが大前提である。加えて、製品の差別化や販売方法の工夫という、製造業が成長するために必須の経営努力を継続して行っていくことも重要である。

また、自分たちが行っている取引の内容や条件が、独占禁止法、下請代金支払遅延防止法、不正競争防止法などに抵触していないかどうかを自己点検する必要がある。我が国製造業が国内外の消費者の要望に応える付加価値の高い製品を開発していくためには、創意工夫の意欲を削ぐような取引慣行は今後改善を図っていくべきである。

第3章 人的資本の蓄積に向けた中小企業の取組

ー省略ー

Ⓒ 開発コンサルティング





次ページ  目次