なぜ、特許出願して拒絶されてもあきらめてはいけないのか。それは、特許庁の審査官は出願書類をほとんど見ないで拒絶するからです。審査官が見るのは「特許請求の範囲」だけです。明細書はほとんど見ていません。それで、適当な理由をつけて拒絶してくるのです。
最近では審査を早くするためにほとんどの出願に対して拒絶しているものと想定されます。なぜなら、明細書に発明の内容が書かれているのにそれを見ないのですから。その証拠の例を以下にお見せします。拒絶理由に反論するこの意見書の例を見ればよくわかると思います。
以下に示す意見書に書かれている審査官の拒絶理由に関する引用文献2は特表平11-501585号です。また、この意見書の元となる出願書類については、特許電子図書館で「特願2004-378515」を調べれば見ることができます。しかし、出願書類の内容を見なくても、あるいはまた、審査官が書いた拒絶理由書を見なくても以下の意見書を見ていただければ、いかに審査がいいかげんかがよくわかると思います。(以下の意見書に基づき平成18年10月3日に特許査定されました。)
拒絶理由の一つ目として、引用文献2の「結合手段18」が、本願請求項1、2記載の発明の「回転軸」に相当するものである、と書かれている。しかし、「結合手段18」は一見すると回転軸のように見えるが、「回転軸」に相当するものではない。本願は引用文献2などの従来技術における課題を解決するために発明、出願したものであり、技術的思想が根本的に異なるものである。すなわち、
引用文献2の請求項1に記載されているように、「結合手段18」は「第二回転可能部材をドローイング面の上方に上昇させて、該面上の線の汚れを阻止し、かつそのドローイング面と係合して前記回転可能部材を該面の上方で安定させるための結合手段」なのである。
また、請求項5に記載されているように、「結合手段18」は「ドローイング面と係合するための複数個のシャープな突出部を含んで成って、第二回転可能部材を安定させる装置」であり、さらに、請求項6に記載されているように、「ドローイング面と係合するための複数個の外側に広がる金属歯を含んで成って、第二回転可能部材を安定させる装置」なのである。
物理学的に、「結合手段18」を回転軸として機能させるためには、回転の中心位置を固定し、力のモーメントが働くようにしなければならない。しかし、引用文献2の【発明の詳細な説明】に書かれているように、「結合手段18」はその中心において、アイレット47の穴54が開いており、回転の中心位置を固定できない構造になっている。また、回転の中心位置を固定するためのなんらかの工夫がまったくなされていない。したがって、力のモーメントが働かず、「結合手段18」は回転軸として機能しないのである。
また、回転軸であるためには、回転抵抗を少なくし、回転体がスムーズに回転するような工夫が必要であるが、「結合手段18」は「複数個のシャープな突出部」、あるいは「複数個の外側に広がる金属歯を含んで」おり、むしろ回転抵抗が増し、回転を阻害する構造となっているのである。
第二回転可能部材14にはテンプレート孔62が設けられているが、これは「結合手段18」が回転軸として機能せず、この構造では小さな円を描くことができないために設けられているのである。これは本願明細書の【背景技術】において説明してあるように、小さな円はテンプレートで描き、大きな円は円定規で描くというものであり、特開2000-326693号、特開2001-30685号などと同じ構造となっているのである。これらの構造において、回転体がスムーズに回転しないために小さな円が描けない理由については本願明細書の【発明が解決しようとする課題】に説明してある。本願はこれらの背景技術における課題を解決するために回転軸を設けたのである。
したがって、「結合手段18」は本願請求項1、2記載の発明の「回転軸」に相当するものではない。
次に、拒絶理由の二つ目として、請求項3において、回転体を多角形とする点は、引用文献3に記載されている、と書かれている。この請求項3はあくまで請求項1記載の円を描く定規における回転体の形状について請求しているものである。したがって、請求項1が拒絶された場合においては請求項3も拒絶されたものと考える。また、請求項1が拒絶されない場合においては請求項3も拒絶される理由がないものと考える。
以上
もう1つ例を挙げましょう。以下の例においては、よりいっそう、審査がいいかげんかがよくわかります。なぜなら、拒絶理由として挙げられている文献は出願書類に書いてあるものですし、しかも、その問題点を解決するために発明し、出願したものだからです。
出願書類の明細書を審査官が見ていればこのような馬鹿な拒絶理由は書かないはずです。このため、強い態度で意見書を書きました。なお、この例に書かれている拒絶理由に関する引用文献1は実公昭31-10411号、引用文献2は特開2003-80878号、引用文献3は実願昭60-49399号です。(以下の意見書に対して再度拒絶されたので、審判請求を行い、平成19年5月9日に特許査定されました。)
発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作である。単に形状が似ているからといって技術的思想が同じだとは言えない。以下、拒絶理由に対して意見を述べる。
引用文献1における、「実用新案の性質、作用及効果の要領」には、「本考案は連結紙綴環の改良に係り、従来丸線の紙綴足を櫛歯状に主軸に植立てるには溶接かかしめ付かの困難な工程であったのを本案では紙綴足1の一端を直角に折曲げて根部2を形成、其等の根部を挿入するための多数の小穴4を有する管軸3で綴足の根部2を包み込んで強圧、一体の櫛歯状とした上綴足を適宜の環状とするもので工程が簡単であるから生産費が安くなり、現在一般に使用されて居る平板を打抜いて造った連結紙綴環に比し用紙の綴穴も丸型でよいから穴明も容易であり綴穴を傷める心配もない等の効果がある。」と書かれている。
つまり、生産費が安くなるなどのために、生産方法として紙綴足の一端を折り曲げて根部を主軸に包み込んで強圧したものであり、一部分を開口したことに関しては制作上の必然であり、このことに関しては何の技術的思想も存在しない。実際に、一部分を開口したことに関してはなんら言及されていない。また、「登録請求の範囲」にも一部分を開口したことについてなんら言及されていない。したがって、無視できるものである。
そこで、引用文献3を見ると、確かに直軸の形状をしたリングが図面に描かれている。リングの一部を直軸の形状にしたことは、ルーズリーフをめくり易くするためであろうが、「実用新案登録請求の範囲」には直軸の形状に関してなんら言及されていない。したがって、これに関しても無視できるものである。
本願明細書を見ればわかるように、本願は主に引用文献2における問題点を解決するために発明、出願したものである。したがって、引用文献2は本願における「背景技術」にも特許文献1として取り上げてある。また、本願における「発明が解決しようとする課題」にも引用文献2(特許文献1)における問題点について書いてある。すなわち、「特許文献1における取り外し可能な複数個のリングから成るリング式バインダーは、ルーズリーフを取り付け取り外しする際に複数個のリングを一つずつ取り付け、また、取り外ししなければならず操作が面倒で時間がかかるという問題があった」のである。
引用文献2における問題点をわかりやすく説明すると、仮に、現在最も多く使用されているB5サイズの24穴のルーズリーフバインダーの場合、24個のリングを一つずつ取り外し、また、取り付けをしなければルーズリーフを交換したり、追加したりすることはできないのである。すなわち、48回の操作が必要になるのである。現在最も多く使用されており、一回の操作(ワンタッチ)で24個のリングを開閉できるように作られている、B5サイズのルーズリーフバインダーに比較すれば、引用文献2におけるルーズリーフバインダーの産業上の利用価値はほとんどない。
本願の目的は、本願明細書の0005にも書いてあるように、第一に、ルーズリーフバインダーを用いて左ページのリング寄りに文字を書く際にリングが右手に当たり書きづらいという問題を解決すること、第二に、この引用文献2(本願の背景技術における特許文献1)の問題点を解決し、一回の操作で、すなわちワンタッチでルーズリーフの取り付け取り外しができるようにすること、第三に、安価で製作可能とすること、すなわちシンプルな構造にすること、の三つなのである。本願はこの三つの目的を達成するために発明、出願したものである。
数十年前から多くの文具メーカーではこの課題に取り組んでいるようであるが、いまだに解決していない。拒絶理由書には「当業者が容易に為し得たことである」とか「格別の技術的困難性は見出せない」などと書かれているが、本当にそうであろうか。
以上
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