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開発&コンサルティング

第68回 中小企業白書は連携を勧めている

今年の中小企業白書の副題は「多様性が織りなす中小企業の無限の可能性」である。そして、第1部のタイトルが「平成15年度の中小企業の景気動向」で第2部のタイトルが白書の副題と同じ「多様性が織りなす中小企業の無限の可能性」である。したがって、重要なのは第2部である。そして、最2部の結論が終章として「多様なパートナーとの新しい連携~多様性がもたらす中小企業の可能性をさらに拡げるために~」というタイトルが付いている。そこで、結論である第2部の終章から見ていくことにしよう。

まず、中小企業は産業構造を転換させる原動力となっており、女性や中高齢者に職を提供しているなどいろいろな点において中小企業の役割は大きく、経済社会にとって新しいものを生み出していく創造力を有する存在であると書いてある。次に、課題として経済のグローバリゼーションと経営者の高齢化の問題を取り上げたとある。

そして、前者については海外展開を進めるか、国内で高付加価値化を図るかいずれにしても企業の取り組みによりパフォーマンスが異なることがわかったとある。 また、後者については、承継を機に新しい試みを行うことで事業承継が成功することがわかった、廃業する場合には資産超過での撤退の方が負債超過の場合よりもその後の生活がより良いことがわかったと書いてある。さらに、資金調達については計数に基づく経営計画作成の重要性を見た、と書いてある。つまり、いずれにしても中小企業の現状を分析してわかったことが書いてある。

最後に、結論として、「今後、多様な中小企業が距離を離れた他の地域の中小企業と連携する、あるいは異業種、研究機関、NPO等の多様なプレーヤーと新しい連携を組むことにより中小企業の創造性はさらに高まるであろう」と書いてある。

したがって、白書が言わんとすることは一言で言うと「中小企業は創造力を有する存在であるが、連携すれば創造力はさらに高まる」ということである。白書の副題である「多様性が織りなす中小企業の無限の可能性」は連携することで得られるということなのである。

そこで、CD版白書で連携という言葉を検索してみた。すると、第1章で8ヵ所、第2、第3章、第4章でそれぞれ1ヵ所づつ連携という言葉が検索された。したがって、今年の白書は第1章が最も重要であることが判明した。結論の文章を読んでも第1章に関係が深いことがわかる。

第1章は「経済社会の発展・多様性のシーズとなる中小企業」でタイトルどおりいろいろな中小企業ががんばっている状況が書かれている。第2章は「グローバリゼーションと中小企業」であるが、時代背景に基づく課題であり、海外進出した中小企業をいろいろと現状分析している。第3章は「中小企業の世代交代と廃業を巡る問題」で、高齢化の進展に係わる問題である。なお、この問題は昨年の白書にも取り上げられた。第4章は「多様性を確保するための金融」となっており、第1章と関係が深い。よって、第1章の次に第4章を読んだ方がストーリとしてはわかりやすい。

さて、通常、現状分析⇒課題⇒対策となるのが普通である。ところが、第1章は現状分析だけで、これに対する課題とより具体的な現状分析(対策ではない)が第4章に書かれている。つまり、第1章「経済社会の発展・多様性のシーズとなる中小企業」の課題は資金調達であり、具体的な経営計画を立てている企業は資金が借りやすいことが第4章「多様性を確保するための金融」に書かれている。

つまり、資金を借りたければ具体的な経営計画をきちんと立てなさいと暗に言っているのである。このように、対策は明確には書かれておらず、具体的な現状分析から対策を読み取るような書き方をしているので、それを踏まえて読まなければならない。

第1章

2000年には第3次産業が全産業の66%となりその中でもサービス業が急速に増加している。業種では情報サービス・調査業、社会保険・社会福祉サービス業、生活関連サービス業が市場を拡大させてきている。

この背景には、消費者向けには「高齢化」「健康意識の高まり」「趣味・レジャーなどに関する意識の高まり」などがある。また、企業向けには「ITの普及」「規制の強化」「規制の緩和」などがある。

具体的には業務の外部委託による情報処理や従業員教育、調査などのサービス業者が活躍しており、今後も拡大が予想される。逆に、市場参入の障害は「顧客の確保」や「人材の確保」である。開業率が廃業率を大きく上回る業種は高齢化、環境関連、生活関連のサービス業が多くを占めている。つまり白書は、事業転換を図るのならこれらの業種がお勧めであると暗に言っているのである。

技術革新は大企業よりも中小企業のほうが活躍している。新製品開発・改良活動は規模が大きい方が取り組んでいるが、新しい技術・ノウハウの導入および業種転換・多角化実施は小規模企業が最も多く、順に中小企業、大企業となっている。

新製品開発・改良を行うときに他企業との連携を行う企業は全体の4割であり、以前多かった「同業他社」との連携から「異業種企業」との連携へと変化している。また、特徴ある中小企業同士の連携により、高付加価値化を実現する企業が存在する。つまり白書は、新製品開発・改良を行う場合は同業他社よりも異業種企業との連携により行うのが良いと暗に言っているのである。

中小企業は高齢者や女性の就業の受け皿となっている。これは高齢者や女性がパートタイム労働を望んでいるからである。また、企業等の有能なOB人材の活用についても中小企業の役割は重要となっている。つまり白書は、中小企業はこれらの人たちを上手に活用しなさいと暗に言っているのである。

多様化していく個人の価値観やライフスタイルを支えるSOHOは、就業形態のひとつとして、また地域活性化の担い手として、今後ますます重要になっていく。現在注目されているのが地域貢献事業(コミュニティ・ビジネス)である。従来の行政と民間企業との枠組みだけでは解決できない、地域問題へのきめ細かな対応を地域住民が主体となって行う事業である。

地方自治体の財政難、地域住民のニーズの多様化、高齢化社会の進展などを背景として、地域社会が持つ資源の高付加価値化、潜在資源の有効利用を可能にするコミュニティ・ビジネスが、地域社会にとって今後ますます重要な事業体となるであろう。つまり白書は、地域経済の活性化のためにはSOHOという就業形態やコミュニティ・ビジネスという事業体に取り組みなさいと暗に言っているのである。

来街者が増加している商店街は、個店が「営業時間の延長」「店舗改装」「業態の開発・変更」「業種転換」等の取組を行っている。こうした努力の積み重ねにより商店街全体の活性化をもたらす。大規模店舗と商店街が一緒になって地域の商業集積を活性化させることが今後の課題となる。中心市街地活性化への取組はハード事業だけでなく、「イベント事業」「空き店舗事業」などのソフト事業に取り組んでいる割合が高い。

中心市街地活性化の成功は、その街のニーズに対応した構想や計画の策定と、知識・経験を有する専門家を活用し、関係者達が心を合わせ、地元の消費者が喜び楽しめる街づくりのために、腰を据えて取り組んでいくことが重要で、そうした取組が商店街活性化の鍵を握っているといえよう。つまり白書は、商店街や中心市街地の活性化は個店の努力の積み重ねと専門家を活用し関係者達が心を合わせて腰を据えて取り組みなさいと暗に言っているのである。

第2章「グローバリゼーションと中小企業」、第3章「中小企業の世代交代と廃業を巡る問題」の要約は割愛します。海外展開を予定している企業やすでに行っている企業にとっては第2章の内容は役に立ちます。また、事業承継や廃業を検討している企業は第3章が役に立ちます。

第4章

中小企業金融の特徴は、1)借入金による資金調達への依存が大きい、2)思い通りに借り入れを行えていない企業の割合が高い、3)金利が高く、保証(人的担保)提供をしている割合が高い、4)メインパンクへの借入依存が高い、5)地域金融機関が重要な地位を占めている。

新しい事業活動を行う際の問題としては「魅力ある人材の確保」と「必要となる資金の調達」となっているが、従業員20名以下の企業においては資金調達が最も大きな問題となっている。新しい事業活動を行おうとしている中小企業は政府系金融機関からの資金調達への期待が高い。このため、今年4月に『がんばれ!中小企業ファンド』が創設されている。

経営不振から回復した企業の特徴は、ひとつは売上が減少してもコスト削減をしていること、特に固定費(人件費)ではなく変動費を削減していることである。もうひとつは情報開示をして借入を円滑にしていることである。金融機関は過去の経緯よりも現状について着目していると考えられる。過去よりも将来のリスクを把握する情報が重要であると金融機関は考えている可能性がある。

しかし、経営計画を作成した企業の方が作成しなかった企業より思い通り貸してもらえなかったということだ。ここで考えられるのは計画の中身である。目標と目標達成への道筋が具体的に示されていることが必要である。資産状態が悪化した企業が円滑に資金調達を行うには、企業の将来像とそこに至る道筋が明確な、具体的な数値を設定した経営計画を作成することが効果的である。

実際に金融機関に尋ねても「具体性のある経営計画の作成」を重視していることがわかる。つまり白書は、資金調達のためには具体性のある経営計画を作成しなさいと言っているのである。

金融機関側の融資の判断基準は、「経営者が経営改善の意欲があるかどうか」「経営者が自社の現状を正しく認識しているかどうか」を非常に重視しており、何よりも経営者自身の自覚と意欲を求めている。他にも「企業情報の開示が得られるかどうか」も非常に重視しており、支援して本当に事業が改善するのかどうかの判断のための情報を求めている。

つまり白書は、まず、経営者自身が自覚と意欲を持って業績を回復しようとしなければいけない、企業情報の開示をして金融機関に相談すれば何とかしてもらえるだろうと言っているのである。

売掛債権担保融資保証制度の利用が着実に増加している。売上拡大期におこる資金不足、担保不足によって借入が出来ない場合等に、商取引を裏付けとした売掛金を担保とした資金調達手段を用いることによって、やる気や能力のある中小企業に円滑な資金供給が出来る制度といえる。

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