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開発&コンサルティング

第64回 制約条件の理論は古い

3年前に友人から勧められて『ザ・ゴール』を読んだ時に、「くだらん、何でこんなものが今頃流行するのか」と思った。しかし、その後も『ザ・ゴール2』が出版され、さらに最近では『ザ・ゴール3』が出版されている。そして、かなり売れているという。全米で250万部突破などと本の帯に書かれていると、それだけで多くの日本人は「読まなくてはいけない」と思ってしまうらしい。

なぜ、日本人はアメリカで流行するとすぐに飛びつき、それを有難がるのか。アメリカでは◯◯、アメリカでは△△、とアメリカ出羽守(でわのかみ)がお出ましになると、すぐに、「ハハーッ!」となってしまうらしい。なんで日本人はアメリカの真似ばかりしているのか。

いつまでたっても島国根性が抜けないようだ。わが国の企業は世界中の企業、特にアメリカの企業と競争をしていることを忘れているらしい。ライバルであるアメリカの企業の動向を知る必要はあるが、わが社にとって本当に役に立つかどうかを見極めなければいけない。

最近、幾つかのメーカーからわが社もTOC(制約条件の理論)を取り入れたいがどうしたものか、という相談があった。私は即座に「やめなさい、作れば売れる時代には効果があっただろうが、今では何の役にも立たない」と答えた。現在の企業が、昔アメリカの企業で役に立ったからといって、それを取り入れようなどと考えてはいけない。

私が『ザ・ゴール』を読んで、「なぜこんなものが今頃流行するのかと思った」かというと、私が学生時代に、卒業研究のために通ったある上場企業の製造現場で同じ事をしていたからである。私はそこの工場長から生産管理の真髄を教えてもらった。

「生産管理の教科書には、生産管理はコスト削減、品質向上、納期短縮の3つが目的だと書いてあるが、それは間違いである。それは目的ではなく手段であり、目的は利益を向上させることだ。そのためには、ネック工程を発見してネック工程に合わせて同期化を図ることだ」と教えてもらった。

つまり、他の工程がネック工程より工程能力があるからといって余分に生産してはいけない、他のすべての工程がネック工程と同じ時間で作業をすれば、余分な在庫もなくなるし、納期も短縮できる。同期化とは、すべての工程を同じ時間でできるようにすることで、例えば、材料を1分間に製品1個分づつ投入すれば、製品が1分間に1個づつできるというものだ。つまり、ところてんのように材料投入と製品完了とが同期する、ということである。

このために、その工場ではどのようにしていたかというと、ベルトコンベアを使って各工程の作業スピードをできるだけ一定にすると共に、ネック工程と材料を投入する最初の工程にはベテランの工員を配置し、ベテラン工員が工程間に余分な在庫ができないように各工程の作業者に注意すると共に全体のスピードコントロールを行っていた。これはまさに、『ザ・ゴール』に書かれている内容と同じなのである。

生産管理の素人は、生産スピードを上げるためにはベルトコンベアのスピードを早くすればよいと単純に考えてしまう。しかし、作業をするのは人間だから、コンベアのスピードを上げたからといって作業スピードが速くなるわけではない。しかも、材料を1分間に製品1個分しか投入しなければ、製品だって1分間に1個しかできないのは当然である。それが、1分間に製品1個分の材料しか投入していないのに、ベルトコンベアを2倍早くしたら、1分間に2個の製品ができたらそれは手品である。

さて、当時の私の卒業研究課題はこの工程をさらに改善することだった。制約条件の理論はそもそも「工場の生産性はネック工程の能力以上には絶対に向上しない」ということを前提にしている。そのため、ネック工程を制約条件として、ネック工程に他の工程を合わせるという考え方である。しかし、これでは改善できない。改善するには、ネック工程自体を改善してネック工程ではなくすれば良いわけである。すると、また別の工程が新たなネック工程になる。その新たなネック工程をさらに改善してネックではなくする。

これを繰り返していけば、すべての工程がより短時間でできるようになる、そのうえ、各工程を同じ時間でできるようにする、すなわち同期化させるわけである。ラインバランスをとるということである。これが従来から日本の工場で行われていた改善の考え方である。私が改善した方法も、まず、各工程を要素作業に分解し、時間測定を行い、さらに動作分析を行ったうえで、ムダな作業を削減するという方法である。この方法で、ネック工程から順次、改善をすすめて作業時間の短縮を図るとともに、各工程の時間バランスを図って少しでも同期化するようにしたのである。

要するに、制約条件の理論ではネック工程を基準に同期化を図るのに対して、日本の従来の方法はネック工程自体を次々と改善して時間削減するとともに全工程を同期化させるということである。つまり、アメリカの考えは制約条件を所与のものとみなしているのに対して、日本では制約条件自体をなくしてしまおうとするのである。改善は永久に続くという考え方をする日本と、制約は改善できないとするアメリカの考え方の違いである。

ちなみに、アメリカには改善という考え方はそもそもない。Improveと言う単語には日本の改善と言う意味はない。だから、外来語としてKAIZENと書くのである。

私が大学を卒業して数年たってから、トヨタの工場を見学する機会を得た。見学する前に昭和53年に出版された大野耐一氏の『トヨタ生産方式』を読んでおいたのだが、読むのと実際の現場を見るのとは大違いで、本当にびっくりした。そのうえ、本には書かれていないトヨタ生産方式の生みの苦しみを大野耐一氏本人から聞くことができて、本当にためになった。

その時の話を少しすると、トヨタ生産方式の目的は、いかに顧客の求める車を低価格で提供するかということだった。当時すでに、消費者の価値観の多様化、高度化が進み顧客は他人とは異なる自分にあった車を欲しいと願っていたと言う。つまり、既に多品種少量生産でしかも受注生産への対応を迫られていたわけである。

そこで、顧客のニーズにあった車を低価格で作るために、今日、トヨタ生産方式と呼ばれている方法を導入しようとしたのだが、これに大反対したのは営業部門だったそうだ。なぜかというと、当時は見込み生産だったから製品在庫が常にあって顧客が注文した車をすぐに届けられたのに対して、受注生産では車ができるまで1ヶ月待たないと届けることができなかった。

しかも、生産現場では部品をどうしても必要以上に作ってしまい、在庫がたまってしまったというのだ。いくら、必要な数量だけ作れば良いと口で説明してもダメだったという。と言うのも、従来はできるだけ短時間に多く作ることを目標にしていたのだから無理もないことだった。そこで、どんな方法をとったかというと、まず、必要数量作ったら強制的に帰宅させたそうだが、そうすると作業員は自分が首になるのではないかといっそう余分に作ってしまうのだそうだ。

それで、次に、余分に作った部品を作業員に持たせ、立たせたそうだ。つまり、体罰を与えたのである。こうして始めて作業員は必要数量だけ作れば良いんだ、ということが本当に分かってくれたということである。その後、作業員は早く帰宅したくていっそう早く作るようになって、ついには受注してから1週間で顧客に車を届けられるようになったということである。

なぜトヨタの話をしたかというと、現在トヨタ生産方式は世界中で活用されるようになっているからである。サプライチェーンではもちろんトヨタ生産方式が主流になっている。トヨタ生産方式に勝る生産方式は現在の所、世界にはない。また、トヨタ生産方式自体が進化を続けている。例えば、個別受注生産と見込み生産のいいとこどりをした、マスカスタマイゼーション(大量受注生産)が現在は主流になっているのである。

それなのに、いまさら、TOC(制約条件の理論)など全く役に立たない。実際に、『ザ・ゴール』にでてくる工場は、まったく管理していない、めちゃくちゃな工場だということは工場の管理者なら誰にでも分かる。もし、あなたが工場の管理者なら、『ザ・ゴール』の工場の改善など朝飯前だろう。今頃、TOCなど必要ないのである。

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