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開発&コンサルティング

第60回 日本の企業はなぜアメリカの企業に認証してもらうのか

最近、インターネットを利用した電子商取引が急速に普及している。インターネットのようなオープンネットワークを利用しての取引にはセキュリティの確保が最も重要となる。インターネットでも実社会での取引と同じような問題が発生する。第三者による電子情報の盗み見や盗聴、改ざん、成りすましなどである。そこで、情報に鍵をかけるとともに、実社会での印鑑やサインに相当する電子著名と印鑑証明に相当する電子証明書が必要となる。この電子証明書を発行する認証機関がアメリカには多く存在するが、最もよく知られているのがアメリカの民間会社であるベリサイン社である。

現在は、日本ベリサイン社もある。日本ベリサイン社のホームページを見ると、ベリサイン社はSSL暗号化通信が可能なウェブサイト中95%以上で利用され、フォーチュン500社のすべてで採用されているとのことである。まさに、ベリサイン社は世界標準となっていて、ベリサイン社のマークのあるサイトは信頼ができるというわけである。したがって、日本の企業もベリサイン社に電子証明書の発行すなわち電子認証(身元保証)してもらっているのである。

ベリサイン社に電子認証を依頼する場合、日本の法務局で登記簿謄本などの写しをもらって、それをベリサイン社に提出する。そして、それを基にベリサイン社が電子証明書を発行するようになっている。それならいっそ、日本の法務局が電子証明書を発行すれば良いではないかと考えるのは自然である。日本の会社は日本の法務局に商業登記をしているのだから、会社の身元保証とも言うべき電子認証は日本の法務局がすべきである。以前からなぜそうしないのか不思議であったが、その理由は簡単である。技術がないためである。日本の企業がわざわざアメリカの会社に身元保証してもらわなければならないのは情けないことであるが仕方がない。

その法務局が最近になって電子認証を行うようになった。これができるようになったのは日立製作所などがその技術を提供しているからである。しかし、法務省のホームページやパンフレットを見ると大きな問題があることがわかった。まず、OSとしてWindowsしか使用できない。サーバーとして最も多く使用されているUNIXでは動作しない。さらに、手数料が高い。

ベリサイン社は年間81,000円であるのに対し、法務局は96,000円である。それほどの違いはないと言うなかれ。仮に他の条件が同じであるとすれば、人は必ず安い方を選択する。技術はどうであろうか、信頼性はあるのか、など、いろいろな不安もある。なにしろ、実績がない認証機関なのだから。したがって、当分、日本の企業が法務局の電子証明書を利用することはないだろう。

しかし、それではいけない。やはり、本来は日本の企業の電子証明は日本の法務局が発行すべきである。法務局は企業に利用されるように努力してもらいたい。4月から手数料を少し安くするようだが、少なくともベリサイン社より安くしないと企業は利用しないだろう。

総務省のホームページを見ると、2003年より個人に対しても市役所・町役場などが電子証明書を発行する計画がある。e-Japan 計画に基づくものである。個人が対象なら手数料は安くなるだろうと思い、個人事業者や小規模事業者などがこれを利用すればよいではないかと考えた。しかし、残念ながらこの考えは甘かった。

e-Japan 計画はあくまで国民と政府との間の各種手続き(納税など)を電子化するというものである。したがって、個人認証してもらっても、個人相互間や事業者間の取引には使えないことがわかった。つまり、電子政府というものは、国民の利便のために作るのではなく、政府の利便のために作るのだということが改めてわかった。これだけではない。どうも役所によって異なる電子証明書が必要らしい。このために国民がいろいろな電子証明書の発行申請をしなければならない。しかも、それぞれに手数料を払わなければならないのである。これでは、国民は政府(役所)の思惑通りには動かない。

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