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開発&コンサルティング

第59回 経営コンサルタントは知識ではなく知恵(アイデア)を売る

経営コンサルタントという職業を誤解している人が多い。最も多い誤解が、経営コンサルタントになるには企業経営に関する勉強をたくさんしなければいけないと多くの人が思っていることである。もし仮にそうだとすると、大学の経営学部の教授は企業経営のことをよく勉強しているはずなので、経営コンサルタントになれるはずである。しかし、なれない。

企業の経営者は大学の経営学部教授の話は役に立たないので聞こうともしない。また、日本の大企業の経営者は企業経営に関する勉強をあまりしていない。それなのになぜ大企業を経営できるのか。企業の経営者が経営学を勉強しなくても企業経営ができるのと、経営コンサルタントが経営学を勉強しなくても企業のコンサルティングができるのとは同じ理由である。それは、企業を経営するのに必要なのは知識ではなく知恵だからである。

個々の企業にはその企業特有の問題がある。その問題を解決するにはどんなに勉強してもダメである。また、その解決方法はどの経営学の本にも書かれていない。結局自分で解決しなければならない。経営学にはどの企業にも共通する問題の解決方法は書いてある。したがって、どの企業でも起きるような問題は本を読めば解決できる。しかし、それは多くの場合すでに過去の問題になっているのである。

今現在起きている問題の解決方法はどの本にも書かれていない。なぜなら、経営学の本に書かれているものは過去の問題の解決方法だからである。経営学者は実際の企業経営に関することを調査研究してそれを理論化・一般化する。そして本に書く。つまり、実際の企業で問題が発生し、それを企業が解決した後に、経営学者がそれを本に書くのである。本に書かれているものは既に解決済みの問題なのである。

ところで、以上の経営学者というのは主にアメリカの経営学者のことである。実は、アメリカの経営学者の80%以上が元経営者である。自分で経営した経験から経営理論を作り上げるのである。では日本の経営学者はどうかというと、企業経営の経験はほとんどない。日本の経営学者の多くは大学を卒業すると大学院に進み、大学院を卒業するとそのまま大学に残って経営学研究を行なう。そして経営学者になる。

したがって、実際の企業経営は全く経験がない。それどころか、ほとんどの日本の経営学者は企業に勤めたことすらない。しかも、本来、経営学者である以上、その研究対象である企業を調査分析しなければならないはずなのにそれをしようとはしない。日本の経営学者の研究対象は企業ではなく、アメリカの経営学者の書いた本や論文なのである。なんと情けないことか。したがって、日本の経営者は日本の経営学者の話を聞こうとはしないのである。アメリカの経営学者が書いた本を読んだ方が良いからである。

アメリカの経営学者は世界中の企業について調査研究してその成果を本にしたり論文にしたりしている。その本や論文を日本の経営学者や経営者が読んで参考にしているのである。しかし、最初に書いたように、こうして書かれた本の内容はすでに古くなっているので、経営者にはほとんど役に立たないのである。あくまで参考にする程度である。よって、全く経営学の本を読まない経営者もいる。読んでいる暇などないと言う。それでも大企業を経営できているのである。

経営者は常に自分で問題解決をしなければならない。なぜなら、誰もその解決方法を教えてくれないからである。経営者が自分で考えて問題を解決したら、アメリカの経営者はその内容を本や論文に書くのである。そして、世界に広まっていくのである。これは経営学の歴史を調べてみればよくわかる。アメリカの経営者(=経営学者)にとっての先生は実際の企業であり、日本の経営学者にとっての先生はアメリカの経営学者なのである。

では、経営コンサルタントはどうか。以上でお分かりのように、企業が求めているのは知識ではない。よって、経営コンサルタントは知識ではなく知恵を売るのである。企業が問題を解決するにはどのようにすればよいか、その解決方法を提案する。その方法はその企業独自のものである。したがって、経営コンサルタント自身が考えなくてはならない。

こういう意味で経営コンサルタントはビジネスドクターというよりもスポーツコーチに似ている。スポーツコーチは選手といっしょになって問題解決を図るが、その場合にコーチは選手に解決方法を提案・序言し、選手はコーチの解決方法に沿って実施してみる。うまく解決できればOKである。解決できなければ他の方法を提案・序言する。そして選手が実施してみる。これの繰り返しである。したがって、スポーツコーチの仕事と同様、経営コンサルタントの仕事は考えるのが仕事である。勉強することではない。

とは言ってみても、やはり勉強はある程度必要である。それは、コミュニケーションのためである。つまり、企業の経営者や管理者が話す内容がわからなければ問題解決のお手伝いができないからである。いろいろな経営学に関する基礎知識がなければ企業経営に関する話ができない。しかし、勉強し過ぎるのはもっといけない。なぜなら、勉強するということは経営学者をはじめいろいろな人の考えを知ることになるが、ややもするとそれらの人の考え方にとらわれてしまうからである。

マネジメント・セオリー・ジャングルと呼ばれているように、経営学者が百人いれば、経営理論も百ある。経営者が百人いれば経営方法も百ある。しかし、どれもが他の会社の事であり、自分の会社のことではない。他の人の考えにとらわれると自分の会社の問題解決はできなくなってしまう。自分のことは自分で解決しなければならない。このことは経営者にとっても、経営コンサルタントにとっても同じである。

ちなみに、私がコンサルティング会社に就職したときに、先輩から「1年間は本を読むな、新聞を読むな、テレビも見るな」と言われた。その時、そんな馬鹿なと思ったがその理由が後でわかった。自分で考える習慣をつけるためである。先輩の指導に逆らって、一生懸命に本を読んだり、新聞を読んだりした同期入社のコンサルタントは、1年もしないうちに全員が退職していった。企業にコンサルティングに行って、本や新聞に書いてあることを話しても、コンサルタント料はもらえない。クライアント企業の問題を解決してナンボの商売である。

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