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開発&コンサルティング

第58回 経営コンサルタントの能力はトップにしかわからない

当然であるが、経営コンサルタントを雇うのはクライアント企業の社長や工場長などのトップである。したがって、経営コンサルタントは社長や工場長のために働く。決して、クライアント企業の役員や従業員のために働くわけではない。しかし、コンサルタントの評価をクライアント企業の役員や従業員に聞く企業が多い。

ある企業でコンサルティング契約の運びとなった。その企業では私のクライアント企業へ行って評判を聞いてきたと言う。非常に良いと言う。そこで、どなたがどんなことを言っていましたかと聞くと、○○部長が「いやな役員がいなくなって非常に仕事がしやすくなった」と言っていたと言う。まるで、私がその役員を追い出したかのようである。そこで、社長はどのように言ってましたか、と聞くと社長には聞かなかったと言う。社長に聞かなければ私のことはわからない。

通常、経営コンサルタントを嫌がるのはやる気のない人たちである。やる気のない人は役員クラスに多い。なぜなら、ほとんどの役員は保身に走るからである。役員は考える。「自分は社長の器ではない、仮にその能力があったとしても同族ではないため社長にはなれない」と。また、「社長のようなしんどい仕事はもうこの年ではごめんである」と。

多くの役員にとってはもう上はないのである。そこで、降格されないように、また逆に、面倒な仕事を任されないように努めるのである。しかし、社長候補の一部の役員は違う。また、やる気のある管理者や従業員も違う。やる気のある人にとって経営コンサルタントは味方だが、そうではない人にとっては敵であり邪魔者なのである。

したがって、一般には、やる気と能力のある人にコンサルタントの評価を聞けば高く、そうでない人に聞けば低いのである。しかし、どちらの人間かは外部の人間にはわからない。よって、トップに聞くべきなのである。

ある企業(C社)で新製品開発のコンサルティングを行った。C社では何年も新製品開発に取り組んでいるのだが、なかなかヒットする製品が開発できないので、開発業務の診断と同時に開発を手伝って欲しいと頼まれた。しかし私は、診断は止めましょう、実際に開発していく過程で実態がわかるので、開発終了時に診断報告書として別途まとめましょうと提案した。そして、早速、開発に取り掛かった。約8ヶ月かけて新製品を幾つか作った。テストマーケティング結果もよく、ヒットする可能性が高かった。社長始め開発部員や他部門も非常に喜んでくれた。

しかし、開発部長兼担当役員だけは苦しい状態にあった。それは、当初の狙いと全く違ってしまったからである。当初、その役員はコンサルティングを受けることに乗り気であった。コンサルタントに開発業務の診断を依頼しようと言い出したのはその役員であった。その役員の狙いは、いかに開発が難しいか、また、自分がいかに優れているかを社長はじめ全従業員に知ってもらいたかったのである。それを第三者であるコンサルタントに評価してもらいたかったのである。

しかし、結果は逆に、その役員の無能ぶりが誰の目にもはっきりしてしまったのである。その役員はかつては有能であった。しかし、それは管理者としてではなく、開発者としてであった。彼は業界で最も多くの特許取得者であり、数多くの製品を開発していた。しかし、それは若いころの話であり、現在の彼はもう自ら開発する意欲はなくなっていた。それでも過去の業績から開発部長兼務役員として開発部門を任されていたのである。

コンサルティング終了後、数ヶ月して別のある企業(H社)で新製品開発のコンサルティング依頼を受けた。その際に、私のことを知りたいのでクライアント企業を紹介して欲しいと頼まれた。通常はクライアント企業の秘密事項なのでお断りするのだが、予め許可を得た上でC社を紹介した。H社では早速C社へ行って私のことを聞いたようだ。その後H社からコンサルティング依頼はなかったことにしたいとことわられた。C社に電話してみると、かつての開発部長兼務役員に私のことを聞いたらしい。彼は現在は開発部技術顧問の肩書きで閑職であると言う。

実は、どのようなコンサルティングを行なっても、必ず誰かがいやな思いをすることになるのである。というよりも、多くの場合、クライアント企業のほとんどの人がいやな思いをするのである。なぜなら、有能でやる気のある人間は企業にはそれほど多くないからである。良く知られている、いわゆる20-80の法則で言えば、全従業員の20%の人が企業を担っていて、60%の人が担っている振りをしていて、残りの20%の人がやる気のある人の足を引っ張っているのである。つまり、そもそも当初からコンサルタントを歓迎するのは全従業員の20%しかいないのである。

また、課題によりコンサルタントに対する評価は異なってくる。新製品開発や製品のコスト削減などでは高く評価する人が多くなるが、業務効率化や業務改革などでは評価する人は少なくなる。なぜなら、製品を対象にした課題ならほとんどの人が傷つかないが、業務を対象にすればほとんどの人が傷つくからである。やる気があって有能な人なら自分の業務の欠点を指摘されれば喜ぶが、そうでない人は通常反発するからである。

コンサルタントはアメリカではビジネスドクターとも呼ばれるように、医者と同じで、悪いところを指摘し、その治し方をアドバイスして料金をいただく因果な商売である。身体の悪いところなら治した方がよいと誰もが思うが、仕事の悪いところは指摘されたくないし、治したくないのである。なぜなら、これまでづっと自分が良いと思った方法で仕事を行ってきたので変えたくないからである。

経営コンサルタントの能力は企業の課題解決のために企業の実態に合った提案・助言をする能力である。これは知識ではない。主に経験から生み出された知恵である。どのような仕事でもそうであるが、本をいくら読んで勉強しても仕事ができるようになるとは限らない。なぜなら、知識だけで仕事ができるわけではないからである。また、本を読むということは他人の考えを知るということであるが、それは同時に他人の考えをマネすることにつながる。

コンサルタントは常に自分で考えなくてはならない。他人のマネはできないのである。なぜなら、企業も同じだからである。企業は他の企業のマネをしても儲かるようにはならない。どの企業も経営資源が異なるからである。したがって、また、企業がコンサルタントを選ぶときは知識のある人ではなく、経験のある人、知恵の出せる人を選ぶべきである。そして、コンサルタントの能力はトップでなければわからないのである。

Ⓒ 開発コンサルティング

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