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開発&コンサルティング

第57回 中小企業白書は中小企業を馬鹿にしている

2002年版中小企業白書の表紙には、実にかっこいいことが書かれています。「まちの起業家」の時代へ、~誕生、成長発展と国民経済の活性化~と書かれています。これを見たとき私は胸が高鳴りました。いよいよ経済産業省と中小企業庁が重い腰を上げて、日本経済を立て直すために動き始めたなと思いました。

そこで、まず、白書のまとめが書かれている「まとめ」から読みました。「まとめ」には、ー「まちの起業家」と経済活性化(欧米の教訓)ーと書かれています。この、かっこ書きが気になりましたが、「まとめ」の本文を読んでみました。すると、文字どおり欧米のことが書かれていました。

そして、結論として次のように書かれていました。「日本経済が現代の状況を脱するためには、欧米で起こったように中小企業者それぞれが主役として活躍し、その総和が大きな流れとなる、こうした過程が生まれることが課題であろう」と。これが今年の白書の「まとめ」のまとめです。

私はこれを読んだときに腹が立ちました。なぜなら、現代の不況を脱するには中小企業が欧米のマネをすればよい、と書かれているからです。言い換えれば、政府は何もしないということです。例年の白書は、中小企業の課題と対策について書かれています。対策があまり書かれていない年が多いのですが、それでも課題が明確になれば取り組みようがあります。

今年は、欧米のマネをしろと書いてあるのです。これは課題でもなければ対策でもありません。しかも、不況が長引いて、もう後がない今こそ、最もがんばらなければならないのに、です。今がんばらないと日本経済が本当にだめになってしまうというのに、です。企業の99%以上は中小企業です。中小企業が元気にならなければ日本経済は元気にならないのです。中小企業を元気にするために必要な政策を決めて実行するのが政府の役割です。それが、こともあろうに、欧米のマネをしろとは、あきれてものが言えません。

怒りが少し収まってから、改めてじっくりと本文を読んでみました。第一部はもちろんですが、第二部も現状の分析に終始しています。私が以前から最も注目するのは、開廃業率です。日本経済が元気ないのは開業率より廃業率の方が高いのが原因だと思うからです。企業が倒産するのはいろいろな理由がありますが、経営環境に合わない企業が倒産するのは自然の成り行きです。よって、新しい経営環境に合った新しい企業が生まれることが必要になります。

つまり、環境の変化に伴って、新陳代謝を繰り返すのが経済の活性化なのです。しかし、廃業する企業が多く、開業する企業が少ないとなると問題です。日本はここ10年以上の間、開廃業率の逆転現象が起こっています。つまり、廃業する企業のほうが開業する企業より多く、企業の数が年々減っているのです。日本経済は新陳代謝が行なわれずに、年々老化しているということです。

それにもかかわらず、10年以上、政府はこれといった有効な手を打たないで来ました。それで、日本経済の老化現象に歯止めがかからなくなっているのです。今年こそなんとかしないと、倒産が倒産を生む悪循環で日本経済の老化が急速に進行してしまうのです。今がその分岐点、デッド・ポイントなのです。政府は、なぜ、そんなことがわからないのでしょうか。

この悪循環を断ち切るには、まず第一に、倒産するような企業を初めから開業させないことです。また、倒産するような企業には融資しないことです。第二に、発展成長する企業には手厚い支援をすることです。このためには企業を見る目利きが必要です。

第一の対策のために各都道府県にある中小企業支援センターに「事業評価委員会」というのが設置されていて、開業しようとする場合、その事業が将来有望かどうかを見極めることになっています。これがどの程度機能しているのか疑問です。白書はこの状況については制度発足以来一度も触れていません。委員たちが本当に目利きなのかわかりません。

第二の対策として、民間のコンサルタントを活用する経営アドバイザー制度がありますが、残念ならが予算が十分にありません。例えば、神奈川県の場合、経営アドバイザーは約500名も登録しています。しかし、実際にコンサルティングした件数は昨年で80件程度です。

これらの結果、目利きができない銀行が、倒産するような企業に湯水のごとく資金を貸し付け、不良債権を増やしているのです。その一方で、倒産しないようにするためのコンサルティングの資金はほんのわずかというわけです。しかも、企業も倒産しないように改善努力するよりも、銀行から金を借りた方が楽にできるのです。これでは、どうにもなりません。

白書は中小企業金融の課題もあげています。そこには、次のように書かれています。「一般的に、銀行等の貸手にとって中小企業者たる借り手企業のリスクを的確に把握するのは難しく、リスク把握のための情報収集・分析コストも中小企業側のディスクローズ能力不足の問題ともあいまって、中小企業向け貸し出しの場合は割高である」と。要するに、銀行は企業の倒産の可能性を判断するのは難しいし、企業もその判断に必要な情報を教えてくれないので貸し出し金利が高くなってしまう、といっているのです。

しかし、これははっきり言って言い訳です。なぜなら、コンサルタントは決算書などの当てにならない資料はほとんど見ないからです。必ず、現場を見るからです。企業の現場を見れば実態がよくわかるからです。よって、銀行員も企業の現場を見て経営判断できる能力を身に着ければ良いのです。

このために、銀行員は工場や店舗で働き、企業の実態を体験する必要があります。目利きを養成するにはこうしなければダメです。銀行の机に座っていて企業の実態がわかるわけがありません。中小企業庁の役人もまた、金の使い方を学ぶために中小企業で働く必要があります。中小企業を馬鹿にしたような白書を書いていないで、中小企業から学ぶべきです。

そもそも、中小企業庁も銀行も顧客志向にならなければなりません。しかし、中小企業庁も銀行も自分の顧客が誰だかわかっていないのかもしれません。あなた方の顧客は中小企業なのですよ。

Ⓒ 開発コンサルティング





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