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開発&コンサルティング

第56回 コンサルタントは改善案を作ってはいけない

コンサルタントはクライアント企業の改善案を作ってはいけません。まして、経営戦略を立案するなどとんでもないことです。このように言うと、おかしなことを言うと思われるかもしれません。コンサルタントなのだから、改善案を作ったり経営戦略を立てたりして、クライアント企業の成長発展のために仕事をしなくてはならないはずなのに、と思われるかもしれません。

しかし、良く考えてみてください。改善案を作ったり、経営戦略を立てたりするのはクライアント企業の仕事です。コンサルタントの仕事ではありません。なぜなら、コンサルタントは外部の人間ですからクライアント企業の経営資源や経営環境をよく知らないからです。まして、クライアント企業の固有技術は全く知りません。よって、改善案を作ったり経営戦略を立案したりすることはできないのです。

そもそも、経営者・管理者にとって最も重要な仕事は意思決定です。改善案を作ったり経営戦略を立案したりするのは、いろいろな意思決定の中でも重要な意思決定です。この意思決定を外部の人間に任せてしまったなら、企業は経営者・管理者が不在の腑抜けになってしまいます。まるで船頭も一等航海士もいない船のようなものです。波のまにまに漂う木の葉のようになってしまいます。経営者・管理者不在の経営管理をドリフティング・マネジメントといいます。ドリフティングとは波に漂うという意味です。

以前、あるコンサルタント会社で、新人のコンサルタントが先輩のコンサルタントの指導を無視してクライアント企業の改善案を作ってしまいました。そして、クライアント企業はコンサルタントが作ってくれたのだからうまくいくはずと思い、それを実行したのです。それで、その時はうまくいったので業績が向上しました。それをいいことに、また、コンサルタントが改善案を作り、企業もまたそれを実行したのですが、今度は失敗して業績が悪化してしまいました。

そのコンサルタントは失敗したのは経営戦略が間違っていたからだと言って、こんどは、こともあろうに、経営戦略まで立案してしまったのです。実は、クライアント企業の経営戦略を立案するのは、そのコンサルタント会社の方針で禁止されていました。それを無視して立案してしまったのです。そして、クライアント企業はその経営戦略を実行に移してしまったのです。その結果どうなったと思いますか。その企業は業績が急激に悪化し、半年後に倒産してしまったのです。

そのコンサルタントは、会社方針を無視しクライアント企業を倒産させたとして懲戒免職になりました。それだけではありません。クライアント企業の債権者から訴えられてしまったのです。数ヶ月の調停の後に、損害賠償金、数十億円をクライアント企業の経営者とそのコンサルタントとで半額づつ賠償することになりました。その数日後、そのコンサルタントは自殺してしまいました。

経営者も管理者もそれぞれの役割を果たさなければなりません。その中でも重要な役割が意思決定です。そして、意思決定の中でも特に重要な意思決定が経営戦略の立案と改善案の作成なのです。なぜなら、どちらも企業を成長発展させるための意思決定だからです。通常の業務遂行のための意思決定は主にルーティンワークですので、企業の維持存続に必要な意思決定だと思います。しかし、経営戦略や改善案は今後の企業の発展成長にかかわるものであり、しかも、初めて行う内容ですので、失敗することがあります。

そこで、失敗したら誰が責任を取るのかといったことから、このような重要な意思決定を避けようとするのです。そこで、近頃、流行しているアウトソーシング(外部委託)により、経営戦略の立案や改善案の作成まで外部に委託する企業が増えているのです。企業にとって最も重要なコア・コンピタンス(生存のための中核能力)は絶対にアウトソーシングしてはいけませんが、同時に、企業の成長発展のために必要な経営戦略の立案や改善案の作成も人任せにしてはいけないのです。

では、経営コンサルタントは何をするのかといいますと、それはクライアント企業が経営戦略の立案や改善案を作成するときに、その支援をするのです。つまり、経営戦略の立案の仕方とか改善案の作成の仕方を提案・序言するわけです。このような考え方で経営戦略を立てたらどうですか、このようにして改善案を作ったら良いですよという具合に提案・序言をするわけです。

この提案・序言を受けて、クライアント企業が経営戦略を立案したり改善案を作ったりして、それを実行するわけです。もちろん、コンサルタントは提案・序言内容をわかりやすくするために具体例を示す場合があります。しかし、それはあくまで例であって、経営戦略や改善案そのものではありません。また、場合によってはいくつかの改善案をコンサルタントが示して、その中からクライアント企業で選んでもらうという場合もあります。この場合でも、選ぶという意思決定はクライアント企業が行なうことになるのです。

ところで、コンサルティング(提案・助言)ではなく、診断の場合は以上の考え方とは異なります。診断は経営コンサルタントが主導で行ないます。現状を調査し、問題点を発見し、処方(問題解決の方向付け)を示すのはコンサルタントです。診断と治療(改善)とは別です。法律的にも、診断は請負契約ですが、治療(改善)すなわちコンサルティングは支援ですので、委任契約となります。

しかし、診断を請負ではなく、企業に行なってもらう場合もあります。コンサルタントが診断の仕方を提案し、それに沿ってクライアント企業で自己診断する場合です。これは主に大企業を診断する場合です。大企業の場合、有能な人がたくさんおりますから、この方が良い診断ができます。つまり、誤診がなくなります。

実際問題として診断に必要な人員や時間などをクライアント企業で負担してもらった方がコンサルタント側としても都合がよいのです。また、企業側も診断の手法を学べるので、従来とは異なる見方で仕事を見直し、自分たちで問題点を探し、処方を考えることができるわけです。そうすると、治療の段階で自分たちが考えたとおりに実行することができるので、大きな成果につながるのです。

以上、コンサルタントの役割とクライアント企業の役割を説明しましたが、新人コンサルタントは自己主張しすぎてとんでもないことをしでかすのです。ベテランコンサルタントはコンサルタントの役割とクライアント企業の役割を心得ているので、クライアント企業に喜ばれ、しかも成果を確実に上げられるのです。

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