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開発&コンサルティング

第54回 上手な粉飾決算の仕方(その2)

今回は具体的な粉飾の仕方について解説いたします。まず、なぜ粉飾するかですが、人も企業も税金をできるだけ払いたくないからです。と言うのも、せっかく汗水流して働いて稼いだ金を、税金で持っていかれてしまううえ、税金の無駄遣いが頻繁に行なわれているからです。「俺がせっかく稼いだ金を何でそんな風に無駄にするんだ」と怒り心頭に達して、それならこっちにも考えがある、とばかり粉飾に走るのです。しかも、それを税理士や会計士が手助けするのです。

なぜ粉飾するか、もう1つの理由は、銀行は赤字の会社には金を貸してくれないからです。よって、企業は実際には赤字であっても赤字にならないように調整するのです。結局、企業はあまり利益が出ないように、また、赤字にならないようにするのです。つまり、ちょっとだけ黒字になるように決算書の数字を「調整」するわけです。ですから、見方を変えれば、ちょっとだけ黒字になっている会社は粉飾していると見て間違いないのです。

利益を操作するには、売上に関する科目、原価に関する科目、利益に関する科目のすべてにわたって数字を調整して粉飾を気づかれないようにします。したがって、1ヵ所や2ヵ所見つけたからといって安心していてはいけません。また、一般に経営診断では、3年間の決算書を比較してどう調整したかを探るのですが、中には創業以来、数十年間にわたって少しづつ調整している会社もありますので、数年の比較だけではわからない場合もあります。

では順次、(1)税理士や公認会計士のような会計の専門家でなくてもわかる場合、(2)会計の専門家ならわかる場合、(3)会計の専門家でもわからない場合についてそれぞれ説明いたします。

(1)会計の専門家でなくてもわかる場合

まず、会計の専門家でなくてもわかる場合です。例えば、減価償却をしていない会社があります。減価償却をしなくても税法違反にはなりません。したがって、税務署は見て見ぬふりをします。実際に税務署に尋ねてみると「コメントできません」とのことでした。

では、銀行ではどうかというとこれもノーコメントです。銀行は貸した金を返してもらえればいいのです。よって、担保があるかとか、当面は倒産する心配がないか、ということに関心があるわけです。そもそも減価償却というのは、費用であるけれども実際には支払いがないので、計上しなくても実質的には変わらないのです。ですから、税務署も銀行もノーコメントになるのです。

もちろん、減価償却しないというのは、商法違反ですから罰せられます。しかし、なぜか実際に罰せられるのは倒産したときだけです。

ちなみに、減価償却というのは、企業にとっては非常に重要なものです。一般に、費用であると同時に内部留保(利益)であるという短期的な見方が強調されますが、むしろ重要なのは、将来の資産の買い替えのための積立金であり、火災が発生したり、技術の急激な進歩で資産が陳腐化した場合に備えての引当金でもあるということです。つまり、将来に備えての設備資金になるということです。減価償却の本来の目的はここにあるのです。

通常、外部への支払いや売上は相手があるので粉飾しにくいのです。主な売上げ先や支払い先を調べれば取引金額が一致しないのでわかってしまうからです。そこで、身内との取引にしてしまうわけです。例えば、昔から行なわれている方法が、子会社や関係会社に売上げたことにするとか、それらから購入したことにするといった場合です。押し込み販売などがそれです。

(2)会計の専門家なら分かる場合

不良債権などを関係会社に押し付ける「飛ばし」と言われるものもあります。これらは架空の会社を作って行なう場合もありますので、決算書にそれらしい科目があったら確かめる必要があります。確かめる方法は、同族か否か、事業内容は何かを調べればわかります。同族でしかも事業内容があいまいであれば、間違いないです。これらを防止するために連結決算が必要となるのです。

役員報酬や給与を「調整」する場合もよくあります。これらを受け取った人は所得となり、申告しなければならないので通常はごまかせないのですが、身内の場合は受け取らなくても受け取ったことにして所得税を払ったり、受け取っても受け取らなかったことにするわけです。

また、アルバイトとかパートなどのように短期間・短時間労働であることや一定の金額までは所得税がかからないということを利用して、架空の人に払ったことにするわけです。これを見破るためには、アルバイトやパートの現住所を調べ1人1人確認しなければならないので時間と手間がかかるのです。

雑収入とか「その他の営業収入」などのあいまいな科目は要注意です。これらは調整科目といってもいいくらいです。なにしろ「雑」とか「その他」ですから内容はよくわからないということです。金額が大きければもちろんですが、そうでない場合も調整のために使われる場合が多いので内容の確認をする必要があります。

例えば、営業利益を変えるために、その他の営業収入という科目を設けるわけです。さらに大まかには、営業利益+雑収入-支払利息割引料=経常利益ですが、中小企業の場合、支払利息割引料が大きいので雑収入を調整して経常利益を適当な数字に変えるわけです。

ついでに言えば、B/S(バランスシート:貸借対照表)の「その他の流動資産」などという科目も要注意です。中に何が入っているか粉飾を見破るための玉手箱であり、粉飾するためのゴミ箱と言っても良いでしょう。また、見慣れない勘定科目がある場合も要注意です。業界特有の科目とか、その企業特有の科目もありますが、きちんとその内容を確認する必要があります。

有価証券のように取得原価と時価とが大きく変わるものは、その変化を利用して利益操作することが当たり前のようになっています。有価証券売却益という科目は、含み益があるものを売却してすぐに買い戻したものが多いのです。ですから、これはいくらでも操作できます。しかも合法的にです。逆に、含み損があるものは、低下法により評価損を計上するのですが、これも計上しないでおくわけです。そうするとそれだけ架空の資産ができることになり、利益が出ているように調整できるわけです。これらを防止するためにも原価主義ではなく時価主義にする必要があるわけです。

(3)会計の専門家でも分からない場合

最後に、最も簡単に粉飾できて、しかも最も見破るのが難しい在庫の調整について説明します。粉飾するのに最も簡単なものが在庫の水増しです。水増しした分だけ利益になるので、最もよく利用?されます。これに関して、会計の専門家は2~3年間の在庫回転期間や原価率の変化を見ればわかるといいます。しかし、長期間にわたって少しずつ調整してある場合はわかりません。

また、デッドストックに関してもわかりません。そこでどうするかというと、実際に倉庫を調べるわけです。しかし、製品在庫の場合はすぐにわかってしまいます。なぜなら、製品の形になっているわけですから種類もわかるし数量を数えることもできるからです。

そこで、材料在庫や仕掛在庫を調整するわけです。これは簡単に見破ることはできません。その製品に関する知識がなければ、材料の種類も加工方法もわからないからです。まして、仕掛の度合いがどの程度なのかはわかりません。また、デッドストックについてもわかりません。

こういう場合には、その製品に関して人に聞いたり自分で調べたりするしかないのです。しかし、文科系出身の国税局の査察官や銀行員はこれをやらないのです。工場や倉庫を見ようともしません。最初からわからないと決め付けているからです。よって、粉飾するなら材料在庫と仕掛在庫を調整することです。簡単にできてしかも見破られることはほとんどありません。

通常、材料名などは専門用語を使います。ですから国税査察官や銀行員にはわかりません。これは何もメーカーに限りません。小売業でも仕入れた商品名をその店の人だけがわかるような名前に変えてしまうのです。こうしたほうが実際には良いのです。なぜなら、店の人同士が仕入れ価格などについて話しているのを顧客に聞かれるのはまずいからです。したがって、粉飾するためにそうするのではなくても、そうすることによって粉飾しやすくなるということです。

なお、経営コンサルタントは問題点を見つけるためには探偵のようにどこまででも調査します。しかも、それが簡単にできるのです。なぜなら、わからないことは企業に聞けば何でも教えてくれるからです。企業にとってはコンサルタントは問題点を見つけて儲ける方法を教えてくれるからです。

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