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開発&コンサルティング

第53回 上手な粉飾決算の仕方(その1)

「上手な粉飾決算の仕方」というタイトルを付けましたが、もちろん粉飾を奨励するわけではありません。粉飾の仕方がわかれば、逆にその見分け方もわかるということです。泥棒の手口がわかればその防止策がわかるのと同じです。

さて、私は夜間学生のころ、昼間、税務会計事務所に勤めていたことがあります。この事務所は個人の会計事務所としては大きな事務所で、簿記学校も併設しておりました。ここの所長(当時、東京地方税理士会副会長)がある時こんなことを言われました。

「税理士になって30年以上になるが、今までの関与先の中で、粉飾をしていなかったのはたった2ヵ所だけだった。1つは、学校法人でもう1つは宗教法人だった」と。その時私は、いくらなんでもそんな馬鹿なことはないだろう、と思いました。しかし、コンサルタントになってから、このことが本当だとわかりました。つまり、ほとんどの企業は経営者が意図しようがしまいが粉飾しているのです。

税務会計事務所の関与先企業はほとんどが中小企業です。通常、多くの中小企業の経営者や経理担当者は決算書すら作成することが出来ません。まして、自ら粉飾するだけの能力は持っていません。では誰が粉飾するのかといえば、それは顧問税理士や会計士などです。つまり、税務会計事務所が関与先企業のために決算書の数字を操作するのです。

彼らはこれを「調整」と言っています。税務申告書を作成する際に、決算書を基に課税所得を算定するのですが、その時に数字をプラスマイナスします。つまり、益金参入・不参入、損金参入・不参入の計算をします。この操作を「調整」といいますが、それと同じように決算書の元の数字を「調整」してしまうのです。したがって、中小企業の経営者や経理担当者が「調整」という言葉を使っていれば、それは粉飾していると思って間違いありません。

つまり、本来の「調整」は決算書の数字を基に課税所得を計算するために行うのですが、決算書の元の数字を変えてしまうのです。つまり、粉飾をすることになるのです。このことは、経営者や経理担当者も承知していなければならないので、経営者や経理担当者が税理士の真似をして「調整」という言葉を使えば、粉飾していることになるわけです。

さて、粉飾には2種類あります。1つは悪意で行うもの、もう1つは善意で行うものです。善意で粉飾するなんてことはないだろうと思われるかもしれません。しかし、実は商法に定める通りに決算書を作成するのは容易なことではないのです。まず、商法を良く知らなければなりません。そして、商法計算書類規則に定められているようにきちんと計算処理しなければなりません。しかし、これは実際には難しいのです。

例えば、毎年、決算の直前にすべての棚卸資産を実地棚卸して帳簿とつき合わせ、棚卸減耗や棚卸評価損を正しく見積もって計上しなければならないことになっていますが、実際には難しいのです。したがって、通常は高額のものだけを実地棚卸したり、毎月少しずつ1年かけて実地棚卸したりします。また、見積もり作業も大変なので、大まかにせざるを得ないのです。ところが、棚卸資産の金額を操作すれば簡単に利益操作ができてしまうのです。

また、勘定仕分けをする場合でもどう判断すべきか迷うようなことはたくさんあります。どの勘定科目にするかによって税法上の扱いが異なるのです。よって、法律通りにきちんと決算書を作成することは、通常、中小企業ではできないのです。例えば、営業員と顧客とで飲食した場合、その費用は接待費か販売促進費か福利厚生費かどれにするかといった場合です。

実は、コンサルタントになってから分かったことですが、ある一部上場企業では、独自の判断基準を作成しておりました。営業員の人数が顧客の人数より多いか少ないか、顧客が新規顧客かなじみの顧客か、売上状況はどうかなどを基に判断基準を作っておりました。

例えば、これから取引をしたい顧客と飲食する場合は接待費とし、売上目標に達していない状況で顧客と飲食する場合は販売促進費とし、売上目標の達成を祝って営業員数人となじみの顧客とで飲食する場合は福利厚生費とする。といった具合です。つまり、目的や状況などによって異なるということです。こういう判断基準を定めている企業は少ないと思います。

ところで、悪意であろうが善意であろうが、粉飾していること事態についてはコンサルタントが関与することではありません。クライアント企業が脱税しようがしまいが、商法違反の決算をしようがしまいが、コンサルタントにとっては関係ないからです。

ちなみに、銀行も脱税している企業を税務署に通知したりしませんし、税務署も商法違反の決算をしている企業を銀行に通知したりしません。他人の領分には口出ししないということです。コンサルタントも同じなのです。

コンサルタントの仕事は、あくまで、クライアント企業が儲かるように手助けすることです。いかに売上を上げ、コストを下げて利益を出すかです。その後で企業が数字をどのように「調整」しようがいっさい関与しません。また、興味もありません。

しかし、コンサルタントにとって、決算書の数字が当てにならないとなると、企業の実態がわからないので仕事ができません。よって、コンサルタントは粉飾を見分けられないといけないのです。

経営コンサルタントは、税理士や会計士などの会計のプロが顧問先企業のために「調整」した決算書を見て、どこをどう「調整」したのかを見分けられる能力を持っていなければなりません。それができないとコンサルタントとしての仕事ができないからです。

また、逆に、コンサルタントは税理士や会計士が見分けられないような「調整」をしようと思えばできます。なぜなら、税理士や会計士は経営の結果である決算書の数字を中心に企業を見ようとするのに対し、経営コンサルタントはその数字をもたらした原因を中心に企業を見ようとするからです。

その数字をもたらした原因は何か、どのような問題があるかを常に見ようとするからです。よって、その原因となる部分を「調整」すれば決算書の数字を簡単に変えることができます。しかも、税理士や会計士にはそれを見分けることはできません。また、税務署も銀行もそれを見分けることはできないのです。この理由を次回説明いたします。

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