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開発&コンサルティング

第52回 ダメ社員の上手な首の切り方

いろいろな企業でコンサルティングをしていると、ダメ社員をどのように解雇するかで苦労している会社が多いことがわかります。このような会社こそ業務改革を行うべきなのです。なぜなら、本当はダメ社員ではなく、自分に合った仕事がないため、やる気にならないからです。

業務改革は業務効率化と異なり、単なる人減らしではなく人の有効活用が主な目的だからです。つまりムダな業務を削減するとともに、今後やるべき業務などを計画しこれらの業務に適材を配置し、これによって人の活性化を図ることが目的なのです。業務改革とは昔から言う適材適所を達成する活動なのです。

ところが、単調な仕事を毎日行って満足している人たちもいます。こういう人たちは役員や部課長クラスに多いのですが、変化のある仕事や新しい仕事を好まないのです。例えば、毎日部下の作った書類に“はんこ”を押すことに優越感を感じ満足していたり、会議に出席して、できるだけ従来どおりが良いという意見を言っている人たちです。現状維持の方が楽だし、一応、課長とか部長とか言われているので、ムリしてこれ以上出世しなくても良いと思っているからです。

こういう人たちが多い会社で、私は「ためしに係長と部長を取り替えてみましょう」と提案します。実際に取り替えた会社は残念ながら無いのですが、本当に取り替えるのかと冷や汗をかく人も多いので意識改革にはなります。

業務改革活動は役員も部長も課長も一般従業員も関係なく進めます。すべて「○○さん」と呼ぶようにしていますし、課題によっては係長クラスをリーダーにして部課長クラスをメンバーにします。また、実際に、課題を解決しようとしている時には、良い意見や案を出した人に他の人は自然に従うものです。伊達に部長をしているわけではない、というところを見せられれば良いのですが実際にはそうでない場合が多いです。

現状にあぐらをかいている人たちが現状を改革しなければならない時に、どれだけ意識が変わり現状を改革できるかが企業が生き残るポイントとなります。したがって、こういう人たちの意識改革が必要です。どうしても意識が変わらない人は解雇するしかありません。人の足を引っ張るだけですから。

ダメ社員の上手な解雇の仕方を説明する前に、人減らしに苦労している会社の例をいくつか紹介します。

  1. まず、社長が全社員に対し人員削減の必要性を訴えます。次に、各部門の責任者が各部門で人員削減の必要性を訴えます。次に、担当者同士で飲みながら人員削減の必然性(そうせざるを得ないこと)について話し合います。次に退職金を少し上乗せした上で退職希望者を募ります。早期退職優遇制度というものです。しかし、希望者があまりいないために、退職金を大幅に上乗せして再度退職希望者を募ります。すると今度は退職希望者があまりにも多くなってしまいます。そこで、退職金の額をどの程度にすれば良いかで悩み、結論が出ないまま日が過ぎていきます。
  2. 社長が人員削減の必要性を訴えた後、各部門の責任者に人員削減の計画を提出させます。社長はその計画を見て、「もっと減らせ、計画をやり直せ」と言います。すると、各部門の責任者は「これ以上は絶対にムリです」と言います。そして問答をした挙句、結局、人員削減できないで終わってしまうのです。各部門の部門長は自部門で減らされるのは困るからです。
  3. 経理部と人事部で話し合って全部門一律に削減する数字(例えば20%)を出します。そして社長命令で各部門の責任者に通達します。しかし、なぜ全部門一律なのかと各部門から文句が出て、不公平にならないようにするためだと答えます。しかし、逆に、元々不公平なのだからそれを正すのが筋だろうと言われ、それには明確に答えられずに結局失敗します。単純に、業務成績や勤務態度の悪い人から順に目標の削減数になるまで解雇するやり方です。本人も納得せざるを得ないし、会社としても一見、良さそうに見えますが、本人の意向も会社の将来も無視した方法です。現在の人員配置が適材適所にあるとは限りませんから。
  4. まず、経理部で会社全体の削減すべき人件費を決めます。次に、人事部で部門ごとの人数(案)を決め、役員会で決定します。そして、各部門の責任者が部下と話し合って誰を解雇するかを決めます。この方法は部門の責任者が介錯人(首切り役)になるわけですが、比較的妥当なやり方です。 なぜなら、部門の責任者は誰を解雇すべきかを判断できる立場にありますし、部門の業績向上のためにどうすれば良いかを決める立場にあるからです。しかし、部門の責任者はいやな仕事を押し付けられたと苦い思いをします。もちろん、部門の責任者の解雇は担当役員が、役員の解雇は取締役会(実質的には社長)が行います。
  5. これまで30年以上、経営コンサルタントとして企業のお手伝いをしてきて、「あっぱれな方法」と思った方法があります。それは、「最も再就職しやすい人から解雇する」という方法です。具体的には、1番目に30歳以下の大卒男子、2番目に30歳以下の女子、3番目に40歳以下の大卒男子、という具合です。 そんなことをしたら会社の将来が無いではないかと思われるでしょうが、この会社の社長は、「仕事をするのに年齢や学歴は関係ない、若けりゃいいってもんじゃない、俺を見ろ」とアイデアマンで60代の社長が言っておりました。
  6. 最近では、早期退職優遇制度、役職定年制度、専門職制度、年俸制などを解雇の道具に使う場合があります。つまり、これらの制度を首切りのカムフラージュに使うのです。この方法は従業員にも比較的納得させやすいし、会社としてもトラブルにならないので採用する企業が多いようです。しかし、これらの方法には重大な欠点があります。それは、有能な人が退職してしまうということです。例えば、年俸制を採用するとして、辞めて欲しい人には年俸をぐんと低くし、残って欲しいという人には高くするのです。正しい人事評価に基づきそうするわけではないので、誰もが納得しません。そして、結局、有能な人が辞めてしまうのです。実は似たような方法は昔からありました。皆さんも記憶にあると思いますが、合理化、減量経営、スリム化、時短、リストラなどです。本来の業務効率化や業務改革活動ではなく、これらの言葉が人減らしの代名詞になってしまいました。このようにして、企業は人減らしをごまかすための新しいかっこいい言葉を探し求めるのです。づっとこの繰り返しです。

さて、本論に戻ります。どうすればダメ社員を上手に解雇できるのでしょうか。会社を辞める(労働契約の終了)方法は、労働者側からの退職、会社側からの解雇、会社と労働者の合意に基づく合意解約の3つがあります。合意解約は撤回することができますから、最もトラブルにならないのは労働者側からの退職です。したがって、ダメ社員を上手に解雇する最も良い方法は、解雇ではなく退職に持ち込むことです。

そのためには本人が納得する方法を取ることです。日ごろから本人と上司や同僚、会社との関係をギクシャクしないようにしておくことです。また、人事制度を充実させ、人の能力評価と職務内容と給与との連動、教育訓練などいわゆる人事トータルシステムを整備しておくことです。そのうえで何度も配置替えをしたり、教育訓練しても成績が悪くまた態度が悪い場合には本人も納得せざるを得ません。

2つ目の方法として、会社からの解雇の場合ですが、会社が悪いのだということをはっきりと言うことです。つまり、会社の業績や経営状況が悪くあなたの能力を十分に活用できないから仕方なく辞めてもらうのだ、是非、他の会社で能力を発揮して欲しいと言うのです。会社から解雇する場合、明らかに就業規則違反など法的に解雇できる場合以外、裁判に持ち込んでも勝てません。

最後に合意解約の場合ですが、解雇の通告をする場合には週をまたがないで5日以内に返事を出させることです。例えば、月曜日に通告し返事を金曜日までに出させるのです。これ以上短くても、また長くてもダメです。短い場合には、本人や家族の心構えができないためにごねることになります。また、週をまたいだり長い場合には、家族以外の人に相談するため、余計な入れ知恵をする人が必ずいてトラブルになり、よけい長引いてしまいます。

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