失業率が5%になりましたが、これは以前から想定されていたことで驚くことではありません。また、現在の小泉内閣による構造改革を推し進めることによって、いっそう失業が増加することも想定されています。おそらく、7~8%にまでなると思います。私は現在の日本では10%程度の失業率になるのがむしろ良いと考えております。
なぜなら、日本経済の活性化は、企業の縮小・廃業・倒産⇒失業の増加⇒創業・新事業創出⇒雇用創出、という新陳代謝が活発に行われることによってなされるからです。これによって古い産業が消え、新しい産業が次々と生まれるのです。新陳代謝が活発に行われれば失業率は自然に下がっていきます。現在の日本では新事業創出や創業があまり行われないので失業だけが増えてしまうのです。新陳代謝が活発に行われるような日本経済になるまでは、儲からない古い産業は早く廃業して、失業率が高くなった方が良いのです。
企業のレベルだけでなく仕事のレベルでも同じことです。新しい仕事のやり方を習得できない人は淘汰されます。例えば、パソコンが使えない人はデスクワークが出来ません。パソコンが使えない人というのは、言ってみれば、字が書けない人なのです。よって、仕事でも新陳代謝が必要なのです。
私は韓国企業の業務改革のコンサルティングのために、韓国に56回行きましたが、韓国では多くの企業経験や実務経験をした人が優遇されるのです。このことはアメリカでも同じのようです。いろいろな企業でいろいろな仕事をした経験があるということは、その人の経験が豊富だということですから優遇されるわけです。したがって、何度も失業したことがある人ほど優遇されるのです。日本とは全く逆です。
韓国の人達は自己紹介をする時に「5社勤務した経験があります」とか「私は6社です」などと自慢げに言うのです。私も何社勤務した経験があるかと良く聞かれるので「7社です」と答えると、それならば指導する資格がある、と言われます。さらに、「学生時代にアルバイトとして30種類以上の仕事をした経験があります」「コンサルタントになってからは100社以上の企業でコンサルティングをした経験があります」と言うとびっくりして非常に感心してもらえるのです。
最近、日本の若者の仕事に対する考え方が昔とはかなり変わって来ています。就職しないフリーターが増えていることや、就職しても自分からすぐに辞めてしまう若者が増えています。今回の失業率の増加の原因も若者の自発的失業が増えたためだそうです。これは昔より今の若者の方が考え方がしっかりしているということなのです。
なぜなら、自分の将来の職業を決めるのは簡単ではないので、いろいろと経験してから決めようと考えているからです。非常に良い考え方だと思います。政府も今の若者の労働意識を認識して、インターン制度(学生が在学中に就業体験をする)とかテンプ・ツー・パーム制度(労働者派遣企業が就職の紹介をする予定で社員を派遣する)を奨励しております。いずれもアメリカの真似ですが、非常に良いことです。これらの制度は、言ってみれば「結婚する前に試しに同棲してみる」という方法と似ています。
私は学生時代に、将来、経営コンサルタントになると決めたので、できるだけ多くの仕事を経験しようと努めました。生活費と学費を稼ぐために30種類以上のアルバイトをしており、その時の経験が今でも役に立っております。いろいろな仕事をいろいろな会社で経験してみることは本当に有益だと思います。また、大企業よりも中小企業に就職する方がいろいろな仕事を経験できます。中小企業なら自分がやりたいと思う仕事をやらせてもらえるからです。
ところで、アメリカでは、大企業に就職するのは無能な人であり、中小企業に就職する人は有能な人であると考えられているようです。なぜなら、中小企業に就職すれば創業しやすくなるからです。つまり、有能な人は学生時代からいつか創業しようと考えているのです。
さて、会社を解雇された人は会社の業績が悪いからか、それとも自分の成績が悪いからかのどちらかですが、いずれにしても会社にとっては必要のない人です。よって、再就職を期して自らを教育・訓練するしかありません。また、自ら会社を辞めた人は、自分に合った会社が見つかるまでフリーターでいるか、それとも創業するかです。私は有能でやる気のある人は創業すべきだと考えます。一度しかない人生ですから自分の能力を試してみるべきです。
ところで、昭和61年に廃業率が開業率よりも高くなる、いわゆる開廃業率の逆転現象が起こった時から、いままでづっと、政府は開業(創業)率を増やさなければ日本経済は活性化しないと10年以上言い続けております。しかし、一向に開業率は増えません。それどころか減る一方で、このままでは日本経済は失速してしまいます。そこでいろいろな支援策を講じました。でもやっぱり効果は上がりません。
そこで、平成10年には法律も作りました。新事業創出促進法というものです。また、平成11年に中小企業基本法も大改正され、「経営の革新と創業の促進」が政策の柱の1つとなりました。それでも、創業は一向に増えません。なぜでしょうか。その理由は政府が本気になって取り組んでいないからです。形だけの取り組みなのです。
政府が本気になって取り組んでいない証拠を示します。新事業創出促進法に4つの柱がありまして、第1の柱が「創業等の促進」となっています。しかし、この内容がなぜか施策総覧に書かれていないのです。昨年も書かれていなかったので故意に書かなかったのだと思います。そこで、六法全書でその内容を調べてみると、実にお粗末な内容でした。他の柱についての支援策は盛りだくさんあるのに「創業等の促進」はたったの3つしか支援策がありません。
その1つは株式上場を前提にした「ストップオプションの特例」でこんな施策は創業しようとする人にとっても、創業したばかりの企業にとっても何の役にも立ちません。しかも、この3つの創業支援策を利用するのは普通の人にはできません。なぜなら、「従来にない新商品・新サービスの開発や、従来にない革新的方法で商品・サービスを提供する事業を行うもの」が対象だからです。つまり、革新的な商品や事業でないと支援してもらえないのです。
ちなみに、創業者であれば利用できるもう1つの法律(中小企業創造活動促進法)もありますが、「著しい新規性を有する技術・ノウハウの研究開発やその事業化を行うもの」が対象でより厳しい条件になります。
中小企業基本法で重視しているはずの創業支援が、施策総覧にまとめて書かれていないというのもおかしな話です。あっちこっちにばらばらに書かれていてすべてを調べてみないと全容がわからないようになっているのです。このことでも政府が本気で創業支援をしようとしていないことが分かります。
さて、その他の創業支援策をみてみると、政府系金融機関の低利融資がいろいろあります。その中でも国民生活金融公庫の新規開業支援貸付、女性起業家・高齢者起業家支援貸付、小企業等経営改善資金融資などが比較的借りやすいものです。しかし、それぞれ条件がありますから、簡単という訳にはいきません。脱サラしてラーメン屋をやりたいといっても貸してはくれません。
ところがです。既存企業が新しくラーメン屋をやろうとすれば、それは経営革新だ、やれ新事業創出だ、それ新分野進出だと大騒ぎで、中小企業経営革新支援法や新事業創出促進法による補助金(タダでもらえる返さなくてよい金)、融資、減税措置など手厚い支援だけでなく、労働力確保法の支援も受けられます。新しく雇った人の給料の3分の1(1年分)を政府が出してくれます。なぜこんなにしてくれるのでしょうか。それは新しく人を雇うことになり、失業者がそれだけ減るからです。
以上でお分かりかと思いますが、政府は創業の促進よりも、失業率の削減を重視しているのです。創業や開業をしても事業を継続するのは難しいですから、せめて失業者を減らそうと考えているのでしょう。つまり、例によって「事なかれ主義」なのです。多くの人が開業したけれど事業がうまく行かなくてすぐに廃業してしまえば、開業率と廃業率が共に高くなるだけで失業者は減りません。そうすると、創業支援に使った税金がムダ遣いだったと言われることになります。そのことを恐れているのでしょう。
しかし、アメリカでは廃業率も開業率も日本の3倍以上です。次々と廃業して次々と開業しているのです。それでも失業率は日本より低いのです。これぞ国民経済の新陳代謝なのです。国民経済が活発な証拠なのです。日本も早くこうならないと本当に日本という国はダメになってしまいます。ところがいつまでたっても政府は失業を減らそうとだけしているのです。
それは、もちろん選挙対策のためです。有権者が失業した時に、失業したのは景気が悪いから、したがって政府が悪いから、と言われないようにするためです。要するに政府も有権者もお互いに傷をなめあっているだけなのです。政府はもっと本気になって、自発的失業をした有能な若者が容易に創業できるような環境を整える必要があります。
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