2001年版中小企業白書には、「平成12年の倒産件数は対前年比22%増の18,769件となり、特別保証制度の創設に代表される政府の金融安定化対策の効果が見られた平成11年の状況と比較すれば増加に転じている」(P.12)と書いてあります。
しかし、金融安定化対策の効果が見られたというのは本当だろうか、と疑問に思う人がたくさんいるのではないでしょうか。そこで、もう少し先のページを読んでみると、「特別信用保証制度は未曾有の信用収縮の下、中小企業を巡る金融環境が急激に変化した中で、臨時異例の措置として、中小企業の経営安定に多大な効果があったと考えられるものであり、一部にある“信用保証制度は淘汰されるべき企業の延命を図ったに過ぎない”といった見方はあたらない」(P.73)と書いてあるのです。
特別信用保証制度というのは、わかりやすく説明すると、中小企業が銀行から金を借りる際に、信用保証協会というところが保証人になってくれて、もし借りた金を返せなくなったら、この協会と中小企業総合事業団が代わりに返してくれるというものです。平成11年にはほとんど無条件でこの制度が利用できたので倒産件数が激減したのですが、当然のことながら、そのために借りた金を返せない企業が急増し、国会で問題になったのです。そのことに対して白書は反論して書いているのです。
ところが、「“淘汰されるべき企業の延命を図ったに過ぎない”という見方は当らない」と書いてあるその根拠はどこにあるのかというと、この制度を利用した企業にアンケート調査をし、その結果が書かれているのです。だが、それが問題なのです。この制度の導入前と最近の状況とを比べて見ると、大いに改善した12%、若干改善した27%、変わらない25%、若干悪化した27%、大いに悪化した9%、となっています(P.75)。改善したは合計で39%、悪化したは合計で36%なので、白書は「中小企業の経営安定に多大な効果があったと考えられる」と書いているのです。
改善したが39%で悪化したが36%ですから、その差はたったの3%です。これで多大な効果なのでしょうか。しかも、悪化したというのは金を借りたのにかえって悪化したという意味ですから、借りなかった方が良かったということです。金を借りれば当然、支払い利子が増えるわけで資金繰りが悪化するわけです。要するに元々返済の見こみのない企業がこの制度を利用した可能性が高いのです。
何しろ、ほとんど無条件で貸してくれるわけですから、返済計画などいいかげんで良かったわけです。中小企業庁はこのことを反省して、12年度から返済計画をきちんと作らないと貸してもらえないようにしました。しかし、平成12年6月末の段階で既に約42兆円もつぎ込んだのです。中小企業に大盤振る舞いしたわけです。要するに多額の税金を無駄に使ったのです。
42兆円をつぎ込んだのに、悪化した企業が36%あり、変わらない企業が25%あります。合計すると61%の企業が金をつぎ込んだのがムダだったということです。これでも多大な効果があったと考えられるのですか。中小企業庁というところは少しおかしな考え方をする所のようです。
“淘汰されるべき企業の延命を図った”という見方の方が当っています。その延命が図られた企業が平成13年になって倒産し始めており、倒産の増加の原因になっていると考えられるのです。あるコンサルタントは、「脳死状態にある企業に金をかけて死ぬのを遅らせただけだ」と言っておりました。
しかし、中小企業庁ばかりを責めても仕方ありません。問題は、実際に金を貸した銀行であり、金を借りた企業です。銀行は企業に金を貸す時にろくに調べもしないで貸したわけです。また、調べてもわからないのです。銀行は企業を診断する能力がないのですから。だから、金を貸すときには必ず担保を取るのです。銀行が診断できない証拠です。
また、銀行員はほとんどが文科系の人ですから、製造業や建設業などの内部状況を調べてもわからないのです。材料や製造工程を見ても何がどうなっているのかわからないので、企業の問題点がわからないのです。もちろん粉飾も見分けられないのです。なぜなら、銀行員のほとんどが簿記・会計を知らないからです。知っているのは、いわゆる銀行簿記というもので、貸借が逆になっているものです。
一方、金を借りる企業の方は、後のことを考えずに借りられるものは借りてしまえというわけです。これは自己破産した人達と同じ考え方です。今、欲しいものがあるから金を借りて買ってしまう。いくらでも借りられるので借りてしまう。借りた金は自分の金だと思いこんでしまうのです。
金を貸すときにはやはり厳しくしないといけません。返済計画などどうにでもでっち上げられますから、こんなことで敷居を高くしても何もなりません。重要なのは、銀行の企業診断能力を高くすることです。制度として補助金やら融資やらいろいろありますが、金を貸す銀行が企業を診断できないのです。診断能力がないから担保に頼るのです。銀行は担保さえあれば返済してもらえると思うわけです。
これでは、今は担保物件がないけれど技術力や開発力があり将来成長が見こめる企業が成長できません。せっかく、12年度から各都道府県支援センターで事業評価制度や民間のコンサルタントを活用した診断助言制度を運用し始めたのですから、これらと金融制度とを連動させた制度を強化すべきでしょう。そうすれば、不良債権問題は永久になくなり、日本の将来を担う企業が成長発展できるのです。
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