ERPパッケージとは、製造、販売、物流、会計といった様々な業務を統合的に処理できる機能を持つソフトウェアを標準化したものである。(中小企業白書2001年版 P.139)
また、日経BP社の『50のキーワードと事例で学ぶ最新IT経営』によると、「ERPとは、経営資源を有効活用することで、効率的な経営スタイルを目指すという経営概念です。コンピュータ用語ではありません。この点を注意しないと、ERPの意味をアプリケーション・ソフトのパッケージ化と取り違えてしまいます。実際、多くの企業がERPパッケージを導入しましたが、ERPの概念を理解しないで構築した企業が少なくありません。ERPパッケージの導入に失敗した企業が後を絶たない理由は、ここにあります」とのことです。
この、失敗した企業が後を絶たない原因について書いてみようと思います。中小企業白書にも他の視点からの失敗例が掲載されています。参考にしてください。
先日、ビジネスショーに行ってきました。年々、展示企業や内容が変化しているので、ビジネス支援の変化もよくわかります。4~5年前はロータスの全盛期でした。2~3年前は富士通やNECなどががんばっておりました。そして、現在ではNTTグループの全盛期となっております。アドビシステム社も今年はかなり力を入れております。この数年の間、業務支援ソフトもいろいろ変化しており、また、いろいろなソフトが次々と生まれてめまぐるしい限りです。いろいろと便利になって良いのですが、やはり本質的な業務改革や業務効率化の支援には程遠く、まだ、定常業務の処理支援しかできないようです。
ある大手企業のブースで、「当社のERPパッケージなら、ビジネスの一連の流れを業務改革できる」という文字が目に入り、早速、商品説明を聞いてみました。ところが、業務改革とはあまり関係のない説明ばかりするので、こちらから質問をすることにしました。
「質問:ある企業で経営計画がまったく実行できていないことがわかりました。どうすれば良いですか。」「答え:それは・・・・」「質問:では、もっとわかりやすく質問します。やるべき仕事がまったくできていない場合、どのようにすれば良いのでしょうか。」「答え:やるべき仕事をやらないのですから、やれば良いのではないですか。」「質問:そういう場合にこのソフトはどう利用するのかをお聞きしているのですが。」「答え:予め、やるべき仕事をワークフローにしておかないといけません。ワークフローが設定されていない場合には、処理できません。」「質問:ではワークフローはどのように設定するのですか。」「答え:それは仕事の流れに沿って仕事の内容を記入すれば良いだけです。」「質問:仕事の流れと内容はどのように決めるのですか。」「答え:それはユーザー企業が都合の良いように決めれば良いのです。」
どうもこの企業は、業務改革の意味を理解していないようです。業務改革というのは、ひとことで言えば「新しい考え方で業務を再構築すること」です。つまり、現在の業務を見なおし、ムダを削減する(業務の効率化)だけでなく、新たにやるべき仕事を設計して実行していくことです。現状業務の効率化と業務の再設計およびこれらの実行なのです。その際に従来の考え方ではなく新しい考え方で行なうことなのです。これが改革の意味です。言うなれば「業務の創造的破壊」です。少なくとも業務の再設計の支援ができなければ業務改革の支援ソフトとは言えません。
では次に、現状業務の効率化はできるのかを聞いてみました。「質問:ある会社で営業課長がこんなことを言っていました。営業部長が、毎月、営業報告書を書いて出せというのでそのようにしているが、どうも営業部長はそれを見ていないようなので止めたい。口頭報告を毎日しているので報告書を書く必要はないと思いますので。」「答え:このソフトを使ってもそんな問題は解決できませんよ。」「質問:部長が営業報告書を本当に見ているか見ていないかをソフト上で確認することはできませんか。」「答え:それはできません。直接聞いたらどうですか。」
実は、数社のソフトメーカーが販売しているERPと銘打った商品は、決められた業務について業務内容の共有化を図り、業務処理をし易くして、処理速度を早くするというものです。業務改革どころか業務の効率化もできません。あくまで業務処理速度を速くするだけです。つまり、新規業務の設計や現状業務のムダの削減などの支援はできないのです。ちなみに、ムダな業務の処理速度を早くしても業務の効率化にはなりません。
要するに、ERPを導入する前に業務改革や業務効率化を徹底的に行う必要があるわけです。その後、ERPを導入して業務処理速度を早くするという使い方になるわけです。ERPを導入すれば業務改革や業務効率化ができるわけではありません。ソフトメーカーではERPを導入すればこれらができると宣伝しています。ですから、ERPパッケージを導入しても失敗する企業が後を絶たないのです。ソフトメーカーのかんばんに偽りありですから景品表示法違反となります。したがって、当局はきちんと取り締まってください。
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