銀行の貸し渋りで、多くの中小企業が苦しい状況におかれていますが、苦しいのは銀行も同じです。では、いったい何が問題なのでしょう。根本的な問題は、高度経済成長時代からの、いや、そのづっと以前からの持たれ合いの体質です。
銀行の貸し渋りで倒産する企業が増えているようです。銀行もまた倒産の憂き目に遭っています。バブルの崩壊でどうのこうの、景気が非常に悪いのでどうのこうのと、自分のことを棚に上げて何かとその原因を外部環境のせいにしています。景気循環は産業革命の頃からあるのです。いまさら、景気が悪いのを苦しい原因にするのはお門違いです。景気が悪くなるたびに、苦しい、苦しいと言っている企業は、間違いなくそのうち倒産するでしょう。
また、例によって外国のマネですが、銀行はビックバンとかで変わろうとしています。それで、銀行は変わると思いますか。おそらく、少しも変わらないでしょう。また、あれほど騒いだ総会屋問題も、コーポレート・ガバナンスも、やはりいまだに何も変わっていません。今後もまた、同じ問題が出てくるでしょう。以前にも書いたように、これらの問題は私が学生の頃からづっと繰り返されているのですから。また、最近、企業の相互持ち株比率を下げ、企業の独立性を高めようとしていますが、おそらくこれも根本的には変わらないと思います。
なぜ、いつまでたっても企業は変わらないのでしょうか。それは、基本的な構造が変わらないからです。日本では、企業と企業とが癒着し、企業と銀行とが癒着し、銀行と政府とが癒着し、お互いが持たれ合って生きているからです。癒着とは、「本来離れていなければならないものが、くっついてしまうこと」と辞書には書いてあります。助け合う共生ではないのです。ですから、何か問題が起きれば共倒れになるのです。このような持たれ合い構造がどのようにして作られたかについて解説しましょう。
経済の専門家にもあまり知られていないのですが、経済史にガーシェンクロン・モデルというのがあります。国が工業化する場合、工業化が遅れた後進国ほど、どうなるかという特徴を明確にしたものです。それによると、
1.後進国ほど急速な工業化が行われる。
2.後進国ほど軽工業より重工業が早期に発展する。
3.後進国ほど当初から大規模な企業が生まれる。
4.後進国ほど政府や銀行が深く介入し、非自生的発展が行われる。
5.後進国ほど共産主義、社会主義といった強烈なイデオロギーが必要になる。
以上の5つです。どうですか、イギリスより工業化が遅れたフランスやドイツ、日本などの特徴をよく表わしているでしょう。さらに、日本より遅れた韓国、中国、ソ連などをみると、より当てはまるのが分かるでしょう。この5つの項目の中で最も重要なのは、もちろん4番目の政府や銀行の介入です。フランスやドイツでも同じですし、韓国は日本よりひどいです。また、中国やソ連が共産主義・社会主義国になったのもここに原因があります。
つまり、後進国が先進国に植民地化されないように経済的自立を果たし、そのうえ、先進国と競争し、生き残っていくためには、民間の企業に任せてはおけないのです。政府主導で急速に工業化を推し進めなければならないのです。軽工業よりも重工業を大規模に推し進める必要があったのです。そのためには、政府が銀行を作り、大企業を作り、国民が一丸となってがんばらなければならず、強烈なイデオロギーが必要となるのです。したがって、工業化が遅れた国が先進国に追いつくには共産主義・社会主義国にならざるをえないです。
日本の場合は、民間の企業も先進国である欧米に追い付き、追い越すために政府や銀行、大企業と一丸となってがんばったのです。こうして、政府、銀行、企業の三つ巴の結束ができあがったわけです。そして日本は高度経済成長を果たし、ついに、世界一の工業国(ジャパン・アズ・ナンバーワン)となったのです。ところが、高度経済成長が終わると、協力し合うはずの関係が逆に持たれ会いの関係になってしまったのです。実は、景気が好くなると協力し合い、景気が悪くなると持たれ合うことを、明治以来づっと続けているのです。性懲りもなく続けているのです。困ったものです。
以上でお分かりかと思いますが、明治以降の民間への政府や銀行の介入がいまだに続いており、銀行は政府を頼り、企業は銀行や大企業を頼り、そしてまた、政府は国民に頼って生きているのです。国は国民から多額の借金をしているのですから、この、「持たれ合いの構造」すなわち「甘えの構造」が、何かが起きるたびに問題となって出てくるのです。
この甘えの構造を数字で表わしているのが自己資本比率だといってよいでしょう。自己資本すなわち自分の金が、借りた金を含めたすべての金の中でどのくらいの割合あるかです。企業は高度経済成長時代に金をどんどん銀行から借りて会社を大きくし、大量生産・大量販売をしてきた癖がいまだに直らないのです。
そしてまた、いざとなれば銀行が助けてくれると思っているのです。つまり、甘えている企業ほど金を借りていることになります。企業の自己資本比率は平均で25%ぐらいです。自分の金が全体の四分の一しかないのです。ちなみに、トヨタ自動車は自己資本比率約70%です。これなら絶対安心です。銀行よりずっと安心です。
なぜなら、銀行は企業よりはるかに悪いからです。政府は、銀行の自己資本比率を4%以上にしようとしています。4%が目標とは、なんとおそまつでしょうか。自分の金が4%以下で、政府から借りた金が96%以上なのですよ。
というわけで、現在苦しい企業は大きくなり過ぎたのです。身分不相応なのです。売上を増やし会社を大きくすることに一生懸命だったのでしょう。そのツケがいま来ているのです。もし、この不況を乗り切れたのなら、もう絶対に身分不相応な成長はしないことです。でも、きっとまた同じことをやるでしょうね。そして、きっとその時は倒産するでしょうね。
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