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開発&コンサルティング

第41回 自分で自分を動機づけするように仕向けると良い

人を動機づけするのは非常に難しい。これが簡単にできれば、人は仕事も勉強もスポーツも何でも一生懸命にやるようになるだろう。動機づけの要因は人によって異なるので、人を動機づけするよりも、自分を自分で動機づけするように仕向けた方が良い。

動機とは、ある考えを決めたり、行動したりする直接の要因をいう。したがって、動機づけとは、その要因を与えその気にさせることである。ではその要因とは何か。それが重要なのである。

まず、動機づけに関する過去の研究成果を概観してみることにしよう。

  1.  約100年前、F.W.テイラーは、「作業者は高い賃金を求めて働くものだ」と考え、差別出来高給というきわめて刺激的な報酬制度を導入した。しかし、この動機づけ方法は作業者からは歓迎されずに普及しなかった。人間は金だけでは動かないということだ。

    実際、給料を上げても2、3ヶ月すると元に戻って、やる気がなくなってしまうのである。今や日本は世界でも高い賃金水準だというのに、いまだに賃上げ闘争ばかりしている労働組合は少し反省すべきであろう。経営者側も同様である。なぜ人は働くのかをよく考えて見ればいい。ボランティア(無料報酬)で一生懸命に働く人たちのことを考えてみるがいい。

  2.  約70年前、ハーバード大学のメイヨー教授らによりウエスタンエレクトリック会社のホーソン工場で行われた実験では、人は労働条件や労働環境には関係なく働くことがわかった。さらにこの実験で、職場の人間関係によって生産性が変化することがわかった。人間関係という言葉はこの実験によって生まれた。また、このことから非公式組織(インフォーマル組織)の重要性が認識され、動機づけのために職場懇談会や社内報、提案制度などが生まれた。

    しかし、人間関係によって生産性に影響があることはわかったのだが、人間関係が良ければ生産性が上がるわけでもないこともわかった。つまり、単なる温情主義だけでは人間は働かないということだ。

  3.  A.H.マズローは人間は常に何かを欲求している動物であり、それが動機となって行動する、という説を唱えた。そして、その欲求とは、(1)生理的欲求、(2)安全への欲求、(3)所属と愛の欲求、(4)尊厳の欲求、(5)自己実現の欲求の5つであると言った。

    これは、人はなぜ行動するのかについての説であるが、なぜ働くのかをこの説に当てはめてみると、(1)人はまず食うために働く、(2)安全で安定した生活をしたいから働く、(3)何らかの組織に所属し友人や恋人を作りたいから働く、(4)人から仕事が良くできると言われたい、また尊敬されたいから働く、(5)自分の能力を発見し、また能力を発揮したいから働く、などとなろう。

    人間は常に何かを欲しがっており、それが満たされるとさらに別のものを欲しがるようになる。そしてそれが働く動機となる。という考えは納得できる。しかし、肝心のどうすれば動機づけができるかがわからない。

  4.  マクレガーはX理論とY理論というものを唱えた。X理論は、「人間は働くのが嫌いで強制されなければ働かないものだ」という考えであり、Y理論は、「人間は目標達成のためには自分に鞭打ってでも働くもので、そうするかどうかは報酬しだいである」というものだ。もちろん、この場合の報酬は金だけではない。

    Y理論によれば、企業の目標と個人の目標とを一致させれば、個人の目標を達成することが、企業の目標を達成することになると言う。このことから、「目標による管理」という動機づけ方法が用いられるようになった。しかし、多くの企業で行われている「目標による管理」は、実際にはあまりうまくいっていない。それは、企業の目標と個人の目標とがかけ離れているからである。

  5.  ハーズバーグは、仕事そのものが動機づけに影響すると考えて調査した。その結果、仕事に不満を感じることと仕事に満足することとはまったく別の要因によることを発見した。すなわち、仕事に不満を感じる要因は、会社の方針、経営方法、管理方法、給料、対人関係、労働条件などであり、仕事に満足する要因は仕事の達成、承認、仕事の内容、責任、昇進などである。

    そこで、会社は経営方針を見直し、経営管理方法、労働環境、労働条件などを改善すると同時に、従業員が望む仕事をできるようにしたり、自由裁量の余地を広げたりすることによって、従業員をやる気にさせることができるというのである。これを職務拡大(仕事量の拡大)と職務充実(仕事の質の充実)と呼んだ。ところが、この考え方は元々やる気のある従業員にしか通用しないのである。

  6.  大勢の人が共通の目的に向かって働くようにするためには、リーダーがいなければいけない。そこで、リーダーシップのあり方が問題になる。ここに目を付けたのがリッカートという人である。リッカートは、いろいろなリーダーシップの仕方を挙げて、そのうちで最もよさそうなリーダーシップを挙げている。しかし、一派ひとからげのやり方ではどんなやり方でもダメなのである。

    温情主義の上司も、仕事中心主義の上司も、あるいは従業員中心主義、つまり自治体のように仕向ける上司でもダメなのである。なぜなら、個人によってリーダーシップの仕方を変えなければならないからだ。つまり、人間は1人ひとり何のために働くのかその要因が異なるからである。

  7. 人は働くことによって得られるものを期待し、それに価値を持つが、その期待する価値が人によって違うのである。例えば、金儲けに価値を持つ人もいれば、困っている人のために働くこと(ボランティア活動)に価値を持つ人もいるのである。つまり、人間は主観的な期待価値によって行動するというわけだ。これを発見したのがブルームという人でこのことを期待理論という。だから人を動機づけするのは難しいのである。

以上、過去のおける先人の研究成果について概要を述べたが、最後に私の考えを述べよう。いろいろな企業を見ていると、動機づけがうまくいっている会社は少ない。いつだったか、松下幸之助さんが生前、テレビで対談をしているのを見ていたら、こんなことを言っていた。「うちの社員は、自分勝手にやりたいことをやっているようだが、私からみるとみんな私の思う通りに動いている」と。なんとすばらしいリーダーシップだろうか、と私は思った。

だが、松下電器で働いている友人に聞いてみると、「とんでもない、松下イズムというのを聞いたことがあるだろう。親父さんに逆らったら会社にはいられないよ」と言っていた。つまり、幸之助さんの一人よがりだったのだ。どこの会社でも似たようなものであろう。

そこで、私の考えはこうである。「会社や上司などを期待してもだめ。自分の動機づけは自分でやりなさい。自分のことは自分が一番良く知っているのだから。そのためには、会社も上司も仕事も自分で選びなさい。自分がやりたいことをやりたいようにやりなさい。そのためには、自分を売り込めるだけの力をつけなさい」というものである。

会社としては従業員が自分で自分を動機づけするように仕向け、その環境作りをすることである。そうすることによって、会社も有能な人を育てられるし、本人にとっても非常に良いわけだ。つまり、松下幸之助さんの考えたことが実現できるのである。

Ⓒ 開発コンサルティング





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