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開発&コンサルティング

第37回 お役所への提案はお役所のメリットを考えて

企業で業務改革のコンサルティングを行うと必ず言われることがあります。それは、お役所の業務改革をして欲しいということです。企業がお役所と関わる業務を改善しようとして、お役所に提案しても却下されると言うのです。しかし、却下されるのは提案の仕方が悪い場合が多いです。

ある銀行で業務改革のコンサルティングをした時の事例を書いてみたいと思います。ある銀行に、外国為替取引を業務としている、外為一課と外為二課という2つの課がありました。外為一課は新規の顧客を担当する課、外為二課は取引が定常的に行なわれるようになった常連企業を担当する課です。

取引期間や頻度、金額、トラブル状況など一定の基準に達すると外為一課から外為二課に顧客が移管されます。外為一課は手続きに関する小さなトラブルが頻繁に発生しますが、外為二課は取引内容に関する大きなトラブルが時々発生します。したがって、対処方法も異なり、専門化しているため2つの課に分かれているわけです。

外為一課から外為二課に顧客を移管する場合、顧客から預かった担保物権やいろいろな資料も当然移管します。その場合、まず、外為一課の担当者がチェックし、係長がチェックし、課長がチェックしてから外為二課の担当者に渡します。次に、外為二課の担当者がチェックし、係長がチェックし、課長がチェックしてから、最後に部長がチェックし承認します。

その後、担当者が金庫や関係部署に顧客移管の手続きをとります。簡単に書きましたが、実際にはかなりたいへんな作業なのです。何しろ大口の顧客になりますと数億円分の担保物権になりますし、預かった書類も段ボール10個以上になるのですから。

以上の手続きは、大蔵省と日銀で詳細なマニュアルを決めて管理しているのです。銀行業務というのは、単に大蔵日銀(大蔵省と日銀をまとめてこう言う)が決めた通りにやることなのです。そのため銀行では、大蔵監査に対して、戦々恐々の毎日です。ところが、この手続きはたいへんなだけでなく、複雑かつ矛盾したところもあります。

例えば、日常の取引では、大口の顧客は課長が主に担当し、中口の顧客は係長が担当し、小口の顧客は一般社員が担当するという具合に分かれていますので、移管する時になって始めて、自分が担当していない顧客の資料を見ることになるのです。また、始めは小口の取引だった顧客がだんだんと取引量が増えていき、そのまま担当者がその顧客の専任担当になることもあって、担当者ごと、外為一課から外為二課に移る場合もあります。そんな時には、この移管に伴う手続きが非常にムダな手続きとなるのです。大蔵日銀は形式を重視しておりますので、実際の業務ではこのようなことがしばしば発生するのです。

そこで、この手続きを簡素化すると同時に、状況に合わせて臨機応変にできるように改善案を作り大蔵日銀に提案することにしました。銀行ではそんなことするのは、それこそムダだと言って、始めは取り合わなかったのですが、たまたまある大口顧客の移管業務があって、あまりにも複雑なことが誰の目にもわかったので、思いきり提案することにしました。2人の課長で改善案を作り、部長の承認を得た後、私にもその案を見せてくれました。

その案を見た途端、私はこれでは絶対に認められないと思いました。確かに、その内容を見ると、いかに複雑でムダな業務であるかが良く書かれており、改善案も納得できるような内容になっておりました。しかし、肝心のことが抜けていたのです。それは、大蔵日銀にとってどんなメリットがあるかということです。

改善案というものは、自分の都合の良いようにだけ書いても認められることはありません。必ず承認をする立場の人の都合を考えて書かないといけないのです。改善内容は同じでも書き方によって承認されるかされないかが決まるのです。これが改善提案書を書くコツです。一般の企業でも全く同じです。

どんなに文句を言っても、お役所がこちらの都合の良いようにしてくれるわけがありません。何しろ彼らは国家という印篭を持っているのですから。逆らうだけムダです。お役所は逆らうものではなく利用するものです。こちらの都合の良いように利用するのです。接待する必要などありません。お役所が仕事しやすいようにしてあげるのです。そのためには、双方のムダな仕事を止める案を作れば良いのです。お役所にはムダな仕事がたくさんあるのですから案を作るのは簡単です。

このことを部長と2人の課長に話して書き直してもらいました。しかし、それにもかかわらず大蔵日銀の答えはNOでした。しかし、回答の仕方に今までとは大きな変化があったということです。今までは、何を提案しても返事すらくれなかったのに、今回は実に丁寧に時期尚早である旨理由を書いて解答してくれた、とのことでした。

Ⓒ 開発コンサルティング





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