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開発&コンサルティング

第36回 原価企画は下請けいじめになっている

原価企画というものがあります。製品企画段階、または製品開発段階で製品原価を決めてその原価で製造するというものですが、具体的な方法を示さないで、頭ごなしにやる会社が多いので、単なる下請けいじめとなっています。

原価企画は30年ほど前から自動車産業を中心に普及しております。利益計画から製品の目標原価を決め、ブレイクダウンして1つ1つの部品の目標原価を決めて、その原価で部品を作るようにするという考え方です。しかしながら、実際には自動車メーカーが部品メーカーに対してその原価でなければ購入しないと言って、原価を押しつけることになります。当然、従来の原価よりもづっと厳しいものになるので、部品メーカーは泣かされることになるわけです。

生き残るためには何とか原価目標を達成しなければいけないので、奮励努力するのですが、多くの企業ではコストダウンがあまりできないので、利益を犠牲にするしかないのです。これを毎年やられるわけです。たまったものではありません。下請けは生かさぬよう殺さぬように管理されているのです。

かつて、ある自動車メーカーから外注管理がうまく行かないということでコンサルティング依頼を受けました。そこで、約30社ある1次下請けの中から、品質、コスト、納期に関して成績の悪い部品メーカーを選んでその原因を探ってみました。すると、これらの部品メーカーに共通していることは、親である自動車メーカーから具体的な指導を受けていないことが分かりました。名目上は指導していることになっているのです。自動車メーカーでは外注先をいわゆるABC管理していたのですが、それが全く機能していなかったのです。

つまり、Aランクのメーカーは親会社と同じように指導する。Bランクのメーカーは月に1回程度指導する。Cランクのメーカーはほとんど指導しない。という具合です。問題はこのランク付けをどうするか、つまり、どういう基準でABCを決めるかです。また、そのランクに沿ってどう指導するかです。しかし、これは建前であって、実際には購買担当者の好き嫌いで指導していたのです。

購買担当者と外注先との馬が合わないと結局お互いに遠ざかってしまうのです。そして、こういうのはBランクの外注先に多いことが分かりました。Cランクの部品メーカーはむしろ親会社より管理レベルが高かったのです。指導を受けていないCランクの部品メーカーは自ら企業努力をしていたのです。

あるCランクの部品メーカーの原価資料を見ると、驚いたことに数年間赤字であるにもかかわらず親企業にはそのことを黙っていました。この企業では、他に自社ブランドの製品を製造販売しており、そちらの方で稼いでいたのです。何故黙っているのかと聞きますと、自社ブランドの製品を開発する時に指導を受けたからということでした。このことを私は自動車メーカーの購買部長に言いますと、原価資料を見せてくれないのでわからなかったと言っていました。

一般に、親企業と下請けとは長い間の付き合いで、いろいろなことが「なあなあ」になってしまう傾向にあります。こういう場合に、私は、「ギブ・アンド・テイク管理」というのを提案しています。双方が対等に何をギブし、何をテイクするかを明確にして、それに基づきお互いで管理しあうのです。企業というのは本来、上下も親子もないのです。下請けだからと言って卑下する必要はないのです。実際、部品メーカーのおかげで親企業は生きているのですから。

原価企画に戻りますが、利益計画の段階で開発製品のコストを決めるというのは実際には非常に難しいのです。不確定要素が多いからです。したがって、大まかな所からだんだんと精度を上げていくということになります。このためには、組織ぐるみで原価管理しないといけません。組織ぐるみというのは、もちろんすべての部門のみならず下請部品メーカーも含めてという意味です。つまり、部品メーカーが協力して製品別に原価管理するのです。

そのためには、まず原価情報を共有化しないといけません。ここに原価企画の難しさがあります。また、具体的な原価管理方法や原価低減方法を習得し、実行していかなければなりません。これも、簡単にできることではありません。時間と努力が必要です。こういうわけで、結局、原価企画というのは押しつけになってしまうのです。でも、押しつけないと企業努力しない会社もあるのです。

Ⓒ 開発コンサルティング

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