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開発&コンサルティング

第35回 原価計算は教科書どおりにやらなくてもよい

原価計算は実情に合わせてやればよい。教科書どおりにやる必要はない。また、活動基準原価計算(ABC)など新しいやり方だからとすぐに飛びつくのは失敗の元です。

前回は、「原価計算は難しいけれども儲けるためには必要です」ということを書きました。そこで、今回は原価計算のやり方について私の考えを書いてみたいと思います。原価計算は本来、経営者、管理者のためにやるもので外部の利害関係者(株主、債権者、税務署など)のためにやるものではありません。ですから、好きなようにやれば良いのです。外部に報告する財務諸表作成のための原価計算はできるだけ簡素化すれば良いのです。では、本来の経営管理目的のための原価計算はどのようにやれば良いのでしょうか。

原価計算の基本となる個別原価計算について考えてみます。通常は教科書に書いてあるように、いろいろな費用を直接材料費、直接労務費、直接経費、製造間接費の4つに分け、直接費は製品に直課し、間接費は部門別に集計してから製品別に配賦するわけです。この場合、直接費を製品に直課するのはその製品を作るために直接消費した費用ですから何の問題もありません。また、間接費を部門別に集計する際、各部門に直接かかった費用については、部門個別費として各部門に賦課する訳ですから、これも何の問題もありません。

また、部門共通費についても、「合理的な配賦基準」で各部門に配賦する(第1次配賦)ので何の問題もありません。例えば、建物の減価償却費は占有面積に応じて配賦するわけです。同様に、補助部門費を製造部門に配賦する(第2次配賦)のも問題ありません。

ところが、問題はこうして集計した製造部門費を製品別に配賦する際に、なぜ製造間接費とは関係のない直接作業時間や機械運転時間を配賦基準にして配賦するのかということです。

製造部門費というのはいろいろの費用が集計されたものですから、合理的な配賦基準などないはずです。せっかく製造部門費までは合理的に配賦集計してきたのに、最後の製品別に配賦する段階で全く非合理的な配賦をしているのです。このため、製品別の原価はめちゃくちゃになってしまい、どの製品が儲かっているのか、どの製品が損をしているのかが分からなくなってしまうのです。以上が簿記の教科書に書いてある原価計算方法の問題点です。

私は学生時代にこのことに疑問を感じ先生に尋ねたのですが、「他に合理的な方法がないから」というのが答えでした。その後、就職し、自動車部品メーカーなどで実際に原価計算をするようになったのですが、設計部門に所属していた私が計算した製造直接費に対して、営業部門や経理部門では単に係数をかけて製品原価としていました。製造直接費☓係数=製品原価です。つまり、製造間接費の製品への賦課や配賦を行っていないのです。原価計算をしていない会社では今でもこのようなやり方をしているようです。

ところが、経営コンサルタントになって、いろいろな会社でコストダウンや新製品開発のお手伝いをするようになりました。そして、原価計算をしている会社では、やはり簿記の教科書に書いてあるような方法で製造間接費の配賦をしていることが分かりました。そこで、例えば、設計費などはどの製品の設計なのかが分かるのですから、分かるものは直接製品に賦課すれば良いのではないかと私は考えたのです。また、例えば、間接労務費、減価償却費、保険料などのように、期間にかかわって消費される費用は、その製品の製造期間(日数)を配賦基準にして、各製品に配賦すれば良いではないかと考えたのです。

つまり、費目別計算を行なってから、合理的な(その製造間接費に適した)配賦基準で直接製品に賦課または配賦する。また、部門費と製品原価とは直接には関係がないので、部門費計算と製品別計算とは切り離す。つまり、部門費計算をしたらそれで終わりにし、製品別に配賦しない。そういうやり方を各企業に提案いたしました。しかし、各企業ではなかなか私の提案を受け入れてくれませんでした。

ところが、最近になって、アメリカから活動基準原価計算(ABC)というものが日本に入ってきて、多くの企業で取り組むようになりました。この原価計算方法は私の考えたものと非常に良く似ているのです。つまり、簡単に言うと間接部門の業務を製品に関係づけてその業務に関わる費用(製造間接費)を各製品に直接賦課または配賦するというものです。

ところが、ABCは本来の目的がリエンジニアリングすなわち業務プロセスの改革にありますので、現在の組織を無視して、業務プロセスを製品と関係づけようとするのです。また、現在の原価計算制度を無視して、ABCを構築しようとするものです。さらに、ABMすなわち活動基準原価管理を目指しているため、コストセンターやプロフィットセンターまで全く新しくしてしまおうとするものなのです。つまり、業務プロセスと原価を結び付け、それを基準に組織を作ろうとするものです。

これでは、全く主客転倒になってしまうと私は思います。会社組織も間接部門の業務も原価計算や原価管理のために存在するのではありません。確かに、ABC、ABMは優れた考えだと思いますが、私に言わせれば現状の実態を無視したやり方です。つまり、現状の組織や業務、あるいは原価計算制度を無視しているのです。要するに、やり過ぎなのです。

私の考えは、あくまで現状の組織や原価計算制度はそのままで、製品の原価をより正確にするために、製造間接費の製品への賦課や配賦を部門別計算とは切り離して計算したらどうかというものです。組織改革や原価計算制度改革は、また別の視点で考えるべきです。

ところで、最近、ABCやABMが脚光を浴びるようになった背景には、多品種少量生産が進み製造間接費が増大してきたからに他なりません。また、パソコンの普及で複雑な計算が楽にできるようになったからです。しかしながら、やり過ぎは「角を矯めて牛を殺す」ことになってしまいます。

ムリのないやり方で、しかも誰もが納得のいくやり方でやれば良いのです。そうすれば、どの製品が儲かっているのか、あるいはどの製品が儲かっていないのか、が明確になるのです。製品の原価が信頼出来るようになれば、原価管理はもちろん、利益管理、予算管理など全てが確実にできるようになるので、企業の発展は間違いありません。

Ⓒ 開発コンサルティング





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