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開発&コンサルティング

第21回 コンサルティング活動の一時中断事例

コンサルティング活動を一時中断した事が今まで何度かありました。それを今回は書いてみたいと思います。

事例1

ある中堅企業で業務改革のお手伝いをしておりました。ある日予定どうり訪社いたしますと、総務部長さんから、申し訳ないが今日からしばらく活動を中止させてもらいたい、と言われました。いったいどういう事でしょうかとお聞きしますと、実は一昨日当社の社長が退職届を提出されまして、現在社内が混乱しておりますので、と言われました。私はびっくりして、なぜそんな事になったのですかと尋ねたのですが、総務部長さんにもわからないというのです。退職届には「一身上の都合により退職いたします」とだけ書かれてあったそうです。社長はその後行方不明になって現在警察が探しているとのことでした。

それから1ヶ月ほどしてから、活動を再開したいので来て欲しいと連絡がありました。訪社いたしますと総務部長さんが社長になっており、役員全員が私の全く知らない人たちに変わっていました。かつての社長を始め役員全員が何か悪い事をしたらしく、現在警察で取り調べを受けているとのことでした。その後体制を立て直して業務改革活動を再開しました。新体制の下で過去の古い因習が一掃され非常に良い企業風土に変わりました。

事例2

ある自動車メーカーで外注管理のお手伝いをしておりました。この会社には、いわゆる一次下請けが約30社、二次下請けが約300社、三次下請けが数千社あります。コンサルティング課題は外注管理の問題点を洗い出し改善することです。そこで私は各社を回って下請けの立場から外注管理の状況を調査していきました。何しろ数が多いので実態把握に非常に時間がかかります。その上、立場の弱い外注先から見れば早急に対処しなければいけないような問題も多くあり私は右往左往しておりました。

そんなとき重大な問題が起きたのです。予定していた工場へ行きますと門が閉まっていて入れません。守衛さんもいないのです。今日は休みなのかなと思って電話しましたらとんでもない事になっていました。1ヶ月ほど前に、アメリカとカナダに輸出した自動車に欠陥が見つかって、その部品のリコール(回収交換)のために約5000人の人が出かけているという事でした。その日に私が訪社予定していた工場がたまたまその部品を作っていたのです。その部品は歯車でした。歯車の機械加工はその工場で行っていたのですが、焼き入れはさらにその下請けのいわゆる「父ちゃん、母ちゃん工場」で行っていました。そこの「父ちゃん」は元この自動車メーカーのベテランで、定年退職した後もその技術を生かして仕事をしていたのです。

ところが、その「父ちゃん」が風邪を引いて寝込んでしまい、仕事ができなくなったのです。そこで以前から一緒に仕事をしていた息子さんが焼き入れしたのですが、焼き入れが不十分で、このような問題を引き起こしてしまったのです。コンサルティング活動は一時棚上げになりましたが、その後、外注管理を徹底しなければいけないという事で、コンサルティングの強化を図って活動を再開しました。

事例3

ある一部上場のメーカーで業務改革のお手伝いをしておりました。活動を始めて2ヶ月ぐらいしてから、活動を中断したいという申し入れがありました。コンサルティングに問題があるわけではなく、また、そのメーカーに問題があるわけではない、とにかく心配する事ではないが、理由は言えませんという話でした。なんとなくすっきりしないまま3週間ぐらい経ってから、再開したいという電話がありました。久しぶりに出かけてみると、工場が見違えるようにきれいになっておりました。以前から雨漏りがすると言っていたので、何だこんな事だったのかと思いましたが工場長から話を聞いてびっくりしました。

実は、天皇陛下を始め皇室の方々が工場見学をされたというのです。始めは宮内庁からの申し入れに対して丁寧にお断りしたそうですが、宮内庁の人が何度も来られて是非にと言うので、条件付きで承知したということです。条件というのは、陛下が見学したいという技術が企業秘密なのでテレビなどマスコミ関係は絶対に入れないことと、工場が老朽化しているので修理が必要であるから少し猶予を欲しいということだったそうです。皇室の方々が工場見学されたのは非常に名誉であるけれども、本当にたいへんでした、もし何かあったら、とたいへん気を使いました、という話です。コンサルタントの方々にも何かあるといけないので、何も知らせない方が良いと思って理由を言わなかった、との事でした。

事例4

ある中堅の電気部品メーカーで組織改革のお手伝いをしました。こちらからいろいろな提案をし、役員の方々に議論していただき、決定するという進めかたをしたのですが、困難な課題になると私に決めて欲しいと言うのです。私が決めたとおりにすると言うのです。とんでもありません。私は当社の役員ではないので、私が決めることは出来ません、あなた方は経営を放棄するつもりですか、放棄するのでしたら役員を辞めなさい、と強く言ったのですがダメなのです。確かに困難な問題が山積みしていました。しかし、経営者である以上意思決定をするのが仕事ですから、やらなければいけません。そこで、私から活動を中止することにしたのです。

数ヶ月して、本当に自分たちが馬鹿だった、改めて指導してくださいと電話がありました。私が行かなくなってから、このメーカーではある有名な外資系のコンサルティング会社に依頼し、立派な組織を作ったのだそうです。ところがその組織どうりに人が動かず、結局、机上の空論に終わってしまったのだそうです。どんなにすばらしいあるべき組織を描いても、それを動かすのは人なのです。

Ⓒ 開発コンサルティング





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