企業における問題解決には意識改革が必要だということが良く言われます。つまり、なにより、問題を解決しようとする意識が必要なのです。しかし意識改革をどのように進めるかについて書かれている本はあまりないようです。そこで今回はこの意識改革の進め方について書いてみようと思います。
前回は問題の捕らえかたとして「問題=あるべき姿-現状」ということから考えてみましたが、今回は意識という点から考えてみたいと思います。意識とは広辞苑によれば「認識し、思考する心の働き」です。前回書きましたように、問題解決のためにはまず問題をきちんと捕えなくてはいけません。つまり問題を認識しなけれは問題解決には結びつかないのです。
したがって、問題解決のための意識改革とは、まず、問題を認識し、その問題と解決方法について思考し、解決方法を決めて実行する、ようにすることです。
このステップのうちもっとも重要なのは問題認識です。問題認識が出来ればほとんど解決できたようなものです。そこで、問題認識について考えてみます。一般に企業になんらかの問題がある場合、その問題をしっかりと認識されることはほとんどありません。
したがって、なかなか解決できないばかりか、同じ問題が毎年繰り返されるのです。それは、問題を「企業の問題」で終わらせてしまうからです。企業の問題は社長、及び幹部全員の問題、さらにその中の一人である自分の問題だ、と認識することが必要なのです。つまり企業の問題を幹部が自分の問題であると認識することが意識改革の第一歩なのです。
企業で問題解決活動を進める場合、始めに必ず幹部全員になぜこの活動が必要なのかを話します。それは、単に活動の目的を知ってもらうためではなく、幹部全員の意識改革の第一歩を踏み出すためです。すでに、事前に診断を行っている場合には、およその問題は理解しており、また、その原因も予想できますので、私はその原因を発生させているであろう人物に向けて話をします。
話を聞いている幹部の人たちは、始めのうちは、「どこの馬の骨か知らんが経営コンサルタントなる者がどんな話をするのか」といったような顔をしています。
ところが、話を進めていくうちに、しだいにニコニコしてきます。そして、うなずき、時には声を出してそのとうりだと言う人も出てきます。「このコンサルタントは我が社の問題をよく知っている、しかも誰が原因かまで知っている、このことを今まで誰も言わなかったが、それをコンサルタントがよくぞ言ってくれた」と思うからです。
しかし、その原因が自分にあるということまではわかっていないのです。全員が自分以外の人が原因であると思っているのです。だからニコニコするのです。話が終わると皆さん非常に喜んで、是非ともこの活動を成功させたいとおっしゃるのです。しかし意識改革はこれからです。幹部が自分の問題と認識するまでは少し時間がかかるのです。
問題解決活動は問題認識、問題共有化から進めて行きますが、始めのうちは皆さん一生懸命です。何しろ幹部全員がやる気十分なのですから。ところが、時間をかけて問題発生の原因を順次掘り下げていくと活動にブレーキがかかってきます。自分がその原因なのだということが次第に分かってくるからです。下手をすると責任を取らされるかもしれないと思うからです。この活動を止めてしまいたいと思うようになるからです。時にはコンサルタントを脅すこともあります。コンサルタントがいなくなれば活動は中止になるからです。
さて、「泥棒を捕らえてみれば我が子なり」という川柳がありますが、この場合、「泥棒を捕らえてみれば自分なり」といったところでしょうか。私のコンサルタント仲間が、「問題解決は漁師が網で魚を捕るのに似ている」と言っていました。始めのうちは漁師は大きな魚をたくさん獲るぞとはりきっているが、網を一生懸命引っ張ってくるといつのまにか自分がその網の中に入っているのに気がつき唖然とするのだと。
さて、活動にブレーキがかかってきたら第二段階に入ります。真の原因を探る段階です。これからが本当の意識改革です。実は、問題を発生させているのは誰かということを追及しても何の解決にもなりません。なぜなら、問題をさらに掘り下げていくとその人の仕事のやり方に問題があるということがわかってくるからです。つまり、問題は人ではなくその人の仕事のやり方だということです。仕事のやり方が悪いから問題が発生するのです。当たり前です。
ところが、ほとんどの企業では仕事のやり方を責めないで人を責めてしまうのです。これが間違いの元です。なぜなら、人を責めてそれで終わりにしてしまうからです。これでは問題解決にはなりません。なぜなら、人を変えれば、また、同じような問題が発生してしまうからです。実は、原因はその人の仕事のやり方ですが、そうせざるを得ないもっと深い真の原因が潜んでいることが多いのです。真の原因をつかんで仕事のやり方を変えない限り問題は解決しません。
問題解決が出来ない真の原因は企業風土にあることが多いです。例えば、従業員を信用せずにチェック業務ばかりやっている会社があります。何か問題が起きれば、誰が起こしているか、誰が責任かと言う会社です。
例えば、旅費清算書のチェックを行っている会社です。旅費清算書に書かれた金額が実際と100円違うとか200円違うと言っている会社です。そのチェック業務に使われる人件費を計算すると1件当たり数千円かかっていることが分からないのでしょうか。また、受信簿をきちんと作成している会社です。受信簿をいくらきちんと付けても書類の紛失を避けることは出来ないことが分からないのでしょうか。受信簿とは書類紛失の防止のためではなく、書類紛失の責任追及のためにあるのです。
ですから、旅費精算書をチェックしている会社や受信簿を作成している会社は問題を解決しようとしないで責任を追及してばかりいる会社なのです。
実は、これらは氷山の一角にすぎないのです。このような会社には大きな問題が潜んでいるからです。つまり、こういう会社ではほとんどの仕事が企業内部の管理に置かれ、企業の外(顧客や取引先)に向けて仕事が行われていないため、人的資源の大きなムダを生んでいるのです。
つまり、リスクのない守りの業務である内部管理業務ばかり行い、リスクのある攻めの業務を行っていない会社なのです。したがって、確実に業績が悪くなる会社なのです。問題解決のための意識改革は企業風土の改革にまで迫らないと本当の解決はできません。
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