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開発&コンサルティング

第14回 複雑な問題を解決するには、多くの人の知識を活用する

経営管理者の仕事の一つに問題解決があります。しかし、これは経営コンサルタントの仕事でもあります。経営管理者の主な仕事は文字どおり経営管理することであり、問題解決はその一部です。一方、経営コンサルタントの主な仕事は企業の診断と改善(治療)、言い換えれば問題発見と問題解決ということになります。ですから、経営管理者は経営管理のプロ、経営コンサルタントは問題解決のプロになります。よって、問題解決ができなければ経営コンサルタントではない、ということです。

しかしながら、実は、経営コンサルタントは問題解決ができないのです。問題解決は企業の外部の人間にはできないのです。たとえば、自動車のコストダウンは自動車の設計や製造技術がなければできません。よって、問題解決はその企業の人でなくてはできません。

ですから、経営コンサルタントに任せておけば良いと思っている企業はいつまでたっても何も解決しません。経営コンサルタントは改善案の作成とその実行はできないのです。では、経営コンサルタントは何ができるのかと申しますと、問題解決の方法(見方、考え方、進め方)を提案・助言することができるのです。

たとえば、その企業の製品開発やコストダウンはできませんが、製品開発やコストダウンの方法を提案・助言できるのです。なぜ、できるのかと申しますと、長年そういうことばかりを考え、企業で提案し、また、企業から学んできたからです。これは内科医と同じです。内科医は患者の病気を治すための提案と助言を行うことはできますが、手術して直接治すことはできません。病気を治すのは内科医の提案と助言に従って実行する患者自身です。ちなみに、外科医は手術を行うので、直接、病気を治すことが出来ます。

では、実際の問題解決の方法について順次ポイントを書いていくことにします。まず、問題の捉え方ですが、通常は「問題=あるべき姿-現状」です。以前にも書きましたが、問題の捉え方は人により異なります。それは、人によってあるべき姿の描き方と現状の捉え方が違うからです。したがって、あるべき姿を演繹的アプローチによってしっかりと描き、現状を帰納(分析)的アプローチによってしっかりと把握することによって、始めて問題が明確になり、かつ、共有化ができるのです。問題を課題に置き換えてみれば、問題をきちんと捉えているか否かがすぐにわかります。

ちなみに、よくQCサークルなどで、あるべき姿を描かずに特性要因図で問題をブレイクダウンし原因を体系化してそれを課題に置き換えるという方法をとる場合があります。しかし、これでは課題に置き換えるときに混乱し、的をはずしてしまうばかりか抜けや漏れが出てしまいます。

現代の複雑でかつ大きな問題は経営管理者ひとりの力では到底解決することはできません。つまり、個人の知識、経験による直感では、断片的、短絡的になってしまい、かえって、より大きな問題を生んだしまうおそれがあります。企業には多くの問題がありますが、ほとんど各企業で共通しております。しかし、問題解決の方法は企業によって異なります。市場、製品、経営管理能力、経営資源、企業文化などが企業によって異なるからです。

よって、経営コンサルタントはこれらを考慮して解決方法を考えプログラム化して提案します。しかし、企業のいろいろな状況や固有技術はわかりませんから双方で教えあい、また、学びあいながら解決のための協同作業を進めていくのです。実際には、コンサルタントが問題解決のプログラムを提案し実習しながら質疑応答を繰り返し、必要に応じて内容を修正したうえで実践作業に移ります。また、途中でフォローをしさらに修正を加えながら進めていきます。

問題解決には知識や経験だけでなく知恵が必要です。しかし、残念ながら知識や経験がなければ知恵もでてこないのです。知恵すなわちアイデアは何もないところからは生まれません。これについても以前にも書きました。たとえば、エジソンは学校ではあまり勉強はしていませんでしたが、電気のことは誰よりもよく知っていました。したがって、多くの人の知識を借りることが良い知恵を出す方法です。

アイデア発想法と言われるものが数多くあります。100以上あるそうです。しかし、よく使われているのはブレーンストーミング法とKJ法ぐらいです。よく知られているアイデア発想法の共通点を探ってみると、「アイデア発想のきっかけを作り、人の出したアイデアの特徴を捉え、そこから連想して次のアイデアに結びつける」ことです。つまり、よく知られているアイデア発想法は連想ゲームなのです。すなわち、発想法とは発想のきっかけの作り方であり、人の知恵の借り方にすぎないのです。アイデアそのものを出すのは、やはり各自の知識や経験に基づく創造力なのです。

また、発想法には主に発散法と収束法の二つがあります。たとえば、ブレーンストーミング法は発散法ですし、KJ法は収束法です。両方を兼ね備えたものもありますが、その場合は中途半端になってしまわないように区別しながら進めないといけません。つまり、発想(発散)と判断(収束)とを同時に行ってはならないということです。

問題を解決することは、あるべき姿と現状とのギャップを埋めることですが、簡単にはできないので一旦できるだけ多くのいろいろなアイデアを出し、その後に判断するという手順が必要になるのです。難しい問題ほど十分に発想(発散)した後に、判断(収束)するという手順が必要です。十分に発想するためには専門の異なる多くの人からアイデアを集めることが必要です。

問題解決にはシステマチックアプローチが必要です。なぜなら、複雑な問題は一人では解決できないので、多くの人たちとの共同作業となるからです。システマチックアプローチとは思考作業の相互関係とプロセスを明確にしたアプローチで具体的にはプログラムとなります。ですから、問題解決にはプログラムが必要となります。したがって、思考作業の相互関係や思考プロセスを明確にしながら進めます。また、抜け、漏れをなくすためにもこのような進め方が必要です。

最後に、問題解決にとって重要な思考の関所について考えます。一般に、人には3つの思考の関所があると言われています。認識の関所、感情の関所、文化の関所です。この3つの関所について一般に本に書かれていることは私にはよく理解できないので、勝手に次のように解釈しています。

認識の関所は、「知らないことや経験していないことは考えることができない」ということです。感情の関所は、「嫌いなことは考えたくない」ということです。文化の関所は、「生まれ育った環境やこれまで人から影響を受けたことによって考え方や価値観が人により異なる」ということです。これら3つの関所は誰にでも存在するので、人によって考え方が違うのは当然なのです。

たとえば、上司がいくら部下に、「俺の考えがなぜわからないのか」と言っても、それは当たり前なのです。別人だからです。このことを踏まえて、問題解決を行う場合に重要なのは、できるだけ多くのアイデアを出してもらうのと、同時に、人の考えやアイデアをお互いに尊重し、相互に理解する努力を怠ってはならないことです。いろいろな人がいるからこそ、いろいろなアイデアが生まれるのですが、いろいろなアイデアが生まれれば、収束するのはたいへんなのです。3人いれば文殊の知恵ですが、3人の意見をまとめるのは2人より難しいのです。お互いに理解できなければ意見はまとまりません。

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