忌まわしい阪神淡路大震災の記憶がよみがえり、危機管理について考えてみました。危機管理に関する本を何冊か読んでみると、いろいろな危機およびその対策について書かれています。ところが、中小企業ではあれもこれもと対処することができません。いろいろな本に書かれていることをすべて実行すると、おそらく売上の数倍から数十倍の費用がかかってしまうでしょう。
また、危機管理のための業務量も膨大なものになって、事業そのものが成り立たなくなります。要するに、本末転倒なのです。そこで、重要なのが危機管理予算と対処すべき危機との兼ね合いです。このためにゲーム理論を利用したらどうかというのが今回の主旨です。
ゲーム理論は軍事戦略や経営戦略をはじめ、競争状態にあるあらゆる場面で利用されています。この理論の詳細な内容は難しく私にもよくわかりませんが、この理論の基本的な考え方は役に立つので、私はこの理論を企業経営だけでなく、個人的にも趣味の山登りや日常の危機管理に活用しています。
ゲーム理論はいろいろな考え方から成り立っていますが、その中でも最も基本的でかつ重要な考え方がミニマックスの定理と言われるものです。これは「起こりうる最悪の事態、危機に対して、その損害を最小にする戦略」なのです。つまり、危機がマックスの事態にその損害をミニにするための戦略なのです。
マックスでしかもミニの点をサドルポイント(鞍点)と呼ぶのでサドルの定理とも呼ばれていますが、私は「峠の定理」と勝手に呼んでいます。峠はサドルポイントと同じで、峠越えをするときには最も高い所(マックス)で、稜線を歩くときには最も低い所(ミニ)だからです。
まず、趣味の山登りに活用している例を紹介します。以前、私は山へ出かけるたびに荷物(装備)に悩んでいました。山登りではすべての荷物を自分で背負わなければならないので、快適な山登りをするためには荷物はできるだけ少ない方が良いのです。しかし、そうすると装備を減らさなくてはならないので安全登山ができなくなります。そこで、何を持って行くべきか、何を置いていくべきかでいつも悩んでいたのです。
40年以上山歩きをしているのに、こんなことで悩んでいることは情けないのですが、年を取るにしたがい、いっそう、このことを真剣に考えざるを得なくなりました。地図、磁石、雨具、防寒具、着替え、ヘッドランプ、行動食、医薬品などのいわゆる7つ道具は「良くあるトラブル」に対する装備なので、非常装備ではなく、日帰り登山にも必要な通常装備です。
では、非常装備として何を持っていけばよいのか、それが問題なのです。そこで、この「峠の定理」を活用しました。「最悪の事態に陥った時に、その被害を最小にする装備は何か」を考えてみました。山での最悪の事態とは、もちろん、遭難して死んでしまうことです。しかし、そこまでには至らなくても、崖に落ちてしまって歩けなくなって、ビバーク(不時露営)して救助を待たなくてはならない事態を最悪の事態と考えました。
このために必要な装備は、ツェルト(非常用簡易テント)、レスキューシート、非常用の水・食糧、SOS信号発進のための笛、ナイフ、ライターなどです。ちなみに、山の中では携帯電話は通常通じませんし、携帯電話が通じたとしてもその日に救助してもらえるわけではないので、少なくともビバークする装備が必要なのです。
さて、本論の企業の危機管理について考えて見ることにします。ほとんどの企業では「良くあるトラブル」に対処することはすでに準備されていると思いますが、問題は非常事態に対してどのように対処するかです。そこで、「峠の定理」を活用することになります。企業で最悪の事態とは倒産だと思います。
ということになると思います。最後にポイントを挙げておきます。
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