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開発&コンサルティング

第10回 経営診断報告書は問題解決のための企画書でもある

今回は経営診断について私の考えを書いてみようと思います。と言いますのは、経営診断は人によって考え方が異なり、そのため診断結果が異なるのですが、診断を受ける企業はそのことを知らないまま受けていると思われるからです。

経営診断については経営診断学という学問分野があり、また、経営診断学会もあります。しかし、ここでは診断を受ける企業の立場で考えてみたいと思います。

まず、診断とは何かですが、(旧)中小企業指導法では「中小企業の依頼に応じ、その経営管理の実態を総合的に調査・検討し、経営上の問題点を指摘し、改善のための具体的な方法を勧告することにより、中小企業者の自主的な努力を助長し、中小企業の経営管理の合理化を図るものである」となっています。

ここで言っている「具体的な方法を勧告する」というのが重要なのですが、通常は改善方向(方法ではない)を示すにとどまっております。つまり、診断報告書には具体的な改善方法(治療方法)は書かれないということです。

これでは全く無責任だと私は考えます。問題点があれば改善をするのが当然ですから、私は単なる改善方向ではなく、具体的な改善方法を示すべきだと考えます。と同時に、改善を実施するための計画書を提示しなければならないと考えております。

例えば、診断の結果、製品のコスト削減が必要である、となった場合には、当然、コスト削減の具体的な実施方法を示すべきだと考えます。しかし、これはコンサルタントの能力の問題です。コンサルタントが治療方法を知らなければ書けませんから。

従来から、企業を経済主体とみて財務分析を中心に診断する方法があります。つまり、収益性、安全性、生産性がよければよい会社だとする見方です。いわゆる優良企業というものはほとんどがこの方法によって選択されるのです。

これに対して、財務よりも経営者を重視する方法、技術や情報や企業文化を重視する方法などがあります。最近では企業を生態と見て環境に適応しているか否かという見方もあります。環境に適応しているか、環境を汚していないか、人間に優しいかなどです。企業は一言で言えば環境適応業だからです。

私は今後は環境に適応していない企業は当然、収益も悪化すると思いますので、やはり、これらすべてを含めた見方が必要だと考えます。まさに、「総合的に調査・検討」が必要なのです。短期的には財務分析を中心とした診断が、長期的には総合的な調査・検討に基づく診断が必要ということでしょう。

例えば、人間の健康診断の場合、一般健康診断や人間ドックは予備診断であって、必要に応じて精密検査が行われます。人間が死亡する3大原因は脳卒中、心疾患、それにガンだそうですが、これらは一般健康診断や人間ドックではその確かな証拠を明確に捉えることができません。実際、人間ドックで異常なしと言われた人が翌日心筋梗塞で死んでしまったという話もあります。

このことを経営診断に当てはめてみますと、診断した結果さし当って問題なし、と診断された企業が、突然、倒産したということになります。

このようなことを避けるためには、過去の財務資料を中心とした経営分析だけではダメだと言うことがわかります。資金表(資金運用表、資金繰り表など)、各種管理資料、財務計画と統制の実施状況など現時点と将来計画などを診断すべきだと思います。

少なくとも現時点の動態的な分析が必要です。ところが実際には、これらの資料が整備されていない企業が多く、また、整備されていても担当者などに資料を隠されてしまうこともあります。このような場合にこそ、コンサルタントの腕の見せ所となります。社長が知らないような問題点をつかみ、改善勧告することが必要です。また、逆に、すぐれた点を発見して今後活かして行くように提案するのは診断の冥利です。

さて、問題の捉え方についてですが、問題というのは人により捉え方が異なります。つまり、ある現象に対して、それは問題だと言う人と、問題ではないと言う人とがいるということです。また、多くの人が問題だと認識していても、問題の大きさについては人により認識が異なります。なぜこのような違いが生じるかというと、一般に、

問題=あるべき姿-現状

なので、人によりあるべき姿の描き方と現状の捉え方が異なるからです。例えば、あるべき姿を業界トップ企業の姿と考えている人と、当面の問題解決ができた姿と考えている人とでは違います。現状についても、実際にその仕事に携わっていて、具体的に知っている人と、そうでない人とでは捉え方が違います。

したがって、診断をする場合にはこのことを十分に考えて進めなければなりません。そのためには、あるべき姿をコンサルタントと幹部とで話し合って明確にすることです。コンサルタントは他社の状況を知っていますから、その企業のあるべき姿を提案することができます。また、現状実態の把握は必ず裏を取ることです。つまり、証拠を明確にすることです。

診断の進め方についてですが、単純に経営全般から各部門へという進め方には問題があります。資料を調べたり、ヒアリングしたりすることは部門別であっても、頭の中では部門を越えた捉え方が必要です。通常、問題発生部門と原因部門とは異なるからです。

例えば、売り上げが伸びない原因は営業部門だけでなく、ほとんどすべての部門に関係があります。よって、基本的には経営全般から課題別に、現象から原因へと診断を進めるべきだということです。また、確認のためにこの逆の進め方も行います。

部門特有の問題は部門だけで解決できることですから、大きな問題ではありません。コンサルタントが問題視するのは、全社的な問題です。余談ですが、初めて訪問した企業から、「どの部門がご専門ですか」と尋ねられるのが最も困ることなのです。コンサルタントは全部門のことを知らなければ仕事はできませんから。

ところで、通常、大企業でも中小企業でも、まず、自己診断をして自助努力で改善・改革を進めます。自助努力で改善・改革を進めてもうまくいかない場合にコンサルタントに依頼をします。このときの依頼は当然、診断ではなく、改善・改革の依頼です。通常、何が問題で何をしなければならないかは企業自身が承知していることです。そうでなければ会社を経営することなどできません。

したがって、診断の依頼はほとんどが企業による自己診断の再確認のためです。しかし、実際に診断してみると、企業では気づかないことが発見されることがあります。それは、外から企業を見るからだと思います。したがって、課題の変更が必要な場合もあります。そのため、改善・改革の依頼があった場合にも簡単な診断を行います。コンサルタントとして課題を再確認するためと、解決の方法を探るためです。

よって、この場合には、「総合的に調査・検討」などはいたしません。クライアントの依頼内容に沿って再確認するだけです。むしろ、改善・改革の方法を検討することに重点を置きます。診断の結果、診断報告書を書きますが、それと同時に、改善・改革のためのコンサルティング企画書を書いて提出します。

実力のある企業では、この企画書を見てすぐにコンサルティング依頼をしないで、この企画書を参考に自社で改善改革を試みます。その結果、あまり成果が出ないようであれば、改めてコンサルティング依頼をするのです。このように、やる気のある企業の方がコンサルティングは楽で、しかも成果がたくさん出ます。やる気のない企業は、何でもすぐにコンサルタントに依頼します。そして、うまく行かないとコンサルタントに責任を押し付けます。

コンサルタントの仕事は課題解決のための方法を提案したり助言したりすることです。コンサルタントが改善を実施するわけではありません。改善を実施するのは企業です。

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