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開発&コンサルティング

4-3 VVEの基本的考え方

今回はVVEの基本的考え方について説明いたします。顧客は、製品やサービスを購入しようとする時に、その製品やサービスそのものが欲しいと言うよりも、製品やサービスから得られる効用(便益)が欲しいのです。そして、この効用(便益)は、その製品やサービスが備えている機能(役割、働き)を果たすことによって生れるのです。

よって、効用(便益)を得ようとすることは製品やサービスの購入目的であり、製品やサービスの使用(利用)目的でもあります。ちなみに、経済学では製品(商品)やサービスを人が消費することによって得られる満足を効用(ユーティリティ)といい、経営学では便益(ベネフィット)と呼んでおります。

例えば、顧客が扇風機を購入しようとする時に、扇風機そのものが欲しいと言うよりも「涼しい風」が欲しいのです。扇風機には「涼しい風が得られる」という効用があるからです。この効用は、扇風機が「風を発生する」という機能を果たすことによって生れます。したがって、顧客は扇風機を購入するというよりも、扇風機が備えている機能を購入するのです。よって、顧客は、機能がきちんと果たされるか否かによって製品価値があるか無いかを判断します。

ちなみに、扇風機の目的は「人を涼しくする」であり、機能は「風を発生する」です。顧客の立場で見れば、扇風機は「涼しい風が得られる」製品であり、扇風機(製品)の立場で見れば、「人を涼しくする」製品です。製品やサービスの改善や開発を行う時には、製品やサービスの目的と機能を明確にすることが重要であることが理解できると思います。

また、顧客は製品が備えている機能が果たされる度合い、すなわち機能の達成度によって製品価値の高さを判断します。弱い風しか発生しない扇風機よりも、強い風を発生する扇風機の方を製品価値が高いと判断します。なぜなら、強い風を発生する扇風機の方がより涼しくしてくれるからです。つまり、効用が大きいからです。

このように、製品価値の高さは顧客が求める効用の大きさ(得られる満足度)で判断されます。そして、製品が備える機能の達成度で製品価値の高さが決まります。すなわち、

製品価値の高さ=機能の達成度=効用の大きさ=顧客満足度、となります。

よって、製品価値の高さを知りたければ機能の達成度を測定すれば良いわけです。例えば、扇風機の価値の高さは、最大風力、あるいは最大風速を測定すれば良いのです。

また、顧客は、製品を購入するときに、製品価値と価格とを比較して、どちらが高いかを検討し、その製品を購入するか否かを決めます。つまり、

製品価値>価格か、あるいは製品価値<価格か

を見定めて購入するか否かを決めます。当然、顧客は製品価値>価格でなければ購入しません。

一方、企業は価格より安いコストで製品を製造・販売しなければ利益が得られません。

以上の考え方がVVEの基本的な考え方ですが、ごく自然の常識的な考え方であると思います。常識的な考え方を少し理屈っぽく説明しました。

以上のVVEの基本的な考え方を式で表すと以下のとおりです。

V(価値)∝F(機能) ・・・・・・・・・・(1)
V(価値)>P(価格)>C(コスト) ・・・(2)

V:Value F:Function P:Price C:Cost

(1)式は、製品価値は機能に比例するという式です。製品価値の高さ=機能の達成度ですので、製品価値と機能は比例するのです。製品が備える機能を果たすことによって効用が生まれ、それが製品価値となるのです。製品に必要な機能が備えられており、且つその機能が充分に果たされれば効用が大きくなるので製品価値は高くなりますが、機能が不足していたり、機能が充分に果たされなければ効用が小さくなるので製品価値は低くなります。つまり、製品価値と機能とは比例するのです。

(2)式は、製品価値は価格より高く、価格はコストより高い、という式です。製品価値が価格より高くなければ顧客は製品を購入しないですし、また、コストが価格より安くなければ企業は利益を得られない、ということを表した式です。価格は基本的には市場で決められるので、企業は価格より価値の高い製品を製造・販売しなければならず、また、価格より安いコストで製造・販売しなければならないということです。

これらの式は単純なように思えますが、実は重要な式です。なぜなら、これらの式が成り立たないと、製品の存在価値も、企業の存在価値もなくなってしまうからです。ところで、これらの式は極めて常識的で誰もが理解できる式だと思います。このVVEの基本的考え方を始め、すべての考え方や技術、あるいは進め方はこのように常識で成り立っていますので、その内容も容易に理解できるものと思います。

なお、VVEの改善・開発対象は、製品、サービス、業務、仕組み、システム、組織、企業などいろいろありますが、ここでは製品を例にして説明しております。よって、ここで説明している考え方はどの対象にも当てはまる考え方です。


<VEとの違い>

VEの基本的考え方はVVEとは全く異なるものです。そこで、VEの基本的考え方について検討してみます。

日本バリュー・エンジニアリング協会発行の『VE基本テキスト』には次のように書かれています。

「顧客が物を買う場合に、その代価を支払う。大きな働きを期待する場合には、多くの代価を支払うし、期待する働きが小さければ、支払う代価も少ない。また、同じ働きをするならば、その代価は、安ければ安いほど、望ましいことになる。つまり、その“もの”の働き(機能)と、それに支払う代価(顧客にとってはコスト)との比によって、価値の大きさが測られることになる。

VEでは、その関係を、次の式で表す。

価値(指数)=顧客の要求する機能の達成度合÷取得して使用するための費用(コスト)
または、
VALUE(価値指数)=FUNCTION(機能)÷COST(費用)

すなわち、顧客の要求する働き(機能)に対し、費用を安くするか、あるいは、同じ費用で働き(機能)を大きくして、その価値を高めることを研究するのが、VEであるといえる」と。

以上のように書かれているのですが、まず、用語について確認しておきます。価値の高さを測るのに「価値(指数)」、又は「価値指数」と言う用語を使っています。また、ここで使用しているコストは、顧客が支払う代価ですから、価格のことです。

次に、この関係式について検討してみます。この式のように、価値の高さは機能の達成度であると考えられるのですが、価格(コスト)についてはどうでしょうか?価値の高さは価格(コスト)に反比例するでしょうか?筆者はそうは思いません。なぜなら、顧客はそのようには考えないからです。 

顧客の立場で考えてみると、「製品やサービスの価値の高さは価格に反比例する」などということはありません。

つまり、「価格が安い製品ほど価値が高く、価格が高い製品ほど価値が低い」などということはないのです。なぜなら、この文章を言いかえれば、「価値が高い製品ほど価格が安く、価値が低い製品ほど価格が高い」となりますが、こんなことはないからです。実際に身近にある製品に当てはめて考えてみればすぐにわかるはずです。「価格が高ければ高いほど製品の価値は低い」などということは常識では考えられないことです。

むしろ、「価格が安い製品ほど価値が低く、価格が高い製品ほど価値が高い」あるいは「価値が高い製品ほど価格が高く、価値が低い製品ほど価格が安い」と考えるのが常識ではないでしょうか。

また、同じ製品を異なる価格で販売しても製品価値の高さに変わりはありません。なぜなら、同じ製品だからです。だからこそ、顧客は製品の価値と価格とを比較して、どちらが高いかを見定めて製品を買うか買わないかを決めるのです。

ところで、VEではジョブプラン(活動ステップ)の中に機能評価というステップがあります。機能を評価することによって製品価値の高さを測定するというステップです。実際には、製品の機能を金額で評価するのは難しいので、対象とする製品と同じ機能を備えている他の製品(代替品)とを比較し、それぞれのコストを比較し、製品価値の高さを指数化しています。

例えば、対象とする製品のコストが2,500円で、同じ機能を備えている代替品のコストが2,000円だとすると、

価値指数=代替品のコスト(機能評価値)÷対象製品のコスト

ですので、機能評価値=2,000円、価値指数=0.8となります。

これについて日本バリュー・エンジニアリング協会発行の『VE基本テキスト』には次のように書かれています。「機能の値打ちを金額で見積って評価値を求めるには、対象の機能と、同じ働きをする最も安い代替品を探し、そのコストを評価値とする」「機能の値打ちを、代替品のコストで表した場合は、価値指数Vは、FとCとの比で、そのまま表示する」「これによって、それぞれの機能ごとの価値指数が算出され、価値の大きさが明らかにされる。従って、価値指数が1より小さい場合や、他に比べて小さい場合は、それだけ改善の余地や、必要性が大きいことを示している」と。

つまり、VEでは価値の高さを、F(機能)÷C(コスト)で表しているので、価値の高さを測るために機能を評価し、F÷Cの数値、すなわち価値の高さを価値指数と呼んでいるのです。そして、機能の評価の方法として、対象と同じ機能(働き)を果たす最も安い代替品を探し、そのコストを機能の評価値とするのです。また、改善の余地を発見するために、価値指数が1より小さい代替品を探すのです。

ところで、VEでは、V(価値の高さ)を「価値指数」とも「価値の程度」とも呼んでいます。『VE基本テキスト』には、「VEにおける価値の評価は、V=F÷Cで表す。Vを価値指数といい、F(機能)とC(コスト)の比で評価される」と書かれています。

また、同じく日本バリュー・エンジニアリング協会発行の『VE用語の手引き』には、「まず必要な機能のあるべきコスト=機能評価値とその機能を達成するために払われている現行コストを求める。この両者の差、ならびに両者の比によって算出した価値の程度をもとに・・・」と書かれています。つまり、価値の程度とは、あるべきコストと現行コストとの差、又は比を言うのです。ところで、一体どちらなのでしょうか。差ですか、それとも比ですか。

また、次のようにも書かれています。「使用者は、製品やサービスを入手しようとする場合、それらが果たす機能と取得し享受するためにかけるすべてのコストとの比(価値の程度と呼ぶ)に基づいて、取得するかどうかを決める」と。

上の最後の文章をもう1度読んでみて下さい。おかしいと思いませんか。使用者(消費者)は製品やサービスを入手しようとする場合、機能とコストとの比に基づいて取得するかどうかを決めますか?私たちが日常、製品やサービスを購入する際に、あるいはいろいろな買い物をする際に、製品価値の高さを比に基づいて買うか買わないかを決めることがありますか。また、製品やサービスの価値の高さを0.8とか1.2とかと比で表すことがありますか?

読者の皆さんは何か買い物をするときに製品やサービスの価値の高さを比で表したり、比で考えたりしたことがありますか。例えば、このスーツの価値は0.9だとか、この靴の価値は1.3だとか、この肉の価値は1.5だとか、この野菜の価値は0.6だとかと比で表したことがありますか。

筆者は生まれて以来、そのようなことは1度もありませんし、そのような人は私の周囲には1人もおりません。また、私が知っているVEの専門家(CVS)に聞いてみても、そのような人は1人もおりませんでした。このように、VEでは実際にはありえないことが、当然、あるかのように書かれているのです。これは明らかに間違いなのです。

また、VEの基本的な考え方を示した式、「価値指数=機能÷コスト」はジョブプラン(活動のステップ)の中では機能評価のステップのときにしか用いません。しかも、この機能評価の目的は、活動の取り組み順序や取り組み範囲を決めるためなのです。つまり、活動の効率化のために用いるだけなのです。

なぜなら、価値指数が1.0未満であればコスト削減の余地があると判断し、また、機能の評価値(代替品のコスト)の高さによって、コスト削減活動の取組順序や取組範囲を決めるからです。「顧客の立場で機能を評価する」という本来の機能評価のためではないのです。

では、なぜ、VEではこの式、価値指数=機能÷コストにこだわるのでしょうか。それは、アメリカ国防総省が出版した『新版・価値分析ハンドブック』に次のように書かれているからです。

「価値とは、与えられた状況下で使用する者(顧客)がその必要性と資源との面から眺めた値打とコストとの関係である。値打とコストとの比が価値の主要尺度である。したがって、価値指数を求めるために次の“価値の公式”を使うことが出来る。

価値指数=値打÷コスト」と。

なお、「値打とは、使用者が必要としている機能を提供するために必要な最低の費用のことである」と書かれています。つまり、機能を果たすために必要な最低のコスト(あるべきコスト)を値打と呼んでいるのです。そして、これと現行コストの比を価値指数と呼んでいるのです。

しかし、VA(VE)の創始者であるL.D.マイルズ氏は、価値をこのような式では表現しておりません。また、「価値指数」と言う言葉も使っておりません。ところが、L.D.マイルズ氏の著書である『VA/VEシステムと技法』には、次のように書かれております。

「価値はコストを下げることにより(もちろん、性能は維持して)つねにあがる」と。

VEが理解できない原因はこの基本的考え方にあると筆者は思います。なぜなら、マイルズ氏の考えである「価値はコストを下げることにより常に上がる」というのは常識では理解できないからです。価値はコストを下げれば上がるのでしょうか?「コスト(または価格)が安いほど価値が高い」のでしょうか?又は「コスト(または価格)が高いほど価値が低い」のでしょうか?そんなことはありません。つまり、価値と価格とは反比例しないのです。むしろ比例するのです。

価値と価格とは比例するからこそ比較するのです、顧客にとって重要なのは、製品価値が価格より高いか低いかなのです。また、企業にとって重要なのは、顧客が求める価値の高い製品を安い価格で販売することであり、価格より安いコストで製造することです。

このように、VEは基本的な考え方が常識では理解できないだけでなく、用語の定義が曖昧であるのもVEを混乱させる原因です。これらを正してVEの優れた考え方や技術を分かりやすくして、多くの企業で活用すべきだと筆者は思います。

また、VEでは、価値指数=機能÷コストにこだわるために、十分な成果が得られないと言っても過言ではないのです。なぜなら、価値指数が1より小さい代替品を探すことができなければ、改善・開発が出来ないということになるからです。そのうえ、この式は改善活動を効率的に進めるために使うだけだからです。

ところが、VEには「同じ機能を果たす方法は世の中にいろいろある。現在はそれらのうちの1つの方法を採用しているに過ぎない」という優れた考え方があるのです。そこで、筆者は同じ機能を果たすあらゆる方法を世界中で探す、また、あらゆる専門分野で探す技術を開発しました。これを「機能別方法調査」と呼んでいます。機能別に機能を果たす方法を探すだけなので、誰でも簡単にできます。

この「機能別方法調査」によって、現在のコストより安い機能達成方法を探すことが簡単にできるのです。よって、製品のコスト削減がかなりできます。また、新製品開発の場合には、より多くの、またより良いアイデア発想が容易にできるのです。なぜなら、「アイデアは過去のアイデアの組み合わせに過ぎない。また、アイデアは過去のアイデアを基に生まれる」からです。

VEにはアイデア発想の技術がないので、VEの優れた考え方を発展させてアイデア発想の技術を開発したのです。また、これによりVEをより効果的な技術にすることができました。これがVVEです。機能別調査方法については「3-8 誰でもできるアイデア発想法」及び「5-6 機能別調査方法」に書きましたのでご覧ください。

なお、VEでは価値の大きさと言っていますが、VVEでは価値の高さと言っています。価値は大きいか小さいかではなく、高いか低いかだと思います。なぜなら、通常、高価値、低価値と言いますが、大価値、小価値とは言わないからです。

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