次ページ  目次
開発&コンサルティング

2-8 原価のいろいろな見積り方法

これまでは、簿記の教科書に書かれていることを分かりやすく書きましたが、これからは、実務で使われるいろいろな原価計算について説明いたします。まず、多くの企業で課題となっている原価の見積り方法についてです。原価の見積り方法にはいろいろありますが、代表的なものを挙げると次の4つになります。

  1. 経験見積法
  2. 実績資料法(比較見積り法)
  3. 積算見積法(標準原価設定法)
  4. 標準原価資料法(相関分析法)

経験見積法は文字どおりベテランが経験によって、エイヤーで見積る方法です。いわゆる、KKD(経験と勘と度胸)で行う方法です。実務的には良く使われているようですが、科学的根拠がないので妥当とはいえません。実際に、ある一部上場メーカーで同じ製品について、ベテラン数人に見積ってもらったところ、なんと見積金額の差が30%以上もありました。早い話が、「いいかげんな見積り方法」ということです。

実績資料法は過去の類似製品の妥当な実績資料(実際原価)を基に、比較検討して異なる部分だけを修正して見積る方法です。過去の実績資料が妥当なものであれば簡便法として良い方法です。また、現在製造している類似製品の実際原価を基に、異なる部分や異常な数字を修正して見積る場合も実績資料法です。

積算見積法は図面、仕様書などを基に、科学的・統計的調査に基づいて見積る方法です。簡単に言えば、材料については材料取りや加工方法などを検討し、標準材料消費量を見積ります。また、加工・組立については標準作業方法、標準作業時間などを設定し、工程ごとに積算して見積る方法です。この方法が最も正確に見積りできるので標準原価を設定する場合に使われる方法です。しかし、技術が必要ですし、時間もかかります。

なお、積算は文字どおり、「積み上げ計算する」の意味ですから、積算には実際原価を計算する場合と、予定原価を計算する場合とがあります。また、見積りは「これから生産する製品の原価を予め計算する場合」など実際原価が計算できない場合の計算方法ですから、予定原価の計算の場合だけです。

また、企業によっては、「積算」と「見積り」を別の意味で使っている企業もあります。特に、建設業に多いですが、建設業では、積算は原価を計算することで、見積りは原価に利益を加えて価格を設定することだそうです。よって、見積り原価という言葉はないそうです。なお、通常、メーカーではこのような意味では使いません。

標準原価資料法は過去に積算見積法で設定した標準原価を基に、原価決定要因(原価変動要因:コスト・ドライバー)ごとにいろいろな標準原価資料を作成しておき、これらの標準原価資料を活用して短時間で見積る方法です。このためには、あらかじめ標準原価資料を作成しておかなければなりません。原価決定要因と原価との相関関係を回帰分析や多変量解析などの数学・統計学を活用して作成します。

標準原価資料は、公式(計算式)、テーブル(数表)、グラフなどで表した資料であり、見積りするには、通常、製品1種類に対して数十枚から数百枚必要となります。1つの製品を完成させるのに多くの作業をしなければならないからです。製品の部品点数や加工・組立の難易度によって異なりますが、大まかな見積りは数十枚を使って行い、正確な見積りには数百枚を使って行います。したがって、多品種少量生産の企業は、通常、数千枚用意しています。

なお、多くの企業で使われているコスト・テーブルという言葉は、テーブル(数表)だけでなく、計算式やグラフなどの標準原価資料すべてを指して言う場合があります。また、標準原価資料だけでなく実際原価資料についてもコスト・テーブルと呼ばれています。よって、内容を確認して利用する必要があります。

ちなみに、多くの企業でコスト・テーブルを活用していますが、その根拠があいまいな場合が多いです。つまり、コスト・テーブルの元データとなる標準原価データあるいは実際原価データが不明確なのです。実際にはベテランが経験見積法で作ったものが多いです。コスト・テーブルを活用しても元データが間違っていれば、当然、間違った見積りになります。

また、多くの企業で他社のコスト・テーブルを流用したり、コスト見積りの専門書に掲載されているコスト・テーブルを流用したりしているのを見かけます。しかし、元データが自社のものではありませんので、もちろん利用できません。なお、市販されている汎用的なコスト・テーブルや設備機械メーカーが作成したコスト・テーブルも自社で検証して修正してから利用してください。なぜなら、理想的な作業条件や加工条件でデータを取っている場合が多いからです。

Ⓒ 開発コンサルティング

次ページ  目次