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開発&コンサルティング

2-6 標準原価計算

これまで説明した個別原価計算や総合原価計算は実際原価計算でした。実際原価計算では、たとえ、予定価格あるいは予定賃率を用いた計算でも、実際の材料消費量や実際の作業時間などを基に計算しますから、製品原価の中にムダ(歩留りロスや不能率)が存在しています。

「1-2 コスト削減とは、原価低減とは、原価管理とは」で説明しましたように、標準原価とはムダ(歩留りロスや不能率)がないと考えられるあるべき原価であり、目標原価となるものです。

標準原価計算は製品をより安く、効率的に製造し、原価をできる限り低く抑えようという原価管理のための計算です。標準原価計算はムダがないと考えられる標準原価をあらかじめ決めておき、実際原価と比較して差額を計算し、差額を分析して、ムダの原因を追究してコストを削減するための計算です。

つまり、標準原価計算を行う目的は、実際原価を標準原価(目標原価)に近づけようとする原価統制(コスト・コントロール)のためと、標準原価そのものを引き下げる原価低減(コスト・リダクション)のためです。また、標準原価計算はあらかじめ決めてある原価標準を用いて計算するので、計算が速いというメリットもあります。

なお、標準原価計算はIE(インダストリアル・エンジニアリング:管理工学)を原価計算に適用することで生まれました。よって、IEの知識・経験がないと標準原価計算が正しくできません。IEについては、「3-1 IEによるコスト削減・原価低減」で概略説明し、第6章で詳細に説明いたします。

標準原価計算は個別原価計算にも総合原価計算にも用いられます。つまり、次のようにそれぞれあるわけです。

個別受注生産連続見込み生産
実際実際個別原価計算実際総合原価計算
標準標準個別原価計算標準総合原価計算

さて、標準原価計算、及び原価統制の手順は、

1.原価標準の設定

あらかじめ製品1個(又は1ロット)当たりの目標原価を設定しておきます。この製品1個(又は1ロット)当たりの目標原価を原価標準と言います。原価標準は標準原価計算の基になるもので、原価管理だけでなく、予算管理、工程管理、要員管理、賃金管理などを行う際の基礎データになります。よって、原価標準は工場管理のためになくてはならないものです。したがって、原価標準を設定していないメーカーは何も管理していないメーカーであるということになります。このような成り行き任せのメーカーが儲かるわけありません。

2.標準原価の計算

当月の実際生産量に基づいて標準原価を計算します。「標準原価=原価標準×実際生産量」です。 ちなみに、実際生産量に基づいて計算しても、材料消費量や作業時間は実際ではないので実際原価ではありません。

3.実際原価の計算

既に説明した個別原価計算、又は総合原価計算によって当月の実際原価を計算します。

4.原価差異の計算・分析

当月の標準原価と実際原価とを比較して、原価差異を計算し、差異原因を分析します。

5.分析結果の報告と改善

分析した結果を関係者に報告し、ムダが生じないように改善します。

以上の、1.原価標準の設定、2.標準原価の計算、について、以下詳しく説明します。なお、4.原価差異の計算・分析については次回説明します。

1.原価標準の設定

原価標準とは製品1個(又は1ロット)当たりの目標原価であり、通常、直接材料費、直接労務費、製造間接費の3つの原価要素に分けて設定します。『原価計算基準』及び簿記の教科書では、このように、直接経費(外注加工費、特許権使用料など)を除いて設定するように書かれています。

その理由は、直接経費については、通常、取引先との契約によって金額が決まるので標準原価と実際原価とが同じだからです。しかし、直接経費を除いて原価標準を設定していると、実際原価との差異を計算する時に間違えてしまうので、外注加工費を直接材料費に含めて計算している企業もあります。

また、標準総合原価計算を行う場合にも、実際総合原価計算とは異なり、加工費を直接労務費と製造間接費とに分けて設定しておきます。こうすることにより、直接労務費と製造間接費それぞれの実際原価と標準原価の差異を計算することができます。

今回は簿記の教科書に書かれている原価標準を設定するための計算式だけを書いておきます。なお、「2-9 積算見積法(標準原価設定法)」で簿記の教科書には書かれていない実務的な設定方法について説明いたします。また、原価標準は科学的・統計的な調査に基づいて設定しますが、この具体的な方法については第6章で説明いたします。

原価標準=製品1個当たりの(標準直接材料費+標準直接労務費+標準製造間接費)

(1)製品1個当たりの標準直接材料費

製品1個当たりの標準直接材料費=直接材料の標準単価×製品1個当たりの標準直接材料消費量

標準単価:予定価格、又は過去の実績に将来の価格変動を加味して定めた消費価格
標準直接材料消費量:材料をムダなく使用した場合の製品1個当たりの目標直接材料消費量

(2)製品1個当たりの標準直接労務費

製品1個当たりの標準直接労務費=直接工の標準賃率×製品1個当たりの標準直接作業時間

標準賃率:予定平均賃率、又は過去の実績に将来の変動を加味して定めた消費賃率
標準直接作業時間:作業をムダなく行った場合の製品1個当たりの目標直接作業時間

(3)製品1個当たりの標準製造間接費

製品1個当たりの標準製造間接費=製造間接費の標準配賦率×製品1個当たりの標準操業度

標準配賦率:予定配賦率、又は過去の実績に将来の変動を加味して定めた配賦率
標準操業度:製造間接費の配賦基準に直接作業時間を用いている場合には、製品1個当たりの標準直接作業時間

以上の3つをまとめて、製品ごとに原価標準(標準原価カード)を作成しておきます。事例を紹介すると次のようになります。

≪〇〇製品標準原価カード≫
直接材料費標準単価標準消費量600円
120円/kg5kg
直接労務費標準賃率標準直接作業時間1,900円
950円/時間2時間
製造間接費標準配賦率標準直接作業時間1,200円
600円/時間2時間
製品1個当たりの標準製造原価3,700円

2.標準原価の計算

(1)標準個別原価計算

原価標準(標準原価カード)を基に、次のように計算します。

標準原価=原価標準×実際生産量

(2)標準総合原価計算

原価標準(標準原価カード)を基に次のように計算します。

完成品標準原価=原価標準×完成品数量
月末仕掛品原価=原価標準×月末仕掛品数量(又は月末仕掛品換算数量)

月末仕掛品原価の計算の内訳は直接材料が加工の最初に投入される場合には次のように計算します。

直接材料費分=製品1個当たりの標準直接材料費×月末仕掛品数量
直接労務費分=製品1個当たりの標準直接労務費×月末仕掛品換算数量
製造間接費分=製品1個当たりの標準製造間接費×月末仕掛品換算数量

なお、標準原価計算では実際原価計算のように平均法や先入先出法といった原価の按分計算は行いません。製品1個当たりの標準原価(原価標準)をあらかじめ決めておくからです。

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