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開発&コンサルティング

2-3 原価計算の基礎

前回の説明で、損益計算の方法が分かったと思います。また、売上原価、製造原価、製品原価などの違いが理解できたと思います。コスト削減・原価低減のプロと言われる人たちでさえ、これらの違いが良く分からない人たちがいるのです。要するに、簿記会計の基本のきの字を知らないのです。読者の皆さんも気を付けてください。さて、今回からいよいよ原価計算について説明したいと思います。

1.コスト削減のためには毎月原価を計算する

コスト削減のためには1年に1回ではなくて、毎月、原価を計算しなければなりません。つまり、費用(費目)別だけでなく、月別に原価を計算するのです。そうしないとコスト削減はできません。なぜなら、毎月何にどのくらい使ったのかが分からなければ、ムダ使いをしたかどうかが分からないからです。家計簿と同じなのです。

毎月、製造原価をきちんと計算するためには、材料費、労務費、経費を使ったときに、使った分をきちんと計算記録し、同時に、材料、部品、仕掛品などの棚卸しを毎月行わなければなりません。しかし、棚卸しは大変な作業ですので、実際の棚卸しは毎月行わなくてもかまいません。変動が大きい時だけでも良いのです。つまり、帳簿の金額と実際の金額との誤差をチェックするために、棚卸しをすれば良いのです。

と言っても、実際には、多くのメーカーでは決算をする時だけしか棚卸しをしていません。よって、通常は1年に1回だけです。あるいは、決算期に棚卸作業が集中しないように、月ごとに材料別、部品別に順に棚卸しをして、1年で一巡するようにします。ただし、どのメーカーでも帳簿はきちんと、材料、仕掛品、製品ごとに、毎月、記入していますので、月別の期首と期末の在庫高はわかります。

毎月の利益を計算するために売上原価を計算するには、製品(商品)の売れた数量、又は売れ残った数量を毎月きちんと計算しなければなりません。しかし、売上数量、又は在庫数量を数えるのはそう難しくはないでしょう。そうすれば売上原価の計算は難しくありません。これに、販売費・一般管理費の費目別・月別の消費高を計算すれば、すべての原価(総原価)の計算ができます。

労務費や人件費は支払高と消費高とがそれほど大きく違わないと思いますので、すべて支払高で計算してかまいません。通常、20日締めの25日払いなどとなっていますから、本来は、月末には前払い分と未払い分とを計算して、実際の消費高(1日から月末まで)を出さないといけません。しかし、計算結果を基に決算書を作成するわけではなく、コスト削減が目的ですから支払高でかまいません。

経費については、経費のうち賃借料、保険料など1年分をまとめて支払う経費は12で割って月割りにし、メーターで測定して使用量を測る経費(ガス料金、電気料金、水道料金など)は月別の支払高が分かるわけですから、その月の支払高を使います。この場合にも、期間が1日から月末となっていなくてもかまいません。

計算ができましたら、すべての原価を費目別、月別にグラフに書くのです。そうすると、毎月の売上の変化とそれに対応する毎月の原価の変化が費目別に一目瞭然となるのです。よって、毎月の利益の変化も目で見てパッと分かるのです。このようにすれば、今月は先月に比較して売上の割には〇〇費がかかりすぎているとか、今月はあまり△△費がかからなかったとかが分かります。

このように毎月比較するとムダなコストが見えてくるのです。これを期間比較と言います。そこで、ムダの原因を調べてコスト削減をしていくのです。何事も問題を発見し改善するには比較することが重要です。

ところで、今月いくら儲かったのかを知るには、今月の営業利益を計算すれば良いわけですから、今月の売上高から今月の総原価(売上原価+販売費・一般管理費)を引けば良いわけです。これは、簿記を行っている企業であれば、元帳の損益勘定の月末残高を見れば分かります。

2.原価計算とは製品(商品)別の原価を毎月計算すること

これまで説明したことは、製品別の原価の計算ではありません。材料費、労務費、経費などの費目別の原価の月別計算です。既にご存じだと思いますが、本来、原価計算とは製品別の原価を毎月計算することです。つまり、複数の製品を製造・販売している企業で、製品別の原価を毎月計算することです。

ちなみに、決算書に添付する製造原価報告(明細)書は費目別に原価を集計しているだけで、製品別の原価ではありません。しかも、通常、決算の時に、つまり1年に1回計算するだけです。

卸・小売業では商品別の仕入原価は分かりますが、製造業では製品別の製造原価を計算するのは難しいのです。原価計算の中で最も基本的で、かつ、初心者にとって最も難しいのが製造業における製品別の実際の製造原価の計算です。

これは簿記2級の工業簿記になりますので、多くの人はここでつまずいてしまうのです。そこで、製造原価の計算方法について、次のページからポイントを絞って、順次、分かりやすく説明いたします。ただし、簿記(帳簿記録)の詳細は省略し、コスト削減に必要な部分だけを説明いたします。

さて、製品の実際の製造原価とは、製品の製造のために実際に使った(消費した)材料費、労務費、経費であり、それぞれの実際の消費数量に、実際の取得価格(支払費用)、又は予定価格(見積り価格)を掛けて算出した原価のことです。

実際原価が分からなければ、どの製品がいくら儲かっているのか、あるいはいくら損をしているのかが分かりませんし、また、コスト削減をしてもその効果が分かりません。毎月、どの製品がどのくらい儲かったのか、また、損をしたのかを調べて、すぐに対策を打っていかなくてはなりません。1年経過してから対策を打っても手遅れです。損をしてからでは後の祭りでどうにもなりません。

原価計算は通常、製品別、あるいは製品種類別に行いますが、大まかに分類した製品カテゴリー別、又は製品グループ別でもかまいません。なぜなら、同じ製品カテゴリーや製品グループについてはコスト削減の考え方や技術が同じように適用できるからです。

つまり、同じカテゴリーやグループの製品の中から代表的な製品を1つ選んで徹底的にコスト削減を行い、その方法を他の製品にも同じように適用すれば良いからです。ちなみに、通常、カテゴリーというのは製品を顧客の立場で分類したもので、グループというのは生産者(メーカー)の立場で分類したものです。例えば、用途別はカテゴリーになり、製造ライン別はグループになります。

また、製造ロット別に計算する場合もあります。なぜなら、最近では多品種少量生産が増加したために、連続生産ではなく、ロット(ひと山)ごとに生産するロット生産(又はバッチ生産)を行う企業が増えているからです。また、より正確に計算するために製造工程別に計算する企業もあります。なぜなら、工程によって加工・組立の方法が全く異なるため原価も工程によって異なるためです。また、工程ごとの原価管理を行うこともできるからです。

3.原価の種類と原価計算の種類(方法)

ここで改めて、原価の種類と原価計算の種類(方法)について簡単に説明しておきます。

原価の種類はいろいろありますので、分類の仕方、つまり分け方がいろいろあります。材料費、労務費、経費と費目別に分ける場合、〇〇部門費、△△部門費と部門別に分ける場合、直接費、間接費と分ける場合、変動費、固定費と分ける場合、管理可能費、管理不能費と分ける場合などがあります。

原価計算の種類(方法)もいろいろありますので、分類の仕方がいろいろあります。個別原価計算、総合原価計算という分け方、実際原価計算、標準原価計算という分け方、全部原価計算、部分原価計算という分け方などがあります。この他に、関連原価計算(特殊原価調査)や活動基準原価計算(ABC)というものもあります。

いろいろありますが、原価計算の目的によって原価計算の種類(方法)を選べば良いのです。「2-1 原価計算とは」で原価計算の目的を書きましたが、いろいろな目的がありますから、それらに応じたいろいろな種類(方法)があるのです。例えば、個別受注生産の場合は個別原価計算、連続見込み生産の場合は総合原価計算、と生産形態に適した種類(方法)を選ぶことができます。

簡単に説明すると、個別受注生産の場合には、受注した製品別に計算すれば良いわけです。このためには製造命令(指図)書別に原価を集計すれば良いということです。個別受注した数種類の製品を並行して製造する場合でも、月々の費目別原価を製品別に集計すれば良いわけです。計算方法は、次回、「2-4 個別原価計算」で説明します。

また、連続見込み生産の場合には、通常、数種類の製品を連続して生産するわけですから、月々の製品別計算の結果を生産数量で割れば製品1個当たりの原価が計算できるわけです。計算方法は、「2-5 総合原価計算」で説明します。

4.原価計算の重要性

原価計算を行っていない中小メーカーは多いと思いますが、それでは、どの製品がどのくらい儲かっていて、どの製品がどのくらい損をしているのかが分かりません。したがって、もしかすると損をするために一生懸命に働いて(製造・販売して)いるのかもしれないのです。卸売業や小売業であれば商品の仕入原価は分かっているので、損をするような売価は通常つけませんが、メーカーでは製品の製造原価が分からなくては、売価を決めることも、どの製品をどのくらい製造・販売すべきかを決めることもできないでしょう。

まして、製品のコスト削減を効果的に行うことはできません。コスト削減のためには、まず、製品別の実際の原価を計算しなければなりません。そのうえで、最もコストがかかっている製品、あるいは利益率の低い製品から順にコスト削減を行います。そうすれば、効果的なコスト削減ができるのです。

また、いわゆる下請企業では親企業の言いなりに製品(部品)の価格を決めている場合が多いですが、それは原価が分からないからです。親企業でも、下請企業の生産方法や生産時間などは正確には分からないですから、下請企業で作る製品(部品)の原価が正確には分かりません。ですから、親企業の都合で決めた価格、つまり、指値(さしね)になってしまうのです。したがって、下請企業で原価計算ができるようになれば親企業に対して有利に価格交渉ができるようになります。

5.実際原価を計算する目的

製品別の実際原価が計算できましたら、当然、価格から製品原価を引いて製品別の利益を計算します。そこで、価格をいくらにすれば良いかとか、どの製品をどのくらい作って売ればいくら儲かるかが分かります。したがって、利益計画を立てることができるのです。製品別の実際原価を計算する第1の目的はここにあります。製品別に利益計画を立てることができれば、通常は損をするようなことはないでしょう。

また、毎月、原価計算することで、月別の変化が分かりますから、コスト削減がしやすくなります。これが実際原価を計算する第2の目的です。実際原価を計算してみると、頭で想定していた原価とは全く異なる計算結果になることが多いですから、是非、計算してみてください。企業にとって、製品というのはあらゆる企業活動の努力の結晶であり、商売の種です。製品の原価も利益も分からないようでは商売する意味はないと思います。

ところが実は、残念なことに、製品別の実際原価を計算するのはそう簡単ではないのです。それは製造間接費(複数の製品を製造するために共通にかかる費用)を製品別に正確に配賦(配分)するのが難しいからです。なお、これについては次回以降、順に説明いたします。

6.コスト削減のためには直接費だけを計算すれば良い

そこで、製品のコスト削減を行うためには、通常、製品に直接かかる直接費だけ、つまり、直接材料費と直接労務費と直接経費だけを対象にします。

直接費というのは製品を製造するのに直接かかる費用ですから、紛れもなくその製品の原価になるのです。しかも、コスト削減のためには、主な直接費だけを対象にすれば良いのです。つまり、直接材料費は主要材料費と買入部品費だけ、直接労務費は文字どおり直接工の賃金だけを計算すれば良いのです。また、直接経費は外注加工費だけで良いのです。こうすれば製品を構成する主な直接費が簡単に計算できます。

なお、製造間接費や販売費・一般管理費のコスト削減については、通常、「業務の効率化活動」によりコスト削減を行います。

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